魔法科高校の「大賢者(嘘)」   作:ギャングスタ

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九校戦8

 ああ、気分が悪い。目を覚ました横には、眠ってしまっているあずさ。その両目は赤く腫れている。白い天井に大きな知らないベッド。つけられた点滴。

 自分の状態を把握するのはわけなかった。

 すぐにナースコールでもしようと思ったが、その前に病室の扉が開いて誰かがやってくる。悪意を感じなかったのでそのまま首を横に向ける。

 痛い。全身がとてつもなく痛い。これ結構重傷だな。

 

「起きたのね。新くん」

「はい。小母さん」

 

 モシャスで姿を変えた深夜様がそこにはいた。精神干渉魔法でオレが目覚めたのを察知したのだろう。部屋も外も暗い。夜みたいだ。

 

「例のCADを使ったことにするから、呪文を使っていいわ。ご両親が軍にあのCADを卸そうとしているからそれを用いたことにすると」

「わかりました。ベホマ」

 

 面倒だったのでベホマを使う。オレの身体が黄緑色の光に包まれると、痛みがさっぱり消え去っていた。結構色々な場所の骨折れてたんだな。呪文を使ったからこそわかるというか。

 あずさを起こさないように上半身だけ起き上がる。深夜様も四葉の中ではかなりの上位者。オレなんて四葉でも末端。最低限の礼儀が必要だ。

 

「状況は?」

「事故からちょうど半日というところ。この近くに誰もいないから堂々としていていいわ。事故を起こした相手は理解しているかしら?」

「はい。立会人ですよね?」

「その通り。今は泳がせているところよ。相手の無頭龍の本拠地は把握済み。この情報を軍に渡して軍に対処させます。いつも秘密裏に十師族が解決していては軍が腑抜けになりますし、十師族が増長されても困る。それに今回のことはまた七草に借りになりますから」

 

 本当に四葉の方々は七草が嫌いだな。オレもだけど。

 これだけ大きくて人も多い関東を二つの家で担当するっていうのもおかしな話だけど。しかも片方は今立て直し中の十文字家。七草が最大派閥だとしても、もう一家くらい関東を担当した方が良いと思う。

 でも四葉が力を持つことは推奨されていないし、三矢家は国外担当だし。もっと二十八家に頼るべきなんじゃないかと思うけど。

 

「軍がどう動くかわかりませんが、このまま会場の警備は十文字家と軍に任せます。四葉の者も若干とはいえ会場に残しますが、あまり期待しないで。あなたは明日はここで、明後日に退院してその後は九校戦に参加。九校戦が終了したら本家に二人で来なさい」

「わかりました。内通者たちは十文字家と軍に任せるんですね?」

「そうなるわ。四葉は情報提供という形で関与するだけ。万が一のためにある程度の人員は配置しておきましたということにするわ。……あなたが狙われたのは棒倒しでの威圧行為も一端を担っているわ。ごめんなさい。真夜も申し訳なさそうにしていた」

「構いません。そういうリスクは承知の上でしたから。まさか賭け事のために何もかも台無しにするほどネジの外れた連中だと思っていなかったので」

「そうね。とりあえず明日はそこで達也の試合を見ていなさい。あなたの代わりにモノリスに出るそうよ?」

 

 え?達也が?何で?

 代理ってダメだったような……。試合開始前のフライングによる事故だったから?いや、理由なんてどうでも良いか。この部屋にTV置いてあるし、ここから中継を見れば良いんだろう。

 

「伝えるのはこんなところかしらね。ご両親も仕事を終えたらすぐ来るだろうから、それまではあずさちゃんとイチャついてなさい」

「はい。そうします」

 

 あずさが腰を痛めそうな体勢で寝ていたので、オレのベッドに担ぎ入れる。泣かせたのはオレのミスだよなあ。トベルーラ先に使えば怪我しなかっただろうし。

 

「じゃあおやすみなさい。あずさちゃんにもよろしくね」

「わかりました。おやすみなさい」

 

 深夜様が部屋を出て行った後、オレはあずさを横にそのまま寝入った。正直眠くて仕方がなかった。痛みで起きたようなものだし。

 次は反省を活かして、あずさを泣かせないようにしないと。

 

 

「もうっ!あっくんはわたしをどうしたいんですか!?」

「え?口にしていいの?」

「……やっぱりいい」

 

 朝、一緒に起きたらあずさがベッドに入り込んでいたことに対して言った一言がこれなんだけど、顔を真っ赤にしながら撤回するあずさは可愛かった。ここ、病室だしね。一応。

 両親も見舞いに来てくれて、ホイミスライムの認可をもらって来たために身体を動かしても大丈夫ということになった。でも経過観察ということで今日は入院したままだし、点滴もしたまま。

 五十嵐にも顔を出して、足が治ったことを喜んでいたけどやっぱり今日は様子見。あの状況で骨折するって立会人も複数黒いってことだよな。それか緊急時に動けない無能。五十嵐が骨折する要因なんてなかったのに。

 五十嵐の部屋から移動して、TVを点けるとちょうど達也たちが試合をしていた。達也がアタッカー、幹比古っていう古式魔法師で達也のクラスメイトが遊撃手。森崎がディフェンスをしていた。

 

「何で森崎くんがディフェンスなんだろう?」

「他の高校にまだ動けないって思わせるためじゃない?ホイミスライムのこと、他校は知らないわけだし」

「そういう作戦なんだ。……それにしても達也くん凄いね。CADの同時操作に術式解体。あっくんが言ってた実戦なら負け無しっていうのも頷けるね。身体能力も高いし」

 

 達也はなあ。忍びに教えてもらった体術に類い稀なるサイオン量、『分解』ともう一つに特化した魔法。それを最大限使えば戦略級魔法師と呼ばれる世界に五十人といない実力者。軍にも四葉にも仕込まれている戦闘技術。

 この上魔工師としては世界最高峰のシルバー様だ。凄いなんて言葉で言い表せない。

 試合は達也が撹乱して幹比古がトドメを刺すというものであっさり終わった。他の試合も幹比古の古式魔法が随分と役に立ってあっけなく終わる。

 

 精霊魔法ってホント便利だな。これは呪文を誤魔化すのに良い隠れ蓑になる。それを改めて実感できた。

 決勝リーグの一試合でまた市街地フィールドという名前の廃ビルを使ったことには流石にオレもあずさもハラハラしながら見ていたけど、何もなく達也たちが勝って良かった。二回連続で『破城槌』のようなバカではなかったらしい。

 それでも愚痴らないと収まらないけど。

 

「運営委員会ってバカなの?あんな事故あってまた廃ビル使うなんてさ」

「規約を曲げたくないとか、あの事故は想定外だったとかそういうのがあるんじゃないかな?大人としての意地とかあるのかも。これって全国に流れてるから無様なことはできないだろうし」

「でもさあ。もう無能だって宣伝しちゃってるんだよ?市街地フィールドで使う魔法として『破城槌』を確認の段階で通したっていう節穴を露呈してるんだし。この時点で運営側にバッシングなんていくらでもくると思う。この廃ビルなんて自分から叩かれに行ってるようなものでしょ……」

 

 本当に『破城槌』なんてインストールされていたら、その時点で訂正させないとレギュレーション違反だ。全部大会運営側の不手際なんだよな。四高が可哀想だ。濡れ衣で棄権させられて叩かれるなんて。

 運営側は『破城槌』のチェックミスは詫びるだろうけど、それ以外は何も認めないだろう。来年以降の運営のために保身に走る。そういう誠意が見られないし、チェックをした人間もオレを攻撃した立会人も見付けて罰していない時点で信用ならない。

 

 来年四高に進学予定の黒羽姉弟が不憫に思える。ああいうのって進学に響くだろうし。フライングの濡れ衣を着させられた選手は大丈夫だろうか。メンタルやられて魔法師として断絶したりしないだろうか。悪いことしてないのに色々責められるんだろうし。

 昨日の今日で何かを仕掛けるつもりもないのか。それとも一高の邪魔なんてせずとも優勝は三高だと奴らは信じきっているのか。決勝は一高と三高になった。

 

「準優勝で良いから、もう皆に無理してほしくないなあ……」

「んー。でも達也と森崎はやる気満々みたいだよ?本気で勝とうとしてる。幹比古もそう。一条を達也がどれだけ抑えられるかって勝負だと思う」

 

 オレの予想通り、達也が一条の足止め。森崎がカーディナルジョージを、幹比古が全体のサポートを。そんな感じだ。草原ステージという隠れる場所がないために幹比古の隠密性は発揮されない。下手にモノリスを守るよりも正面戦闘をすべきという判断だ。

 試合が始まる。最初は達也と一条の魔法の撃ち合い。一条の攻撃を達也が打ち消して、もう一方のCADで牽制をすれば一条が無意識の障壁で防いで。森崎はカーディナルジョージと撃ち合いをしていた。残りはモノリス付近に留まっているが、何かあればすぐにどちらかの援護に行こうと図っているのだろう。

 意外だったのは、カーディナルジョージに全く余裕がなさそうなこと。早撃ちで負けたからって勇猛果敢に森崎に突っ込んで行ってるけど。

 実戦なんてそれこそ森崎の本領なのに。

 

「何というか、バラバラ?」

「あずさもそう思う?モノリスが割られるわけにはいかないからお互い一人を予備戦力にするのは真っ当だと思う。それにあれだけ見晴らしが良いなら正面突破しか手段もないし。カバーに入るためにもあの二人はおかしくないんだけど。だからって一対一を二つ作るのはこっちに有利になるだけなのに」

 

 いくら達也が森崎と風紀委員会で一緒とはいえ、一緒に巡回やモノリスの訓練をしたわけじゃないから本格的な連携なんてできない。クラスも別だし、お互いの魔法や動きを完全に把握していないだろう。他の試合の間に合わせるのは大変だし、手の内もバレるからオススメできないし。

 だから実力で突破というのは願ったり叶ったり。なぜか一条もカーディナルも二人を意識してるからこの状況はできやすかったんだろうけど。この形式で一対一になったら研究者よりもボディーガードの嫡子に軍配が上がるのは当然。研究者だからこそ、戦いの鉄則がわかっていないのか頭に血が昇ってるみたいだ。

 

「あっ!」

 

 あずさの叫びの通り、一条がカーディナルの援護射撃をした。やられる寸前だったからだ。遠くからの射撃だったために森崎は間一髪で避けていた。流石に視野が広い。

 そしてその隙に、一気に達也が距離を詰めた。目を離した隙に有効な一撃を与えるために射程の確保に走った。

 達也の驚異的な詰めに驚いたのか、十メートルを切るところまで接近された一条が反射的に魔法を使う。十六連発の圧縮空気弾。それを達也が残り二発までは術式解体で対処したが、その二発を受けて身体が吹っ飛ぶ。

 その威力はレギュレーションを超えていた。地面に着弾した威力を見ればわかる。あずさが口を手で抑えていたけど、達也はすぐに立ち上がって指パッチンを引き起こす。音波の増幅でとんでもない破裂音が響いたけど、それがもたらした結果は一条の脱落。

 達也も膝を着いて動けなさそうだけど、フラッシュ・キャストだけで勝ったなら十分だろ。誰もアレが自己修復術式を超えた何かだってわからないだろうし。

 

「達也くん大丈夫なの……?」

「大丈夫。見た目以上に頑丈だから。問題があれば深雪がホイミスライムで治すよ」

 

 昨日渡したらしいし。最悪自力で治すだろうからね。まあ、デメリットを考えると深雪に治してもらった方がいいんだろうけど。

 心配の声もあちこちで上がっているんだろうけど、試合は続行中だ。そのままこっちは果敢に攻めた。森崎が動揺しているカーディナルを伸して、戦場に上がってきた幹比古と一緒になって最後の一人を倒した。

 全員戦闘続行不能になったことで一高が勝った。

 

「いやいや、さすが。優勝しちゃったよ」

「一条くんが精神的支柱だったのかな……。彼から崩れていっちゃったね」

「でも彼もやっぱり高校生だったというか。とっさの判断でオーバーアタックしちゃうなんて。あれ達也以外だったら本当に危なかった威力だったし」

 

 モニターでは大歓声が流れている。唯一負傷した達也は森崎と幹比古に抱えられて移動している。最後のフラッシュ・キャスト以外は無傷のはずだけど、秘匿のためにああいう格好をしてるんだろう。

 アレ、治すだけの同等の痛みを受けるっていうデメリットあるもんなあ。オレに使わなかったのはベホマ使えばそんなデメリットないから。今の達也も本当にやばかったらオレが治してあげればいいんだし。

 これで新人戦は一高が優勝。残るのはミラージ・バットとモノリスの本戦だけだし、本戦も優勝は固いだろう。ミラージは深雪が、モノリスは十文字先輩が獲る。

 

「あずさ。今日はちゃんとホテルに帰ってね。オレも問題ないわけだし」

「うん。あっくんのこととか会長に報告しないとだからね。明日また来る」

「一応達也のこと気にしてみて。ダメそうだったら明日治すから」

「わかった」

 

 二日続けて病院に泊めるというのは無理なので、あずさにはホテルに帰ってもらった。健常者が見舞いとはいえ病院にずっと泊まるというのは無理だろう。

 この部屋はセキュリティーの観点から安全とは言えないのであずさに持ってきてもらった端末で調べものくらいしかすることがなかった。健康なのに入院していないといけないっていうのが面倒くさい。

 暇もそこそこ潰して、食事摂ったら寝ようかなって考えている頃に、病室に来訪者がいた。

 

「相田!勝ったぞ!」

「知ってる。おめでとう、病院脱走の森崎くん(・・)。あと音量下げて」

「それは言わないでくれ。明日には退院できるんだって?」

 

 五十嵐も来て、結局三人でモノリスについての話し合いになって病院の看護師におとなしくしていなさいと怒られた。全員怪我が治ってるから健康そのものなんだけど、一応病人だから注意もされるか。

 退院して明日の夜には新人戦優勝の祝賀パーティーを開くことになっているらしい。オレたちに配慮してくれたようだ。オレも一応棒倒し準優勝の立役者だし。オレがいない中大っぴらにできないということだろう。

 

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