魔法科高校の「大賢者(嘘)」 作:ギャングスタ
結局、論文コンペ当日まで問題は起きなかった。化生体の監視は続いたけど、何か動くということもなし。対処が完全に後手に回っているのは七草が無能なのか、敢えて泳がせているのか。
当日になっても四葉の黒羽と新発田が横浜に展開してくれている。何かあったら動いてくれるんだろうけど、戦力としてはそこまで多くない。軍にも所属していなく、その上で十師族として領地を持っていない四葉が出張るわけにはいかないからだ。
なにせ確定情報ではないとはいえ、大亜は横浜と同時に他の場所も同時多発的に狙う可能性があるからだ。三年前の沖縄と佐渡ヶ島への侵攻作戦と一緒。だから十師族は自分達の領土を警戒している。
絶対に襲って来るだろう場所を七草と十文字、それと三矢任せだ。そこに軍と警察も警戒に当たってるけど、それでどうなるんだか。
オレはあずさと一緒に八時に会場入りしていた。一高の発表は三時からなのでメイン発表者の鈴音先輩はまだ来ていないけど、会場の警備などを受け持ってくれる人達のために一高生徒会として挨拶をしなくちゃいけなかった。
あとは達也と五十里先輩が会場控室の確認とかデモ機の確認をするから、それの立ち合いもしなくちゃいけない。他の学校との挨拶回りもあるからやることはいっぱいだ。
やることを頭の中でリストアップしていると、スーツを着た女性がこちらに近付いてきた。その人はオレの顔を見ると笑顔でこちらへやっててきた。
「お久しぶりです。九校戦以来ですね。相田君」
「防衛省の藤林さんですね。お久しぶりです。その節はお世話になりました」
九島閣下のお孫さん。藤林響子。オレとあずさは一緒に頭を下げる。
防衛省の人が何故ここにとも思ったけど、軍と警察が動いていれば防衛省も動くかと納得していた。
「論文コンペでの引き抜き、ということですか?」
「それも仕事の一つだわ。それとあなたへの警告を」
「警告?なんでしょう?」
「あまり、オイタはしない方がいいわよ?嘘つきは彼女さんにも嫌われるんじゃない?」
ああ、うん。なるほど。彼女のこと調べたけど人喰い虎のこと言ってるのか。黒羽の皆さんに彼女にはバレるかもしれないって言われていたからあまり驚きはない。
あずさは思いっきり驚いちゃってるけど。
「まあ、文句があるなら僕じゃなくて関東を守護すると宣っている十師族か侵入を許した軍に言ってほしいです。それに彼女には正直に伝えてますから」
「あら、耳が痛い。……防衛省から忠告よ。今日は危ないから、何かあったらすぐに避難しなさい」
「わかりました。忠告ありがとうございます」
大亜がやって来るんだろう。防衛省がそこまで掴んでいるのは優秀なんだろう。逃げろっていうことは逃げ道があるってこと。調べてあるけど確か地下通路が避難経路であったはず。それをあずさともう一度確認しておこう。
藤林さんはそのまま他の人にも用事があるようでオレ達とは別れる。あずさと確認しつつ防衛部隊の皆さんにも挨拶する。十文字先輩が責任者になって、後は各校の腕自慢がこの会場を警邏する。
一条も発見した。
「相田。それに中条さんも」
「ヤッホ。ごめんね、僕生徒会だからそっち参加できなくて。その代わりに良い人材揃ってるでしょ?」
「ああ。問題はないさ。中条さんも生徒会長就任おめでとうございます」
「ありがとうございます」
藤林さんが接触しようとしてたのは彼でもカーディナルジョージでもないのか。なら誰に声をかけているんだろう。市原先輩はまだ来ていない。他に目ぼしい人材でもいたのか、十文字先輩を訪ねているのか。
一条とも話していたけど、十師族でも大亜を警戒しているようだ。四葉も出張ってるけど、やっぱりメインは七草と十文字。専守防衛できれば良いんだけど、全方位をカバーするのは無理だろう。軍も動いているとはいえ本気の戦争なら物量とかも半端ないだろうし。
一条ともそこそこ話して、会場に戻る。もうすぐ始まるのだから席についていないといけない。
開会式が終わってすぐに各校の発表に移る。最近色々なことがあって眠いけど、今日は大ごとになるとわかっていたからずっと起きていた。正直他校の発表なんてまるで頭に入ってこなかった。興味ない内容ばっかりだったっていうのもあるけど。
ご飯も事前に買っておいたサンドウィッチを食べて、時々魔法の範囲を広げて調べるけどまだ大きな動きはない。もしかして作戦が変更になったのだろうか。あの人喰い虎は大亜でもエースだったんだから、中核を失って計画の見直しがあったとか。
楽観的かもしれないけど、防衛省が動きを掴んでいるんだからそんなはずないか。
お昼ご飯を食べ終わった後、僕は指定された席から離れる。
「あっくん?」
「ごめんあずちゃん。ちょっと外行ってくる」
「もしかして……」
「ああ、違うよ。でもそろそろかなって思っただけ。夜戦になるなら軍とかに任せるけど、夕方とかを狙うなら第一陣はそろそろ仕掛けそうだから。深雪ちゃん、あずちゃんのことお願いね」
「わかったわ。新さんも気を付けて」
護衛に深雪ちゃんは何か間違ってる気がするけど、とりあえず大ホールからは出る。人がいっぱいいたら動けないし。
警邏している皆さんに挨拶しながら、外の空気を吸いたくなったって言って外に出る。鈴音先輩とその護衛の摩利ちゃんと真由美ちゃんも来たけど、軽く挨拶するだけ。不審がられたけど気にしない。
そんな感じで外で目を閉じながら調べ物をしていて午後の三時過ぎ。獲物が引っ掛かった。
「デイン」
装甲車に向けて雷を落とす。この論文コンペ会場に向かっていた日本の物じゃない装甲車三台に落雷を当てて炎上。炎上したと思う。達也みたいな眼はないからわかんないけど。
やっぱり第一陣が動いてる。街中でも始まった。港とかでも軍艦が近付いてきたな。それにどこにいたんだか、結構な数の敵兵が横浜に入り込んでる。
「始まった……」
戦争だ。すぐに端末を取り出して、十文字先輩に繋げる。
「十文字先輩。始まりました。街で火の手が上がってます」
「外にいるのか?警備の者を外に回す。相田は中に入って避難準備を始めてくれ」
「了解です。運営側への連絡お願いしますね」
「任せろ」
当分こっちに向かってくる部隊がないことを確認して、会場に戻る。10km半径にいないのなら、いくら装甲車でもここに来るのに若干の時間はあるはずだ。歩兵なら尚更。彼らの本命はここじゃないんだから思い切った部隊を送ってくるとも思えない。
部隊を展開させるなら街中だと思うけど。安全策でシェルターに避難するのが今は一番だ。
会場は若干パニックになっていた。運営委員会の大人が現状を伝えて論文コンペの中止を訴えかけていたが、それを聞いてすぐに動き出せる高校生ばかりじゃなかった。
「あっくん!」
「あずさ、始まった。時間がかかっても地下通路を移動してシェルターに行こう。ここは防衛には向いていないし、それこそ狙われる機械や論文もある。長居する意味はないよ。……深雪は?」
「達也くんと一緒に、デモ機のデータを消すって言ってました。それが終わればすぐシェルターに向かうと」
半分嘘だろう。多分このまま達也は軍人として出撃する。既に軍は展開準備をしていたんだから、そのまま遊撃隊か何かで参戦するはずだ。深雪の安全を脅かされて黙っていないだろうし、今回のことなら四葉が出撃を許可している。
あずさにはその辺りを秘密にしているから言わなかっただけ。
「……とりあえず落ち着いて、先生たちと一緒に点呼を取ろう。それですぐに移動できる準備が必要だ。真由美さんは?」
「確認取るとかでどこか行っちゃった……」
「じゃあやっぱり指揮を執るのはあずさだ。オレも手伝うから安全に移動しよう」
「うん!」
それから点呼を取ってこの会場に来ていた人と、デモ機のデータを消すために残る人、警邏隊を除いた一高の会場にいる人を全員確認した。
まずは警邏隊の先鋭が地下通路の安全確認のために先行して、それに一高から順番に続くことになった。各校の護衛に森崎などの学校の警邏や風紀委員が就き安全性を確保して避難が始まった。一般人は一高の後に続く形になっている。
オレも魔法を全開にして危険がないかを探る。最初の内は順調に進んでいた。先行している人達も敵の部隊と鉢合わせすることはなかった。
けど。
「森崎くん。ここの上、地上と地下ってどれくらいの深さがある?」
「そこまで深くないから、精々10mってところじゃないか?……まさか」
「うん。真上を何かが通ってる。その何かまではわからないけど、無差別に爆破したりしないよね?」
「今通っている場所はどこかの重要施設へ繋がる道じゃない。それこそシェルターへの道くらいだ。だから無差別じゃない限り爆破はしないと思うが」
さすがボディーガードの家系。しっかり地図を頭に叩き込んでいる。
オレも感知魔法を全開にしているけど、そこまで無茶な、無差別なことはしないと思ってた。
けれど、その予想を上回る悪意が、一気に膨れ上がる。
「ッ!皆、対ショック態勢!揺れが来る!」
サーモグラフィーを使ったのか、それとも戦略的な何かがあったのか。
多大な爆薬を持って上が激しく揺れ、コンクリートでできた天井が罅入り、軋む音が鳴り響く。
「崩れる!ここから離れろ!」
すぐさま立ち上がる者。動けないけど大丈夫な場所にいる者。落下する物に備えている者。
そして天井が崩れ。
あずさの真上に、コンクリートの塊が降り注いだ。