魔法科高校の「大賢者(嘘)」 作:ギャングスタ
九校戦最終日。この日はモノリスの決勝リーグのみ。
これがなんというか、酷いものだった。
決勝戦以外はとても試合らしい試合、プロも顔負けの魔法や試合運びが見られたのに、決勝戦だけはそれまでの様相と変わり果てていた。
一高と三高の試合だったんだけど。十文字先輩が一人で突撃して得意魔法の『ファランクス』だと思われる障壁魔法で吹き飛ばすというかなりの力業。あとの二人はモノリスの前で待機してるという決勝戦だった。
なんか十師族で一条が不甲斐ないところを見せたために威信を示せとかなんとかっていう通達があったらしい。一条はモノリスで負けただけだけど、相手が無名の達也くんだったというのが悪いんだろう。あとはボクと威力という意味で引き分けたことも。
別にどっちも四葉の傍流だから問題ないのになあ。それを知らない人たちはさあ大変。慌てふためいて自分たちの護身に走ったと。達也くんはともかく、ボクの家系のことは知ってる十師族多そうだけど。九島閣下が知ってたし。
真夜様すっごい悪い顔して十師族会議に参加してたんだろうなあ。七草をまた糾弾したりしたんだろうか。
それとボクに関しては養子も婚約も望んでいないということが閣下の直筆付きで通達されたらしい。これに十文字家と九島が賛同してくれたらしくて、後から一条と三矢、五輪に六塚も賛同してくれたらしい。五輪は七草との婚約話を進めるためだったらしいけど、他の家は四十田家のことを知っていたらしい。
真夜様から急ぎで伝えられたことばっかりだから確証が持てない。多分安全なんだろう。
四葉としては目立たなかったから大満足らしい。過半数が賛同したんだから目立つ必要がないしね。
というわけで一高が新人戦・本戦・総合優勝の全制覇。この後閉会式を行った後、夕方から後夜祭が始まる。
今度は前夜祭のように長ったらしいお偉いさんの挨拶などなく、本当にただの交流会らしい。
そこへボクも向かったわけだけど、会場の前で一条とカーディナルがいた。
「相田。少し話がある」
「……めんどくさ。あずちゃん、先入ってて。すぐ行く」
「あ、うん。頑張ってね」
ボクが離れた場所を指すと、一条は頷いて歩き出す。カーディナルは来ないようだ。ってことは十師族関係の話かあ。
人気のいないところに着くと、一条が防音の魔法を使ってくれる。秘密の話がしたいからってこんなにポンポン魔法使っていいのかね。
「それで話って?」
「ああ。お前が十師族の師族会議で議題に上がった。俺を倒した人間として十師族に引き込むかという話だ」
「真由美ちゃんからも同じ話されたよ。それで?」
「結局見送りになった。お前が数字落ちだと知っている家がいくつもあったからだ」
「はいはい。漏らさなければどうでもいいよ。だからボクは十師族に返り咲くこともないし、二十八家にも戻れない。分不相応なことは望まないって伝えてくれる?七草に怒って言いそびれたからさ」
そんな報告のためにわざわざ話しかけてきたんだろうか。最悪十文字先輩に聞けばいいことだから他校の一条から聞くことでもないのに。
「俺は君に謝りたかった。君が只者じゃないと思って父に君のことを調べさせた。ほじくり返されたくない過去があったのに、俺の癇癪でそれを引き出してしまった。すまない」
一条が頭を下げて綺麗なお辞儀をする。それが目的?
まあ、本気で申し訳ないって思ってるっぽいしいいか。
「いや、ボクも悪かったよ。棒倒しであそこまでやる必要はなかった。どうせ負けるなら派手にって思って全力でやっただけだし。負けるならカッコよく負けたいじゃん?彼女も見てるんだし」
「ああ、中条さんか。すまない、彼女のことも調べてしまった。だが誰にも君たちの情報は漏らさないと誓う。それこそジョージにも。これは師族会議の決定だ」
「僕たちが婚約者ってことは一高でも知れ渡ってるから、それは言ってもいいよ。この後見せつけるし」
あずちゃんも無名の家としてはあり得ない才女だからなあ。何で無名の家出身なのに次期一高生徒会会長筆頭で成績は常にトップで精神干渉魔法使えるって。とんでもない才女だよね。
「モノリスで決着をつけたかったが、あの事故は残念だ」
「ああ、それ。悪いって思ってるなら十師族であの事故についてちゃんと発表してよ。四高が可哀想だし、来年の受験者減るよ?」
「もちろんだ。それについてはもう動き出している。他人事じゃないからな。……だからこそ、賭けなんかに邪魔されたのは苛立つ」
「賭け?賭博の対象にされたからあんな妨害があったっていうの?」
「む。悪い。これは最重要機密だった。一切の他言無用だ。既に軍が動いて問題を解決してる」
「オーケー。不信感をこれ以上募らないためだね?」
ボクからしたら知ってる情報だから機密でも何でもないけど、一般人のボクが知ってるのはおかしいことだ。だから知らないフリをする。
それにこの事実を知ったら怒る生徒がいっぱいいるだろう。話の内容は小さく纏められるはずだ。海外の組織に介入されたとなれば国防軍の面子に関わる。もちろん十師族の評判にも。だから日本国内だけの話で終わらせるだろう。
「モノリスはなあ。あのメンバーで戦ってたら君たちには勝てなかったよ。ボクって魔法の実戦がすごい苦手だからね」
「そうなのか?じゃあ来年は?」
「モノリスには絶対出ないよ。男子が不甲斐ないからって数合わせで出たんだから。元々ボクの本業はあずちゃんと一緒でエンジニアなの」
「あれだけの魔法を使っておいてか?……俺が戦った三人がいれば来年のモノリスに出る必要はないな。だとすると棒倒しとエンジニアか?」
「かもね。来年ルール変更とか競技変更がなければ。運営組織委員会が大々的に変わるでしょ?そうなったら全種目取っ替えとかになるかもしれないし」
「モノリスは残るだろうけどな。可能性としてはなくはない」
それほど今の組織委員会はやらかしたわけだし。何を積まれたのか脅されたのか知らないけど、海外のシンジケートの言いなりになって国内の有望な魔法師の卵を害したんだから。そんな汚点をそのままにしておくとは思えない。
競技の変更自体は前例がある。それが来年でも不思議ではないって話で。
「……それと、犯人の炙り出し。あれの協力に感謝を。本来であれば十師族として俺がすべきことだった」
「昨日なんてまだ鼓膜治ってなかったんじゃないの?それに、調子に乗るな。十師族だから?国防の要だから?ハッ、そんなもん背負ってても重いだけだよ。アレは目星がついていて、取り押さえるのにボクの魔法が証明になるからやっただけだ。それにこれ以上の怪我人なんて見たくなかったし。そんな肩書きだけで何もかも背負うのはバカだよ。七草のように勘違いするのもウザいけど、必要以上に重く捉えるのも問題さ。
人間なんだからできることとできないことがある。自分が競技中に、他の競技で事故が起きたら君のせいなのかい?それは違うだろう?役目と責任と責務をごっちゃにしてる。君は凄い魔法も使えるし、国も守れるけど。全員の
これが本題。それに何か思い違いしているようだからちゃんと言っておく。
現場にいた十師族として問題解決できなかったと言うけど。それは真由美会長も十文字先輩も一緒だ。もし反省しているなら次に活かせばいい。
それに一条は北陸や東北西部の担当で、関東のここは管轄外。一条家として大々的に動けないのにどうやって解決するつもりだったんだか。
オレがそれをやっちゃったからだろうけど。今回は本当に適性の問題だ。オレの感知魔法が役に立っただけ。そんな魔法持ってたって事故に遭ったわけだし。
責任があるからって何でも背負うのは間違ってる。これも彼が戦場を経験しているからだろうか。
人間は人間でしかないのに。何もかもを救う物語の主人公は、物語の中にしかいないんだよ。
これも魔法の行使にイメージが重要だっていうことが関係してるのかな。おそらく強すぎる力だからそれを正しく使うために必要以上に考えてるんだろう。
つまり、オレと一緒ってことだ。
「人間一人じゃどうしたって限界はあるでしょ?君は将来人の上に立つんだろうから他人に頼ることを覚えた方がいい。何もかも背負ったら心も身体も壊すよ。あのカーディナルに頼ってるなら、それの七割くらい他の人にも頼ればいい。それこそ同年代の十師族とか、二十八家とか」
「じゃあお前に」
「ホントそういうの間に合ってるから。十師族に関わるとか嫌だから。ボクは数字落ちだから将来そういう繋がりを持てないの。お分かり?」
「だからこそ、お前のような人がどう考えるのか気になる。他人の視点を知るのはいいことだ。俺はお前と話してみてその重要性を噛み締めたよ」
まあ、いいか。他人に頼れって言っちゃったのはオレだし。
プライベートナンバーを交換するけど、そこまで頻繁に会話できるわけじゃないことを伝える。やりたいこといっぱいあるし、四葉本家とかに行ってたら出られないだろうし。
「それと、司波深雪さんを紹介してくれないか?この後のダンスパーティーで踊りたい」
「……それが本当の本当にしたかった本題だな?十師族のエリート様はそういうところでも失敗できないわけだ」
「べ、別にいいだろ」
「競争率ヤバイのと、怖い番犬がいるからそれだけは気を付けてね」
秘密の会話も終わって会場に戻る。皆深雪にやられすぎじゃない?他の女の子が怒るよ?
というわけで後夜祭が始まってお偉いさんがいなくなってから達也と深雪に一条を紹介したらまさかの一条が二人を兄妹だと気付いてなかった。嘘でしょ。
そのままダンスに移行。兄妹で踊るわけにはいかなかったからか、達也が深雪を一条に譲っていた。珍しい光景もあるもんだと、思わず自分の頬を抓ったら反対側を達也に抓られた。いひゃい。
「じゃああずさ。空で踊ろっか」
「え?……だから硬化魔法を入れてって言ったの?」
「当たり前じゃん。あずさのスカートの中を覗かせるわけにはいかないし」
小声でトベルーラと呟いて、そのまま空でダンスをする。荘厳な音楽を下に、習ったこともない適当ダンスを踊る。オレもあずさも適当だ。四葉本家でダンスとか習わなかったし、そんな時間があればCADを弄りたいって人種だし。
「ほ、ホントに見えてない?下の人たちすっごく注目してるような……」
「大丈夫。そんな邪な感情持ってないよ。魔法で把握済み。飛行術式が珍しいだけでしょ」
「そうかなあ?」
あとはダンスが適当すぎることだろうか。ダンスと呼べない何かを続けていれば変にも思われるだろう。
このダンス、いわゆる婚約者探しの面もあって色々なダンスを踊りつつ有望な人とのお見合いを兼ねているらしくて、他の人と踊りたくない、踊らせたくないというオレの我欲で実行した。あずさをたとえ同校の男子だろうが踊らせてたまるか。
手を繋ぐことはおろか、密着させるなんてオレが許さない。たとえ達也や森崎、桐原先輩や十文字先輩でも許さなかっただろう。
だから深雪をあっさりと一条と踊らせた達也には驚いたんだけど。そういうところは兄妹だよね。
「達也さん!私も空で踊りたいです!」
「ほのか。飛行術式をインストールしたCADなんて……持ってきてるのか」
達也もなぜか深雪に持たされていたらしくて、達也とほのかも空へやってくる。達也にめっちゃ睨まれた。知らないなあ。オレはただあずさを独占したくて、その計画をポロっと呟いたのを一年女子に聞かれちゃっただけだし。
深雪だけ特別扱いしたら達也スキスキ女子が爆発しちゃうかもしれないから平等にしただけ。深雪も何も言わなかったし、サイオン量の関係で女子がずっと独り占めできないことがわかってるからだろう。あれ燃費悪いし。
一年女子の表情が良いんだから良しとしようよ。どうせただのお祭りだし。これも普通の学生だよ。
なんか真由美会長が下で「ずるいずるい!」とか叫んでるけど知らないなあ。……実は飛行術式をこのパーティーで使っていいか確認するために十文字先輩と鈴音先輩に確認を取ってもらったけど、鈴音先輩が上級生で唯一飛行術式を用意したのも知らないなあ。
達也が練習用として用意していた予備のCADを持ち出してくるなんて特権乱用な気がするけど、お茶目なところもあるんだなあ。
そういうわけで達也は結局ほのか・雫・スバル・滝川和実・春日菜々美・鈴音先輩・深雪と踊っていた。それを一人で捌く達也にもびっくりだし、最後は独占していた深雪にもびっくりだ。他の皆さんは辛うじて一曲分ってところだったし。
「あれだけ一人で飛行術式を維持している相田って凄いのでは……?」
森崎、オレのは呪文っていうズルだから。サイオン量はそこまでないよ。数字落ちっていう事情を知っている一条は白目で見てくるけど。十文字先輩は一周回って楽しそうに豪快に笑っていた。
ダンスもお開きになったようで、演奏が終わる。空から下りると拍手喝采になった。そういう様式なのかなとオレも拍手をすると、どうやらオレと達也、それに深雪に向けられてるっぽい。飛行術式を使いこなしてたからか。
オレは呪文だし、達也は産みの親。深雪はその産みの親直々に選んだテスター第一号で達也が認める才女。制御においては頭抜けてるのも当然で。
「うぅ……。酔ったかも」
あずさが弱々しく呟く。自分の意思で飛んでたわけじゃなくて、オレにひっついてた形だからしょうがない。それに運動は得意じゃないからな、あずさは。
「ごめんごめん。でもこの時間を譲りたくなかった」
「少し恥ずかしかったけど、良いよ。達也くんの面白い顔も見られたし」
この後、会場では総合優勝した高校で貸し切って祝賀会が開かれる。これは総合優勝した高校の特権のようだ。
あずさは酔いが収まってから参加するようで、近くにあった椅子に座らせた。他の学校の生徒はダンスパーティーが終わって出ていく中、オレは主に同級生にさっきの飛行術式もどきについて詰問される。
CADが特殊なものだから消耗が抑えられたと言い、その証拠にグランスライムを見せた。最高級CADだからか、皆納得してくれた。
あと気になったのは鈴音先輩が真由美会長に詰め寄られてるけど、気にしなくて良いか。十文字先輩が鈴音先輩を庇おうとして矛先が向いた。あの人紳士だなあ。
というか。変な噂流れてたけど良いんだろうか。十文字先輩と真由美会長がうんたらかんたらって。さっきも実際踊ってたし。そんな噂が流れてる割には真由美会長、達也に意味深な目線向けてるしちょっかいかけてるよなあ。
達也ってモテモテなんだよね。将来誰と付き合うんだろ?それを脇から眺めたいけど、深雪の絶対零度からは逃げたいなあ。