東方艦隊娘 〜 往日を引き継ぐ者   作:久里浜燐

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壱話:いざ、幻想の水面

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いつの間にか気を失っていたのか。変な酩酊感を覚えながら若葉は自身の身体を起こす。周囲は……海。いや、どちらかと言われれば湖だ。この水は塩水ではない。では、ここはどこなのだろうか。

ゆっくりと目線を下げる。初霜が湖上?に倒れていた。

 

「初霜、起きろ」

 

若葉は身を屈めて初霜の肩を揺する。

 

「ん、んぅ……あら、若葉……?」

「起きたか、周りを見ろ」

 

今の状況は先程と違う。そんな若葉の意図を汲み取った初霜は身体を起こして周囲を見回す。

 

「……他の方達は?」

「まだ寝ている」

「起こしてきます、周囲の警戒をお願いするわ」

 

わかった、と頷きながら電探と音探を使って周囲の目標を探る。

 

「……山?」

 

電探も音探も反応はない。やっと落ち着いたところで、周囲の環境に気付けた。

 

「初霜、状況が変わった。阿武隈と山城を最初に起こしてくれ」

「私もそう思ったけど、返事が無いわね……」

「そうか、それなら比叡だ」

「ええ、分かったわ」

 

未だに倒れたままの比叡の肩を揺する初霜を視界に入れ、若葉は艦隊に起こった奇妙な現象を整理する。

低気圧、あるいは台風への突入。これは何度か訓練でも行っている。この場にいる艦娘は、そのような状況下での実戦さえ行っている。

だが万が一、何か──例えば、海底火山の噴火や敵潜水艦の群狼戦術──に巻き込まれたとしたら、この場は死後の世界ということになる。

根拠の無い直感であるが……それは無い。前に沈んだ時の記憶や感覚は殆ど無いが、何故か違うと言い切れる。

 

「んぁ……あれ、ここはどこですかぁ?」

 

思考の回廊に迷い込んでいた若葉の意識を引き戻したのは、気の抜けたような、それでいて頼り甲斐のある比叡の声だった。

 

「起きたか、比叡」

「おはようございます、若葉さんっ!

……ところで、ここはどこなんですか?」

 

いつもの調子のビシッと決まった挨拶と、脱力させるような疑問に、若葉と初霜は苦笑を浮かべる。

 

「その事だが、よく分からない。神隠しにでも合ったのではないか?」

 

若葉は、思考を放棄した。なぜこうなったかではなく、これからどうするかを考えるべきだとスイッチを切り替える。

 

「他のみんなを起こしてほしい、初霜。比叡は本土へ連絡を頼む」

「わかったわ、姉さん」

「はい、了解ですっ!」

 

自然と指示を出す立場に回っているのは、提督のそばに居たからか……幸いにして若葉は何度か後方指揮官としての教育を受けていた。山城か阿武隈が起きるまでは、比叡がこの調子なら、若葉が指示を出すことになるだろう。

一先ずは安心、と息をついた時だった。

 

「……電探に感あり、数一、こちらに向かっていないからおそらく哨戒飛行中だ!比叡、通信停止。逆探の恐れがある」

「り、了解です!」

 

無線機はやはり返答がなかったらしく、様々な周波数帯で軍民問わず連絡を取ろうと通信機に手を伸ばしていた比叡がその手を止めて空を仰ぐ。爆装している哨戒機も居ない訳では無い、油断をすることは出来ない。

 

「……敵機、こちらに接近!」

 

緩降下をしながらこちらに近づいてくる"敵機"はおそらくこちらに気付いただろう。

偵察機であれば反転をするのではないだろうか、あるいは詳細な情報を……?

 

「比叡、敵艦隊が来るかもしれない。対水上電探を稼働させろ。初霜は、若葉と対空戦闘用意だ」

 

一機程度なら、撃墜はできるだろう。

降下を続ける敵偵察機のシルエットを眺めながら、照準を合わせる。

翼形状は前進翼が途中で折れ曲がって後退翼に、ちょうど艦娘くらいのサイズで……空を飛ぶ人!?

 

「初霜、撃ち方やめだ!少なくともこちらから撃つな!」

 

警戒をしたまま砲口を逸らす。だが、相手は明確な敵意を向けられているとわかっていないのか、はたまた艦砲、あるいは銃砲と言うものを理解していないのかと言うように、若葉の装備に目を向けながら若葉たちの目の前に滞空する。

 

「……機動性はオートジャイロ並、か」

 

ぼそりと呟く声も耳に届かないくらいに、目の前の黒髪の翼を生やした少女はこちらの存在に興奮している。

 

「ほほぉ……最近の外来人は水の上を歩けるのですか。ぜひ、取材させてもらいましょう!」

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