魔法科高校の「大賢者(嘘)」   作:ギャングスタ

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九校戦2

 八月一日。九校戦の発足式や練習などで時間はあっという間にすぎて、気付けばもう九校戦の前夜祭の日になった。

 学校ごとに会場である富士山の麓にある軍事演習場に行くんだけど、ウチは大型バスで向かうらしい。そんなバスの中でボクはある先輩と意気投合していた。

 

「おかしいですよね、千代田先輩っ!なんでエンジニアは別なんですか!」

「そうよそうよ!せっかく啓と一緒のバス旅行ができると思ってたのに!」

「ボクだってあずちゃんと一緒にバス旅行したかった!バスなんて滅多に乗れないんだし!」

「横暴だー!」

 

 こうやって騒いでいるのは二年生の千代田花音先輩。ここまで意気投合してしまうともう尊敬しちゃって先輩って呼んでる。同じ棒倒しに出ることからも、婚約者がいることからも話の馬がとても合った。

 まだ出発しないバスの中で、摩利ちゃんをうんざりさせながらボクたちは叫んでいた。深雪ちゃんも巻き込もうかと思ったけど、それやるとバスが凍結するからやめたよ。夏なのにね。

 

「お前たち、うるさい」

「摩利ちゃんのイケズー。この気持ちがわからないかなあ」

「恋人と離れ離れになる辛さはわかるが、二時間くらい我慢しろ」

「もう二時間くらいここに停まってますよ?」

「……文句は真由美に言え。もう一度達也くんの様子を見にいくか」

 

 摩利ちゃんは一度外へ。真由美ちゃんを置いていくなんてできないって多数の声が上がったからこうして待ってるけど、十師族の用事で遅れてるんでしょ?

 ホント、都合全部無視できちゃうなんて何様なんだろ。学校行事よりも優先しなくちゃいけない案件ってことは十師族が関わってるんだろうし。婚約の話でも来たのかな?そうだとしても、非常識だけど。

 待ってる間もあーだこーだ千代田先輩と言い合いながら真由美ちゃんが合流。それからバスは動き出したけど、あずちゃんもいないし深雪ちゃん不機嫌だしやってられない。

 

「深雪ちゃん。ボクも我慢してるから、機嫌直してよ」

「さっきあれだけ発散しておいてよく我慢なんて言えるわね……」

「深雪ちゃんがそうやって発散できないのはわかってるからさ。未来の展望を話して明るくなろう。そうしよう」

「明るい展望……?」

「うん。間違いなく、達也くんはこの大会で有名になるよ。担当した選手が上位に食い込んでくれば裏方のエンジニアとはいえ名前を知られるでしょ」

 

 達也くん今回本気出しすぎだからね。担当選手に対するCADの調整にえげつない作戦の数々。いくつも用意した保険。シルバー様が本気出しちゃったんだから、未来は見える。

 深雪ちゃんのために用意した魔法式も、雫ちゃんに授けた秘密兵器も。A級ライセンス取るために必要な魔法式なのにポンと用意してるし。非公開の魔法式だよね?こわ。

 

「達也くんが担当する女子もみんな優秀だし。正直雫ちゃんのアレは反則なんじゃって思うよ」

「どれ?」

「掛け合わせのやつ」

「うん。達也さんはおかしい」

 

 褒め言葉なんだよね?雫ちゃんは表情があまり動かないからわかりづらい。

 今確認した通り、雫ちゃんには複数与えたものがある。その差にほのかちゃんが頬をぷっくらさせちゃうんだけど、そこまではフォローできない。深雪ちゃんも怒りかねないし。

 

「それにミラージ・バットはほら。三人にあの魔法を秘密兵器で渡してるでしょ?」

「お兄様だもの。全力を尽くしただけ」

「達也さんだもんね!」

 

 発表自体は去年行ってるけど、九校戦の後だったから今年どうなるかわからないんだよね。とはいえ、作った本人である達也くん以上の精度でインストールされてないだろうから、これだけでも使い方を間違えなければ勝ち確。

 酷いチートだよね。天下のトーラス・シルバーがたかが高校生の大会に殴り込みなんて。

 

「大会が終わる頃には凄いエンジニアだって名前が知れ渡ってるでしょ。新人戦で本戦に勝るような結果を見せられちゃ、注目しない方がバカだよ。鈴音先輩も呆れてたし。ああ、褒めてたんだよ?技術力が高すぎて来年から大変だろうって苦言を追加で」

「それはわかる。家で専属として雇いたいくらい」

「今では担当になった女子、皆自分のCAD見せに行くくらいだもんね!」

「雫にほのか……。それに他の皆さんも。そうやってお兄様を困らせていたの?」

「しょうがないでしょ、深雪ちゃん。それだけ皆が達也くんを認めたってことだし、それに対応しちゃうのも達也くんの真面目さの裏返しなんだからさ。皆に混じって行事に一生懸命なことってさ、すごく普通な高校生みたいじゃない?」

 

 四葉では味わえない経験。達也くんも深雪ちゃんも、本来であれば望めなかったかもしれない生活。あの家では普通というのはとても難しいし、二人の立場からもなかなか厳しいことばかりだ。

 それを考えると真っ当に高校生をやって、学校の代表になって。評価してくれる人も、友達もいる。家に縛られない関係性を構築している。大進歩じゃないかな。

 まあ、隠し事だったりなんなりと、普通じゃないことも多々あるけど。

 ボクの言葉に頷けることがあったのか、だいぶ落ち着く深雪ちゃん。うん、不平不満は取り除かれたっぽい。

 

「そうね。お兄様の美徳だものね」

「そうそう。達也くんの魅力を知る人が増えて良かったよ。先輩たちからも認められ始めてるし」

 

 一部、だけど。やっぱり一科生はプライドが高いのか、学年問わず達也くんを認めていない人もいる。もし達也くんがトーラス・シルバーで、非公式戦略級魔法師ってわかったら靴舐めたりするのかな?それくらいの暴挙をしてるけど。

 達也くんの実力はほとんど知らないんだろうし、術式解体が使えることも知らなかったら戦略級に結び付かないから情報秘匿の面では良いんだけど。深雪ちゃんの承認欲求を満たすにはどうした方が良いかな。あんまり関わりすぎるのもダメな気がするけど。

 

 深雪ちゃんも大人しくなったし、森崎くんの隣に戻ろうとしたら窓の外で異変を感じた。強すぎる悪意。死への恐怖感。妬み、憎しみ。強すぎる感情は少し離れている程度なら感じ取れる。

 なんだろうと窓の方を見ていると、反対車線を走っていた乗用車が中央分離帯にぶつかってスピンし、こちら側に向かってきた。

 

「危ない!」

 

 誰の声だったか、外の異変に気付いて対処をしようとする。森崎くんも立ち上がったけど、複数人の魔法行使によるキャスト・ジャミングもどきが産まれてしまった。

 こんな中で、まともに魔法が発動できるはずがない。頼れるとしたら──!

 

「深雪ちゃん、消火任せた!」

「……はい!」

「森崎くん、ボクが合図したら十文字先輩の名前叫んで!」

「わかった。しくじるなよ」

 

 呪文しかない。

 向かってくる車に対して、バスは急停止を終えていた。まだ距離はある。これなら深雪ちゃんの準備も、十文字先輩の時間も作れる。

 500mを切った、今!

 

「森崎くん!」

 

 

 

 

「十文字先輩!!」

 

 

 

 

「グレイトハック」

 

 

 森崎くんの叫びに隠れて呪文を使用。バス前方にあるサイオンとプシオンを緩和するついでに相手の車にかかっている魔法も減衰させた。これでサイオンの酔いも軽くなる。

 深雪ちゃんが魔法を使おうとした瞬間、ボクの呪文など必要なかったかのように魔法式含めサイオンの一帯が吹っ飛んだ。それに深雪ちゃんが笑って消火を。十文字先輩も障壁魔法を用いて減速した車をできるだけ傷付けないように押さえた。さすが十文字家次期当主。

 

 それにこの感じ、鈴音先輩も魔法使ってたみたい。バスの減速をしてくれたんだと思う。もうほぼ終了してたから呪文で吹っ飛ばしちゃったけど。

 ……達也くん、それは使っちゃダメなんじゃ。いや、呪文使ったボクも同罪か。それに達也くんは深雪ちゃんを守るっていう絶対至上命令がある。それがなくても動いたとは思うけど。

 

「皆、大丈夫!?」

 

 真由美ちゃんが慌てて確認をし始める。ボクは何も言わないまま外に出て車に向かった。後ろの機材車も無事だね。達也くんも降りてきてる。

 

「達也くん、ごめん。こっちだけで対処しようとしたんだけど」

「いや、いい。緊急事態だった。……呪文を使ったこと、誰かにバレた形跡はあるか?」

「一番近かった森崎くんと、四月の一件から桐原先輩が。あとは鈴音先輩かな……。せめてBS魔法だって思ってくれたら良いんだけど」

「わかった。俺も秘匿すべき魔法を使ったからな。叔母上には二人で怒られよう」

「電話越しなのが、幸いだよね……」

 

 現場検証をしつつ、運転手を車から運び出したけど即死。警察も呼んで邪魔される前に色々調べたけど、予想通りというか運転手の自爆攻撃だとわかった。このことは深雪ちゃんにしか言わないことにしたし、ボクが使った呪文は領域干渉魔法でサイオンを均しただけということにした。

 真由美ちゃんと摩利ちゃんにすぐバスから飛び出したために心配をかけたらしい。それくらいで大げさなって思った。ボクが使ったとしている魔法のことを説明して、安全も一緒に伝える。

 

 ほどなくして警察がやってきてドライブレコーダーを提出して、バスは会場に向かう。留まっていたら危険だと思ったのか、何かあったら困ると思ったのか。こっちとしてもありがたかったけど。

 その後は何事もなく会場のホテルに着いた。ボクはすぐに降りて作業車へ。あずちゃんが無事なことはさっきも確認したけど、なんでもないようにしているのを見てもう一度安堵する。作業車の中も無事かボクもサブエンジニアとして確認する。

 そういうていで、達也くんと秘密の話を。あれは事故じゃなかった。

 

「九校戦って狙われるの?」

「わからん。俺も初参加だ。ただ、キナ臭い話があるとは聞いている」

「どうにかできない感じ?ボクに情報来てないってことは国内の動きじゃないんでしょ?」

「ああ。外国人が複数この辺りをうろついているらしい。一高が狙われているのか、九校戦そのものが狙われているのかわからないが、警戒しておくぞ」

 

 実際に機材を運びながら、ボクは深くため息をついた。海外の組織がわざわざ日本の大会に手を出すんだから規模は大きいはず。そうすると被害は大きくなるかもしれない。

 九校戦ってただの高校生の大会じゃないの?なんでそんな大ごとになってるの?

 ホテルの中に入るとエリカちゃんと美月ちゃんがいた。二人は私服だし、応援に来たのかな?大会は明後日からなのに。

 

 一言だけ挨拶して、ボクたちは機材運びとこれからのことについて話し合うことになった。この周りは軍の施設というだけあって軍人が相当数警戒しているらしい。達也くんが配属されている部隊の方もいるとか。

 だから施設とかの警戒はしなくて良くて、大会の際に会場と各校のテント、それと前後夜祭が危ないって認識が纏まった。ホテルは厳重な警備がされてるって言葉は信用できるけど、問題は今日の前夜祭。大会関係者が多いから狙われるかもしれない。

 色々と準備してから向かうことにした。

 

 

「あっくん、大丈夫……?」

「……まだ、大丈夫」

 

 懇親会の会場で、壁に寄りかかりながらそう答えた。実際四月の時よりは全然マシだし、人混みに酔ったというわけでもない。

 何で懇親会で嫉妬とか侮蔑とかそういう悪感情がのさばってるかなあ。他校の選手の容姿に対する嫉妬。相手の家柄に対する妬み。大会前だから敵愾心があるくらいだと思ってたけど、これは酷い。関係者とかいう大人も似たようなことしてるし。

 あずちゃんに心配をかけさせたくないからできるだけ平静を保とうとしたけど、ちょっと無理だった。何で全員参加かなあ。もう帰りたい。

 

 けどここもテロの標的になるかもしれない。そうなると警戒するためにできるだけ会場のそばにいた方がいいし。

 敏感な人はボクの領域干渉魔法に気が付くから魔法は使ってないけど。あとはアレ。達也くんに対する悪意もまだある。もうホント、やめてよ。身内で争って自滅とかよくあるパターンじゃん。

 懇親会なのにボクはご飯にも飲み物にも手をつけず、相手校の人とも碌に交流をしなかった。十師族や二十八家の誰それとか噂になっていたけど、それを確認する余裕もなかった。

 そんな中来賓挨拶が始まって悪感情が薄まる。これ幸いとアンテナだけは広げつつ、ゆっくりしていた時に引っかかったものがあった。

 精神干渉魔法の発動を感知して、その規模に驚いて賊の仕業だと思って咄嗟に呪文を使っていた。魔法じゃどうにもできないとわかったから、本能で動いてしまった。

 

「ギガジャティス!」

 

 その言葉と共に、魔法を打ち消して使用者を特定しようと魔法の源を辿る。その先にいたのは──。

 苦笑していた、年齢通りに見えない超有名人。その表情から、感情から。ただの悪戯だったとわかって。

 顔から火が出るんじゃないかと思いながら、オレは会場を走って抜け出した。

 

 

「あっくん!」

 

 少女の叫び声と共に、更なるざわめきが起こる。元々少なからずざわめいていたために少年が言った言葉は正確に聞こえなかったし、その少年は自分がしたことを理解したのか、会場から走って去っていた。叫んだ少女も追いかけたようだ。

 面白い、と思った。

 

 私は遊びで魔法を使ったわけだが、ここは懇親会の会場。緩んでいたために誰も対抗魔法を使うとは思っていなかったし、知覚したとしても私が使った魔法なら打ち消す者もいないだろうと思っていた。

 だが、かの少年は躊躇いもなく知覚した瞬間魔法を打ち消した。

 しかもその魔法が対抗魔法かどうかすら、私にはわからなかった。

 ただの悪戯にしては、釣り上げたものが大きすぎる。この年になってワクワクさせられるとは思ってもみなかった。

 

 悪戯に付き合わせた女性に、出て行った少年を呼び出してもらうように伝える。警備を担当していた者や大会スタッフも多くいたために、個人の特定は容易だろう。

 さて、当初の目的に戻るか。

 

「まずは悪ふざけに付き合わせたことを謝罪する。今のはチョッとした余興だったわけだが、その余興の裏に隠された試験を見事に突破した勇者を褒めようと思ったが、当の本人は見えなくなってしまった。だから出題者として最大の賛辞とともに、解説しよう」

 

 その言葉で再びざわめきが起こる。

 大半の者には私の邪魔をした愚か者として映っているようだが、それは違う。常在戦場という意識の高さを見せつけ、その上多数を救うための最適解を導き出した護国の要になるであろう人物。

 だからこそ、危険だ。十師族に目をつけられる前に彼を保護したい。私も十師族の一員だが、今のまま魔法師としても表の権力者としても力を蓄えている十師族がこれ以上増長するのは危険だ。

 

 精神まで完成されていては、軍に引き抜かれる可能性もある。特に精神干渉魔法を感知できたとなれば四葉が手を出しそうだ。

 それを防がなければ、また大漢の二の舞になりかねない。二度目となれば日本が孤立してしまう可能性がある。

 

「まず、魔法の存在に気付いた者は数名(・・)。十名に満ちなかった。もし私が君たちの鏖殺を目論むテロリストだったら、先ほどのように誰も動かなかったら気付いた者も含めて全滅していただろう」

 

 その事実に、ざわめきはなくなり静寂が訪れる。

 そう、彼は。これが悪戯ではなかったら間違いなく英雄と呼ばれてしまう人物なのだ。

 

「先ほどの魔法は規模こそ大きいものの、強度は極めて低い。魔法力の面から見れば、低ランクの魔法でしかない。だが、それでも私を認識できた者は数名しかいなかったわけだ。

 魔法を学ぶ若人諸君。魔法とは手段であって、それ自体が目的ではない。魔法を磨くことはもちろん大事だが、先ほどの魔法のように小魔法であっても使い方によっては大きな効果を発揮する。九校戦では諸君らの魔法の使い方、工夫を楽しみにしている」

 

 こんな言葉ですぐに変わるとは思わないが。これからの時代を牽引する人物はこの中に確実にいる。そんな人物たちへのお小言に過ぎない。

 さて、そろそろ彼は捕まったかな?制服からして第一高校だったが。

 

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