魔法科高校の「大賢者(嘘)」 作:ギャングスタ
昨日のテニスは女子が準優勝と入賞一人。男子が全滅。ほんと、一年男子が足引っ張ってごめんなさいってくらい差がある。
今日は波乗りと棒倒しの決勝がある。僕は自前で調整したCADで挑むわけだけど。
棒倒しの決勝リーグは三人の総当たり戦なんだよね。それで僕と八高の選手が一回目。八高の選手と一条が二回目。僕と一条が三回目。これの勝敗で順位を決める。
最初の一回目は予選と変わらず、ちまちまとやって勝った。これでも一応四葉の傍流だから干渉力じゃ滅多に負けないらしい。面白みはないだろうけどね。
一条の試合は一瞬だった。正確には四秒フラットで「爆裂」という魔法が全てを終わらせた。氷柱を丸ごとボカンって殺傷能力高いなあ。この競技、彼や深雪ちゃんのような魔法師のためにある競技だよね。
さて、そんな彼に勝つ方法だけど。
ありません。
もうね、全くない。だから桐原先輩にも準優勝って言ったわけだし。魔法競技としたら、彼に勝つ方法はないんだよ。
さっきの試合勝って、八高の選手が二敗した時点で準優勝確定だから一高選手としては終わり。
ここからは四葉として、ちょっとしたお試しだ。
「あずちゃん。次の試合で起こったこと、誰かに聞かれても知らないって答えてね?これ、許可もらってるから」
「え?そこまでして勝ちに行くの?」
「んー、ちょっとした実験。本当にボク以外いないのかの確認と、色んなところへの牽制だって。理由も納得できるからちょっとやってくる」
控え室でそんな会話をあずちゃんとしてから選手が乗る櫓に向かう。ドランゴも没収されたままなので制服で。他に仮装のしようがないからね。
向こうも制服だし問題ないない。そもそも仮装するのは女子ばかり。男子は基本制服で出ている。だからこそドランゴの格好をすれば奇抜で注目を集められたんだけどなあ。
それにこの容姿でドランゴの格好をしていれば、わかる人ならわかるのに。
今回ボクのちょっとした仕掛けのために、深夜さんが会場入りしてくれている。達也くんと深雪ちゃんには伝えていない。あとでモシャスをかけてあげてこっそり会わせてあげる予定だけど。
この勝負にも、CADに細工はなかった。まだ狙ってるんだろうけど、狙うタイミングがわからない。棒倒しは狙いづらいとは思うけど。相手への直接的な妨害ができないし、これでボクが魔法の操作をミスったら観客に被害が出るだろう。
それは本意じゃないはず。推測でしかないけど。
櫓に登ると、一条の凄いドヤ顔が見えた。まあ、うん。負けを想定してないだろうね。十師族だし、ボクの試合を見ていれば負ける要素がないと思うだろう。
観客もそう思っている。十文字先輩や真由美ちゃんが本戦で見せつけたように、十師族の能力を誰も疑っていないだろう。
実際その通りだ。魔法技能では、ボクは天地がひっくり返っても一条に勝てないだろう。
だから望み通り──勝ちを譲る。
・
達也はこの後予定されている深雪と雫の準備を済ませてクラスメイトたちと観客席にいた。どちらの肩も持たないために、距離をおいたわけだ。
男子棒倒しの後に女子棒倒しを見て、急げば女子バトルボードに間に合うだろうと予測していた。バトルボードに出るほのかに決勝戦だけでも見て欲しいと頼まれている。それを蔑ろにするつもりはなかった。
約束を守るためには、今回棒倒しに導入された氷を作る「氷の杖」と、女子の一高上位独占による決勝リーグは一戦のみというのは助かった。時間が随分と短縮できるからだ。
通常通りに行われているバトルボードの会場に行くための余裕ができる。
目の前で行われる新と一条の試合。身内の贔屓をとっても、下馬評通り一条の圧勝だろうと達也は考えていた。
「達也くん。新くんって勝ち目あるの?」
「ない。あいつは干渉力自体は高いが、一条の『爆裂』を防ぐ手段がない。『情報強化』だけでは無理だ」
「チェ〜。ツマンナイ」
質問してきたエリカに馬鹿正直に答える。
実際新の魔法技能はその程度だ。一条は十師族の名に恥じず十分な実力を保持している。元二十八家の家系でもどうしようもない。
それに新の得意魔法を考えても、棒倒しは不適切な競技だ。正確には九校戦の競技そのものが絶望的に合わない。精神干渉魔法の使い手でそれ以外が平凡を越えない魔法師に、特殊な競技をやらせるほうが間違っている。
数合わせで準優勝なら十分だろうと、達也も一高首脳部も考えていた。
一応この試合も吉田幹比古と美月が精霊魔法の使用がないか見張っている。美月は眼鏡を外して見守っている。バトルボードは一度あったからこそ、二回目はないと考えている。もちろんこの後の試合も見に行くが。
そして、試合が始まる。開始のブザーが鳴るのと同時に一条が魔法を行使。一方新は右手を上に掲げているだけだった。その手に握られているスライムタワーというCADを見て、そのCADは囮だとわかる。そこまで性能の良いCADではないし、そこから見える術式も囮だったために。
達也の眼からしても、そこまでサイオンが集まっているようには見えなかった。それでは柱の一つも落とせない威力にしかならないだろうと思ったが、それらが全て囮ならば。魔法を使ったという証拠が欲しいだけなら。
(まさか!)
「天空に散らばる数多の精霊たちよ、雷となり降り注げ!
響き渡る爆発音に次いで、ゴロゴロという地響きに似た音と共に閃光が降り注ぐ。
結果、彼らの前には一本も氷柱が残っていなかった。
結果がわからず戸惑いの声がざわめきに変わっている頃、達也は幹比古と美月に尋ねる。
「幹比古、美月。あれが新の精霊魔法だが、感じ取れたか?」
「……ごめん、達也。空の精霊なんて、僕には見えない。あれは……僕とは規模が違いすぎる……!」
「そうか。美月は?」
「すみません……。サイオンは少し感じたんですけど、それでもあの威力の魔法としたら規模が小さく感じました。プシオンは、感じなかったです」
「わかった。ありがとう」
(これではっきりしたな。新の呪文は魔法とは全く違う位相の力だと)
第四研究所でも散々研究したが、精霊魔法に詳しい者がおらず難航していた研究だ。最低限の精霊魔法と古式魔法の知識しかなく、術式だってあまりわかっていなかった。
達也は新に二人のことを教えていたので、そこから真夜に話が行き、今回実行したというところだろう。
(だが、これはいいのか?みすみす十師族に喧嘩を売るような……。いや、だから九島閣下との取引か。新の魔法と呪文なら閣下の孫の治療も問題なく行えたはず。そうして十師族の目線を集めつつ、俺や深雪への目線をズラさせる目論見。新がエンジニアもやっていたと知り、この後モノリスでもある程度活躍すれば注目も分散される。深雪が少し目立とうが、俺の技術が目を惹かれようが。直接十師族と対峙せず、凄い結果を残したとしても。十師族に匹敵した新の方が目を惹く)
達也と深雪のためでもあり、新と同じ力の持ち主を探すための網でもあり、なおかつ十師族からの介入は九島閣下から守られている。
それに試合結果も加味すれば、まだマシな方だ。
スロー映像によって、新の方が氷柱の破壊が遅かったために判定勝ちということで一条が優勝した。それにどよめいたり喝采が出たり。
「あんだけのことやって、新くん負けたの?」
「映像の通りだな。古式魔法は確かに威力では現代魔法に勝るが、速度は現代魔法が圧倒的に勝る。それにあれだけの魔法だ。新の方が遅いのも納得だろう。一条のように改良に改良を重ねた術式でもないんだからな」
「いやー、でも惜しかったぜ?もうちょい発動速度を速めれば勝てたんじゃね?」
「そうしたら威力を損なって全部破壊できなかっただろうな。あれがあの術式と新の限界だ。どうせ負けるなら派手に、とか新なら考えているだろうな」
「達也でもあれ以上速くするのは無理なのかい?」
「無理。あんな完成された術式、弄りようがない」
ということにしておく。実際雷童子もカモフラージュのために使っていたが、本質は達也も解明できていない呪文だ。
あの威力で中級呪文だというのだから、末恐ろしい。
(あれが最大威力だと誤認させること。それも計画の一つになっていそうだな。新と同じ知識があれば看破できるんだろうが、その知識を持っているか、四葉の一部でもなければあの秘密には辿り着かない。……いつか全てを、解き明かしてみたいものだ)
そう考えながらも、達也は周りの質問に答えていく。特にエリカがこの結果を想像していなかったのか大はしゃぎだ。
判定負けとはいえ、結果としては引き分けと遜色ない。それをお子様な新がやったことにスカッとする気持ちだったのだろう。
「いやー、驚いた。ミキもあんな精霊魔法使えるの?」
「……無理だ。とても同じ条件だとできやしない。悉く準備を重ねて時間をかけてなら可能だけど、下準備もなしにフラットな状況であの威力の魔法を?相田なんて名前の古式の家なんて知らない……。彼は一体何者なんだ……?」
「あら。いつもの返しがないわね」
達也は絶対に口を割らない。自分の秘密と同等以上の秘匿事項だからだ。
そのあとの女子決勝の試合で雫が『フォノンメーザー』を、深雪が『ニブルヘイム』と言う使用者が少ない高等魔法を新人戦でやってみせたことで、前の試合以上のインパクトを残した。使った二人が美少女であったこと、本戦でも見られないような知っている魔法だったからというのもあるだろう。
一条の『爆裂』は一条の専用魔法であり、新のあれは魔法とも呼べないものだったために。
それでもやはり、新はかなり話題になった。無名の、一条に
その夜の夕食会で。
「だっはっはっは!相田、本当に準優勝して、しかもあんなド派手なオマケ付きなんてな!おめえもやるじゃねえか!」
「ちょ、桐原先輩。痛いですって。背中強く叩きすぎ!」
あの一条に判定負けとはいえ追い縋ったために、男女問わず揉みくちゃにされる新の姿があった。それと対面になるように、達也も色々な人からエンジニアとして褒められる。
そんな夕食会の後、新が七草会長と十文字会頭が呼び出したのを見逃す達也ではなかった。