魔法科高校の「大賢者(嘘)」   作:ギャングスタ

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横浜編3

 七草真由美は激怒した。

 必ずかの邪智暴虐なタヌキ親父を滅せねばならぬと。

 あの男は娘の心がわからぬ。だから真由美に対して複数の婚約を持ちかけ、更には学校の後輩にまで手をかけた。しかも相手には婚約者がいる相手だというのに。

 その相手に手を出したばかりか、同棲している家へ監視の人員を送り込むなど、人間のすることではない。必ず問い詰めねばならぬ。

 だから家に帰って鞄を置くと、ドタドタと足音を立てて父の執務室の扉を強引に豪快な音を立てて開け放った。

 

「真由美。淑女としてあるまじき行動だ。改めるように」

「うっさいわね、このタヌキ親父!今日という今日は我慢ならないわ!」

 

 注意した隻眼の男、七草弘一は眉をひそめた。よく思われていないことはわかっていても、ここまで声を荒げられたのは初めてのことだったからだ。

 

「今すぐに相田家に送ってる人員を取り下げて!婚約を断られたからって、そこまでする!?」

「怒りはそのことか。撤退などさせるか、あの家は継続して監視させる」

「何でよ!あの精霊魔法?感知魔法?エンジニアとしての腕?何にせよ、十師族に関わりたくないって言ってるのよ!これ以上醜態を晒さないで!」

「本人からそう言われたのか?フン。奴は四葉の関係者だぞ?あちらに手を出される前に警戒をしておかなければならない。四葉は厄介ごとを産み出すからな」

「四葉?ご両親がFLTで働いているだけでしょう?」

 

 FLTはフォア・リーブス・テクノロジーという名前なので直訳すれば四葉に関係がありあそうだが、日本の企業にはその名前の恩恵に授かって四葉や八葉を名乗る企業が多い。FLTもそういった企業の一つだと思われている。

 

「相田家は四十に田んぼの田で四十田(あいだ)と読む数字落ちだ。第四研究所で精霊魔法を扱っていたとは聞かないが、感知魔法が精神干渉魔法の副産物ならおかしな話じゃない」

「……調べたの?数字落ちなんて詮索してはいけないって決めたのは十師族なのに!」

「随分と古くに落ちたために調べるのに苦労したがな。だが、かの家が大漢への報復にも参加していたことは確認している。あの家は、十師族の中でも危険なのだ」

 

 そう言われて、真由美は更に頭に血が上った。父親は身内を警戒しているが、それ以上の出来事が今起きていることに気付いていないのか。

 

「なら八王子に呂剛虎と思われる魔法師が侵入してたことは何か対処してるの!?こっちの方が危険じゃない!」

「バカな。大亜の魔法師が何故八王子にいる?」

「知らないわよ!新君が接敵して逃げてきたの!もうすぐ十文字家から通達されるはずよ。十文字君が監視カメラの映像から撤退するかの魔法師を確認したって言ってたわ」

「なぜそれをすぐに言わない」

「国防よりも四葉を警戒しているクソ親父の目を覚まさせようとしたからに決まってるでしょ!」

 

 真由美は端末で十文字から伝えられていたが、弘一は知らなかったらしい。だが間も無くその通達が来るはずだ。

 ちなみに。その映像は黒羽がすぐさまハッキングして作った偽映像である。横浜方面に逃げて途中から大陸由来の隠蔽魔法を使ったかのように見せている。本人は今、四葉の本拠地で拷問されている頃だろう。

 東京の守護者が聞いて呆れると、真由美はガルルと父親に対して唸ってみせた。

 

「四月の一件も九校戦も後手に回り続けてるのに、どうしてそんな体たらくなのかしら!?十文字家が大変なんだから、七草が余計に頑張らないといけないのにやってることは一高校生のストーカー!?バカじゃないの!」

「……ここのところ横浜で続いている事件の余波か?しかしそこまで入り込まれているとは、三矢は何を……」

「他所の家のせいにする気!?もう関東に入り込まれたんだから、対処すべきは私たちでしょ!」

「真由美、出ていけ。すぐさま師族会議を行わなければならん」

「相田家の監視を解くのが先よ。九校戦や今回のことで借りがある相手を危険だからって監視するのは筋が違うわ」

 

 真由美のその言葉で弘一は七草の者を撤退させた。目の前で指示を出したことで真由美は部屋を出て行く。

 だが、弘一は諦めていない。バレたのならもっと遠くから、違う形で監視すればいいと考えていた。そのために一時撤退させただけだ。

 四葉の秘密兵器かもしれない少年。数字落ちとは格好の身を隠せる場所だ。もしかしたら彼こそが四葉の後継者かもしれないと考え、弘一は警戒を続けたまま。

 四葉の一強状態では、十師族が成り立たなくなる。それを警戒するのは最大派閥の七草だからこそ。

 そして解せないのは九島老師が彼を十師族に取り込まないように進言したこと。これを弘一は怪しんでいた。数字落ちだからと言われたらその通りだが、四葉が増長することを良しとしなかった老師が、四葉に関連のありそうな人物を老師の権限で守ったのだから。

 何かあるとは思っている。その何かを探るために、人員は保ったまま。

 

 

「ハッ。距離は取ったみたいだけど、まだいるじゃないか。距離を離せば、アプローチを変えればバレないと思ってるのかねえ」

 

 厄日の夜。また家の周りで感知魔法を使って、更にはハッキングとかも確認してみたけど、まだ七草の監視は続いてる。

 これ、達也にも伝えておこう。軍がいっそ怪しい集団としてひっ捕らえてくれないだろうか。社長夫人が襲われた関係で今も軍がこの周辺を警戒しているらしいし。それにしては朝方軍の人たちに会わなかったけど。

 多分警戒をしていたのは横浜なんだろうな。港に不法侵入しようとした船があったらしいし、論文コンペもある。魔法師協会もあるから警戒するならあっちだ。

 こっちに割かれている人材が少ないんだろう。

 

「あっくん調べ物?」

「ストーカーの確認。電子攻撃だって七草のものとわからないような弱いものをいくつか仕掛けられてるよ。……たった3km先で潜伏してたってこっちは気付けるのに。黒羽の皆さんに連絡しよう」

 

 お風呂から出てきたあずさに報告しながら黒羽に依頼を送る。達也が軍を動かしたことも伝えたから、そこまで調べ物はできないのかもしれない。

 あ、メールが来てる。あずさが居ても開けていいやつ、だな。アドレスが家向けだ。ってことはあずさと一緒に確認する内容か。

 

「あずさ。本家から」

「メール?」

 

 開いて、内容を確認する。

 八王子に大亜を含む海外スパイが多く侵入していること。一勢力は世界の抑止力とも言うべき調査員たちであるため害意はなし。

 大亜の狙いはFLTに運び込まれた魔法式を記録・保存するというレリック目当て。魔法後進国であるため、魔法師の発展に繋がるレリックを確保したいのだろうということ。大亜に所在がバレた理由は国防軍の経理から委託先が漏れたという杜撰なもの。

 また、大亜の最終目標は横浜の魔法師協会を襲撃して論文データなどの奪取、及びそのまま開戦に踏み込むかもしれないとのこと。軍艦を横浜に向けているという。

 ……これ、あずさに見せて良かったんだろうか。師族会議で十師族には伝えるとも書かれてるけど。

 半日でここまで情報を抜き取るなんて黒羽の部隊は凄いな。

 

「戦争……」

「三年前から続いてるからね。論文コンペに合わせてるのか……。多分この内容は十文字先輩から伝えられるから、達也にもすぐ伝わるな」

「四葉からの情報なんて言えないもんね……。でもあっくん、あの人喰い虎をよく倒せたね?」

「空飛んで遠距離からチマチマと。向こうが遠距離技なかったから相性の問題だよ」

 

 一条とかみたいに遠距離魔法が得意だったらやりにくくて仕方がない。オレの呪文はどうしたって呪文の名前を言わないと発動できない。その発声よりも前に魔法を使われたらオレは負ける。死ぬ。

 最初から距離が離れて戦う近距離特化の人ならどうにかなるってだけ。レンジの問題だけど。

 家に帰ってからあずさに本当のこと伝えたら仰天してひっくり返ってた。そこまで有名な魔法師だなんて知らなかったんだから仕方がないじゃないか。

 

「大亜もそうだけど、七草邪魔だなあ……」

「かいちょ……真由美さんが進言してくれたから距離を離してくれたんだろうけど、まだ警戒されてるんだね。やっぱり呪文を見せちゃったから?」

「いやあ、どちらかっていうと九校戦の前夜祭で精神干渉魔法を対処したことらしいよ?あの場に七草の当主いたらしいし」

「……それも呪文だよね?」

「感知したのは魔法だから。精神干渉魔法ってことで四葉との関わりを疑われて、数字落ちってことがバレて警戒したままってところだろうね。中条家も調べられてると思う。あずさがレアすぎるから」

「いたってなんてことのない家なのに……」

 

 ただ単にあずさが突然変異なだけなんだよな。それを七草が怪しんでいると。

 というか数字落ちって本当は調べちゃいけないはずなんだけど?両親もオレが呪文を使えることを知らなかったら四葉に顔を出す気もなかったらしいし。

 四葉がオレや達也、深雪っていう戦力を抱えてるのは事実だけど。人数も少ないしそこまで危険じゃないって思うのはオレだけだろうか。七草は質も量も確保しているって聞くし。そりゃあ怒って一つの国を滅ぼしたのはマズイかもしれないけど、真夜様拉致られたら報復くらいするのも当然じゃないか?酷い実験もされたらしいし。

 これはオレの破壊衝動から来る感情だろうか。それとも一般人の感覚なのか。イマイチわからない。

 

「戦争については軍と十文字家、それと三矢に任せるしかないだろうね。師族会議が行われたなら流石に色々と動くだろうし。人喰い虎ってあっちのエース魔法師なんでしょ?それを倒したんだから、まずは一歩リードだと思いたいけど」

「主力を取り戻すために行動を早めることもあるかも?」

「ああ、ありそう……。あずさ、学校でも基本的に一緒に行動しよう。何があるかわからないよ、これ」

「うん……。学校もなぜか狙われてるんでしょ?」

「たぶん達也たちがFLTの関係者で、レリックの保管場所を知ってるとか思ったんじゃないかな。戦争の余波で失いたくないから確保しておきたいとか。流石に八王子に外国の軍が部隊を展開するのは無理だと思うけど……」

 

 揚陸してから港町を襲撃なら海で準備しておけばいいけど、陸地の八王子に部隊を即時展開はできないはず。人員を空輸するにしたって、そこまでして一高を襲うとは思えない。横浜の魔法師協会の方がデータや機材も揃ってるだろうし、海外の部隊が展開するなら立地的にも適している。

 オレはそういう軍での行動とかは詳しくないけど、一般的に考えてもそういう思考になる。あえてそれを囮に八王子に大部隊を展開して強襲する、なんてあるだろうか。そこまでのものが一高にあるとは思えない。

 

「人喰い虎が偵察だったのか、狙う人物がいたのか。彼で終わりってことはないだろうし。……はあ。魔法を全開にするしかないかぁ」

「範囲増えたんだっけ?今ってどれくらい感知できるの?」

「半径10kmで球体の中に入れば全部。まあ、全開にすればって話で、普段は1kmくらいに抑えてるけど」

「……前って200mとかじゃなかった?」

「深夜様が制限をかけてたらしいけど、九校戦で危なくなったからって制限取っ払ったらしいよ?その代わり精神安定剤を常備しなくちゃいけなくなったけど」

 

 街丸々感知できるせいで、雑多な感情まで把握できるようになってしまった。人の感情が頭に流れ込んできてパンクしないようにと飲み薬を処方された。

 この家を襲撃して来るのが七草なのか大亜なのかわからないから、最近は寝る時も全開にしてるけど。そのせいで薬を飲む回数が増えた。

 本当に七草だけはどうにかして欲しいんだけど。邪魔すぎる。

 

「一旦引いたと思わせて攻め込んで来るってこともあるよなあ。特に今夜なんて狙ってきそう。夜も警戒しないとかあ」

「大亜の方は黒羽の皆さんが対応したから足はついてないんだよね?」

「でもこの街で消えてるわけだから調査員は送ってくるはず。七草も油断させたところで寝首をかいてってこともあるだろうし。……ゆっくりしたい」

「ホントだね。落ち着いたらどこかに遊びに行く?」

「賛成。甘いものいっぱい食べてダラダラしたい」

 

 

 あっくんの目は閉じてる。だけど、脂汗がすごい。

 身体は眠っていても、魔法を使って襲撃がないか備えてる。きっとわたしを守るため。

 あっくんは自分のことにあまり頓着しない。今日人喰い虎と戦ったこともそう。九校戦の事故の時も、四月の一件だって他人のために行動していた。

 自分の怪我や、秘密よりも目の前の人を守るために行動してきた。

 もしもあっくんが一人暮らしをしていたら寝る時まで魔法を使ってないと思う。家の警護システムに任せて、それから対処したはず。

 

「あっくんの重りにはなりたくないなあ……」

 

 そう思いながらも、やっぱりあっくんのことは好きで。離れたくなくて。

 少しでも負担がなくなればいいなと思って、唇に唇を合わせてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……起きてたってことは言わないでおこう。あずさが慌てるだろうし。……でも本当に夜中でも監視してるんだな。一発ガツンと言わなきゃダメか?)

 

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