魔法科高校の「大賢者(嘘)」   作:ギャングスタ

27 / 29
横浜編5

 横浜中華街。そこの有名な飲食店の一室で、ある男達が密会を行なっていた。

 大亜の特殊工作部隊の隊長、陳祥山(チェンシャンシェン)と横浜中華街を影から牛耳っている(チョウ)の二人だ。

 陳は本国から横浜に攻め入るように通達されていて、実際下準備のために密入国して様々なことに手を出してきたが、その表情は暗い。

 その理由は部隊のエースである呂を失ったからだ。

 

「周先生。我が部下の行方は……」

「申し訳ありません、閣下。私も手を尽くしているのですが、東京近郊での防犯カメラの映像が偽装されていることまでしか掴めておらず。彼がどこにいるのか、誰に捕まったのかすらわかっておりません」

「そうですか。まさか一高の生徒にやられたはずはありませんし、それなら防犯カメラをどうにかするとも思えません。つまりは軍や十師族、またはこの国に紛れ込んだイリーガル……」

「はい。この国の軍と十師族は精強です。彼を尋問してこちらの狙いを掴んでいることでしょう」

 

 周はそう言う。それくらいの予想は陳でもできていた。

 しかも陳からすれば一高へ送り出したスパイもいつの間にか捕まっていたのだ。何も成果を上げずに。その口封じをしたかったが、こういう時に確実に口封じができる実力者が捕まっている。ただの襲撃じゃスパイを殺せない。

 そもそもの失敗はレリックを持っているであろう司波達也を捕らえるために最強のエースを投入したのが間違いだったのだ。自分達が送り込んだ部隊が全滅させられたことで危険度を引き上げて確実に抹殺しようとしたら、返り討ちにあったのか。

 

 狙っていた司波達也も、可能性のある学生の相田新も、何事もなかったかのように学校生活を送っていることは確認済み。化生体のことはバレていないようだが、こちらが打った手はことごとく失敗している。

 レリックを狙った襲撃。FLTへのサーバー攻撃。疑わしい者の抹殺。一高へのスパイ。何もかも失敗だ。最近では東京に放っている監視すら徐々に消されている事実。こちらは十師族の手によるものだとわかっているが、それだけ。

 何も自体は好転していない。

 

(だというのに、本国はタイムスケジュールも変えようとしないし、部下を取り戻すなら自力でやれと宣う!近接戦闘では世界的に有名な呂を見逃すとかバカか!?それとも戦争に勝利すれば後からどうにでもなると思ってるのか!)

 

 陳はそう叫びたかったが、本国の襲撃は間も無くだ。こちらの作戦は筒抜になっているのかもしれないのに、日時も場所も変えずにそのまま突っ込もうとしている。

 そのための人員が、既に横浜に数多く上陸している。

 陳はこれが地獄への片道切符にしか見えなかった。

 

 三年前、彼らは負けているのだ。上陸もまともにできず、敗走している。だからこそ今回は更に時間をかけて作戦を考え、実行しようとしている。そこに掛けた時間と労力から、今更作戦の変更など効かないと思っているのだろう。

 日本の魔法師育成は進んでいる。むしろ大亜は遅れているのだ。魔法師の絶対数が足らず、質は向こうが上。いくら武装を強化して数を揃えても、三年前みたいに失敗するのではないかという考えが支配する。

 腹心の部下がいなくなったという精神的苦痛も、それに拍車をかけた。

 

「閣下。それでも本土決戦は実行されるのですよね?」

「そうです。先生には我々もお世話になりました。見返りはこの中華街への被害を最小限に抑えるで間違いはなかったですかな?」

「はい。ここは第二の故郷と言っても差し支えありません。魔法師協会のビルとは離れているので作戦の邪魔にはならないと思います」

「ですな。我々も恩人に銃を向けることはしません。当日は建物の中にいるよう通達を出していただければ。大通りなどはどうしても様々な兵器が通りますから」

「わかりました。そのようにいたしましょう」

 

 

 その日、達也は風間少佐から秘匿回線を受け取っていた。何の用事かと思ったが、最初は雑談だった。

 それも、親友に関することだ。

 

「達也。相田新は凄いな。あの精神干渉型魔法の前では悪事なんて働けない」

「関本勲の件ですか?確かに新の前で何か悪事を働こうとしたら即座に捕まります。九校戦でも見せた通りですね」

「彼は、軍に敵対しないな?」

「恐らくは」

「恐らく。貴官にしては随分と曖昧だな?」

 

 風間の苦笑に、達也は眉一つ動かさないままその意図を語る。

 達也だからこそわかっている真実を。

 

「もし軍が新の周辺を脅かすのであれば、新は相手がどんな組織であってもその力を振るいますよ。十師族でも軍でも国でも」

「七草と大亜のことか。それはこちらでも把握している。だがまだ直接的な行動に移していないようだが?」

「できる限り力を振るわないように、自分で制御しているとのことでした。あの精神干渉型魔法はそれが主目的の魔法で、感知については副産物だと」

「全く。君達四葉の傍流はどうなっているのだね?」

 

 風間の言葉通り、一部の人間は達也と深雪、そして新が四葉の血筋だということを知っている。達也と深雪は三年前の沖縄戦が原因だが、新については元四十田家ということが知られているからだ。

 そして三年前。沖縄戦を契機に四葉真夜が新のことを伝えて干渉しないように伝えた。数字落ちであることと、怒らせなければただの一子供であることを伝えたために。

 軍で三人のことを知っているのは独立魔装大隊だけだ。

 

「スカウトはしないのでしょう?叔母上に止められているはずです」

「精神干渉型魔法で自分を抑えないといけないような人間を軍に徴用しようとは思わん。軍としては静観だな」

「そうしていただけると助かります。俺も新とは戦いたくありませんから」

「それは心情の問題か?実力の問題か?」

「どちらもです。新を怒らせれば、俺はなすすべなく殺されるでしょう」

「……再成を用いてもか?」

 

 達也が恐れられる理由の一つ。どんな傷を負っても、たとえ死んでしまっても。24時間以内であれば復活させられる奇跡の産物。その対象が受けた苦痛を全て背負うという代償もあるが、何にしても破格の力だ。

 それを持ってしても、達也は殺されるという。

 

「いくらオートスタートが可能とはいえ、俺の知覚外から魔法を使われたら死にますよ」

「彼の射程はそこまであるのか?」

「俺の眼がそこまでないということもありますが、新は本当に怒ったら見境なしに実行しますよ」

「過去に実例があると?」

「新は記憶にないでしょうが。海外の魔法師による誘拐事件が昔ありまして。四葉の人間でしたが、その子供が殺されたのを知ってその組織を壊滅させていますよ。六歳の時の話です」

「十年前……?まさか反魔法師団体の『グレイス』が壊滅した件か?大亜にも繋がっていて、四葉が潰したという?」

 

 風間も知っている事件だ。日本の魔法師が一人誘拐殺害され、四葉が即時その組織を潰したという。四葉が触れざる者(アンタッチャブル)と呼ばれることに一躍かった事件だ。

 それを四葉じゃなく、六歳の少年が一人でやったものならば?

 

「四葉の秘密主義だから気にしていなかったが、まさかそんな……」

「事実です。叔母上に資料を頼みましょうか?新に手を出さないことの裏付けとしてなら快く送ると思いますが」

「いただこう」

 

 そのデータを受け取った風間は本格的に頭が痛くなった。達也が言っていたことが事実であること、たった一人で組織を壊滅した事実。

 そのデータの検証結果から達也に匹敵する魔法の使い手だとわかって、風間はそのデータを処分した。手元に置いておきたくないデータだったからだ。

 たった一つの魔法で各地に点在した反魔法師団体の施設を一切間違えず、周辺住民に被害を出さずに仕留めたなどという科学的にもあり得ない検証結果を見せられてどうしろというのか。

 戦略級魔法師を超える存在を秘匿しようとしている四葉に倣って、劇物は封じておくのが吉だと判断した。そしてその情報を誰にも渡してはならないと。

 パンドラの匣は、閉じておくのが一番いい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。