「てなわけでその子連れてきたから、入学関係の処理よろしくお願いしまーす!!」
「おい、ちゃんと説明しろ…………」
詳細の殆どを省いた五条の説明に、夜蛾は額に手を当ててため息を着く。
「だからさっき言ったじゃない、暴れてたその子を気絶させて連れてきたって」
「まだ報告すらしていないんだろう………」
「だから今のうちに
「…………」
五条はふざけた態度をやめ、真面目な声色で続きを話し始めた。
「秘匿死刑ってのは流石に無いとは思うけどね。まず間違いなく利用される。何せ嫌いで仕方がない僕を殺し得る、現状唯一の存在だからね」
「待て。いくら何でもお前を殺そうとすることは無いだろう」
「彼女が成長すれば問題ないんだよ。僕を殺せるんだぜ?新たな最強の誕生だ。それに言う事聞かない僕より、言う事聞くかもしれない子供を洗脳教育する方が遥かに都合がいい」
まぁ彼女の性格じゃ目論見は外れるだろうけどね。とは五条の言だ。しかし五条はただ、と続ける。
「現時点で彼女は何も知らない。呪術師、呪詛師、呪霊。恐らくは彼女の近くにいたあの呪霊が呪霊であることすら認識してない。だから今の彼女にとっちゃ呪霊も呪術師も変わらないんだよ。そんな状況でアホな上層部がバカなことをして呪術師全体への不信感を募らせれば、最悪僕を殺せる呪詛師の完成だ」
「閉鎖された小さな空間で暮らしていた彼女にとって、今この世のあらゆるものが未知だ。その上素直で我儘。外から与えられる情報をそのまま受け取るような子だ。こっちで導いてあげなきゃ、向こうの権力やら血筋やらの絡むクソみたいな環境にもまれてストレスで爆発するだろうね。あと何より、」
そこで一度五条は言葉を止め、ニヤリと笑みを浮かべた。
「許されていないのさ、若人から青春を取り上げるなんてね」
それは少女の運命が決まった瞬間だった。
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目を覚ます。周囲の壁は札で覆われ、私は椅子に座らされている。硬い椅子だ。その上よく分からない縄に両腕が拘束されている。つくづく不快だ。
「や、目が覚めたみたいだね」
「…………」
不快な声に気分が落ちる。両腕の拘束と椅子を切断し、スキマを開いてその縁に座る。どうやらこの部屋の外へは繋げないらしい。不快。
「不快」
「襲いかかってはこないんだね」
「私が勝てない相手に無意味に挑む程愚かだと?不快。黙って這いつくばって私を崇めながら早急にこの場から失せなさい」
「残念ながらそうもいかないんだよね」
空間を裂く。しかし不快目隠しはそれを軽く身をかがめて回避した。不快感が募る。
「話は聞いてくれるかな?」
「ちっ…………早くしなさい」
「んじゃ説明するよ」
そこから不快目隠しが話し始めたのは、私が扱う『境界操術』を含む、様々な呪術を使う呪術師と、人の思念から生まれる『呪霊』の存在の説明だった。
「で?」
「君にはこれから呪術師の養成学校に通ってもらいまーす!」
「不快。却下」
「残念ながらそうもいかない」
「は?」
不快目隠しはニヤニヤとした顔で続ける。
「あの閉鎖的な空間にいた君はこの世界の常識を知らない。それで生きていける程、この世界は甘くも無い」
「私がなぜその常識とやらに合わせる必要があるのよ」
「君がその常識に合わせず好き勝手するなら、僕は君を殺しにいかないといけなくなる」
「っ!」
空気が変わる。重い気配をぶつけられ、不快感に眉を顰める。しかしその空気はすぐに霧散した。再びヘラヘラとしだす不快目隠し。よくよく見るとコイツ顔が良い。不快。私は男に興味は無い。だが顔の良い男は女を惹き付けるものだ。私の獲物が少なくなる。不快。
「君も死にたくはないでしょ?」
「……………」
「別に君の行動を全て監視するつもりは無い。それに直ちにって訳でもない。君はまだ中学生位だしね。将来ここに入学すると約束してくれればそれでいいのさ。後、もし君が
「…………紫様のこと?」
「!」
私が紫様のことを口に出すと不快目隠しは驚いた様な様子を見せた。恐らく情報を出し渋るとでも思っていたのだろう。
「話してくれるってことは」
「勘違いするな。それは別。紫様のことなんていくら話そうとお前でもどうしようも無いだけよ」
「言ってくれるね」
「ならお前、この空間が何か分かるの?」
私が座るスキマを指さして問う。案の定不快目隠しは黙り込んだ。私の粗末なスキマで正体が見抜けないのだ、紫様のことをどうこうできるわけが無い。
「これはスキマ。私や紫様の持つ"境界操術"によって生み出される異空間。これはこの世にあるあらゆる微細な"スキマ"を開くことによって生み出されている。この異空間の中で再びスキマを開けば、如何なる場所にも向かうことができる」
「術式の開示か」
「黙って聞け。紫様は私が作り出すものとは比べ物にならない規模のスキマを作り上げる。文字通りここから世界の裏側に行くのも容易いし、私では1日維持するのが限界な所を紫様はここ数百年間維持し続けている」
「入る方法は?」
「紫様が開いたスキマから入る以外存在しない」
そこで不快目隠しは黙り込んだ。コイツは強い。今の私では手も足も出ない。だがそれで紫様を殺せるかと言えばそうではない。術式への理解も、応用力も、もっと言えば純粋に持ち合わせる呪力の総量からして比べ物にならない存在。それが紫様だ。
「悠久を生き続け、あらゆる干渉を無に帰す空間にいる紫様は、仮にお前に勝てなくとも負けない。負けなければ、お前の寿命というどうしようもない結末を待ち続ければ良い」
「なるほどね。そりゃ厄介」
「ほら話したぞ?便宜をはかるんだろ?」
「それは所属を約束するならね」
「ちっ……」
「君僕のこと馬鹿にしすぎじゃない?」
当たり前だろう。お前のどこに敬う要素があるのか。あるなら説明してみろ。
「はぁ……不快………」
「で、どうすんの?」
「…………いいわ、その話を受けてあげる」
「なら「ただし」うん?」
「お前は嫌よ。出来れば女、無理でもお前だけは私の教師役にはなるな」
「ははは!こりゃ随分嫌われたね」
「不快!」