魔法科高校の「大賢者(嘘)」 作:ギャングスタ
今日から新人戦を挟む。昨日の夜深雪ちゃんが摩利ちゃんの代理で本戦ミラージ・バッドに移ったという変化はあったけど、他は今の所通常通り。
今日の日程は早撃ちとバトル・ボード。今日もボクは本来休みだったんだけど、サブエンジニアとして早撃ちの準備をしていた。
まあ、テントの中でできる作業だったからいいけど。
「新くん、何やってるの?CADの調整?」
「真由美ちゃん。森崎くんのやつですよ」
「え?森崎くん?だって彼、今競技に出てるじゃない」
テントにいくつかあるモニターに映っている森崎くんは今早撃ちの予選をやっている。その手にはボクが調整している物とそっくりな拳銃型特化型CAD。
まあ、予選では必要ないというか。これは彼にとっても秘密兵器だし。
「会長。相田君の邪魔をしないように。これも作戦の内です」
「予選と決勝リーグで使うCADを変えるってこと?でも彼、いつものように『クイック・ドロウ』に合わせた魔法を使ってると思うけど……」
「そうですね。会長と同じように予選も決勝リーグも彼は同じ戦法で行きます。敵を騙すなら味方から、ですから」
「達也くんほどの酷い騙しじゃないけどねー」
なにせ今競技をやってる雫ちゃんのためにオリジナル魔法をあげたんだから。そんな隠し球に比べれば……ああいや、達也くんがあげたものってどれも規格外だ。
「え?同じ戦法なのにもう一つ必要なの?……まさか」
「はい、お口チャック〜。どこから情報漏れるかわからないから言わないでね、真由美ちゃん」
気付いたとしても言わないでほしい。ここがテントの中とはいえ、森崎くんが隠そうとしているんだから。
ボクは今日計測した森崎くんのデータと練習で計測したデータを把握して調整していく。誰かが運営スタッフにCADを出しに行く時はボクも付いて行ってるけど、今の所妨害工作はないっぽい。
安心して試合を見守りつつ、ボクは自分の調整機のモニターを見ながら数値を打ち込んでいく。その様子をケガ人のくせに出歩いている摩利ちゃんが覗き込む。
「うん?あたしはあまり調整については詳しくないが……。やたらと数値が歪じゃないか?」
「それでいいんだよ。本命は今も森崎くんが使ってる方のCADだから。こっちの方はあえて小さく調整してるの。それで十分だから」
森崎くんは弾丸を生成して加速させて狙撃することで落とすという、早撃ちにおいては珍しい方法でクレーを落としている。今調整しているのもサイオン弾を放つCADで、しかも調整は控え目。とはいえ速度だけなら特化型の名の通りかなり速い。
速さだけは問題ないのに、威力だけは抑えている。まさしくこの競技のためだけのCADだ。クレーを壊すには正直そこまで威力はいらない。今も森崎くんの弾丸の威力を見て、こっちの調整をしている。
まあ、相手があのカーディナルジョージじゃなければここまでしなかったんだろうけど。一条以外にも有名な選手が一年生にいたんだねえ。ボクはモノリス・コードでしかぶつからないから気楽だけど。
午前中は順調に競技を終えていった。妨害もなく平穏だ。調整をしつつも警戒してたけど、CADに細工はされていないようだ。男子波乗りは全滅。男子早撃ちも森崎くんだけ。女子は全員突破した。地力もエンジニアの差も出ちゃったなあ。
午後から森崎くんは順当に勝ち上がって、決勝まで駒を進めた。その時になってようやくこのCADを渡す。
「速度はそのまま。威力はクレーを粉微塵にしないように調整かけた」
「ありがとう、相田。これであの理論屋に勝てる」
「ずいぶん対抗心を向けるねえ。そんなに研究者に負けるのは嫌?」
「嫌だ。あいつは自分の見付けた力の一つ覚え。『不可視の弾丸』なんて貫通力のない魔法をこの競技に使うなんてどれだけ驕ってるんだと、九島閣下のおっしゃられた工夫をまるで理解していない有様に怒りたくもなる。
事実あいつはこれまで一度も、北山さんのようにパーフェクトを出していない。撃ち漏らしはもちろん、クレーが重なったときですら『不可視の弾丸』で片方しか壊せない時もあった。本気で挑まない奴に優勝を取られるのを見過ごすほど、僕は人間ができていない」
ご立腹だねえ。試合前なんだから落ち着けって言いたいけど、こういう言葉って言っちゃうと余計テンパったりしちゃうからなあ。試合前に落ち着けばいいから、このまま吐き出させようか。
森崎くんはこうしてエンジニアと協力して工夫してるからこそ怒ってるんだろう。多分。
「閣下の言葉、ボク聞いてないんだよねえ」
「ああ、そうだったな。そんな話があったんだよ。……調整、助かった。他にもやることあっただろ」
「あったけど、CAD弄るのも好きだし。この前のバラシの延長だよ。手も空いてたしね。ポイントは確定だけど、このまま勝ってきちゃって。そうすれば総合優勝に近付くし。どうせなら新人戦も優勝しちゃおうよ」
「お前の棒倒しも重要だぞ。モノリスもそのままの勢いでもらうか」
「一条くんの相手は任せたからね。モノリスの時はボクが研究者倒すから」
「ああ。行ってくる」
拳を出されたので、ボクも重ねる。森崎くんってこういう古典的なこと好きだよね。シチュエーションとかも大事にしてるタイプ。
嫌いじゃないけど。
男子の早撃ちの前に女子の早撃ちが終わって雫ちゃんが優勝。後でお祝いしないと。このまま森崎くんも優勝しないかなあ。
女子の出場選手たちとエンジニアの達也くんが帰ってきた。早撃ちに至っては女子が上位独占したために真由美ちゃんが帰ってきた四人をめちゃくちゃ褒めてた。独占ってポイント丸儲けってことだからね。それはもう喜ぶよ。
ボクも皆にお祝いの言葉を言った後にモニターへ視線を戻す。三位決定戦の後に決勝が行われる。
カーディナルジョージなる三高の男子と森崎くんの対決。ボクは魔法の細かい理論とか知らないから名前しか知らなかった。カーディナルコードとかいう理論を見付けた天才らしいけど、テストに出ないし、ボクの呪文にも全く関係ないって達也くんが言ってたから興味もなかった。
この世界で呪文でも発見したならボクから会いに行くけど、そうでもないし。三大難問を二大難問に変えちゃった達也くんと比べたら研究者としても一枚劣ってるのに。それで優勝して当たり前みたいな試合運びだったら怒るか。
「新。森崎はどうやって『不可視の弾丸』を攻略するんだ?」
「ああ、簡単だよ?ただでさえない貫通力を、さらになくそうってだけ」
試合が始まる。
最初は自分のクレーを落とすのに集中しているのか妨害をしない。森崎くんは二つCADを持っているけど右手の方しか使っていない。というか、片方は左側のホルスターに入れたままだ。それでこそ森崎くんだけど。
単調なクレーの発射から、だんだんクレーの数が増えたり緩急をつけてきた。そこで突然森崎くんはホルスターから抜いてカーディナルジョージの方からやってきたクレーを破壊。「クイック・ドロウ」の面目躍如だね。その次のカーディナルジョージの魔法は不発に終わった。
「え?不発?」
「いや、それよりも複数デバイスの同時操作だろう。あれができるのは限られている」
「何が起こったの?」
「正確には不発じゃなくて、貫通力が足りずにクレーを壊せなかっただけ。でしょ?達也くん」
「そうだな。魔法は発動していた。ただ『不可視の弾丸』は対象物を正しく認識する必要がある。それこそ会長の『マルチ・スコープ』と併用すれば鬼に金棒ですが。あの魔法だけを使ったらそれこそ見えないだけの弾です。この競技には破壊力がまるで足りない」
魔法の選択ミスっていうか。「不可視の弾丸」を唯一活かせる競技だと思ったのかもしれないけど、達也くん曰く思い込みらしい。だから森崎くんもこうやって対策したわけだし。
「森崎は自分のクレーを、破壊できる最小の力で壊したために破片が数多く残りました。それが残っている中『不可視の弾丸』を用いれば、視界がクリアな状況で用いるはずの魔法は完全な形で発現せず、先ほどのように中途半端な効力しか発揮できません。元々威力も貫通力も低いあの魔法では、邪魔されてしまえば結果を出せません」
「森崎くんは家柄のおかげか動体視力かなり良いからね。ちょうど相手の邪魔ができるタイミングを測れるって練習の時に言ってたよ。新人戦だから邪魔されても地力で勝てるって慢心した結果が今の状況なんじゃないかな?」
モニターの先では森崎くんが的確に自分のクレーを破壊しながら、相手の邪魔をしたりしなかったり。そのせいでカーディナルジョージなる研究者は自分を乱して点数を稼げなくなっていた。
「ああ。だから新君はあえて威力を抑えたんだな?」
「そうそう。粉微塵にしちゃったら邪魔にならないからね。最低限破壊できる威力に抑えてるんだよ。それにサイオン消費量を抑える意味もある。妨害で力使い果たしちゃっても意味ないし」
趨勢は決まったかのように観客席では声の色に変化があった。一高側や一般客はあのカーディナルジョージに勝っていることで声に熱が入り、一方三高側は優勝間違いなしだと思っていたのか、落胆の声や悲鳴が聞こえる。
試合終了のブザーが鳴る。点数は86対67。途中からは盛り返したけど、動揺した時に失った点数は巻き返せなかったらしい。
テントの中は大盛り上がり。準優勝でも十分だったのに、森崎くんが優勝を奪ってきたんだから。
森崎くんも応援団に向かって腕を上げてるけど、フラフラだねえ。倒れないか心配だけど、そこはエンジニアの先輩に任せよう。
結構時間が経ってから森崎くんはテントに帰ってきた。その際テントにいた人たちにもみくちゃにされる森崎くんだけど、色々限界だったのかやっぱり倒れた。慌てて椅子に座らされる森崎くん。締まらないけど、カーディナルジョージに勝ったのは快挙だと周りがずっと喜んでいた。
ボクも一言、お祝いの言葉を。
「おめでとう、森崎くん」
「相田、調整完璧だった。僕の方こそありがとう」
「いやいや、あれは森崎くんの手柄でしょ。複数デバイスの同時操作とあれだけの弾丸を放った胆力。とりあえず明日はしっかり休んでよ?モノリスまで時間が空くんだから」
「ああ。あいつにはもう一度土をつけるだけだ」
そのあとは力尽きたのか寝息を立て始めてしまった。大変だっただろうししょうがない。とはいえ今日の競技は全部終わった。だから男子の先輩たちが部屋まで運んで寝かせたけど、夕飯の時間にも起きてこなかった。一応起こしたけどね。
夕食は学校ごとに食べているんだけど、女子は今日の成績に盛り上がり、男子は今日の立役者たる森崎くんがいなくて憤慨していた。そのせいもあってか、明日から出るボクがどうにか頑張れと応援される始末。
やれるだけやるけど。
達也くんと情報共有するけど、会場で特に怪しい動きはなかったらしい。うーん、静かってことが逆に怖い。
次の日。棒倒しとクラウドボールの新人戦。ボクはCADのチェックでの細工を潜り抜けて出陣しようとしていたら、控え室に来てくれた達也くんに質問される。
「おい、新。その手に持ってるのはなんだ?」
「え?ボクの棒倒しの衣装だけど?」
「衣装……?着ぐるみよね?」
女子棒倒しの一番手であるエイミィちゃんの確認に、頷く。エイミィちゃんもすでに着替えている。乗馬スタイルっぽい。
ボクの衣装は二足歩行の緑色のドラゴン。バトルレックスの着ぐるみのようなものだ。
「没収だ。制服で出ろ」
「えー!?なんで!?公序良俗に反するから?メスの着ぐるみはダメってこと!?」
「メスなの?」
「うん、ドランゴって名前で……達也くん、殺生な!」
「無駄に手の部分は感受性を良くして……。なんにせよ、これはダメだ」
「No〜〜〜〜〜ッ!」
達也くんに着ぐるみを没収されてしまったために、制服で出ることに。むしろヘイトを集めて大会運営委員会の足を掴もうとしたのに。
試合は三つの氷柱を情報強化で守って雷童子でちまちまと削って勝った。予選というか、決勝リーグまでこのつまらない勝ち方をするしかない。いやまあ逆に、これしか勝ち方ないんだけど。
鈴音先輩もボクの戦い方はこれしかないって知ってるし、一条相手の作戦も伝えてある。鈴音先輩もこの棒倒しは勝てたら儲けものとしか考えていないだろう。それだけ今年は男子があまり、優秀な選手がいないというか。
一条と戦う時も真夜様に許可を取ってる。むしろ勧められたほど。彼と当たるまで負けないように頑張るけどね。