魔法科高校の「大賢者(嘘)」 作:ギャングスタ
春の一件から数ヶ月。平穏な生活を送れた。善きかな善きかな。
四葉の本家に行った話?分家含めた数々の女性陣にあずちゃんが可愛がられただけですけど、何か?皆あずちゃんのこと好きすぎない?ボクの婚約者なんだけど。
あずちゃんもあずちゃんでさあ。四葉でもう使わなくなったお古のCADもらってもらうたびに女性の方々に大好きって言うのやめない?確かに市場に出てないレアCADだけどさあ。
津久葉夕歌さんにローゼンのCADについても聞いたし、ちょこちょこっとしたボクの調整もあったけど、そこまで特筆することはなかった。黒羽亜夜子ちゃん主導による女装大会が始まったことには遺憾の意を表する。
文弥くんの気持ちがわかったよ。なんで四葉の女性陣ってあんなに強いんだろうね……。押し切られてしまった。今頃分家で写真が出回っているし、深雪ちゃんには大層笑われた。達也くんには肩ポンされた。慰めなんて求めてないよ!
とにかく。七月になって期末試験が終わって。九校戦に選ばれる重要な資料になるからって全学年必死に試験を受けた結果が張り出された。上位だけだけどね。
その結果理論・実技・総合全て三位だった。入学時点から変化がないって。
理論は上に達也くんと深雪ちゃん。二人に勝てないなあ。実技と総合は深雪ちゃんと雫ちゃんに負けた。実技の方が加点高いらしいから仕方がない。
森崎くんは実技四位、理論十五位で総合五位。ほのかちゃんが実技五位、理論五位で総合四位。なんでほのかちゃんが二つ五位なのに総合は四位だったかっていうと、理論四位に二科生の吉田くんって人が入っているから。彼は実技の点数が良くなかったので総合には上がってこない。達也くんと同じクラスらしい。
他にもE組の皆が、達也くんと仲が良い人たちが理論で好成績を納めていた。達也くんが勉強会を開いたとか。ボクはあずちゃんと二人で勉強していたためにそれには参加しなかった。
あ、あずちゃんも全部一位取ってた。やっぱり才女だよね、あずちゃん。実技一位なのに九校戦では選手じゃなくエンジニアなために真由美ちゃんが頭を抱えていたけど。
達也くんが実技で手を抜いているんじゃないか疑惑で職員室に呼ばれるというなんともな出来事もあったけど、四月のような事件があったわけじゃない。平和が一番。
そして九校戦に出る選手を選ぶ中でボクにも声がかかった。部活連の部屋に行くと、十文字先輩が椅子に座って待っていた。この人本当に高校生?って疑っちゃうような体格の良さと雰囲気がある。安心感があるとも言う。
「相田。お前は一学年男子一位ということで九校戦新人戦に出場してもらう。差し当たっては得意魔法などによって出る競技の希望を聞きたい」
「あのー。エンジニアじゃダメですか?あずちゃんから人材不足って聞いたんですけど」
「何?」
「摩利ちゃん辺りなら知ってると思うんですけど、ボクってあずちゃんと同じタイプで魔法師としてはてんでダメでして。エンジニアとしてなら親に鍛えられてるから貢献できそうだなって思うんですけど」
「……そうなると男子で有望な人材がいなくてな。十三束は知っているか?あいつも魔法適性の問題で成績は良くても選手としては選べなくてな」
「あー。知ってます」
「レンジ・ゼロ」の異名を持つ男子だ。接近型術式解体が得意だけど、それだとモノリス・コードもアウト判定だからどうにもならないとかって摩利ちゃんが愚痴ってたのを聞いた。彼、森崎くんの次に成績良い男子なんだよね。
女子は成績を見る限り結構優秀そうだけど、男子はそうでもないのか。実技の成績も上位って女子ばっかりだったし。
「えーっと。一応できそうなのはアイス・ピラーズ・ブレイクですかね。干渉力だけはいっちょまえなので、防御に徹してチマチマ削ればできなくはないかも、くらいですが。他は全滅です。まともにサイオン弾も使えないので早撃ちは論外。波乗りもテニスも加速魔法が苦手なのでどうしようもないかと。マルチキャストも二つが精々ですし」
「わかった。前向きな意見助かる。それとエンジニアと言うんだから、自分のCADくらい調整できると思って良いな?」
「はい。エンジニアはいらないかなーって。詳しい規約を教えてもらえればそれに合わせます」
「よし。聞きたいことは以上だ。時間を取らせて悪かったな」
「いえ、そちらこそお疲れ様です。それじゃあ、失礼します」
そんなやり取りをした後。お昼休みに九校戦の準備で大変そうな生徒会をご飯あとに手伝っていたら真由美ちゃんにいきなりこんなこと言われた。
「新くん。あなたには新人戦のアイス・ピラーズ・ブレイクとモノリス・コードに出場してもらうことになりました」
「「……はい?」」
ボクと声を揃えたのはあずちゃん。一緒にいた達也くんと深雪ちゃんも眉を顰めている。
いやいや、何言ってるの真由美ちゃん。
「ボクのダメダメっぷり、教えたよね?なんでモノリス・コード?」
「人がいないのよ。ほら、新くんって人垣跳び越えたり身体能力高いじゃない?それに風紀委員としても検挙率そこそこだし。モノリス・コードに森崎くんも選んだから、相性も良いだろうし」
「うわー。貧乏くじだ。達也くん、勝率は?」
「相手次第だろうが、お前がボコボコにされておしまいだろうな。お前は直接戦闘に向かない。だが、ずっと隠れて奇襲するならやりようはあると思うぞ?アタッカーのサポートをするならお前は向いている。アタッカーを森崎がやるなら、そこそこはできるんじゃないか?」
「達也くんもこう言ってるし!」
「うわー。裏切られたー」
毎回ボクをボコボコにしてる達也くんがそれを言う?ほんと直接戦闘になったら終わりなんだけど。ボクは後方から呪文を撃つような魔法使いポジションなのになあ。
「聞いてみれば案外適性がありそうじゃないか。新人戦は厳しいと真由美が嘆いていたが、思わぬ伏兵だな」
「摩利ちゃんまで。さあ、深雪ちゃんの評価は?」
「お兄様の御推察が外れたことはありません。まだ情けないことを言うなら、私が直接指導しますが?」
「女子はモノリス・コードないじゃん。……はぁ、頑張ります」
「あっくん、無茶しないでね?」
「無茶はしないけど……どうするの、エンジニア。人足りないってあずちゃんも懸念してたけど」
一高は人数が九校の中で多い方なのに、今年は特にエンジニアが不足しているんだとか。あずちゃんがいるからまだなんとかなってるだけで、総合的に見るとヤバイんだとか。
だからボクもエンジニアやろうとしたのに。達也くんを除けば一年生で一番できると思うけど。
「そうなんだよね……。あっくんが選手に選ばれなければエンジニアとして推薦しようと思ってたのに」
「新くんってそんなにエンジニアとして優秀なの?」
「親が二人とも魔工師だからね。それにドラクエシリーズが出たら弄りたいから基礎知識はまあまあ。ある程度調整もアレンジもできますよー。自分のCADを使えるようにセッティングするくらいならすぐに。むしろこっちが本業です。ハード寄りですけど」
「あーちゃんと仲良しなんだから、それもそっか」
その繋がり方って普通しないんだけどなあ。事実ではあるんだけど。
もしかして七草の情報網に引っかかったとか?後輩の家庭事情を調べるために家を動かしてないよね?……真由美ちゃんならやりかねないんだよなあ。
ボクがそうやって真由美ちゃんを警戒していると、あずちゃんが達也くんの方を見ながら柏手一つ。あ、マズイ。
あずちゃんには達也くんを秘匿する必要があるなんて伝えてない……!真夜様に伝えなくて良いって言われてたけど!
「そうです!達也くんがいました!」
「言われてみれば。風紀委員会のCADを調整しているのは達也くんだったな。あたしとしたことが、盲点だった」
達也くんが二科生だからなんだと反論を始めるけど、深雪ちゃんの「九校戦でもお兄様に調整していただきたいです」の一言でノックアウト。その一言は達也くんにとってクリティカルだからなあ。無理もない。
「達也くん。ボクもエンジニアとして手伝うから……」
「お前、二つも競技やるくせにエンジニアもなんて倒れるぞ」
「んー、大丈夫じゃない?ピラーズは実家でやってることあまり変わらないし。モノリスは作戦詰めてぶっつけ本番しかないし」
棒倒しについては似たようなことを四葉の本家で散々やっている。それの魔法ヴァージョンってだけ。セオリーとか覚えて少し練習するだけだと思う。モノリスも役割定めて連携整えるくらい。
九校戦でボクが気にすることなんて、どれだけドラクエシリーズが活躍するかってことだけ。あずちゃんが本気で取り組むならボクもできるだけ頑張るけど、三連覇とかはそこまで乗り気じゃないというか。
あずちゃんが会長の時の来年ならもっとやる気出るんだろうけど。無理矢理やらされる競技っていうのも拍車をかけてやる気になれない。だからやりたいことのエンジニアを手伝いたかったりする。
練習とかは真面目にやるけど。裏方が良かったなあ。
・
放課後。達也くんをエンジニアとして認めるかどうかっていう選定会議が始まる。とはいえ、好意的な意見もいくつか出るけど反対意見の方が声が大きい。一年生だからとか、二科生だからと。
見る目がない人たちのせいで会議が踊るのは見ていてつまらない。雫ちゃんとほのかちゃんも頬を膨らませている。
結局達也くんの実力がわからないから結論が出ない。なら実際に腕前を見てみればいいじゃんって流れになって一部の生徒だけ連れて調整のための部屋に集合。
そこで真由美ちゃんから「競技用CADに桐原先輩が普段使っているCADの設定をコピーして即時使用可能な状態に調整する。ただし起動式そのものには手を加えない」というもの。
これにあずちゃんと二年生の五十里先輩以外反対意見を言いそうな人がいない。十文字先輩も気付いてるかな?鈴音先輩がいれば一言言ってくれそうだけど、あの人は今生徒会室だ。
はぁー、ヤダヤダ。
「反対ハンタイはんた〜い!こんな課題、本当にやらせるつもり?」
「え?新くん?」
「達也くんならできるだろうけどさあ。桐原先輩には恩義もあるし、もしもがあったら嫌なんだけど?」
「新。俺が失敗するとでも?」
「断言するよ。絶対しない。それでもこの課題は見過ごせない。来年も同じ課題を、来年じゃなくてもいつかこんなことを繰り返すなら、断固反対するよ。こんなの、ボクにもあずちゃんにも毎回はできっこない」
「一年は黙ってろ!そいつを擁護するつもりか!?」
だれ?こんなトンチンカンなこと言ってるの。そんなのが一科生で、しかも九校戦に選ばれてるなんて認めたくないんだけど。
達也くんが言わないなら言ってやる。チームリーダーが真由美ちゃんなら、真由美ちゃんが絶対じゃないって認めさせないと破綻する。
なんで十文字先輩がやらないかなあ。チームリーダー。
「低スペックCADに高スペックCADの設定を丸々コピーしたら容量や性能の差でほぼ必ず使用者の精神を苛みます。基礎単一魔法しか入れられないCADに『インフェルノ』を突っ込むようなものだよ?スペックが足りなくて、魔法なんてまともに発動できません。そんなことができるのはプロの魔工師でも一握りです。たとえ達也くんにそのスキルがあっても、他の人は一切できない課題を延々と受け継いで魔法力を失う生徒を出す気ならボクも止めませんけど」
「あの!わたしもこの課題は反対です。理由はあっくん……相田くんが言ったように恐ろしく高いスキルを要求することと危険だからです。ハードにはハードの限界があります。それに九校戦用のCADはあえてスペックを抑えたCADです。桐原くんのような優秀な人がいつも使っているCADの設定をコピーするのは、絶対にスペックが足りません。危険です」
「僕も反対させていただきます。理論畑出身の僕から見ても危険だからです。先ほどの課題をこなせる人は日本を見ても一握りしかいないでしょう。高校生にやらせるものではありません」
ボクに続いてあずちゃんと五十里先輩が反対意見を言ってくれた。
それに続くのは十文字先輩。
「俺も反対だ。特に即時というのがダメだ。調整には本来かなりの時間をかけて行い、相手のこととCADのスペックと相談して行う繊細な作業。司波を試すための意地悪な引っ掛けではないのなら即刻取りやめるべきだ」
「じゃあ、どうするの?十文字くん」
「相田。お前が一番最初に止めたんだ。相応しい試験を考えられるか?」
いきなり?まあでも、腹案はあるんだよね。無計画に止めるわけにはいかなかったし。こういうプライドが先行してる人たちってちゃんと道筋立てて正論を言わないとさっきみたいにキレるだけだし。
「まず一つが摩利ちゃんに許可をもらって風紀委員会の備品であるCAD、ローゼンの27型を持ってきてもらうこと。それの内の一つを達也くん、もう一つを中条先輩が調整した物なので、並べれば腕はわかると思います」
「ローゼンの27型がなんだって言うんだ!ただの備品のCADだろ!」
はい、二人目のバーカ。CADを知らないのは百歩譲ったとして。知らないなら実物見てから意見言えよ。十分待てば結果も見えるってのに。
それに二年生でエンジニアホープのあずさと同等の腕なら一年生だろうが入れるべきだろ。人数不足で悩んでるんだから。プライドや見栄なんて全てにおいて優先されることじゃないんだよ。
……精神を落ち着けるために深呼吸をひとつ。それが無視されたとでも思われたのか、さっきから怒鳴っている先輩が青筋立てている。無視無視。
「もう一つは、ボクが持っている二つのCADを使って、ボクのCADに組み込まれている魔法を空の状態のCADに登録してもらいます。このグランスライムなら汎用型として国内最大級のスペックを持っています。高級品なのでハードとソフト両方の知識がなければ調整も難しいですし、技術ももちろん必要です。ボクが持っているいつも使っている方のCADから調整させればグレードアップになるのでボクが精神をおかしくすることはありません」
「あっくんやっぱりそれ持ってたの!?一言言ってよ!」
「中条先輩、後で見せるんで待ってください」
「新、用意が良すぎるだろ……」
「ボクがドラクエシリーズ好きなの知ってるでしょ」
その答えに苦笑する達也くん。
グランスライム。スライム系でも昔からいたすっごい強いスライム。これの形を模した汎用型CADだけど、正式販売はまだだったりする。明日とかだったかな。親のコネという名前の製作者特権でもう持っているだけ。
でもこれ、達也くんへの贔屓なんだよね。このプログラミングに達也くんは噛んでるわけだし。
グランスライムを知らない魔法科高校の生徒がいたらそいつはにわかどころの話じゃない。FLTがバカみたいに宣伝してるし、スペックなら本当に最高峰。特化型を疑うような魔法の発動速度を持った汎用型なんだから、知らない方がおかしい。
まあ、シルバー・ホーンとか本物の特化型には負けるんだけど。
「十文字先輩、いかがですか?」
「登録する魔法は?」
「雷童子に自己加速術式、それに領域干渉魔法を一つ。古式、凡庸、特殊。三つの魔法で十分かなと」
「それでいい。相田もその術式を司波に公開していいんだな?」
「チームメイト、しかもエンジニアになる友達に見せることを、遠慮すると思いますか?」
「フ。それで行こう」
ボクのはぐれメタルキングから三つの魔法式のデータを取り出して、あとは空のグランスライムを渡す。それでボクのサイオン波を測定して、それらのデータからグランスライムを調整。はぐれメタルキングの方がスライムとして上とか言わない。開発順でこうなっちゃったんだから。
汎用型とはいえ、スペックお化けのCAD。三つしか魔法を組み込まないとはいえ、ボク用に完全マニュアル調整をたかが十分程度でやってみせた達也くんは化け物だ。いくらグランスライムのデータを知っていたとはいえ。
ボクがやるよりよっぽど上手くできてるんだよね。さすがシルバー様。
三つの魔法を実際に使ってみて、領域干渉魔法については十文字先輩が良しとしてくれたためにどれも問題なしという判定。だけど完全マニュアル調整を知らなかったのか手際が悪いだの、最高級品使ってるくせに仕上がりが平凡だのって言い出すバカもいた。
ただの悪意で、プライドを守るためだけに達也を貶してるのがわかってるからオレが苛立ってるのに。こんなのが代表で本当に勝てるわけ?
「七草会長、十文字会頭。私は司波の代表入りを強く支持します」
「ハンゾーくん?」
「服部。反対意見も多いようだが?」
「やり方が独特であろうが、一年生であろうが。反対している理由が二科生だとしても。問題の発端はエンジニア不足です。FLTが推しているCADをこの短時間で調整した技術と知識をもつ司波は当校に必要な人材です。代役のアテもおらず、このまま問題を先送りにすれば時間を浪費するだけ。そこに、裏打ちされた技術力を持った生徒がいるのにです。
中条の技術力と五十里の理論は二年ということを差し置いても飛び抜けています。そんな二人が認め、実際にやってみせた。これ以上の理由が必要でしょうか。
もしそれでも反対する人間がいるのならば、司波にはその生徒のエンジニアをサブも含めて外れてもらいましょう。それがお互いのためだ。そして、ここまでの技術力を見せた司波なら、自分は調整を任せたいと思います」
「会頭、俺も司波を支持します。あんな超高級品を今データを見ただけで調整できる人間がどれだけいるか。そしてどうやら司波はすでに選手から信頼を得ているようです。そんな人物を逃すのは無駄でしょう」
桐原先輩がそう言って横目で見たのは後ろの方にいる雫ちゃんとほのかちゃん。心配になってこっそり来たらしい。らしいっちゃらしいけど。
深雪ちゃんも含めて数人。九校戦は全学年合わせて四十人の選手と八人のエンジニアだから、エンジニアは一人当たり五人見ればいい計算になる。さっきの三人とボク、それに森崎くんで五人になっちゃうんだよね。森崎くんには我慢してもらうにしても、これで十分な気がするけど。
はんぞーくんも二年のエースだから言葉の重みもあったのだろう。次期会頭らしいし。
「服部と桐原の意見はもっともだと思う。俺も司波の代表入りを支持する」
十文字先輩のこの一言で決定。反対派も押し黙った。
あー疲れた。
あといつの間にかボクもエンジニアサブになっていた。自分の関わる競技と達也くんとあずちゃんの補助をするだけの名ばかりサブ。それくらいなら大丈夫と思われたんだろう。
その夜。強請ってくるあずちゃんにグランスライムの予備をあげた。予備だからいいけどね。頬ずりするあずちゃんは相変わらずだなあと眺めながら飲むコーヒーはなんだか甘かった。