夢無き少年のVtuber物語 ~Dream Stage Live!~   作:瀧野瀬

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耐久配信とマネージャー?

「お前ら、収益化記念で行くぞ!紅ダァァァ!!!!」

 

 紅と言う言葉に全てに濁点を付ける勢いで発音する俺。

 そう、今日は俺の収益化記念日である。その前に前日の話をしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「七瀬、帰る前に俺は言いたいことがあるんだ」

 

 雛井を駅の改札口辺りまで見送った俺達。

 帰ろうとしていた七瀬に俺は話しかけた。

 

「私に?」

 

 頭の上にハテナマークでも出していそうなぐらいに不思議そうにしている七瀬。

 いったいを何を言いたいのだろうか、とでも考えているのだろうか。

 

「俺は雛井に対して一生背負って活動できるならって言う言葉を使った。でも、それは俺にも当てはまる言葉なんだ」

 

 そう、俺は雛井に対してあの言葉を使った。

 だけど、俺もそれが適用される人間だった。

 

「俺は高校時代からお前が羨ましかったんだ」

 

 そう、俺は高校時代からあいつのことを眩しく見えていた。

 夢に向かって頑張ろうとしているあいつの姿勢を見て、俺はいつも羨むようになっていた。友達でありながら……。

 

「私が……?」

 

 七瀬の頭にはきっと疑問と言う名の雲が無数に出来つつあっただろう。

 

「ああ、俺は夢に向かって頑張っているお前が羨ましかったんだ。夢のない人間である俺からすれば」

 

 羨ましいと言う言葉に、七瀬はどう思ったのかは俺に分からない。予想をつけるぐらいのことでしか、俺は今あいつの感情を理解できなかった。いや、理解しないようにしていたのかもしれない。なんて思っているのか考えるのが怖かったから。

 

 

 

 

「そっか……。それは私もだよ」

 

 七瀬が言った、その言葉に俺は一瞬戸惑う。

 七瀬が俺を羨ましいと思っていた……?俺のいったいどこに……?

 

「私もさ、いつまでも縋りついている私を自分で見て嫌気が差していたときがあったの。そんな私は彰斗のことが羨ましかった」

 

 羨ましい……。

 七瀬が言う羨ましいはきっと自分も俺のように生きていれば楽だったのかもしれないと言う意味だろう。それを聞かされた俺は「そうだったのか……」と心の中で驚きつつも思っていた。

 

「それは今もきっと同じだと思う。でも、私はこれだけは言える」

 

 

 

 

「彰斗と親友で良かったよ」

 

 ……その言葉に俺はパーカーのフードを被り、赤面していると思われる顔を隠す。

 そんな直球な言葉言われたら、返す言葉に困るだろうが……。そんなことを思いつつ、俺は軽く返事をする。七瀬は俺が今どういう感情にいるのか分かっていたのか、何も言わずただただ黙っていてくれると思っていたが……。

 

「照れてるの?」

 

 揶揄うように言ってくる七瀬。

 

「別に照れてねえ……」

 

 七瀬は俺より一歩前に出て、俺の顔を見ようとしてくる。

 俺は視線を合わせないようにするために余所見をしながら歩くのであった……。

 

 

 

 

 

 

 ――これが昨日カフェに行って雛井と別れた後の話だ。

 そして、次に収益化が決まったと言う知らせを受ける前の話だ。

 あの後、同期コラボをして雛井の様子は良い感じになっていた。あの感じなら、この先もやっていけるだろうと思っていた。あの後、雛井の様子を見ると俺は何処か嬉しかった。俺はこんなにも人としての感情を持っていたんだな。

 

 俺はベッドから起き上がり、編集済みの動画を動画サイトに投稿する。その作業を終えた俺は冷蔵庫の中から大量の魔剤の一個を取り出し、飲み干す。そして、すぐに缶を捨てる。最早、日常的な行動になったな。これも……。

 そんなことをしていると、俺の携帯に電話が掛かる。誰だろうかと、思いながら電話に出ると……。

 

 

「俺だ、河本だ」

 

 あっち系の人か……。

 そんなことを思いながら俺は椅子に座る。

 

「まずは登録者2万半おめでとう」

 

 昨日の同期コラボのおかげで俺の登録者数は2万半となった。

 正直言って、此処まで伸びるとは思っていなかった。

 

「そしてもう一つキミにとって悲鳴が出るほど嬉しいお知らせだ」

 

 悲鳴が出るほど嬉しいお知らせ……?

 

 

「二期生全員の収益化が通った。今日の配信からスパチャが投げられるようになっているはずだ。それに伴い歌枠をすることを許可する」

 

 歌枠か……。

 俺には無縁かも知れないが、少し面白いことを思いついたからやってみるか。

 

「ありがとうございます」

 

「これは俺達がやるべきことだ、礼には及ばない。ところで、Vtuberとして活動して最近はどうだ?」

 

 Vtuberとして活動してか。

 色々あったが……。

 

「楽しいですよ」

 

 思っていることを伝えると……。

 

「そうか、ならば良い。これからも頼んだぞ」

 

 最後に応援の言葉を言って社長は電話を切るのであった。

 さてと、意外な人物から電話が来たが俺にとって結構嬉しい内容だったな。さてと、告知するか。

 

 

 

 

 

『収益化記念 紅無限耐久!喉が潰れるまで続ける配信!』

 

 正直に言おう。

 俺はこの耐久配信馬鹿げていると思っているし、何がしたんだと思っている。それでも決行する。何故かって?紅を歌いたいから……。とりあえず目標のことについては一旦保留にしよう。今日はこの宴を楽しむしかない。

 

「と言う訳で始めるぞ!お前ら、地獄の果てまで付き合ってもらうぞ!」

 

 一旦、視聴者の数を見る。

 すると、視聴者の数はいつもより大きい気がしていた。なんだ、この地獄みたいな企画にそんなにみんな興味あるのか?と思いながらも、俺は配信している。

 

『四回歌った辺りで燃え尽きそう』

 

『一回でもう駄目そう』

 

『地獄配信の予感』

 

 と俺があくまで音を上げる前提で話をしている視聴者達。

 見ていろ、驚かせてやるからな。俺の紅を聞いてビビるんじゃねえぞと思いながら、俺は知り合いの歌い手から作ってもらった音源を流す。

 

「お前ら、収益化記念で行くぞ!紅ダァァァ!!!!」

 

 そして此処に戻る。

 全ての歌詞に完全に濁点が付いているように俺は聞こえていた。なにより、コメント欄でもそう思ったやつが多かったのか、濁点が多いと投稿している奴が多いようだ。全員揃いも揃って草生やしてるし……。

 

 

「お前は走りだす、何かに追われるよう」

 

 割と好評なのか、俺の歌を聞いていて「下手」と言うコメントは流れていなかった。Vの配信だからそういうコメントを控えているのかと思ったが、一人もしていないと言うことは七瀬が言っていた通り俺は歌が上手いのだろうか。そんな自覚ないのだが……。

 そして、サビが来る。

 

 

「紅に染まったこの俺を慰める奴はもういない!」

 

 ――余力残しておけばよかった。

 後悔するのが遅すぎた。確実に言えることが一つだけある。この配信、一回目で終わる。二回目歌おうとした瞬間、多分俺の喉が潰れてもう二度と歌えなくなるし声が出せるか分からなくなる。と言うことで一回しか無理なのである。

 つまり、視聴者の勝利である。

 

 

 

 

「ゲホゲホ……もう駄目だ。しんどい……」

 

 一回目歌い終わったのだが、やはりキツく俺の声は掠れ気味だった。

 

『やっぱり一回目で終わって草』

 

『一回目で全力出し過ぎて草』

 

『ネタかと思って開いたら普通に歌上手くて草』

 

 こんなの企画倒れじゃねえか……。と思っていたが、普通に歌上手いと言われて子犬のように若干嬉しそうにしてしまう俺。視聴者人数を見ると、なんと一万人も来ていたのである。なんで、こんな地獄みたいな配信で一万人来るんだ。通常の配信でも来いよ……。でも、なんかとてつもなく嬉しい

 

「もう駄目だわ。喉死ぬわ俺……」

 

 紅を歌っているときに最後の最後で声が掠れてしまい変な歌い方になるが俺はそんなことを気にせずにいた。コメント欄をジロジロと見ると、「おつ」と言うコメントが複数流れている。

 

「あー、お前らお疲れ様。こんな地獄みたいな耐久配信二度としねえからな。アディオス」

 

 コメントを見ると「耐久とはいったい……?」みたいなコメントが多かったが知らん。後で幾らでもタイトルを修正すればいいだろと思っていた。

 よくよく考えてみたら、魔剤飲んだ後に歌うような曲じゃねえなと思いながら俺は配信を切る。それから、ベッドに戻って寝ようとするが……。此処で電話が鳴る。その相手が七瀬や雛井だったら俺はまだ許していただろう。電話を掛けて来た相手はなんとまたあの人である。

 

 

 

 

「喉ガラガラのところすまない。キミに伝えておいた方がいいことがあってな」

 

 今度はなんだろうか、さっきの歌枠のことで問い詰められるのだろうか。駄目な音源は何も使ってないと思うが……。

 

「配信見てたんですね」

 

 興味無さそうだから配信とか見てないと勝手に思っていた。

 

「ああ、少し暇があったからな。なんなら、今此処でキミの切り抜きを流そうか?」

 

「やめてください、人の所業じゃないですよそれ。パワハラで訴えますよ」

 

 只でさえ、正気の沙汰とは思えない配信をしていたのにそれの切り抜きを自分で聞かされるなんて地獄以外の何者でもない。てか、もう切り抜かれているのか。早くない……?

 

「冗談だ。話が逸れたな、実はキミにプランを提案したくてな」

 

 プランの提案……?

 いったい、何のプランの提案だろうか……。俺の中で疑問と言う言葉が波打ちながら主張してくる。

 

「今後のことについてだ。まず一つ確認だ、今現在で確認したい。キミは一期生とコラボしたいとは思うか?」

 

 何故、そんなことを確認してくるのだろうか……。

 

「何故、社長が直接俺達に?」

 

「そのマネージャーがちょっと取り込んでてな……」

 

 誰かが近くにいるのか、「今話し中だ」と言っているのが聞こえる。

 

「したいです」

 

「そうか、分かっ……。おい、綾瀬!勝手に電話を取り上げるな……!」

 

 社長が誰かに勝手に電話を取り上げられたのか、電話口の相手が女性の声に聞こえた。あの強面の社長に対してこう強く出れる人がいるとは……。一体、誰なんだ……?

 

「もしもし、藤堂 彰斗君ですか?」

 

「え?はい?」

 

 聞こえて来た女性は、如何にもコールセンターのようなところに働いていそうな特徴的な声の女性。

 なんだろう、スーツ姿が似合いそうだと思っていると……。とんでもない言葉が返って来るのであった。

 

 

 

 

「先ほど社長が言っていた、マネージャーの件ですが……。私にお任せていただけますでしょうか?」

 

 そんなことを言われて、返す言葉は決まっている。

 

「……へ?」

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