魔法科高校の「大賢者(嘘)」   作:ギャングスタ

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九校戦7

 全く、この二人に呼び出しって嫌な予感しかしないよ。真夜様の予定通りなんだろうけど。

 一高が借りている会議室に案内される。二十人以上が集まれる部屋にたった三人しかいないなんて不思議だ。

 三人とも椅子に腰をかけて、本題が話される。

 

「相田。確認だがお前は十師族か?」

「違います。元でも何でもなく、ただの一魔法師ですよ。サイオン量だってそこそこ、得意な魔法以外はてんでダメ。そんな十師族や二十八家がいると思います?」

「じゃあ、一条くんの『爆裂』に匹敵するあの魔法は何?あの威力は普通の魔法の範疇を超えてるけど……」

「古式魔法の『雷童子』を改造した魔法ですよ。ボクの最大威力の。古式魔法の威力の高さは知ってるでしょう?」

 

 これで誤魔化せるとは思わないけど、こうとしか答えない。古式魔法でもあの威力は中々出せないらしい。「雷童子」の殺傷ランクはC相当だとか。対人で使っても死には至らせない威力に分類される。あのライデイン喰らったら死にそうだけど。それこそA判定は固いだろう。

 

「モノリスを心配してます?流石にあの威力では使いませんよ。CADで制限をつけます」

「ああ、頼む。……本題はな、別にあるんだ。あの試合を見て、十師族が動いた」

 

 だと思った。そうじゃなきゃ真由美ちゃんと十文字先輩が呼び出したりしないだろう。一高関係なら摩利ちゃんと鈴音先輩も一緒にいなきゃおかしい。

 

「ボクを管理しようって話ですか?古式がわかる十師族なんて九島くらいしか思い当たりませんが、閣下が動いたのなら閣下が来ますよね?」

「九島閣下は動かれていない。十文字家は静観を取る。動いたのは七草だ。一条も動くかもしれないが、探りを入れる程度だろう」

「冗談でしょう?たかがあの程度で。戦略級はおろか、戦術級の魔法を見せたわけでもありません。魔法の発動速度は一条に負けました。十師族が動くには理由が弱いでしょう」

 

 そうボクは思っていたけど、真夜様曰く十分可能性があるどころか、動く可能性の方が高いとのこと。彼らは自分たちの立場を誇示している。そのため脅かす存在は襲うか囲い込むのだとか。

 予想通り動いたわけだけど。

 

「棒倒しで言えば俺と千代田が本戦で優勝したな。俺は十師族として、千代田は百家本流としての実力を発揮して勝ったわけだ。お前は無名な中、十師族に引き分けた。一条の実力だって本戦に出ていれば俺に匹敵していただろう。その一条に引き分けたお前が無名の出などあり得ないという話になったようでな」

「父も母もライセンス持ちというわけでもなく、ただの魔工師なんですが。無名も無名ですよ?」

「それと、前夜祭で見せた対抗魔法。それを七草当主が見ていたそうだ。対抗魔法に精神干渉魔法、そして先ほどの魔法にエンジニアとしての才能。十師族ではなくても、喉から手が出る逸材だろう」

 

 あの場に、他の十師族なんていたのか。それはまずい。夕食前に深夜様にモシャスをかけておいてよかった。もしかしたらバッタリなんてこともあったかもしれない。

 

「褒められるのは嬉しいですけど。十文字家は静観する本題って何ですか?」

「七草家からの申し立てです。相田新くんを七草家の女性の誰かと婚約を結ぶこと。もしくは養子になること。これを相田家に申し込むと」

 

 あー、真夜様に聞いておいて良かった。

 真由美ちゃんさあ。言いづらそうにしてたってダメだよ。自分が嫌なら本人にやらせないと。

 こういうところ、真由美ちゃんも悪い意味で十師族だよね。

 

「十文字先輩は仲介人ですか?」

「そうだな。中条とのことは知っている。だからこそ俺の立場で言えることはない」

「ありがとうございます。……七草真由美様。私はそのどちらも拒否いたします。中条あずさとの婚約を破棄することも、あなたたちの家の子どもになることもありません。私は相田新のまま生きていきます」

「……一応、家へ持ち帰っていただけませんか?」

「私のことは全て一任されております。持ち帰ったとしても同じ回答をするだけでしょう」

「では、破談だな。十文字家次期当主の名の下にこの交渉を終了とする」

「はい。お疲れ様でした」

 

 ボクが帰ろうとしたら真由美ちゃんに呼び抑えられた。何だよもう。

 これ以上話すことなんてないのに。

 

「ちょっとちょっと!そんなあっさり終わらせていい話じゃないんだけど!?」

「だが七草。交渉は決裂しただろう。それに相田の目を見ればわかる。あれは揺らがない目だぞ」

「真由美ちゃんさあ。ボクがどれだけあずちゃん好きなのかわかってるでしょ?それで婚約話持ってくるとか酷くない?」

「わかってるけど!!……あのタヌキ親父に言われたんだから仕方がないでしょぉ」

「いや、知らないよ。摩利ちゃんは十師族に匹敵するくせに、千葉家との婚約でいいんでしょ?ボクとあずちゃんの家がなんてことないからって馬鹿にしてるとしか思えないんだけど?」

「その一件はあくまで恋人同士。婚約まで発展していないからだ」

 

 だとしても。

 相田も中条も無名。でも渡辺は百家の傍流で相手が剣の千葉だから許されて。

 数字落ちのボクを保護してやろうという魂胆が透けて見えて気持ち悪い。

 

「こんな馬鹿なことに時間を割いてるなら、さっさと行きのバスの一件と九校戦の事件について調べるよう動いてくださいってそのタヌキ親父に言ってくださいよ。明らかに事件ですよ、これ」

「ああ。関東は二家の担当だからな。軍と協力して調査している。相田はこのまま競技に集中していてくれ」

「事件を、未然に防ぐ手段があるんですか?一向に対策が練られていないのかと」

「耳が痛い話だな。ここは軍と九校戦の大会運営委員会の力が強くてあまりおおっぴらに動けない。軍は軍、十師族は十師族だからな。協力はしているが、お互い踏み込めない状況だ」

「これで誰かがまた怪我したらボクは恨みますよ」

「強く進言しておく」

 

 十文字先輩を信じるしかないか。

 あとは軍がどれだけ本気で動くか。軍には魔法師排斥派もいるからこの九校戦に国際シンジケートが関わってもラッキーくらいにしか思わない連中もいるらしい。本当に酷い話だ。

 結局ボクや達也くんが積極的に動いて四葉の力を借りて潰さないといけない。正直十文字家は当主代行の先輩がここにいる時点でおおっぴらに動けないし、七草に至っては論外。

 九島は領分じゃないから余り出張ってこられないだろう。光宣くんの護衛に数人来ている程度だろうし。

 しょうがない。十文字先輩の負担を減らすために少しだけ進言しておくか。

 

「十文字先輩。少し精霊が煩いです。もし専門家がいるのなら、その線を当たってみてはいかがでしょう?」

「古式魔法ということか?煩いとは、九校戦をやっているからではないんだな?」

「去年としか比べられませんが、去年よりはノイズが酷いです。これが観客と選手としての立場の差かはわかりませんけど、去年よりはよっぽど煩いですね。摩利ちゃんの事件も精霊魔法による妨害の可能性を示唆されていたでしょう?」

「ああ。至急要請しよう。助かる」

「いえ。じゃあ明日に備えて休みます。お疲れ様です」

 

 もう九校戦も折り返しになってるけど、だからこそ仕掛けてきそうだし。即日でどうにかできるかわからないけど、ボクが頼れそうな相手って表じゃ十文字先輩くらいだもんなあ。

 こっちで守りを固めてくれれば、四葉が本丸を落としやすくなる。

 ボクはそう考えながら部屋に戻って休むことにした。明日はモノリスの予選があるんだから。

 

 

「新くんって子どもだと思ってたけど、ああいう話し方できるのねえ」

「そういう風に装っているのか、ああいうお堅い場面には対応できるのか。……それにしても弘一殿にも困ったものだ」

「ホントよぉ〜。あの二人がラブラブなのはもう知ってるんだから。婚約して今は同棲してる子らに十師族としての圧で割り込もうとするとか最悪じゃない……」

 

 新が去ったのを確認して、思いっきり脱力していた。真由美は同じ十師族で同い年であるため、十文字の前ではかなり素を出している。同じ苦労をしているもの同士の傷の舐め合いとも言う。

 

「しかし精霊か。あれだけの古式魔法ができれば知覚できてもおかしくはないが。老師の精神干渉魔法も感知していたことも含めて、目が良いのか?」

「達也くんのような目じゃないと思う。多分私のような魔法の副産物じゃないかしら?それで精霊までわかっちゃうのは凄いけど。そう考えると魔法師としては本当に優秀なのよね……。普段の言動からは察せないけど」

「エンジニアとしての目も確かだと再確認したばかりだろう?司波を引き抜く際のテストに対する見解に、CADのバラシ。調整もできるとなれば相田の能力は疑いようがない。……七草はあのテストを考えなしに発案したのは十師族として問題だからな?」

「わかってるわよ!あれから勉強し直して、達也くんと新くんに謝ったんだから!……両親がFLTで働いているからこその知識かあ」

 

 真由美はこれまでの新の実績をもう一度確認する。学校の成績という意味ではかなり優秀。とはいえ司波兄妹のおかしな優秀さには敵わず、実技でもA級ライセンスを持つ母がいる雫に負ける以外には負けなし。いくら十師族や二十八家の同学年がいないとはいえ、一年生が特段能力の劣るわけでもない。

 風紀委員としても優秀で検挙率はそこそこ。エンジニアとしての能力、知識は親譲りで高校生を超えている。

 

「十文字くんは本当に、新くんはただの一般の家の出身だと思ってる?」

「中条という例もある。大きな家の援助を受けている可能性は否定できないが、そこまで入り込んで調べるほどか?いつから十師族はそこまで偉くなった?」

「国防の要とはいえ、そこまでじゃないわ。……数字落ちって可能性はあるんじゃないかしら」

「……さてな。数字落ちは本当の意味で全てを抹消されて、今では名前すら追えないこともある。それに、その事実はほじくり返すものではない。七草、話は終わりだ。俺が鍵を返却に行こう。女性は夜更かしをするべきではない」

「あ、そう?それじゃあお願いね」

 

 ホテルの一室を借りているので、使用が終われば鍵を返却しなければならない。きちんと施錠してホテルのフロントへ向かうために十文字は七草と別れた。

 

「相田が元四十田家だとは伝えなくて良いだろう。これ以上弘一殿を刺激する情報を与える意味もない」

 

 その後真由美から電話で呼び出されて、聞いてみれば弘一が九島から余計なことをするなと怒られて機嫌が悪かったなどと愚痴を聞かされることになった。真由美は貸し切った部屋でケーキなどの甘いものを食べながらお茶を飲み、弘一の悪口を延々と聞かされることになった。

 このことに付き合えるのは十文字しかいなかったため、夜が更けていっても仕方がなく付き添った。

 

 この一件のせいであらぬ噂が流れてしまう。次の日真由美が眠そうにしていたこと、十文字はピンピンとしていたことから少しピンク色の噂が流れてしまった。十文字がピンピンしていたのはサバイバル演習などで三徹くらいこなしたことがあるからなのだが、そんなことは関係ないと噂は広まる。

 お互い十師族、婚約の話もかつてあった、真由美の五輪家との関係がうまくいっていないなどなど、流れるのも仕方がない要因がいくつもあったからこそだが。

 

 

 今日のモノリスは予選だけで助かった。決勝リーグはまた明日。つまり今日もそこそこ動き回っても問題ない。それに優勝候補の三高は予選ブロックも別。

 初戦の七高との試合は森崎くんが一人で片付けた。ボクともう一人の五十嵐くんはモノリスの防衛とそこら辺をうろちょろしていたら試合が終わっていた。

 問題は二試合目。四高との試合。フィールドが市街地という名前の廃ビルなんだよね。何でいかにも崩れますみたいな場所で競技をしなくちゃいけないのさ。こんな廃ビルが何の役に立つんだろ。こんな危ない場所が日本にどれだけ残ってるんだか。

 

「作戦通り、五十嵐がディフェンス。相田が遊撃手。僕がアタッカーを務める。相田、索敵は任せた」

「うん。でもボクの感知魔法、そこまで万能じゃないってことは忘れないでね」

「ああ。でもお前の感知範囲が円じゃなくて球体だったのはこのビルという構造上優位に運ぶ。それに常時発動型だからフライングにならないんだろ?」

「そうだね。ひとまず感知できる距離に相手はいないよ」

「よし。開始と同時に向こうへ向かう。五十嵐、守備は任せた」

「おうよ」

 

 事前の話し合いも終わって、始まりのブザーを待つ。廃ビルとかいかにも幽霊が出そうで怖いよねえ。ゴーストとかそういうモンスターが出るなら大歓迎だけど。

 そんな開始前とは思えないメンタルでゆっくりしていた。時計だけ気にして開始時刻を待つ。

 一分前になったことで思考を入れ替えようとしたらボクの感知に引っかかった。まさか、このタイミング!?

 

「二人とも、何か来る!ここを離れて!」

「はあ?新、まだ開始前だぞ?」

「いや、相田の感知は老師のものも読み取った!逃げ──!?」

 

 森崎くんの判断より前にビルが一気に揺れる。感知したのはビルの上の階。何かの魔法が発動した!このビル全体が揺れてる!?

 

「うおっ!?」

「五十嵐くん、脱出!」

 

 五十嵐くんの脇を抱えながら窓の外へ逃げようとする前に一気に揺れが来て足場が崩れた。五十嵐くんも掴めずに全員が宙へ投げ出される。

 くそ!飛行魔法なんて誰も用意してない!フライングの上に建物へ振動系魔法とか、本気でこっちを殺す気だ!

 

「二人とも、着地くらいは任せた!」

 

 このままビルごと落ちていったら瓦礫に巻き込まれる!ならまずはビルの外に弾き飛ばさないと!

 

「バギ!」

 

 二人に小さな竜巻をぶつけてビルの外へ吹っ飛ばした。打撲ぐらいは許してほしいな!あとで治癒魔法使ってあげるから!

 あとはトベルーラで逃げるだけ。バギを解除しようと思ったが、それは間に合わなかった。

 ボクは二つの呪文を同時に使うことはできない。正確には、何かを一つ一つ発動しなければいけない。トベルーラを使った後にバギを使えば問題はなかったけど、順番を間違えた。トベルーラも飛行魔法も使えない二人を優先して助けないといけないという思考がそうさせた。

 オレ一人なら後からトベルーラを使えばいいと驕った結果だろう。

 

 更なる魔法の追加で廃ビルの瓦礫が予想以上に降り注ぎ、トベルーラで脱出に間に合わなかった。ここで大呪文を使えば全てを吹き飛ばせたけど、それをしたら結局森崎たちを瓦礫で押し潰しかねないと思ったこと。

 そしてオレに直接、サイオン弾による攻撃が全ての思考を真っ白にさせた。こんな直接的な方法に出ることはないとタカを括っていたということもある。背中に食らった攻撃が、大した威力じゃなかったのに思考を全て吹き飛ばした。

 だからオレは、結局何もできないまま崩壊に巻き込まれた。

 

 

 

 

「相田アアアアアァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 森崎の声を聞きながら、あずさに心配かけるなあと思いながら、意識を失った。

 

 

 達也は一高の首脳陣によってホテルの一室に呼び出された。内容はモノリスの代打。新は未だ意識不明。森崎と五十嵐は大会組織委員が雇った立会人が加重軽減魔法を用いたので大事には至らなかったが、明日は確実に安静を言い渡されていた。大事に至らなくても重傷だ。

 森崎は全身打撲。五十嵐の方は全身打撲の上に片足の骨折。これでは明日の試合には出られるわけがない。本来怪我による代打は認められていないが、今回は四高のフライングの上に使用禁止魔法『破城槌』が使われたことで特別に代打が許された。

 

 『破城槌』は屋内で使う場合、殺傷ランクAとなりモノリスでは禁止魔法に当たる。そのことから十文字が掛け合い、なんとか代打を認めさせた。

 いかんせん一高もかなりポイントを稼いでいるのだが、三高の追い返しが凄い。一高が落としている大きなポイントをほぼ全て三高が取得している。さらに入賞によるポイントもほぼ三高だ。

 だからこそ、新人戦のモノリスで0ポイントは避けたかった。そこで白羽の矢が立ったのが達也だ。達也の風紀委員としての実績と、他に頼れそうな男子がいなかったということもある。なにせ新が出なくてはいけないほど男子は人材不足だったからだ。

 十文字としては達也の性格からゴネるのではないかと考えていた。校内の確執などを気にしていたからだ。

 だが。

 

「わかりました。引き受けます」

「……いいのか?」

「ええ。そもそも俺だって、新がやられて怒っています。あいつは誰かのために動いて、その結果負傷した。森崎たちなら確実に決勝リーグに進出し、ポイントを得られたでしょう。その代わりになれとおっしゃられるのであれば、拒否する理由がありません」

「フ。漢だな。わかった。司波、お前を代表として推薦する。後の二名もお前に一任する。好きなメンバーを選べ」

「代表以外から選んでも?」

「構わん。例外に例外を重ねている。それにあれは運営委員会の不手際だ。どうとでもする」

「十文字くん!?そこまで任せるの!?」

 

 十文字が勝手に話を進める中、達也は周りを見渡す。いつもの首脳陣だが、あずさだけはいない。今も新に付きっきりだ。

 達也も救急車に乗り込むあずさを見ていた。涙が止まらず、必死に叫んでいた。泣き腫らしていた。

 こんなことになった原因を達也は調べていた。そしてここには口が固い者しかいないと信じて口を切る。

 

「メンバーに案はあります。ですが、その前に先輩方にお願いがあります」

「何だ?」

「今回の一件、四高は被害者です。『破城槌』は確かに四高のCADにインストールされていたのでしょう。ですが使ったのは立会人の一人です」

「何ですって!?」

 

 達也の発言にざわめきだす。魔法式を言い当てられる達也の言葉だ。無下にもできないだろう。

 

「新のご両親がご自身の研究のため、そして新を撮ろうとサイオンを可視化できるカメラで俯瞰的にあの試合を撮影していました。ここにデータが入ったチップがあります。音声は意図的に切っていますが、ご確認ください」

 

 これは嘘がある。新の両親も確かに撮影していたが、俯瞰的に撮影していたのは四葉の人間だ。四葉の者とわからないように音声を消してあるだけである。新の両親の悲鳴が入っているために音声を消したと達也は伝えた。

 市原がすぐに映像再生できるものを持ってきて、確認する。その映像を確認して事実であること、そして更に新にサイオン弾を当てたことも把握する。

 

 新が使った呪文についてはサイオンの動きがなく二人が吹き飛んだとすると怪しいのでそこだけは加工している。

 試合の映像自体にサイオンを可視化させることはしていたが、ここまで俯瞰的な映像は撮られていない。立会人を映す理由が放送側にはないからだ。ある意味死角だったから実行に移したのだろう。

 同じように競技中に事故に遭った摩利が顔を歪める。

 

「……笑えない話だぞ、これは。立会人が競技に手を出すなど」

「渡辺先輩もおそらく同様の手段で事故を引き起こされたものと推察します。ですが、この男を即座に取り押さえることはできません」

「それはどうして?」

「トカゲの尻尾切りで逃げられるからです。全員を捕えなければ再発するだけですから。ですので十文字会頭。十文字家を動かしていただけますか?軍には縁故の方がいらっしゃるので、そちらに情報提供をしました」

「ああ、わかった」

 

 データを十文字に渡す達也。そこに首を傾げる真由美。

 

「達也くん?どうして七草は動いちゃダメなのかしら?父がいるからすぐに動かせるけど……」

「だからこそです。七草家も、九島家も動かせません。なにせ大会の運営側に近すぎます。前夜祭にも来るほどですから、動けば勘付かれて逃げられます。ですので関わりのなく関東の守護者である十文字家。そしてここ富士山麓に居て当然の軍しか動かせません」

「浅くは動けるけど、根本まで動いたら悟られるってことね。わかったわ。七草として事態解明のために父を含めた七草には報告をしません。父も最低限の警戒くらいはするでしょうけど」

「その最低限で十分です。そちらを陽動に、軍や十文字家に動いていただきますので」

「司波。軍のどの部隊が動くのか、情報をくれるか?」

「パスコードだけいただいています。こちらで通信をして欲しいと。ハッキングされる危険性のないものだそうです」

 

 達也は同僚の藤林から預かったパスコードも渡した。

 この場にいた服部はなぜ九校戦というイベントでこんな生臭い話になっているのかと肩を落としそうになった。これが魔法師の裏側とはいえ、高校生で関わる必要のない出来事だ。

 

「そして皆さんにお願いしたいことはこれ以上無闇に運営側の人間に接触しないように、ということです。下手に動いて悟られたら新の負ったもの全てが無駄になります。軍や十文字家はプロです。学生が動くのは危険です」

「ええ。運営側がどこまでクロかわからないもの。そして九校戦がどれだけ危険でもやめることをしないのは今回のことでわかったわ。もしかしたら全部真っ黒、ってこともありえるってことよね?達也くん」

「はい。こちらは注意を払ってこのまま現状維持。それが最善の策です。いわば俺たちも陽動ですね」

 

 達也や四葉からしたら何もかも陽動だ。そして学生ともなればもっと上からの抑えがあれば無理もしない。時間を稼いでいる間に何もかも終わらせるつもりだった。

 

「陽動も派手にいかなければなりません。代役でもある程度の結果を残せる、俺も知った人物をメンバーに加えます。そのメンバーは──」

「待ってくれ!僕は変わらずに出場するぞ!」

「森崎!?お前、まだ病院にいるはずだろう!」

 

 いきなり入ってきた森崎に、摩利が驚く。さしもの達也も驚いたようだった。治癒魔法を用いたとしても全身打撲に変わりはない。入院着のまま脱走してきたようだ。

 服部が慌てて椅子に座らせる。森崎は息が荒かったが、目は座っていた。

 

「会頭。僕は出られます。五十嵐は無理でも、僕はモノリスに出ます。アレが故意の事件だとしたら……負傷した二人が報われない!」

「森崎……。だが、全身打撲は変わらないだろう。今も痛みで立つのがやっとのはずだ」

「いえ、会頭。どうにかできるかもしれません」

「何?本当か、司波」

 

 魔法による処置はしたばかりだ。だというのに達也は医者以上のことができるかもしれないと言った。

 いくらここまで規格外のことをしてきたとしても、流石に聞き返さなければならない。

 

「新のご両親からFLTで開発した新規の治癒魔法が入ったCADを預かっています。FLTで臨床実験中の試作機ということですが、臨床実験は順調ということです。お二人のできうる限りの手段ということですぐさまFLTとして軍への配備を通すという話でした。数日もすれば軍に卸される試供品を森崎に用いても問題はないでしょう」

「……確かな魔法なのね?」

「FLTのお墨付きです。ただ自分では使えないので。市原先輩、お手数ですが妹を呼んできていただけますか?」

「わかりました」

 

 市原が深雪を連れてきて、CADホイミスライムにインストールされていた治癒魔法で森崎とついでに摩利の怪我を治していた。

 二人とも身体を動かしてみたが、痛みはどこにも感じず、動いても問題なかった。

 

「ありがとう、深雪」

「いいえ、お兄様。これくらいは。森崎君、渡辺先輩。いかがですか?」

「……万全、と言っても過言じゃありません。おそらく全力で動いても問題ないです」

「あたしもいつも通りの身体だな。繋げていただけの骨までくっつけるとは……」

「ただこの魔法も万能ではありません。渡辺先輩は治りかけだったために骨もくっつけることができましたが、肋骨だったことも、折れ方が綺麗だったことも要因です。五十嵐の状態は知りませんが、足ほど太い骨の場合すぐに動けるようにはならないでしょう。新に使っても応急処置がせいぜいです」

「それはそうか……。それじゃあ達也くん。もう一人はどうしても代役ね?」

 

 真由美の言葉に達也は頷く。幹比古を選び、三人はこれからCADの調整と作戦を決めるためにこの部屋を使うことを申請。市原が幹比古を呼びに行き、十文字は選手変更を運営側に一人で伝えに行った。関わる人間を最小限にするためだ。

 そうして三人は準備を手際よく終わらせていく。作戦もできるだけ詰めて、確実に勝つために。

 

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