魔法科高校の「大賢者(嘘)」 作:ギャングスタ
「申し訳ございませんでした」
あの後。大会運営スタッフに捕まり、あずさと引き離されてある部屋に案内されて。後から入ってきた九島閣下を見て、即座に土下座していた。
まさかあの会場で、精神干渉魔法なんていう危ない魔法を悪戯で使うなんて気付けるか。
バス事故なんてあったから警戒してたのが裏目に出るなんて。
「顔を上げたまえ。相田新君」
そう言われても、上げられるか。何でオレより後だったのかって考えたらこっちの素性を調べてたのか。四葉と呪文のことは絶対に口を割らない。そういう風に自分の精神を改変した。
普段は抑えてる精神魔法をそっちに当てたせいで、オレが浮かび上がってる。これ、マズイかもな。
「なに。私は先ほどのことを怒っていない。君が謝る筋合いはない。だから顔を上げて、この老いぼれと少し話を楽しませてくれないか?」
お偉い方に二度以上同じことを言わせてしまったらそれこそ失礼だろうと、頭は上げる。正座はしたままだ。懇親会という場を乱したのはオレだ。大会スタッフも同じ部屋の中にいるので、この姿勢は解けない。
するとやっぱり不評だったのか、座るように言われて高級なソファに腰をかけた。
本当に怒っていないようだけど、気は抜けない。
「閣下、もう一度謝らせてください。申し訳ありませんでした。まさか余興などと露知らず。場を冷ましてしまったでしょう」
「いいや。あれは高校生に向けた喝のようなものだ。目論見も果たしたから問題などないとも。そうだな、もし気にしているのなら私と会話をすることで手打ちにしようじゃないか」
「閣下の温情に感謝いたします」
もう一度頭を下げる。
ああ、本当に弱い立場だ。事故がなければもう少し精神に余裕があったんだろうけど。
「さて。君のことは軽く調べたが、さっきのものは感知魔法かな?」
「いいえ、閣下。魔法登録をしている精神干渉魔法『
「ほう。先ほどはさしずめ、私の悪戯という悪意を感じたといったところかな?」
「はい。試すという強者故の傲りのようなものを感じました。閣下のお立場を鑑みれば、当たり前の感情でしょうが」
「いやいや、全くその通りだ。実際君があの場にはいた」
何だその評価。本当にやめてください。勝手気儘にドラクエシリーズ作ったり、呪文を試したりしたいだけで、これ以上注目されたくないんだから。
大会スタッフも青い顔してるけど、オレの言葉のせいだろう。不遜だとかそういうの。
こっちは馬鹿正直に話してるんだ。魔法まで開示したんだから、これくらい見逃せ。そもそも精神干渉魔法なんて危ないものを使わせた時点であんたらスタッフは同罪だから。
「しかし、相田か。昔
「はい。その家で間違いございません」
「となると、君の上には四葉がいるのかな?」
「まさか。閣下であれば剥奪の理由もご存知のはず。我が家は第四研究所へ多大な迷惑をかけました。我々は四葉に見捨てられたのです」
「大漢への報復か。むしろそれは四葉にとって剥奪に値する事件ではない。日本としては勝手に報復する危ない者だが、四葉からしたら一緒に立ち上がってくれた仲間だろう。だから君のご両親もFLTにいる」
「FLTは四葉と関係がありませんが?四葉を追放された者の身寄り所帯です」
「フフ。そういうことにしておこう」
真夜様と深夜様はこの方と今も親交があるんだったか。
むしろその一件で疎遠になったと聞いているが、目の前の人物の情報網はどこまであるのか。
それにしても、この短時間でどれだけ調べてるんだよ。個人情報は守られていないのか。
「では今後、君が十師族になることはあるのかな?」
「ありえません。既に婚約者がいます。養子になるつもりもありません。もし私と彼女に十師族や二十八家が介入して来た場合、その家を潰しかねません」
「──ほう?どうやって」
言うと思ってるのか。相手も十師族。下手に情報を吐いてやるか。
手段はいくつかあるし、こっちだって何かあった時のためにって十師族の家の場所は把握している。物理的に消すこともできる。
その方法を。オレに選ばせないでくれ。
「……答える気は無いと」
「ええ。できれば閣下には率先して守っていただきたいくらいです。私は両親のように魔工師になり、CADを作りながら彼女と平穏に過ごしたいだけです」
「さすがに無条件で君を手助けできないが?」
「閣下のお孫殿の治療を、FLTが開発した魔法で行うとしてもですか?」
「──なに?」
初めて閣下の表情が崩れた。本当ならこんな脅しはしたくないんだけど。ここまで状況が転んだなら、この状況を利用するしかない。
「FLTでは新規に産み出した治癒魔法があります。お孫殿の体質は有名ですので、一助になれればと」
「しかし、治る保証もないだろう?」
「もちろんです。診察をしていませんから。ですが、臨床実験の段階で様々な患者を治してまいりました。私の保護は、お孫殿の経過を見てからで構いません」
「そうだな……。藁にもすがる思いをしていたところだ。お願いしても良いかね?もし治ったのなら、君のことを保護しよう。もちろん九島でも囲む真似はしないと約束する」
「わかりました。いつ頃お伺いすればよろしいですか?」
「その孫はちょうど九校戦を見学に来る。明日にはこちらに来るよ。その時でどうだろうか?明日は休息日、それに一年生なら前日に大きな用事もあるまい」
決めつけないでほしいな。真夜様から許可が降りれば大丈夫だろうけど。FLTからCADを持って来させるにしても明日には届くだろうし。
本当は呪文を使えば良いんだからCADなんて要らないけど。
「わかりました。FLTに連絡をしてみます。それで許可が降り次第になります」
「ああ。孫を頼む。君は新人戦の棒倒しとモノリス・コードに出るんだったな。一条の倅との試合、楽しみにしている」
「ご期待に添えるよう、全力を尽くします」
悪夢のような会談が終わりを告げる。ただこれは、事態を先送りにしただけ。
何も解決なんてしちゃいない。
ここから先は地獄なんだから。
・
「申し訳ありませんでした!」
九校戦スタッフにFLTに連絡するからと借りた一室で通信記録が残らないようにもしもの時のために持ってきたツールでハッキングして秘匿回線を用いて真夜様に連絡をとった。そして土下座のままバスの一件と今回のことを説明した。
部屋には防音の魔法を使って、外で待ってるスタッフには魔法を使ってこっちに無関心になるように精神を変えた。終われば全て元に戻す。スタッフ、ごめんなさい。
諸々全て完全にオレのミスだ。真夜様からどのような処罰を受けるかわからない。下手したら退学してあっちで幽閉という可能性もある。
それだけのことをやったのだ。
達也と一緒に連絡する予定だったが、こんなことになったからオレ一人で通信をしている。達也があの魔法を使ったことも伝えてしまった。
「わかりました。新さん、顔を上げなさい。そちらのカメラではあなたの頭も見えませんから」
「はい」
「それで、今回の処分ですが。不問としましょう。バスは緊急性ゆえ。懇親会ではテロを警戒していたため。あずささんを守るために使ったのでしょう?本当の緊急時に使えないよりは良いでしょうから。懇親会は閣下のせいですし」
不問?本当に?
こんなやらかしをしたって言うのに……。
「それに九島の孫を治療するのも問題ないでしょう。達也さんを止める可能性のある人物はあなたも含めて多い方がいいのだから。ただし呪文を使う場合、今度こそ誰にもバレないようになさい。そうすれば益も多い話ですから」
「しかし」
「こうも考えられないかしら?今回の一件があったから──」
そこからの説明で複数のメリットを挙げられた。それと一緒にリスクも伝えられたが、全体的にはメリットの方が多い話。
「なるほど」
「そういう訳でお孫さんは治してあげなさい。それと達也さんからの報告も必要ありません。ガーディアンとしての仕事を全うしただけですから」
「かしこまりました」
「あなたのご両親にCADを届けさせます。ただ、九校戦が終わったら本家に顔を出しなさい。細かいところを詰める必要がありますから」
「はい」
通信を終えてスタッフさんも元に戻して、あずさと達也には謝罪と連絡のメールを送っておいた。時刻は既に日付が変わる寸前。閣下のことが一気に嫌いになった。
あずさからも安堵の返信が来て、達也からは了承の返信。部屋に戻ったら森崎くんに心配されて。
もう疲れすぎて、すぐ寝た。
次の日、閣下の孫である光宣くんに呪文を用いて治療。ぶっちゃけ穂波さんや水波ちゃんを治してきたから余裕だった。本人には呪文を使ってる間ラリホーで眠っていてもらった。
身体の異常がなくなった彼は喜んでいたけど、魔法の治療だから無理はしないように言い聞かせた。それと治った方法も秘匿するようにと。
しかし、彼も調整体だったなんて。原因不明というか、ただ単に調整体のデータが足りなかったことと、無茶な調整のせいでしょ。
とりあえず治せて良かった。
今日は好きなことをしよう、そうしよう。思い付いたら即行動。作業車に向かうと達也くんが一人で作業をしていた。あずちゃんと五十里先輩がさっきまで作業をしていたらしいけど、前日に詰め過ぎても問題だからと程々に切り上げたみたい。
「用事は終わったのか?」
「うん。ボク、九島閣下嫌いだ」
「外で言わなければいいが。中条先輩が普通にしていたから丸く収まったんだろう?」
「まあね。達也くんも問題ないって伝えたでしょ?怒ってなかったよ」
「そうか。それはそれで怖いが」
「もう終わったことだから次。あと、ここを狙ってるのって国際シンジゲートだって?」
「ああ。できるだけ会場かテントには詰めておくことにする予定だ。他の高校や懇親会が狙われなかったことから、一高が狙われている可能性が高い」
これは今朝来た両親から聞いた。バスの一件から四葉で調べたらしいけど、日本支部の場所はまだ把握できていないとか。それに今回は四葉としても動きにくいのだとか。狙われているのが国防軍のお膝元ということで、動きすぎたら四葉が警戒されすぎるとのこと。
十師族の中でも四葉って警戒されてるし、四月も堂々と動いたからこれ以上派手に動くのはいろいろな面から問題があるらしい。それに四葉ってどうしても規模が小さいから大きく動くとしても人手が足りない。
分家の数も勢力も十師族では少ない方なんだとか。FLTだって社員全員が身内ってわけでもないし、動かせるのは上層部だったり部署の限られた場所だけ。それに分家の皆さんだっていつもの仕事があるからこっちに全力で当たれないだろうし。
四葉が動くとしたらそれこそシンジゲートの日本支部を探すこと。現場では何もできないに等しいとか。
四葉にだってできることとできないことはあるから仕方がない。
だからこそ、できるだけ会場にいるために今の内にやれることをやっておきたいんだよね。今日とかは会場に入れないわけだし。
「達也くん、担当してないCADどれだけある?ゴミ取りやっちゃいたいんだけど」
「ハードのゴミ取りなら俺の担当のCADもやってくれ。ソフトならまだしも、ハードはお前の方ができるだろ?」
「物によるかな?あずちゃんと五十里先輩のはいいや。あの二人はすごく熱心にやってたし。じゃあちゃっちゃと始めますか」
この作業車には全員分の競技用CADが保管されている。今日練習しているような人たちの物はないけど、一応学校の備品なためにホテルに持って帰ったりはできない。
だからまずは本戦出場者のCADを部品ごとに分解して、埃や傷、砂などを落としたりネジなどの細かい部品が痛んでいないかの確認。ブラッシングと部品交換をどんどんやっていき、感応石もダメそうだったら新品に変える。
これで気を付けないといけないのは九校戦用のスペックを逸脱しないようにしないといけないこと。逆に言えばスペックギリギリまでは調整していいということ。
そんなストレス発散をしていると、練習していたらしき桐原先輩とはんぞーくんがやって来た。
「うおっ!?ここまで細かく分解しちまっていいのか?」
「ゴミ取りしているだけですし、すぐに元の状態に戻せるから大丈夫です。これも五分あれば元通りですよ」
完全なバラシ状態だったCADを宣言通り五分で元の形に戻して、魔法を一つ使ってみて動作確認も終えると、二人は感心したように感嘆の声をあげていた。
「俺たちのもやってもらっていいのか?」
「はい。もしCADが傷付いてたら性能が落ちちゃいますし」
桐原先輩のは回路がちょっと痛んでいたので指定の回路を新品として埋め込む。はんぞーくんのはスイッチの接触が悪かったのでスイッチの部品を変える。あとはそれこそブラッシングをした程度。
二人に魔法を試してもらうと、発動速度が上がったと言っていた。
「こんな簡単に速度が上がるのか……?」
「正確には元の速度に戻っただけです。CADの性能が上がったわけじゃないですよ。高級ハードを使ったわけでも、ソフトを弄ったわけでもないですから。摩耗している中古品を新品の状態に戻しただけです。精密機械だから、ちょっとしたことですぐに性能落ちるんですよ」
「メンテナンスが大事と言われるわけだ。これは一高内でも情報共有すべきじゃないか?」
「そうですね、はんぞーくん。あずちゃんと五十里先輩はここまでしっかりやってますけど、バラシって案外やってないみたいで。でもこれって長年CADに触れてればできなくもないはず……」
「バカ新。そんなものお前が三歳から平気でCADを分解してたからできる技術だ。回路の不具合だの問題点を即座に発見して取り替えてブラッシングを行い、それで十分程度で元の状態に戻すなんて俺でも五十里先輩でもできないからな?」
「あずちゃんは結構できるんだけどな」
ああ、でも家で毎日のようにCAD弄ってるし、FLTでいらなくなったCADとか改造してたか。実物に触れた回数が違うってことかな。
それに不具合というか損傷具合とかもこればっかりは経験だもんなあ。正常な部品とそうじゃない間違い探しを遊びの段階でやってるボクとあずちゃんがおかしいのか。達也くんはどっちかっていうとソフトが得意だし。
「興味深い話だな。俺もある程度自分でメンテナンスをしていたが、そこまで徹底的にバラしたことはない」
「十文字先輩、お疲れ様です。それボクが見ましょうか?」
「ついでにやり方も教えてくれるか?」
やって来た十文字先輩も含めて四人の前で実践。達也くんも久しぶりにちゃんと見るからか、作業を止めてまで見ていた。達也くんでもボクに質問することあるんだ。意外。
適宜質問に答えながら十文字先輩のCADと、まだ作業が終わっていなかったCADを二つほど使って講座を開いていた。
いつの間にか五十里先輩もやって来て、全員に教えるようなことに。
「ううむ……。相当な知識と目がなければ難しいな。ブラッシングならすぐにできそうだが、戻すにはCADの正確な構造を把握していなければ戻せもしない。これは下手に手を出せば生兵法だな」
「十文字先輩たちは魔工師志望でもありませんし、ここまでの技術は必要ないんじゃ?そのために専属のメンテナンス魔工師とかいるわけですし。ユーザーはひとまず変だなって感じる感性があれば問題ないと思いますよ」
「そうですよ。こんなの全員ができたら魔工師は職を失います。相田君が見せた技術は司波君の見せた完全マニュアル調整と同等の技術ですから」
五十里先輩、それはどうだろう。完全マニュアル調整は知識以上に本人の才覚が必要だし。このバラシは数をこなせばある程度の域に行き着くからそこまでじゃないと思うんだけどなあ。
「ボクが今回こんなに早くできてるのも、競技用としてCADがほぼ統一規格だからですよ?特化型とか先輩たちが普段使いしているCADだったらこうはいきません」
「そうか。ならひとまず来年の九校戦に向けて競技用CADのバラシは今後の課題に取り組もう。この統一規格で慣れれば、九校戦に関してはそれだけでスキルアップできる。正確なメンテナンスでここまで発動速度が変わるのなら、来年にはせめて間に合わせた方が良いだろう」
「そうですね。早速
はんぞーくんが出ていく。魔工師になるなら必須の技術だよね。それに数をこなすのは大事だし。魔法科高校って存外こういう生徒の意見でカリキュラムが変わったり行事を挟めたりするのが凄い。
まあ、学校側に有意義だと思われないとその申請も通らないけど。
「七草も呼んでこのことを知らせよう。それにエンジニアの全員にも。情報共有は大事だ」
「え?もしかして全員にまた今みたいなことしないとダメですか?」
「まだ昼過ぎだからな。それにこれはかなり重要なことだ。この作業車では狭いだろう。テントでできるか?」
「調整機を一つ運べば。……達也くん、どうしてこうなったの?」
「仕方がないだろう。やろうと思えば魔工師志望ならある程度できる技術だ。お前レベルを目指さなければ共有した方がいい技術でもある」
その後テントに調整機を移動させていたら真由美ちゃんによって代表の一高生全員呼び出されて、ボクと達也くんとあずちゃん、それに五十里先輩が講師としてバラシについての講義を行った。
エンジニアの先輩たちはほぼすぐに理解して、痛んでいる部品などの見分けもほぼ完璧だった。
その弊害からか、エンジニアの皆に自分の普段使いのCADをメンテしてもらおうとする選手が幾らか出た。特に家などが裕福ではなく専属のメンテナンスができるような魔工師がいないような選手たちが。
ただ、それはボクが止める。
「普段使いのCADは流石にボクたちに任せない方が良いですよ。知識があっても特化型とかになればCADごとの特色が強いです。素直に購入した会社のメンテナンスに出すことをお勧めします。むしろプロの方が仕事が丁寧ですし、彼らはそれを本職にしている方々です。お金がかかってでも本職に任せるべきですよ」
これ以上ボクたちの負担が増えてたまるか。特に今回の九校戦は危険なんだから。大会期間中自由に動くために前倒しでやった作業で仕事が増えるのは本末転倒だ。
ボクならある程度できるだろうけど、二種目出る選手ってこと忘れないでほしい。
それに普段使いのCADは流石に個人情報の塊だ。家ごとの秘術もあったりするだろう。それを公開するほどの仲なら良いけど、情報秘匿や腕の意味でもやっぱりプロの方が上だし。
ということで競技用のCADならバラシもするけど、他のはノーセンキュー。あくまで大会のための技術だし。
予定外の仕事も増えたけど、これでひとまずは準備OK。あとは会場を警戒しないと。
明日もう一つの方の小説更新します。