夢無き少年のVtuber物語 ~Dream Stage Live!~   作:瀧野瀬

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天音の気持ち

 ――あの日のことを思い出す。私が東京に行く前の日のことだ。

 あの日は凄く晴れていた気がする。雲一つもなく、雨も一つも降っていない。所謂、快晴。

 

「お嬢様、本当に行くのですね」

 

 私の前に立っているのは私の家政婦さん、名前は春海 希と言う名前。

 でも、私はこの人を父や母より親のような存在だと思っている。両親に愛されていなかったと言うつもりはないけど、私はそれでも両親よりもこの人の方が私をよく見ていてくれていたような気がする。

 

「うん、もう決めたことだから」

 

 私はこの日、Vtuberと言う大きな一歩を踏み出す日となったのだ。

 その実感を今こうして噛み締めていた。

 

「そうですか……。ではくれぐれもご気をつけて」

 

 春海さんは少し悲しそうにしながら涙を流さないようにしながら、私に笑みを浮かべながら手を振っていた。私もそれを見て手を振っていたのであった。それから、私は東京に着いてマンションで引っ越し業者さんの手伝いをしていた。しかし、流石に持てない荷物もあり業者さんは笑いながら、私の荷物を運んでくれた。

 

 東京に来て驚いたのは、まず景色が良いと言うことだ。

 これに関して言えば驚いたテレビや雑誌で見た以上に、綺麗だったから。それから、部屋で引っ越しの準備を色々終えた後、私はダラっと大の字になりとても育ちが良いところで育ったとは言えないほどの恰好をしていた。そして、一応来る前に確認していたが防音テストをしてみた。

 それをやったのは良かった。でも、やった後かなり自分で恥ずかしいと言うことに気づき、これから配信とかるからこういうのには慣れないと、と思っていた。

 

 それに、私はDream Stageの2期生として選ばれたのだから。頑張らなくちゃ……。と思いながら、私は胸を張る。

 

 

 

 

 

 

「いたたっ、ごめんなさい……!」

 

 この日、私は秋葉に来ていた。景色を見に来たのは勿論だが、それ以上に私が見たかったのはVtuberのライブと言うものだ。しかし、そこで私は桜と彰斗と出会ったのだ。

 

「すみません、前をよく見ずに歩いていて」

 

「いえいえ、こちらこそ……。あまり気にしないでもらって構いませんよ」

 

 初めて桜を見たとき、凄いスタイルの良い人だなぁって感じに私は思っていた。きっと、なにかモデルでもやっているんだろうかと思いながら私は彼女を見ていた。

 

「そんな……。あっ、時間が……。すいません、私そろそろ行かなくちゃいけないのでまた何処かで会えましたらその時は謝罪の気持ちを込めてお礼させてもらいますね!」

 

 私は腕時計を見ると、既に時間がかなりギリギリになっていた為、その場を立ち去るのであった。これが桜と彰斗との出会いだった。そして、私はその後Vtuberのライブを初めて見たんだ。

 

「こんなに凄いんだ……!」

 

 会場の熱狂、それを私にとって更にVtuberと言うものをやりたいと言う願望を強くさせた。応募枠のときに面接で言った言葉を思い出していた。あの怖い社長に言われた「キミは何故Vtuberになりたいんだ?」と言う問いに対しての答え……。

 

「私はもっと知りたいです。広い世界を……!そして、このVtuberの世界を見て広げたいんです!」

 

 今になってみれば、ありきたりな答えだったのかもしれない。でも、それがあの社長には受けたのかも知れないと私は思っていた。そんな夢見たVtuberの世界を私は入る事ができた。でも、いざ入ってみるとこの世界は単純じゃなかった。当たり前だけど……。

 

「みんな、こんかおる~!元気してる~!盛り上がってる~!イェーイ!!!!」

 

 何度も何度も耳に残ってしまっているヤケ酒した後の私の声。

 

「もしもし……」

 

 彰斗から電話が掛かって来る。

 鳴り響いていた電話に私は微かな希望を感じていた。

 

「雛井、話がしたい。俺達が住んでいる駅の方まで来てもらえるか?」

 

 淡い期待をしていると、彰斗から言われた話がしたいと言う言葉に私は涙を我慢しながら、「うん」と頷く。私はすぐに電話を切って、彰斗達が住んでいる近くの駅まで行くのであった。電車に乗りながら、何から話せばいいのだろうか?と思っていると、すぐに駅に着き駅前に行くと桜と彰斗がいた。

 

「七瀬、場所分かるか?」

 

「分かってるよ」

 

 私は桜に連れられて桜行きつけのカフェに行った。

 此処ならゆっくりと話せるから、と桜は言って椅子に座る。それを見て、私も座る。彰斗はそれを見てから、座り水を飲んで少し経ってから私に話を切り出してきた。

 

「なぁ、雛井。お前俺達に何か隠していることあるだろ?」

 

 淡い期待は大きな期待へと変わった。もしかしたら、二人なら理解してくれるかもしれないと思っていたからだ。でも、言い出すことができなかった。二人のことを信用できないからじゃない。二人に私のことで悩んで欲しくないからだ。

 きっと二人は今、自分のことで忙しいはずだ。それなのに、私の為にそのリソースを使わせたくないと思っているから。

 

「天音、言ったよね。私達は同期だって……。そして、それ以上に私達は天音を友達だと思っている。だから、言って欲しいの。天音が何かを隠しているならそれを教えて欲しいの」

 

 同期以前に友達だから……か。

 その言葉に思わず気を許してしまいそうになってしまう。だが、私は……。

 

「友達か……。でも、私達は出会ってそんな経ってない」

 

 友達になっても間もない……。

 それを言い訳にして逃げようとしたが……。

 

「だから、なんだ。友達になった日数だとか、出会った日数だとか関係ねえ。少なくとも、俺は目の前で悩んでいる雛井 天音を助けたいんだ。人としてな」

 

 彰斗は友達以前に悩んでいる私を見て人として助けたいと言ってくれた。

 なにより逃げようとしていた私をそれでも必死に助けようとしてくれている。

 

「それでもお前が話したくないって言うなら俺は何も言わねえ。ただそれは……」

 

「お前がそれを一生背負って、活動を続けていられるってちゃんと思えるな」

 

 彰斗は気づいているんだ。私がこの気持ちを一生背負って活動できるほど出来た人間じゃないということに……。七瀬の方をチラッと見ると、七瀬も同じ気持ちなのか彰斗と同じ目をしている。その二人の目を見て、私はもう言おうと決意した。

 もし、これで二人に言って駄目だったらもうそのときは諦めよう。でも、私は二人なら私が言いたいことを理解してくれる気がしていた。

 

「分かった……。二人共言うね」

 

「……初めは、多分緊張とかしちゃって考えていたこと直前に全部分かんなくなって、頭真っ白になって仕方ないから。お酒の力借りようと思ったんだけど、あんな感じになっちゃったの……」

 

 そう、初めはそうだった。台本を書いていたメモを私は直前まで何度も読み直していたが、配信をする直前口篭ってしまったり、噛んでしまうようになってしまっていた。それに対応するべく、私はすぐにお酒の力を借りて違う自分を作り出す。そうすることで、水無月 薫と言うキャラが出来上がった。

 

 ただ、これは一度だけで終わらせようと思っていた。

 

「思ったの皆が見たいのはきっとお酒飲んでいるときの私なんだって……。だから、私はお酒の力を借りてその後もあの状態を続けたの……」

 

 そう、視聴者が求めているのはお酒を飲んでいるときの私だと理解したのだ。反響をみたときに私はすぐにそう思った。だったら、お酒の力にどんどん頼ってもっと色んな人に見てもらおうと考えたのだ。だけど、それは私の知名度を上がる代わりに私の心を蝕んだ。

 

「馬鹿だよね、確かに人気は出たけど私の心はどんどん疲弊してる……。自分まで削ってたら意味ないよね……」

 

 結局、二人に最後まで私がこれまで思っていたことを嘘偽り話した。二人がどう私のことを思っていたかなんて、私には分からない。二人の顔を見えないように下を向いていた私には……。

 すると、誰かが立ち上がったのか私に近づいていた……。

 

 

 

 

「ああ、馬鹿だよ。そこまで自分を削る必要なんてない。でも……」

 

 近づいていたのは、彰斗だった。

 声が近くまで聞こえていたから判別できた。

 

「話してくれて嬉しいよ、天音」

 

 桜はそう言いながら、私の肩に手を置く……。

 その手が置かれたと同時に私は桜の方を見る。すると、桜は笑っていた。まるで天使のように……。その姿を見た瞬間、涙が止まらなかった。私は涙が止まらず、そのまま泣いてしまうのであった。桜は啜り泣く私の姿をただ宥めるように背中を撫でてくれていた。彰斗は、何も言わずただ私が泣き止むのを待ってくれていた。

 

 

 

 

「ありがとうね、二人共……」

 

 泣き止んだ私の姿を見てくれていた二人に対して言う。

 二人は「何もしていない」と言っている。

 

「それでさこれから、どうしようかなって思ってるの。多分、みんなはあっちの私を期待しているから……」

 

「……別に無理して演じる必要はないだろ。もしくは、演じたいときに演じればいいだろ」

 

 彰斗の言葉に私は引っ掛かる。

 演じたいときに演じればいい……?どういう意味だろうか。

 

「彰斗が言いたいのは多分、バイオレットさんのように二つの人格のように使いこなせばいいってことじゃないかな?そうすれば、みんなも天音もやりやすいと思うよ」

 

 そうか、バイオレットさんのように二つの人格を使いこなせばいいのか。確かにVtuberには複数の人格があるような人が多い。じゃあ、私もそれを参考にしてお酒を飲んでいるときの自分と素面の自分を作り出すことができる。そうすれば、ネタとしても面白い……。

 

「でも、素の私を見たいって言う人いるかな?」

 

「いると思うよ。それに、天音は言っていたでしょ。全力でやれば分かってくれる人は分かってくれるって」

 

 確かにあの言葉を言ったのは私だ……。

 全力でやれば分かってくれる人は分かってくれる……。

 

「それに雛井は既に素の自分があるでしょ?初めまして、新人Vtuberの水無月 薫だよ!って言う奴」

 

 桜が一瞬喉の調子を整えた後、私の声真似をする。

 あんまり似てなくって笑ってしまいそうになるけど、リスのように口を膨らませてなんとか誤魔化す。

 

「そうと決まったら、彰斗と天音。今日は同期コラボするよ」

 

「え!?今日……!?」

 

 いきなりそんなことを言われた私は驚いてしまう。

 ど、同期コラボで素面を……!?

 

「そうだな、その方が何かあっても雛井を支えやすいし良いんじゃないのか?」

 

 た、確かにそうかも知れないけど……。

 と思っていたが、既に彰斗と桜は決めた!みたいな表情をしている。これはもう意思表示をしなくてはならない。でも、二人が何かあったら支えてくれると言った以上、私もそれに賭けるしかないと思った。

 それに、此処まで二人が真剣な眼差しで私のことを考えてくれたんだ。私がその手を払いのけちゃ駄目だと思い……。

 

「分かった、私もやるよ!」

 

 決心をした私は立ち上がり、桜と彰斗にそう言う。

 桜と彰斗はお互いに見合いながら、「やろう!」と言いそれぞれ一旦家に帰るのであった……。

 

 

 

 

 それから、暫く経った後色々と考えことをしていると時間がやって来る。

 

「行くよ、天音」

 

 桜が配信時間の開始を見た後、すぐ言う。

 

「み、みんな……こ、こんかおる!」

 

 噛みながらもはっきりとした口調で私は挨拶をする。

 すると、コメント欄はすぐに挨拶を返すが、何処か様子が違うのに気づいたのか。「今日は素面?」と言うコメントをしている人もいた。

 

「今日は素面?うん、今日は素面で素の私がどんな感じなのかいっぱい伝えるね!それじゃあ、今日は初めての同期コラボ!緊張するけど、頑張って行くよ!」

 

 緊張していて声があんまりでないが、中々の元気いっぱいさを見せたような気がする。何よりコメント欄では「清楚」と何度も投稿されている。私の言葉に続いて、桜と彰斗が拍手する。

 

「それじゃあ、知らない人も居るかも知れないからまずは私の自己紹介から、みんな、こんかおるー!水無月 薫だよ!」

 

 水無月で一旦溜めてから、薫だよと私は言う。

 視聴者の皆は再び「こんかおるー!」とコメントを投稿している。良かった、お酒飲んでいるときの私の方がいいとか言われなかった。

 

「続いて、男っぽいけど凄い可愛い子の紹介だよ!」

 

 元気いっぱいな声って言うのは少し難しいけど、出していて何処かポジティブな気分になれている気がする。

 

「べ、別に可愛くないし……。みんな、こんばんは!風月 凛だ」

 

 やっぱり、桜のこの声カッコいいなぁ……。

 と思いながら、私は拍手する。

 

「さて、俺の次は中二病」

 

 お決まりの「誰が中二病だ」と言いながら、彰斗はマイクに声を向けているような音が聞こえる。

 

ボナセーラ(こんばんは)、天喰焔だ」

 

 と何処の言語なのか分からない言葉で言うと、すぐに視聴者に特定され「中二病乙」とコメントをされる彰斗。それを見て私は少し笑ってしまう。

 

 

「そうだ、皆一つ聞きたいことがあるんだ」

 

 それぞれの自己紹介を終えたところで凛が何か言おうとしていた。

 

 

 

 

「薫の素どう思う?可愛いだろ?」

 

「ちょっ!?凛!」

 

 いきなり、凛こと桜にそんなことを言われて私は戸惑う。

 しかし、無情にコメント欄は「可愛い」と言う言葉を連呼する。

 

「うぅ~、私恥ずかしいよ」

 

 でも、少し嬉しかった。

 素の自分を見せてもいいんだと、理解できたからだ。こうやって視聴者のみんなに自分を分けて作っても受け入れてくれるのだと分かった、私はとても嬉しかった。それから、私達は1時間ぐらい色々話し合い、配信を終えるのであった。配信を終えた後、私は桜と彰斗に電話する。

 

 

 

 

 

 

「どうだった?素を出した感想は?」

 

「……楽しかった」

 

 私は彰斗に自分が思っている正直な気持ちを伝える。

 電話だから分からないけど、桜も彰斗も安心したかのような気がしていた。

 

「そっか、なら良かったよ。もし、また何かあったらすぐ言いなよ?」

 

「うん。今日はありがとうね……二人共」

 

 私はこの二人と出会えてとても嬉しかった。

 この二人と出会えていなかったら、きっと言うことが出来なかっただろう。だから、私は二人に「ありがとう」と言ったのだ。

 

 

 

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