魔法科高校の「大賢者(嘘)」 作:ギャングスタ
九校戦九日目。今日あるのはモノリスの予選リーグとミラージ・バットを全部。本戦も大詰めになる。
さっさと朝の内に退院したオレはホテルの自分の部屋に戻って必要なものを用意していた。モノリスの最初の試合の時間には間に合わなかったけど、これ以降なら間に合う。
ということでオレは独自に会場を回ることにする。メインは大会運営委員会のCADチェックをする建物。
そこから大体200m圏内にいるようにする。こっちはオレがどうにかする。会場の方は軍や四葉任せ。さすがに広すぎる場所はオレも苦手だし。むしろ精神干渉魔法が足を引っ張る。
だから唯一手を出されても間に合いそうな場所に控える。達也は深雪の側にいないといけないし、あずさも来期の執行部として一高のテントに張っていないといけない。オレが単独行動になるのも仕方がない。
それから午前中ずっと張り付いてたけど成果なし。時折写真を撮られたり、子どもと遊んだりしたけど警戒は続けた。
今日のミラージの結果によっては総合優勝も決まるから仕掛けてくるならここだと思ってるんだけど、どうか。悪質な賭けで儲けようとしているクズたちがやれることは、競技の邪魔と大会そのものの中止。まだ妨害すれば間に合うのであれば、賭けを成立させるために事故を起こすはず。
そうして午後のチェックになった頃。モノリスが何事もなく終わってミラージのチェックが始まった頃にそれを感じた。
オレは周りの目も気にせずテントの中に突っ込み、即座にそれを引き起こした人間に飛び蹴りを喰らわせ、手にしていたCADを確保。そのまま小声でベタンを用いて下手人を拘束。
周りではマスコットが暴れただの、大人が警戒を始めたけど、それどころじゃない。
「平河先輩。今すぐこのCADを調整機で確認してください。何かのウィルスを仕掛けられている可能性があります。もしくは精霊魔法の一種です。このままではCADに不具合が起きて魔法が暴発します」
「……え?その声、相田君なの?」
一高エンジニアで三年生の平河先輩にCADを渡した後、ドランゴの頭を外す。FLTがお祭りに乗じて宣伝に来たと思わせるためにこの着ぐるみをずっと着ていた。
下手人を縄で縛っている間に、他の運営委員の人間がやってきた。
「何の騒ぎだ!君、何をしている!?」
「大会運営委員会の人間は近付くな!この男の単独犯か、組織的な妨害かまではわかっていない。今あなた方は信用できない。軍か防衛省の人間を呼んでください。それも調整機とCADに詳しい人間を。当校に向けたテロ行動と考えます」
「その証拠はどこにある!すぐに彼を離せ!一高を失格にするぞ!」
「だからあなた方は信用できないと言っている!中立の立場の人間による、この場にない調整機でそのCADのチェックが必要だ。九島閣下の精神干渉魔法を感知した自分が、そのCADに対する悪意を感知した。その結果を判断しろと言っている!何事もなければ自分の棒倒しのポイントを全て白紙にして構わない。だが、結果が出るまでこの男とその調整機とCADに調査をする者以外が接触することを禁じる!
これがテロだった場合、この魔法を使った人間以外にも複数の被害者が出るんだぞ!?魔法師生命が終わる、死人が出る!それを運営委員側が許容するのか!?一昨日や三日目のような事故を再発させたら大会運営どころじゃないのはわかるだろ!!」
絶対にここは引かない。というか、今オレが対峙している男にだけはこの場を奪わせてはダメだ。オレの魔法が伝えてくる。目の前の男も、クロだと。
周りの生徒たちがざわめく。そして自分たちのCADと身体を守るようにオレからも運営委員会の人間からも距離を取り始めた。それで正しい。今は誰も信じられない状況を作った。これまでの大会での出来事がそうさせている。
中立の人間がこの事態へ介入するまで、自分たちを守れるのは自分たちしかいない。
「子どもの戯言を!こんなことをしてどうなると思っている!?」
「戯言だと証明するための対処をしてくれと頼んでいる。営業に来ている企業の方々に見てもらってもいい。何をしたのかはわからない。それでもそのCADに何かをしたということだけはわかってる。それを調べて欲しいと言っている」
「企業の人間は一般の人間だ!大会運営に関わることに関与させられるか!こういう時のための運営委員会なんだから、運営委員会の人間が調査すればいいだろう!?」
「その組織委員会側がこうして不正をしていた疑惑がある!だからこちらは中立中庸である運営委員会の外、軍人や防衛省の方に頼んでいる!」
「この、クソガキが……!」
沸点が低いな。実力行使をするのか、腕につけていたCADをこっちに向けてくる。
ああ、やれるならやればいい。反論できずに暴力に訴えれば、その時点でそちらの負けだ。
「一高生徒会の七草です。当校生徒が暴れていると聞いて来ました。どういう状況ですか?」
魔法を放とうとした瞬間、深雪を除く生徒会のメンバー全員と十文字先輩がやってきた。オレがドランゴの格好をしてるからか、若干視線が痛い。
「平河。どういう状況だ」
「あ、あたしが小早川のCADをチェックに出そうとして、今そこで拘束されている運営委員会の人にCADを渡しました。そのチェックを待っていると相田君が突撃してきてすぐに拘束。感知魔法で危険を察知したようです。後から来た運営側のスタッフと口論になり、相田君は中立である軍の方か防衛省の方に一式のチェックを依頼。それをごねたそこのスタッフが相田君に魔法を使用しようとしたところに七草会長が声をかけた次第です」
十文字先輩の質問に平河先輩が淀みなく答える。
魔法を使おうとしていたスタッフは旗色が悪いだろう。なにせ正当防衛以外での魔法行使は犯罪だ。オレの口論に負けて実力行使とか、犯罪でしかない。
オレがスタッフへいきなり飛び蹴りをしたことについては、調べてもらえば正当防衛で通る。
「相田。今の説明に不備は?」
「ありません。使った魔法は学校にも報告を挙げている常時発動型の魔法です。このスタッフとそこの調整機、そして小早川先輩が使う予定だったCADを調べてください。これで何もなければ自分を警察に引き渡せばいい」
「七草、ここを任せる。オレは軍の方に話を通してこよう」
「待て!子どもたちで勝手に話を進めるな!たとえ十師族だとしても、このようなことをされては困る!」
「なぜ困るのかね?一度検査をすればいいだけの話を随分と拗らせているのは君の方だと思ったが?」
さらに入り口から入ってきたのは九島閣下と、二十代くらいの女性の方。スーツを着ているけど見覚えがない。いやあれ、防衛省のピン?
閣下とどういう関係なんだか。
「響子。あの調整機を調べなさい。私はそちらのCADを見る」
「はい、閣下。防衛省技術本部兵器開発部所属の藤林響子です。僭越ながら検分をさせていただきます」
うわー、ベストな人選。藤林さんは調整機を調べ始め、閣下は平河先輩からCADを預かって見始める。そんなので何かわかるんだろうか。達也みたいな目があるとか?
周りの声を拾った感じ、藤林さんは閣下の孫娘らしい。それに昔九校戦のスターだったとか。だから一緒にいたのか。
「電子金蚕が使われています。有線回路を通して電子機器に潜入し、出力される電気信号に干渉して改ざんするという、電子機器の動作を狂わせる遅延発動術式です。発動すればCADが無力化されるSB魔法、確実に事故が起きていました」
「私も同じ見解だ。こんなものを仕組んだ挙句、これを指摘した生徒へ確認も取らず魔法を使おうとするとは。話を聞かせてもらおうか」
「ヒィ!?」
外で待機していたのか、軍人が突入してきて二人を拘束する。ここからは表立って軍と防衛省が動ける。七草家と十文字家も。
「私の権限でCADのチェックは防衛省が行えるように働きかけよう。大会も一時中止だ。態勢を整えるまで各校の生徒は自分たちのテントで待機していなさい。十文字克人君。君には悪いが十文字家として協力してもらう。響子、防衛省と軍へ通達しなさい」
「はい閣下」
「では、失礼します。皆さん、もう一度CADのチェックをするようお願いいたします。その電子金蚕の入ったCADだけ、証拠物品として預かります。できたら予備のCADを用意してくれると助かるわ」
「わ、わかりました」
平河先輩は藤林さんにCADを渡す。あの人たちなら大丈夫だろう。ぞろぞろと出ていく生徒たち。オレもドランゴの頭を回収すると、真由美会長に大きなため息をつかれた。
「まったくもう……。何をやらかしたのかと思えば。……でもありがとう。あなたのおかげで事故を防げたわ」
「事故っていうより事件ですけどね。でも真由美会長、まだ終わりじゃありません」
「まだ何か仕掛けてくるかもしれないの?」
「妨害が上手くいかなかったら何がなんでも中止にしてやるーって発想になってもおかしくありませんから。テントに全員集合、警戒して待機が一番良いと思いますよ」
というわけで全員でテント待機。調整機などは運営側が使っていた物は全部押収、代替品の準備にチェックができる人員の確保などに結構な時間がかかった。
途中で防衛省から各校にさっきの出来事と、電子金蚕についての詳細な報告書が配布。それによってどれだけ危険な事態に陥っていたのかを全員が把握して、このようなことがないように防衛省と軍による二重チェック態勢を現状構築中。
ただし観客や国民に不安を抱かせないために現在は機材のトラブルということで大会がストップ。とはいえミラージは夜の方が映えるため、始まりが夕方だというのが幸いしてモノリスが終わった会場にはあまり人がいなかった。
その間暇なのでエンジニア組が総出で残りの選手のCADを厳重チェック。問題はなかったけど、チェックの際に妨害魔法を仕掛けられるなんて思ってもなかったから全員が憤っていた。運営側を信用してチェックに出したらこうなったわけだから。
「ということはやはり、あたしの事故は七高のCADに電子金蚕が仕掛けられていたってことだな?」
「そうなります。そして水面に精霊を仕掛けた人間もいるはず。新たちが受けた事故も併せてどれだけの人間がクロなことか」
摩利委員長と達也がそんな会話をしていた。どうやら達也には軍から会場内にいた向こうの尖兵を捕らえたという話が来たらしい。それが会場で暴れるつもりだったと。
何で知ってるかって?四葉でもそういう人物を二人捕まえたから。十文字家も一人捕まえたらしい。本当に大会を潰す気だったなんて、短絡的だな。
「やるせねえし、無駄な怪我したとかやってらんねえよ。なあ、森崎。相田」
「そうだね。いや、サイオン弾の攻撃を受けてたから運営側が信用ならないって昨日の時点でわかってたんだけど。流石にそんなことあの病院で言えないじゃん?」
「……四高のテントに行かないか?彼らも被害者だ。僕たちが恨んでいないということは伝えた方がいい。『破城槌』を入れられた選手もエンジニアも、気が気じゃないだろう」
森崎のその提案で真由美会長に許可を貰って四高のテントに赴いた。そこであの事故の真相などを話して自分たちは気にしていないこと、風評被害には負けないでほしいことを伝えた。あの事故が運営側のミスだと世間に知らされるかはわからないが、お互い残念な結果になったと慰め合った。
四高の当人たちは濡れ衣な上に気が気じゃなかったと大号泣。四高の選手たちは自分たちがそんなことするないとわかっていたが、世間の目は厳しかったと。四葉で貰ったサイオン観測の俯瞰映像を見せて、これを四高にあげた。コピーはある上に、これで風評が消えるならありがたい。
黒羽姉弟が入学する予定だからね。これくらいはしないと。
ちなみにこれ、その後九島閣下に提出した。内部犯全員をひっ捕らえた後、大会が終わったら組織を一新するために今回の不祥事をきちんと公表するようだ。
色々準備が終わった後、ミラージが再開。
跳躍魔法を駆使する者もいれば、飛行術式を使う者も。ただ残念ながら、達也と深雪には誰も敵わない。本家本元と四葉の本流に敵う者はいなかった。
新人戦だってほのかとスバルが達也の飛行術式を奥の手として用意して最後にそれを使ってワンツーフィニッシュだからな。その二人よりも圧倒的で、飛行術式をいくら使ってもサイオンが尽きない深雪に勝てる相手なんていない。
このポイントで総合優勝が確定。まだ明日があるために浮かれないけど、その代わりに新人戦優勝パーティーは開かれた。立役者の一人である達也はいないまま。
深雪は疲れて寝ているとか言ってたけど、そんなわけない。
軍人としての仕事をしに行ったのだろう。その辺りは口裏を合わせておこう。オレって軍関係は全然知らないから何がどうなってるのか全く知らない。オレを軍に関わらせないためだろうとは思うけど。
新人戦祝賀パーティーは結局総合優勝の前の前座でしかなかったので凄く盛り上がったということはない。森崎と深雪、雫とほのかが貢献したということでその辺りが褒められていた。
オレは二年の先輩方に褒められまくったけど、ライデインについては答えられなかったし、干渉力のゴリ押しだったからつまらなかったんじゃないかと思う。
あと、ドランゴで会場の警備をしていた話が凄くウケた。姿隠すのにもってこいだったから使っただけなのに。
小早川先輩と平河先輩にも感謝されたけど、オレのように誰かが大怪我したり気に病む人を出したくなかっただけだ。
それを言ったら色々な人に撫でられた。あずさも苦笑していたけど、止めてよ。
十文字先輩と七草会長の姿はやっぱり見られなかった。十師族として大会のことや選手として参加していて気付いたことでも報告してるんだろうな。大会の存続に関わる案件だし、大元がダメになったら軍と防衛省、十師族が建て直すしかないんだから。
お開きになって夜中。達也から終わったという報告を受ける。それで久しぶりにオレは安眠に着く。明日にはボクに戻っているだろう。