魔法科高校の「大賢者(嘘)」   作:ギャングスタ

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IF 竜の現れた日

 

「あずさっ!!」

 

 手を伸ばす。だけど、間に合わない。魔法も呪文も、咄嗟の出来事に使えなかった。

 崩れ落ちた天井から降り注ぐ鉄塊。それにあずさが飲み込まれたのが、スローモーションで脳裏に焼き付く。

 誰かの悲鳴。焦る声。動きだした人。

 オレも、一目散にあずさに駆け寄った。どうして。どうしてあずさの頭上を狙ったかのように瓦礫が降り注ぐんだ。バギを使って瓦礫を除去して目に映ったのは、血だらけで呼吸が荒いあずさ。

 

「あずさ!ベホマ!」

 

 人目なんて気にせずに呪文を使う。でも、血は止まらない。傷も塞がらない。

 オレの呪文も完璧じゃない。生命力が残っている人間じゃないと、ベホマもベホマズンも使えない。効果を発揮しない。

 それが示す結果は。

 

「あ、あずさ……!ダメだ!諦めないで!」

「あっ……くん……。泣いちゃ、ダメ、だよ……」

「何で!クソっ!ベホマ!ベホマ!ベホマズンっ!」

 

 手から黄緑色の光は出る癖に。あずさの状態は一向によくならない。顔からも赤い色が抜けていく。手を握っても、段々熱が外へ流れていく。

 

「あずさ、何とかするから!待って……!何でだよ……!深夜様も穂波さんも水波も治せたのに!何であずさはダメなんだよ!?」

「あっくん……。もう、わかるの……。ごめんねぇ……。ドジで、咄嗟に動けなくて……。運もなくて……」

 

 

 

 

──愛してるよ──

 

 

 

 

 耳に辛うじて届いたその言葉と一緒に、握ったあずさの手から力が抜ける。口が、動かない。目から涙がこぼれ落ちる。

 心臓の、鼓動が聞こえない。

 

「あ……。あああああああああああ!?ザオラル!ザオラル!……ザオリク!」

 

 いくら叫んでも、オレの手に呪文の光は集まらない。

 オレでは、蘇生呪文を使うことができない。

 

 

 

 

 

「あずさ……。あずさあああああああああああああぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれだけ時間が経ったのか。おそらくそんなに時間が経っていない。

 それでも目が痛いほど涙を流して、あずさのことを抱きかかえて。

 状況は一変し、時間は進む。

 あずさがいない世界は、酷く色褪せて、味気なかった。

 

「……相田。敵戦力は排除した。今も警戒を続けてるけど、第二陣は見当たらない。……でも、ここにいたら危険だ」

「森崎……」

 

 敵兵と思わしき人間が血溜まりで倒れている。その死のサンプルがあって、あずさの死を実感する。

 動かない身体。呼吸をしない、辛そうな表情。

 もう、言葉も交わせない。あの笑顔も見られない。

 一番、大切な人。

 

「森崎。あずさをシェルターまで運んでくれる?君にしか、任せられない」

「……っ!わかった。僕が必ず中条会長をシェルターまで安全に連れていく」

 

 あずさを抱き渡して、オレの制服の上着を脱いであずさにかける。包帯もないし、さっきの戦闘で負傷した人もいるだろう。その人達の医療道具を使うわけにはいかない。

 

「相田、お前は……」

「あの穴から出て、大亜に打って出る。……止めないでよ」

「……死ぬなよ」

 

 トベルーラを使って地上に出る。魔法の効果で敵が誰だかは瞬時に把握できる。

 けど、このまま戦争に出て行ったらオレの貧弱な身体じゃ弾丸一発で死にかねない。

 なら強固な身体を。銃弾なんて当たらない俊敏な肉体を。悪人を斬首する双頭剣を。

 

「モシャス」

 

 褐色肌に、緑色の防具。緋色のマントに、悪魔のような角を生やして。

 オレは、「破壊と殺戮の神」となろう。

 魔法で補足した機動兵器に、ロックオンと同時に呪文を使う。

 

「ギガデイン」

 

 何十本もの雷が横浜に降り注ぐ。雷を発生させてしまったためか、黒い雲が辺りを埋め尽くして嵐を運んできた。ルナ系の呪文は使っていないのに。

 近くにいた敵には剣を振るって身体を両断したり、首を跳ね飛ばした。逃げようとした者も残さず捕まえ、腕力だけで建物へめり込ませたり、蹴り飛ばして地面に埋めたりした。弾丸が身体に当たっても、高い防御力から全く痛くなかった。傷にもならない。

 悲鳴をあげながら逃げても、敵ならば容赦しない。相手も同じことをこの場でやってきたんだから。相手は殺すのに自分が同じ立場になったら逃げるなんて許されるはずがない。

 

 日本人には被害を出さず。ひたすらに敵だけを屠っていく。化生体をバギクロスで一掃し、魔法師相手にはギガスラッシュとグランドクロスで確実に抹殺し。

 横浜本土からは敵性戦力を全て排除した。

 それでも海の方にまだ原子力空母などがいるようで、それらも抹殺しないとこの戦いは終わらないとわかっていた。

 

「ジゴスパーク!」

 

 海上にいた軍艦は全部排除できたけど、まだ海に敵がいる。ああ、潜水艦か。これ以上呪文で何かをやろうとしたら海の生態系が壊れる。

 なら、直接潰さないと。

 

「ドラゴラム」

 

 紫色の巨大な竜に化ける。真・竜王がモデル。サイズもバカみたいな大きさになったけど、これぐらいしないと。大亜の本土にも行くんだし、飛ぶ力は大事だ。

 

「新!新なんだろう!?もうやめろ!」

 

 ……誰だろう。よくわからない色のスーツを着て空を飛んでいる誰か。聞き覚えがあるかもしれないけど。

 どこで聞いたんだっけ。

 思い出せないということは、そこまで重要な人物じゃないんだろう。そんなことより今は。

 あずさを殺したやつらを殲滅することが大事だ。

 これ以上オレの大事な人を苦しめないために。

 悪の病巣は全て、刈り取る。

 

 初めてのドラゴンの身体なのに、どうやったら飛べるか感覚でわかった。軽く飛んで日本に、オレ達に悪意を向ける存在へドラゴンクローを浴びせる。いくつかはひっくり返して横浜港に打ち上げて、いるだろう軍に対処を任せた。

 ……日本も悪意だらけじゃないか。日本を苦しめるバカは止めないと、あずさがゆっくり休めない。

 あずさが生きた日本は。あずさにとって大事な人がいる日本は。

 

 オレが、守る。

 東京を始め、いくつかの施設を焼き討ちにする。日本を滅ぼそうとするスパイ達を抹殺した後は、予定通りに大亜へ。

 大亜はもう要らない。魔法とブレスでその痕も残さず消し去ってやる。

 

 

 緊急の十師族会議と並行して、国会なども紛糾していた。各代表者が一堂に会していたが、その阿鼻叫喚な理由はいきなり現れた紫の竜だ。

 魔法という超常の力があるとはいえ、あんなファンタジーにしか存在しない生き物が現れて大亜の軍を打ち払ったかと思ったら、今度は国内で暴れて政治家や十師族の一つである七草家本家などを襲撃。

 そしてすぐに大亜へ攻め入って、まもなく大亜が滅びる寸前とのこと。

 大亜は徹底抗戦をしていて、隠し持っていた核ミサイルなどを使ったが、それが通用していないことが衛星通信からわかった。どんな攻撃であっても、あの竜を傷付けられないのだ。

 

「なぜ七草は襲われた!?あの竜は何なんだ!!」

「十師族ならあれを討伐できるか!?戦略級魔法師ならどうか!?」

 

 その答えは、誰にもわからない。本当に突然現れて、日本を守護したかと思えば日本を襲い、大亜を攻撃し始めた。

 その意図がわかっているのは、あの竜の正体を知って報告した司波達也と、彼の大元である四葉のみ。達也は軍にもあの竜の正体を告げなかった。告げてしまえば、軍が竜を処分すると思ったから。

 そして会議の途中で、新しい情報が駆け巡る。

 

「あの竜、大亜を滅ぼして今度はUSNAの西部を襲ったらしい!」

「見境いなしか!?」

 

 あの竜を討伐すべきか、静観すべきか。

 意思はあるのか、無意識にただ暴れているだけなのか。

 結局その行動が読めず、まともに会議は進まなかった。終わった後に、達也は自宅で深雪と一緒に四葉真夜と通信していた。

 

「達也さん。あの竜は本当に、新さんなのですね?」

「はい、叔母上。こちらの呼びかけに答えず大亜を殲滅していました。その時は今とは違う姿をしていましたが、おそらくモシャスを使っていたのかと思われます」

「そう。じゃああのドラゴンもモシャスで?」

「いいえ。あの姿になる前に新はドラゴラムと言っていました。叔母上はその呪文に心当たりはありますか?」

「ドラゴラム……。最強の竜になる呪文って言っていました。使えるとは言っていませんでしたが、モシャスが使えるのなら使えてもおかしくはないでしょう」

 

 真夜は新から散々ドラクエについては聞いていたこと、そして記憶力が良かったために些細な話から思い起こせていた。新が使える呪文も使えない呪文も、物語も。よく真夜には話していたものだ。

 

「新さんの自意識がどこまで残っているのかわかりませんけど。敵対したら誰でも簡単に死んでしまうものね。身内を倒すわけにもいかないし、静観しましょうか。達也さんも深雪さんも、あのドラゴンの正体については口外しないように」

「「わかりました」」

 

 それから一ヶ月。世界から犯罪がなくなる。犯罪が起きそうになったらどこからか竜が現れ、殲滅していくのだ。人を害そうとすれば周りの人間は守られて、実行しようとしていた人間だけが竜に殺される。

 反魔法師団体もテロリストも、ことごとく秘密基地を探り当てられて殲滅させられた。そのせいで世界から悪という言葉がなくなる。何かをしたらあの竜がやってくるのだ。一つの流星のように突如として現れ、その悪人を裁いてすぐに消える。

 それがルーラを用いているということがわかるのは、四葉の者だけ。

 

 酷い人体実験をしている研究所なども攻め込まれ、実験を受けていた人間には身体の治癒を施されて国へ返され、実験を行なっていた科学者とそれを主導、認可した団体や国の上層部は焼く。そうしていくつかの国は名前をなくしたが、確実に世界は良くなっていった。

 紫の竜が世界の守護竜として崇拝され、竜を守る団体や宗教まで世界で台頭する。

 

 そんな中、世界でも有数の大国ではあの竜を退治しようという話が出ていた。世界に与える影響が大きすぎると。犯罪をなくすために国が焼かれては結果として世界の食料が減ったりして人間が困窮すると。

 今やっていることは其の場凌ぎでしかないと、子供の癇癪と同じだと結論付けた。

 討伐に意欲を見せた国は戦略級魔法師を攻撃の要として、その周りを守る魔法師や軍も徴兵して竜の討伐に移った。

 

 日本はこれに不参加。唯一の戦略級魔法師も身体が弱く、まともに戦場に行けないこと。また日本自体はそこまでの被害を受けていないこと。

 日本軍が非公式戦略級魔法師の出兵を許可しなかったこと。

 竜は新ソビエト連邦の広い大地に誘き寄せられて、そこで各国の義勇軍と交戦。

 

 

 

 その結果は、竜の勝利だった。

 なにせ竜は傷付いた瞬間にベホマという傷を全快させる呪文を唱えて、襲ってきたら雷を落とし、竜巻を起こし、ブレスを吐き。一撃必殺でもなければ殺せぬ怪物になっていた。

 たとえ戦略級魔法を用いようとも。竜の鱗は堅牢で一撃では倒せず。受け切った後は傷を一瞬で治して反撃に出た。戦略級魔法を同時に使っても片方は避けられたり呪文で相殺されたりして決定打となり得なかった。

 義勇軍が壊滅しかけて撤退を始めると、竜は興味がなくなったのかその場で丸くなって撤退を見逃した。襲ってこなければ何もしないと言うように。本当にその竜は攻撃したり、また犯罪が世界のどこかで起きない限りはそこから動かなかった。

 

 竜はそれからアンタッチャブルとされて、近付く者もいなかった。悪意がなければ近付くことも可能だったが、祈りや願いを叶えてくれるわけではない。私利私慾で利用しようとする者は例外なく潰された。

 まるで心を透かされているかのように。

 竜の力が強大すぎて、戦争も犯罪もなくなった。だがそれでも、竜に対抗すべく兵器や魔法の開発は進む。

 今は竜が悪人だけ裁いているが、もしもその規則が曲がったら殺されるのは人間という種そのものになる。それは勘弁だと生存本能から決戦に向けた準備が進む。

 

 その準備を、竜は止めない。自分に向けられた悪意は興味がないかのように、ただ静かにしているだけだった。

 そんな水面下の動きがどこでも起きている中、その竜に近付く一人の少女がいた。

 茶髪で小柄で。愛嬌のある幼い顔つきで。

 その竜を心から、心配している少女。

 

「あっくん。もういいよ」

 

 少女が、竜の顔に触れる。瞼を閉じて、眠っているような竜へ、優しく語りかける。

 護衛としてきていた少年と絶世の美少女の二人組は心配そうにその様子を見守っていたが、竜が暴れる様子がなかったのでそのまま待機していた。

 

「ごめんね。わたしのせいであっくんに辛い思いをさせちゃった。でも、もういいの。悪意のない世界じゃなくてもいい。ちょっと大変な世界でもいい。わたしはあっくんと一緒に過ごせるなら、どんな世界でもいいよ」

 

 寄り添うように抱き着く少女。その声を聞いて、目を開けて姿を確認して。

 竜は、口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

「……あ……ず……さ……?」

 

 

 

 

 

 

 

「うん、そうだよ。達也くんの魔法で、治してもらったの。凄い魔法だよね。死んじゃったのに、24時間以内だったら生き返れるんだって。達也くんには凄い負担をかけちゃったけど」

「あずさ……!」

「うん、ここにいるよ。だから、帰ろう?竜のあっくんじゃなくて、ありのままのあっくんが見たいなあ」

 

 その言葉を契機に、竜はボロボロと崩れていく。

 その中心にいたのは一高の制服を着た一人の少年。まだ十代の、幼い少年だった。

 その少年へ、少女は駆け寄る。後ろで見守っていた達也と深雪が防寒具を持って極寒の地に薄着でいた親友へ服を着せていく。

 

 

 

 その日、唐突に世界を変革した竜は姿を消す。これ以降、その竜が現れることはなかった。

 世界は再生への道を進み、また犯罪や戦争が起きても。

 彼らは笑いあって、この世界を歩んでいく。

 




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