わーい評価バーに色がついたー!
「そういえば君、名前は?」
「不快。お前に何故私の名前を教えなければならない」
「いいじゃない。あ、僕は五条悟ね」
「不快。どうでもいい。興味も無い。できる限り早く私の前から失せろ」
取り付く島も無い少女の様子に苦笑しつつ、五条は夜蛾のいる部屋に到着した。扉を開けて中を見れば、夜蛾は呪骸を作っている最中だった。
「君か」
「………お前が私にものを教える役割か?」
「い、いや、それはまだ決まっていない」
「そう」
五条を超える生意気な物言いに若干表情の引き攣った夜蛾だが、気を取り直し話を続ける。
「君の名前は?」
「…………八雲紫月」
「っ!そうか…………では八雲紫月、君は何故呪術師になる」
「お前らがなれと言ったんだろうが」
「それを踏まえてだ。君は今まで全てが己の思い通りになる箱庭で生きてきた。だから知らないだろうが、この界隈は君の今まで通りは一切通用しない」
「で?」
「
「…………」
少女、八雲紫月は傲慢だ。己の快・不快が最優先。故に最も心地よい環境を取り戻そうとする。事実彼女は力を付けた後似た環境を作り上げようと画策していた。だが、
「君が如何に強くなろうと、最早それはこの世界が許さない」
彼女がその環境にいられたのは、八雲紫の力が全てだ。五条悟が認める、五条悟と同等の規格外。数百の年月を生き、長い時間をかけて作り上げた箱庭だったからこその環境。その上呪霊が最も栄えた、強かったと言える時代に生み出されたのがあの領域だ。到底現在の呪術界で作り出せるようなものではない。
「だからこそ改めて聞く。八雲紫月、君は何故、呪術師になる」
「そうね…………ならハーレムを作るわ」
「……………すまない、聞き間違えたようだ。もう一「ハーレムを作るわ」………………」
紫月の背後で爆笑する五条にノールックで術式をパなしながら少女は言葉を続けた。
「反応を見る限り、この世界の常識的に複数の人間を侍らすのは異常なのかしら?だとしてもそれが何か問題がある訳では無いんじゃないの?」
「問題はある……複数の人間と交際すれば交際相手同士で「つまり受け入れさせれば問題無いと」…………」
「沈黙は肯定。なら問題ないじゃない」
「出来ると思うのか」
「別に?簡単よ。人間は快楽に弱い。心の内がどうだろうが肉体を屈服させれば自然と心も奪える。私があの場所でどれだけの女を相手したと思っているのかしら」
さり気ないレズビアン発言で夜蛾の脳を更にバグらせながら紫月は謎のドヤ顔で語る。
八雲紫月という少女は、いわゆる高いカリスマ性を持つ人間だ。優れた容姿と強者故の傲慢さ、自由奔放な態度。思うままに振る舞うその様が無意識に人を惹きつける。
一つ勘違いを訂正しよう。紫月の伽の相手をした侍女は、始めからこの少女に心酔していた訳では無い。侍女は紫月を子供の頃から知っていたし、あの箱庭で最も尊ぶべき存在であると本気で信じてはいた。だがそれだけだ。心酔と言えるものでは、伽の相手をするのみで絶命する程のものではなかった。それを、紫月は術式も何も使うことなく己の持つ魅力と技術によって彼女を堕としたのだ。
「だからさっさとお前たちの常識とやらを私に教えなさい。そうしたらお前達の言う常識の範囲で、私は私が最も快楽を貪れる環境を作り上げる。その為に私は呪術師になるわ」
「まぁ………合格だ……………」
堂々と言い放った紫月の姿に頭を抱えながら、夜蛾は彼女が呪術師に相応しいイカれた精神を持ち合わせていることを認めた。
────────────
「いやぁ予想以上にイカれてたねぇ彼女」
「面倒なことにならなければ良いが………」
「ははは!それは無理でしょ!」
夜蛾は五条の言葉に深いため息をつく。先程の数分の問答で分かったのは彼女の我が恐ろしく強いということ。それも五条レベルの強さだ。呪術師向き、と言えば聞こえはいいがそれは即ちイカレきった狂人であることと同義とも言える。
「しかし、八雲か………」
「ここで追加情報!なんと彼女僕が領域内で会った呪霊を紫様って呼んでました!」
「何!?」
「ま、驚くよねぇ」
紫月との問答の際、五条が驚いたのはすんなりと話をしたことではなく、彼女の口から八雲紫の名が出てきたからだ。
「血なのか術式なのか、それは分かんないけど、何にせよ彼女には八雲紫との相当強い繋がりがあるだろうね」
「ただの信奉者という可能性は?」
「それ分かってて聞いてるでしょ?無いね。紫月自身が術式が同じだと言っていたし、少し見ただけだけど見た目もそっくりだった。紫月が少し歳とったら呪霊か人間かでしか見分けが付かなくなりそうなレベルでね」
八雲紫。その名を知らない呪術師は、余程の無知だろう。呪術師の最盛期。その礎を作り上げた
「最期がわからずにいたとはいえまさか呪霊になって生き延びてたとは思わなかった」
「間違いなく呪霊だったのか………?」
「僕が見間違えると思う?」
五条悟が直接見た、という何よりの証拠を提示され夜蛾は黙り込んだ。伝説級の呪術師が呪霊となっており、更にはそれと全く同じ術式を持つと主張する紫月の存在。それが事実だろうが虚構だろうが、不穏分子であることに変わりはない。
「これは報告せん訳にはいかんぞ」
「さって馬鹿な上層部が紫月に刺客を送り込むRTAスタートォ!!紫月の目の前に刺客が来た時点でタイマーストォップ!僕の予想では一週間後くらいかな!」
「やめろ………」
夜蛾の切実な言葉が響く。彼の心労は、恐らく絶えることは無いだろう。
────────────
夜蛾が胃薬の世話になることが確定した日の翌日。
「伊地知、続き持ってこい」
「いえ、その漫画はそれが最新巻でして………」
「は?なら作者に続きを持ってこさせろ」
「無理です!」
「何故だ!」
「私にそんな権限ありません!」
「ちっ、なら他に面白い漫画を持ってこい!」
紫月は漫画にどハマりしていた。彼女に与えられた殺風景な部屋のベッドの上には無数の漫画が積まれている。因みに今彼女が呼んでいたのはHU○TER × HU○TERである。
言葉尻が強い紫月だが、今彼女の目はかつてないほど輝いていた。漫画という娯楽は今までの彼女の人生に存在していなかったのである。しかしそれに付き合わされる伊地知は新たな心労の種に胃を痛めていた。この後顛末を聞いた夜蛾から胃薬を渡され静かに涙するのだがその話はまた別の機会にしよう。
「紫づっぶないなぁ、何すんの?」
「私がいつお前に名前で呼ぶ許可を与えた?」
そこに現れる五条。態度はともかく機嫌の良かった紫月は一瞬の内に気分が急転直下で下がった。
「不快、失せろ」
「君の教師役が決まったから呼びに来たんだけど」
「お前が来るな!ソイツを直接私の部屋に呼べ!」
「流石に教えを受ける側でその態度はダメでしょ」
その正論に紫月は黙り、凄まじく嫌そうな顔をしながらをベッドから立ち上がった。
「さっさと連れていけ………」
「はいはーい!んじゃ、ついてきて」
不満顔で五条へ連れられていく紫月。伊地知は終始その様子を震えて見ているしか無かった。
「ここにいるよ」
「ならお前は早急に失せろ。ついでに死ね」
「死ぬのは無理かなぁ」
ヘラヘラとした態度を崩すことなく五条はその場から去っていく。その様に紫月はビキッと額に青筋を立てた。
(アイツはそのうち絶対殺す………)
そう心の内で決めつつ彼女は目の前の扉を開け放った。
そこに居たのは、特徴的な形の眼鏡とごく普通のスーツに身を纏った七三分けの男だった。
「貴女が八雲紫月さんですか」
「お前は?」
「七海建人。五条さんから貴女に常識を教えるように伝えられました。これからよろしくお願いします」
一級呪術師。そして推定呪術師一の常識人七海建人。その人とのファーストコンタクトがここで行われた。
感想評価よろしくお願いします。