東方艦隊娘 〜 往日を引き継ぐ者   作:久里浜燐

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零話:特設連合艦隊旗艦、山城

 

20XX.05.10 鎮守府近海

 

「艦隊、対潜輪形陣!敵潜水艦に注意して!」

 

一人の艦娘が、通信機を介しながらも大声で叫ぶように指示を出す。

背部に背負われた大口径主砲は戦艦級艤装のそれであるが、片手に持ち上げられた比較的面積の広い航空甲板が控えめにそれを否定する。

航空戦艦山城、今回臨時で組成された連合艦隊の旗艦である彼女の艦名だ。

 

 

山城の命令から一呼吸もおかずに了解の返信が帰ってくる。

艦上機を運用できる、飛行甲板を持つ艦が4隻。

その前後を、山城含めた戦艦が2隻。

そして、外周に巡洋艦2隻と駆逐艦4隻。

本来なら旗艦である山城が輪形陣中央であるが、艦上機がなければ脆弱な航空母艦こそ輪形陣の中央に来るべきと指示を出していた。

空母艦娘達には艤装の構造で難しかったが、大型通信機を載せたから山城が旗艦になった、とも言える。

だが、彼女は不満ではなかった。

連合艦隊旗艦が務まるのは、山城たちだけ。

指揮官たる"提督"にそこまで言われたら、不満も薄れていた。

 

 

「天気予報にはなかったけど、雲と霧が出てきたわね……比叡、鎮守府に天気予報の照合と現在の天気を確認して」

「りょーかいです!」

 

通信機の向こうでいつものように力を込めてガッツポーズをする比叡の姿を幻視する。

今回の山城と比叡の役割は、微妙に違う。

どちらも無線機を追加で装備されているが、山城のそれは艦隊内に指示を出すのが主目的であり、比叡のそれは本土との情報共有が主目的である。

無論、どちらかしかできないという訳ではない。ただ仕事量を分散させているだけだ。

 

「こちら第二艦隊旗艦阿武隈、若葉ちゃんが進路変更の有無を尋ねてきます!」

 

通信機から、甲高い声が響く。

提督の呼称した、頭に響くような声というのはあながち間違いでもないかもなと思いながらふっと思考を巡らせる。

秘書艦でもあり、緊急時には指揮権を有する若葉。今回はあくまで1駆逐艦娘として扱ってほしいと言っていたが、彼女が指示を仰ぐのを催促するというのは緊急事態ではないか。

 

「照合来ました、930hPaの低気圧がゆっくりと北上中らしいです!低気圧の中の天気まではわからないですけど、恐らく暴風雨!」

 

そういえば、とふと想起する。

提督の命令は何だった?ここの海域の決められた航路を通れ。

それならば、命令に従うべきではないか。幸いにして、駆逐艦娘から私達まで、実戦経験は誇れるほどにあるのだから。

 

「山城より全艦!低気圧の中を突っ切るわ!艦載機の収容を始めて!」

 

備え付けられた電探からは、友軍航空機が速度を落としながら接近するのが映る。

後戻りはできない、命令とはいえ指示したのは私なのだから。

輪形陣から戦闘陣形に変更するのは、留めておいた。むしろ、この場合は各個行動の方がいいだろう。

……山城の脳裏には、提督がこのことを予期していたのでは無いかという疑念は、ついに浮かばなかった。

低気圧と、雨と言うよりも濃霧と言うべき周囲。幸いにして対水上電探が10隻の友軍を捉えた……10隻!?

先程までは山城自身を除いて11隻の友軍が居たはずだ。

それなのに、電探がぐるりと1周する度に9隻、8隻と反応が減るのか。

1隻、また1隻と減りついには友軍の反応が全て消える。

低気圧を通過するのが間違いだったか、ふっと空を仰いだその瞬間。雷にその身体を打たれる。

旗艦を任されたらこんなことになるなんて、不幸だわ……。

そんな呟きが口から漏れるよりも先に、彼女の意識は深く沈んでいった。

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