魔法科高校の「大賢者(嘘)」   作:ギャングスタ

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入学編8

 討論会がある午後。ボクは討論会がある講堂の外、さらに言えばそこから離れた場所を巡回していた。真夜様からの連絡で、この学校の図書館にある秘匿文書へのアクセスが襲撃の理由だと聞いたからだ。

 魔法師を無力化するアンティナイトがあれば大丈夫だと思ったのかな?それは安直すぎると思うし、軍事物資のアンティナイトなんてそんな大量に用意できたんだろうか。

 できたとしても、四葉の部隊にやられてるわけだけど。

 風紀委員として渡されている無線機で、達也君に連絡をする。

 

「新か。どこにいるんだ?」

「講堂の外。摩利ちゃんにはもう許可をもらってるよ。達也くん。ボクの代わりにあずちゃんを守ってね」

「……『エガリテ』が動くと?」

「同盟のメンバーは講堂内にそこそこいるでしょ?負けそうになったらなりふり構わず動くかもしれないし。ボクは外で様子を伺うことにするよ」

「何かが起こると確信しているようだな?」

「わかりやすい陽動だよねえ。とにかく、そっちは任せたから。あ、あとそっちに壬生さんっている?」

「いや、見渡した感じいないな」

「そっか、ありがとう。じゃあそっちも頑張って」

 

 通信を切る。真夜様から達也くんたちに「ブランシュ」を潰したことを伝えるなと命じられている。達也くんたちが目立たないようにという配慮なのか、それ以上の理由があるのかはわからないけど。

 もし差別撤廃有志同盟が動くとしても、達也くんたちがいればなんとかなるでしょ。アンティナイトで魔法が封じられても戦える人たちだし。深雪ちゃんは実際使われたらしいけど、無力化されなかったって聞いた。

 ほのかちゃんと雫ちゃんとB組のエイミィちゃんが危ない目に遭ったって話も聞いた。そのことに苛立ってその日もオレが出てきたけど、今はなんとか抑えている。

 

 この破壊衝動、もしくは無力に嘆く心は精神に深く結びついていて、深夜様にも切除できなかったのだとか。だから「ボク」をベースにすることで中和している。オレが浮上してきたら危ないからすぐに魔法で抑えなさいって言われている。

 幼い時の特に考えもせずに呪文を使いたがったものは、その精神が原因なんだとか。もしそのまま生き物に躊躇いもなく呪文を使いたがる精神性を主にしていたら、今頃この身体は消されている。これまでの楽しいことを何も感じられなかったと思う。

 

 

 あずちゃんも好きになれなかったかもしれない。

 

 

 だから、この精神を制御してくれた四葉にはできる限りの忠誠を誓っている。ボクがボクでいられるために、親友である達也くんと深雪ちゃんに隠し事をしてしまう。

 ごめんと思いながらも、彼らを傷付けないために。ボクは四葉の人間として動こう。

 そんな考え事をしながら図書館の方へ出向こうとしたら、竹刀をしまう袋を二つ肩にかけた桐原先輩が歩いていた。連絡つける前に合流しちゃったよ。手間は省けたけど。

 

「相田。壬生を見かけたか?」

「いいえ。ただ、同盟の主要メンバーなのに講堂にいないそうです。もうすぐ討論会が始まるというのに」

「お前の予想通りってことか。お前、知覚魔法は使えるのか?」

「魔法って呼べるものじゃありませんけど。朝言ったように悪意に敏感です。距離にしたらボクを中心に200m半径の円の中に入ったら、知覚できます。壬生さんなら精神汚染が学校内で一番酷いので、円内に入った瞬間わかります」

「頼りになるか、微妙な広さだな。領域干渉魔法としたら破格なんだろうが」

 

 ぶっちゃけ目視できる距離だからねえ。真後ろでも感知できるから、そういう意味では便利だけど。一緒に精神を揺さぶられるから気分が悪くなること必至。なんと使いづらい。

 

「でも、こう考えれば中々使えるかと。相手の目的からして、講堂は確実に囮でしょう。となれば本命は講堂から離れた場所。そしてこの魔法科学校にだけあるものってなんだと思います?」

「……研究に使われる高額な機械群や、実験データに文献か?」

「魔法大学にもありますが、大学は規模が更に上なために攻めるのも一苦労でしょう。その点高校なら精神も質も劣ります。だからウチが狙われたんでしょう。そして実験棟でのデータはあくまでこの学校で収集したデータです。部外者が求めるものはそんな一データより──」

「様々な機密文献の方が、狙われやすいか」

「はい。なので図書館から外に近い場所を張っていれば壬生さんもいるかと思って」

 

 そうして歩いていると、壬生さんを感知した。ボクが立ち止まってある方向を見たことで桐原先輩も悟ったらしい。ボクたちは無言のまま、壬生さんに近付いた。

 場所はクラブ活動でも使われる林の中。様々なクラブが障害物などを模した環境での活動をするために、校内にはこういう見晴らしの悪い林も存在していた。そこに身を潜めていたらしい。

 

「よお、壬生。こんなところで奇遇だな?」

「桐原君!?それにそっちは、一年生の風紀委員……」

「あ、ボクは気にせず。ボクはただ、魔法の不適正使用などされていない(・・・・・・)という証明のためにいるだけですので」

「なんのこと……?」

 

 壬生さんは訝しんでいるが、ボクがそれ以上何も言うことはない。そこら辺の石と同じ。ただここにいるだけの存在だ。

 風紀委員の言葉って基本的に録音されていなくても証明になるんだってね。嘘だったら退学処分になるらしいけど。

 ボク、今日だけでそういうこと数回やってるなあ。バレませんように。

 とにかく、ここからは桐原先輩の仕事だ。ボクは後始末まで待っていよう。端末である操作だけして、近くの木に寄っかかって状況を見守る。

 

 

 二人が正面切って対峙する。どちらも剣を用いる人種であり、そこそこに係わりのある関係性だ。そんな二人のうち、動き出したのは桐原だった。

 背中にかけていた竹刀袋。そのうちの片方を壬生に向かって投げる。

 壬生は受け取った瞬間、重いと思った。普段部活で使っている竹刀よりも、重さでも想さでも重量感を匂わせるものだった。

 

 袋から取り出したものは、刃引きされた模造刀。斬ることは出来ずとも、使えば相手を死に至らせる凶器。

 それに対して桐原が取り出したものは、なんてことのない竹刀だ。それが壬生を苛立たせる。

 いつものような、花を持つ者による侮辱かと。

 

「舐めてるの?それじゃあ打ち合うこともできないじゃない」

「お前は魔法科高校の二年生だろ、壬生。いつ俺が魔法を使わないって言った?」

 

 桐原は腕につけたCADを用いて「高周波ブレード」を使う。耳障りな音を立てながら、その竹刀は模造刀とやりあえる凶器に変わった。

 竹刀と模造刀でぶつかり合えば、へし折れていたのは竹刀の方だろう。だが、一つの魔法でそれは変わってしまった。真剣のような切れ味を持つ「高周波ブレード」とぶつかり合えば、模造刀ですら斬り落とされる。

 そんな、絶望を思わせる変化が気に喰わず、壬生は桐原を睨みつけていた。

 

「あの時は司波兄に止められたからな。望みの真剣勝負だぞ?かかってこいよ」

 

 桐原が竹刀を構える。だが、壬生がそれに答える理由はない。

 勧誘週間の話は、すでに終わったことだ。壬生は今、やるべきことがある。

 それは、剣でぶつかり合うことではない。

 左手の指につけられた指輪を、桐原に向けようとして──。

 

「そこまで堕ちたか!?壬生ぅ!!」

 

 自己加速術式を用いた桐原が、アンティナイトによるキャスト・ジャミングを行う前に壬生の左腕を掴んでいた。キャスト・ジャミングを用いるにはそれなりの集中力が必要だ。壬生よりも体格が良い男の桐原に力強く握られてしまえば、発動もできなかった。

 

「逃げてんじゃねえよ!お前の剣はこんなものに頼るようなもんかよ!?お前にとって剣は、そんなみっともないもんだったのか!!」

「逃げてなんか……!」

「こんな燻んだ玩具に頼ってる時点で逃げてんだろうが!俺はお前と!剣で戦うためにここにいる!!」

 

 桐原は掴んでいた手で指輪を強引に抜き取り、そのまま拳の中で潰した。

 それが、彼の怒りを示すように。

 

「お前は玩具の指輪もらって喜ぶ女かよ!?そうじゃねえだろ!他人からもらったものじゃなくて、自分の力をつけるために邁進したから、全国っていう頂きに立てたんじゃねえのかよ!?」

「……ッ!」

 

 

 

 

「あの頃のお前はどこに行きやがった!そんな誇れるものを持ちながら、相手の魔法を封じるクソッタレなもんに魂を売って!それが剣っていう道を歩んできたお前の本心か!?相手を弱らせる手段に、どこに道がある!?どこに誇りがある!!壬生沙耶香の剣は、どこにいった!!!」

 

 

 

「……さい……!」

「聞こえねえよ!!」

「うるさい!あなたに何がわかるのよ!?剣術部のエースで、一科生で!私にないものをたくさん持ってるあなたが!私の何をわかるっていうの!!」

「俺の人を殺す剣にはない、綺麗な剣をお前は示してくれた!殺す手段の剣じゃなく、人を活かすための道があると、お前が教えてくれた!!」

 

 桐原は父の影響で、魔法を併用した剣術。詰まる所の人を殺すための剣を学んできた。誰かを守るために、そんな剣が必要なのだと学んできた。

 だが、それとは異なる、純粋に技術を。技を。道理を。想いを伝える剣があるのだと知った。全国を制した女性の剣は力だけのものだったが、壬生の剣は美しいものだと思えたのだ。

 

 真逆のものがあって良いのだと。

 そして彼女のような剣を伝える者がいるからこそ、剣術という危ないものを扱って良いのだと。

 剣術が命を奪い、命を守るものならば。

 剣道は心を導き、心を守るものなのだと。

 

 

 それが汚された今、彼は憤っているのだ。

 彼女が救ってくれたからこそ、今の自分はここにいるのだと、伝えたかった。

 

 

「お前が持ってないものを俺が持ってるように!俺が持ってないものをお前が持ってるんだよ!こんな単純なこと、剣をぶつければわかるだろうが!そこまで目も心も淀んでるなら、俺が叩き直してやる!!」

 

 桐原が振り上げた竹刀を見て、壬生は咄嗟に硬化魔法を模造刀に用いて上段から来る攻撃を防いだ。

 言葉で通じないなら、剣で語るまで。そんな想いが全身から溢れているようだった。

 そんな桐原の様子を見て、壬生は何度も突っかかってきた桐原の剣を思い出す。

 

 

 一科生である彼はいつだって、二科生である自分に憤っていなかったかと。

 

 

 それこそこの一年ほど、何度も剣をぶつけてきた。違う部活だというのに。剣術部のエースが、劣等生であるはずの二科生相手に。

 その時の彼はいつだって、怒ってはいなかっただろうか。

 何度か負かしたこともあったが、それは二科生である壬生に負けたから、もしくは男が女に負けたから。なんて自分自身に怒っているような表情ではなく。

 いつだって怒りは、壬生沙耶香の先に向いていたのではないか。

 

 

 いや、正しくは。

 

 

 桐原の怒りは壬生が感じたように、壬生の剣を変えた元凶に向けたものであり。

 剣を曇らせている壬生自身の弱さに向けたものであり。

 一年もかけて彼女を救えなかった、無力な彼自身への怒りだった。

 

 

 そんなことに気付きながらも、壬生は桐原の剣を防ぎ、時には攻め立てた。

 お互い使っている魔法は一つのみ。その魔法の差異を除けば、二人が競っているのは純粋な剣の腕。

 剣術と剣道という、在り方の差こそあれ。

 同じ剣でぶつかり合っていた。

 

 勝負を分けた一撃は、二人の想いの差か。

 桐原の上段からの一撃を壬生が受ければ後々に残りかねない傷を負わせることになると思い、惚れた女性に与えたくないためらった一瞬。

 その一瞬を、剣士としての壬生が破っただけ。

 綺麗に小手が決まり、桐原は竹刀を地面に落とす。膝をつくことはなかったが、右腕が折れている感触があった。

 剣を落とした段階で、桐原の負けだ。

 

「……お前は強いんだよ。一科生より。くっだらねえ。剣も魔法も、自分で努力して伸ばすだけだろ。高校くらいで才能に見切りをつけるなんてアホだ。二科生が今まで試験で一度だって100番以内を取らなかった訳でもねえし、一科生だって才能とプライドに胡座かいてれば落ちるに決まってんだろ。……俺は、憎しみで剣を振るうお前なんて見たくなかった。悪いな。そんな一言が言えなくて、この一年間散々突っかかった。お互い、随分遠回りしたな」

「あ、あぁ……」

 

 壬生が桐原の言葉を聞いて。

 自分のこの一年を振り返った瞬間。

 とある少年の小さな呟きとともに、壬生の中にあった黒い塊が、身体の外へ排出された。

 

 

 ひとまず成功っぽい。魔法も使ってみて、壬生さんの心はだいぶ落ち着いてることがわかった。これで彼女は大丈夫かな。

 いきなり気を失って倒れそうになったところを、桐原先輩が抱き留めたけど。

 

「相田。お前が何かしたのか?」

「はい。先輩、腕を見せてください」

「魔法で固定してくれるのか?」

「いいえ、治します。ベホマ」

 

 呪文を使った瞬間、桐原先輩の腕がくっつく。うーん、骨折を一瞬ってやっぱりおかしいな。

 緑色の光が腕を包んだ瞬間、痛みが引いたのか桐原先輩は顔を顰めていた。折れたと確信していた腕が動かせたら、そうもなる。

 

「何した?」

「おまじないです。ボクがやったこと、秘密ですよ?壬生さんには、咄嗟に硬化魔法使ったとか籠手を仕込んでおいたとか、適当に言って……ダメか。彼女の精神安定のためには、そんなこと言うべきじゃない。うーん……仮病使ってくれます?」

「罅入ってたことにして、数日で治しましたってことにすんのか?」

「はい。最悪、ボクが治したって壬生さんには言っていいですよ。BS魔法だって言ってくれれば。ああ、それなら怪我したフリもいりませんね。だってここで二人は何もしてなかったんですから」

「そうか。……ありがとうな、相田」

「いえいえ。ただし、秘密厳守でお願いしますよ?」

「ああ。男の約束だ」

 

 呪文のことだけど、呪文とは言ってないから大丈夫でしょ。最悪FLTが開発したベホイミもどきを使ったって言い張ればいいし。

 

「ええ、お願いしますね?もしバラしたら、先程の愛の告白を全校生徒に流しますから」

 

 ボクが取り出した端末を見て、桐原先輩の顔が青くなる。これでさっきまでのことを録音していたことに気付いたのだろう。

 

「なっ!お前!?」

「風紀委員の方では録音してなかったので、学校にはバレませんよ。でも、ボクとの約束を守ってくれなかったらこの音声を適当にネットの海に流しちゃったり?」

「クソみたいな脅しだな!?そんなことされなくても約束は守ってやるよ!!お前のおかげで壬生を助けられたんだし!男の約束でビシッと終わりで良かったじゃねえか!?」

 

 まあ、基本ボクの趣味だよね。壬生さんの立場が悪くなるから、呪文のことバラされても流すわけにはいかないし。それに気付かれたら保険でも何でもないんだよね。

 まるで愛の告白をしていた桐原先輩がカッコよくて弄りたかっただけだ。

 

 この後、講堂で大きな騒ぎはなく。司甲だけ確保したって話は聞いた。

 壬生さんは図書館襲撃未遂だったために学校の裁量で放送室立てこもりについては不問。ただしマインドコントロールの件で入院することに。大丈夫だけど念のためってやつ。

 他数人剣道部で入院する人もいたけど、ひとまずの脅威はなくなったかな。達也くんには四葉が出てきたことがバレたけど、見逃してくれた。「ブランシュ」って言う脅威がなくなったのはいいことだし。

 

 入学してから面倒だったけど、これで当分は安心して過ごせるかな。

 




学校襲撃はなくなったのでブランシュ本部襲撃もなくなってます。四葉によって滅ぼされていますし。

入学編はこれでおしまいです。桐原先輩はこの後ちゃんと壬生さんと付き合い始めます。
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