対応者の長   作:エルナ

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4巻辺りまでサクッと進める予定です。


第一話

「あ、おはようイッセー!」

 

 制服の上にエプロン姿の少女が振り向きながら元気に言う。

 声をかけられたイッセー改め兵藤一誠は軽く手を挙げ、

 

「おはよう、芽愛。相変わらず朝から元気だな」

 

 平日の朝という憂鬱な時にも芽愛——西機(にしき)芽愛(めい)は元気いっぱいである。

 苦笑気味に返した一誠に、芽愛は美少女と言って差支えの無い可愛らしい容姿にふふんと自慢げな笑みを浮かべ、肩まで伸びた綺麗な黒髪を揺らして、

 

「それが私の取り柄だからね♪ さ、もうすぐ出来るからおじさんと一緒に座って待ってて」

 

 促されるままに、一誠はテーブルに着くと対面に座って新聞を読んでいた父親——吾郎にニヤニヤと声をかけられる。

 

「まるで、新婚夫婦みたいな会話だな息子よ」

 

「バッ、やめろよ父さん!」

 

 顔を真っ赤にして一誠は椅子から勢いよく立ち上がりながら叫ぶ。

 その声にキッチンの芽愛が不思議そうにこちらを見るのを見て椅子に座り直す。

 

「ハハハ、照れるな照れるな。いい加減告白したらどうだ? 毎日ウチに通いつめて朝ご飯と弁当を作ってくれるんだ。十分脈アリだと思うぞ?」

 

「いや、だってあいつそんな素振り全然見せないし……」

 

 モゴモゴとヘタレ発言をする一誠に吾郎は呆れたように首を振る。

 

「お前はエロい癖に肝心な時にヘタレるのか……」

 

「う、うるさいわい!」

 

「なんの話ししてるの〜?」

 

 唐突にそんな声が聞こえてビックリして一誠は振り向く。

 何時の間にかキッチンから朝食を持ってすぐそこに芽愛が立っていた。

 

「な、なんでもないから!」

 

「え〜? 気になるな〜?」

 

 ニコニコと顔を覗き込む芽愛に顔を赤くして一誠は顔を逸らす。

 

「ホントになんでもないから! ほら、早く並べてくれよ!」

 

「ん〜、しょうがないな〜」

 

 苦笑しながら、芽愛はテーブルに朝食を並べていく。

 

「もう芽愛ちゃんったら、ホントにお料理が上手だわ〜。いいお嫁さんになるわよ?」

 

 芽愛に続いてキッチンから出てきた一誠の母親である三希がチラリと一誠に視線を送りながらの言葉に一誠はぐぬぬと唸る。

 

「えへへ、ありがとうございます」

 

「ホント、毎朝助かるわ〜。誰のためかしらね?」

 

 意味深に再び一誠を見る三希。

 

「べ、別にあんたのためじゃないんだからね!」

 

「テンプレのツンデレしなくていいから……」

 

 ニコニコと冗談めかしたわざとらしい言葉に一誠は嘆息する。

 

「さっ、食べましょう?」

 

 朝食を並べ終えた芽愛がニッコリと促した。

 

「……ああ」

 

 その美しさに僅かな間見惚れた一誠は少し遅れて頷いた。

 


 

 ——私立駒王学園。

 

 現在は共学だが、数年前まで女子校だったため、現在も男子より女子の割合が多く、発言力もいまだ女子のほうが圧倒的に強く、生徒会も女子生徒が多く、生徒会長も女性である。

 一誠と芽愛、2人が通っている学校である。

 

「いや〜、ホントこの学校は可愛い子が多くて眼福だね!」

 

「女子がその発言はどうなんだ……?」

 

「なによ、イッセーだって同意見でしょ?」

 

「ああ! その為に俺はこの学校に入学したんだからな! ハーレムを作ってやるぜ!」

 

 通学路を歩きながら拳を突き上げる一誠に芽愛はふふふ、と笑う。

 

「そう言って頑張って入学したのに彼女の1人も出来ないまま2年目の春ですけどどうお考えですか?」

 

「ちくしょー!!!」

 

 頭を抱える一誠に芽愛は笑う。

 

「もう、早く彼女作って初体験の話を聞かせて欲しいな。それもう、じっくりと……ふへへ」

 

 恍惚とヨダレを垂らし始めた芽愛にイッセーは半眼を向ける。

 

「だから女子がその発言はどうなんだよ……」

 

「変態のイッセーの幼馴染が故に……しくしく」

 

「いや、芽愛は俺がエロに目覚める前からそんなんだったろ……」

 

 わざとらしく嘘泣きをする芽愛にツッコミを入れる。

 すると、てへと舌を出して、

 

「まぁ、一誠はエロ発言さえしなければ顔は悪くないから彼女の1人2人くらい簡単にできるよ」

 

「……お前にだけは言われたくない」

 

 黙っていればアイドルも目じゃない美少女の芽愛に。

 だが、好きな子に褒められ、顔を背けながら、弱々しくツッコミを入れた。

 

 そうして、2人で話しながら通学路を周りの女子生徒に視線を送りながら歩いていると見知った顔の2人を見つける。

 

「あ! 松田くーん! 元浜くーん!」

 

 ブンブンと手を振りながら、大きな声で呼びかけると2人は振り返り、芽愛の顔を見るとにへら〜と笑み崩れて近寄ってくる。

 

「あ、芽愛さんおはようございます!」

 

「ほ、本日もお可愛いですね!」

 

 自分たちに親しくしてくれる数少ない女子との会話に2人はガチガチに緊張して敬語で話す。

 それを見て、ふふふと笑って、

 

「おはよう。ありがとね。ちょうどいいし一緒に学校へ行きましょ?」

 

「「はい! お供致します!」」

 

 ビシッと敬礼する2人にさらに芽愛は愉快そうに笑う。

 

「おい、お前らいい加減にしろや」

 

「おや、イッセーいたのか」

 

「けっ、クソリア充がッ」

 

 我慢ならず口を挟んだイッセーは恨めしそうな目で松田と元浜に睨まれた。

 一誠と芽愛の友人である2人は一誠を含めて変態であると多くの女子生徒から嫌われている。

 にもかかわらず、一誠だけ可愛い幼馴染がいることを恨んでる。

 

「ほら、早く行こう?」

 

「はい、ただいま!」

 

「どこまでもついて行きます!」

 

 芽愛の言葉に腰巾着のようについて行く2人に一誠は複雑な表情でため息を吐いた。

 

「そういえば、そろそろ芽愛に告白しないのか?」

 

「は、はぁ!?」

 

 しばらく、歩いていると突然松田がそう口を開いた。

 一誠は思わず大きな声を出してしまい慌てて芽愛の様子を伺う。

 幸い、芽愛は「うっひゃーパンチラだぁぁ!」と風でスカートがめくれた女子生徒を見て興奮していて気づいていない。

 その様子にホッと胸を撫で下ろして、松田を睨む。

 

「なんだよいきなり」

 

「いや、新学期始まってしばらく経つし、そろそろするのかなってよ」

 

「なんで、そうなるんだよ……」

 

「いや、いい加減に告白しろよ……」

 

「松田くんの言う通りだ。芽愛さんも待ってるはずだぞ」

 

 元浜まで会話に入ってきて一誠は顔を顰める。

 

「……芽愛が本当に俺が好きかなんて分からないだろうが」

 

「ハーレムだ何だと言いつつヘタレだな一誠は」

 

「だいたい、好きじゃない男に女の子が毎朝ご飯を作ると思うか? 羨ましい!」

 

「まぁ、確かに芽愛さんって俺らと一緒に騒いでたりするけど時々不思議な表情を浮かべてるよな。なんか、達観してるというか保護者みたいというか」

 

「確かにな。それにあの人が照れたりしてるところなんか見たことないよな」

 

 2人の言葉に一誠は頷く。

 幼い頃から芽愛はバカな言動をする癖にどこか大人びていた。

 まるで、自分より年上のように感じたことは1度や2度では無い。

 何を考えているのか分からないような時が多く、本当にこの子は俺が好きなのだろうかと疑問に思い、中々1歩を踏み出せずにいる。

 

「まぁ、演技をしてるようには見えないから当たって砕けてきたらどうだ? ホントに砕けたら俺らが慰めてやるからよ」

 

「うむ、むしろ砕けろ」

 

「なんなんだよお前らは……あんなに芽愛にデレデレしてたくせに」

 

 ジト目を向ける一誠に2人は笑う。

 

「いやぁ、さすがに幼馴染な上に毎朝ご飯を作って貰って一緒に登校してる奴に勝てる気はしないわ」

 

「俺らだって無駄に突撃して振られて傷つきたくないしな」

 

「俺には当たって砕けろとか言ったくせに……」

 

「あれ? 3人だけで内緒話?」

 

 ようやく、こちらに気づいたのか芽愛は小首を傾げてこちらを見つめる。

 

「いや、なんでもないよ」

 

「ふ〜ん、今日は朝からそんなことばっかりだね」

 

 しばらく疑わしげに3人に視線を送っていた芽愛だったが「まっいっか」と1人納得すると微笑んで、

 

「さ、早く行こ? そろそろ着くよ?」

 

 そう言った芽愛の瞳を見て思う。

 まただ、と。

 優しい目だ。

 優しすぎるのだ。

 その目は決して友人や幼馴染に向けるような目ではない。

 いや、一誠達にだけではなく、一誠の両親やクラスメイト達、果てはすれ違った知らない人に対してすら芽愛はこの目を向ける。

 その目はまるで、小さな子供を見るような慈しみの目で——

 

「どうしたのイッセー?」

 

 いつ間にか目前に居た芽愛が考え事をしていた一誠の顔を覗き込んでいた。

 

「……なんでもないよ」

 

 そう言って、一誠は芽愛から顔を逸らし、歩き出した。

 


 

「おっはよーみんな!」

 

 教室に着いた途端、芽愛が教室いっぱいに響く声で挨拶した。

 

「あ、おはよぉー芽愛さん」

「おはよう、芽愛……また、こいつらと来たのね」

「あ、芽愛ちゃん、宿題見せて!」

 

 その瞬間、ワラワラと芽愛の周りにクラスメイト達が集まってくる。

 芽愛は学校でも構わず声を大にして変態発言をしているし、同性であることを使いセクハラまわがいなこともしている。

 しかし、面倒見がよく、成績優秀スポーツ万能。

 元気ハツラツで人の心にするりと入り込むコミュニケーション能力。

 また、女子へのセクハラも本気で嫌がるラインを絶妙に攻める為、嫌われることはなく。

 学校でも上位に位置する人気者だ。

 男子からも無数の告白がされているが全て断られてしまっている。

 

「相変わらずだな〜」

 

 芽愛へ集まった人混みによって離された3人は離れて、集まったクラスメイトの対応する芽愛を眺める。

 

「クラスの人気者か……早く告白しないと誰かに取られてしまうぞ一誠くん」

 

「うっせその話引っ張るな」

 

 自分の席に着き、不機嫌そうに頬杖をついた一誠に松田が肩を組む。

 

「まぁまぁ、そう不機嫌になるな。実はないい話があるんだ」

 

「いい話?」

 

「実はな——」

 


 

「うおおお! 村山の胸、マジでけぇ」

「82、70、81」

「片瀬、いい足してんなぁ」

「78.5、65、79」

「体育の時間偶然見つけちまってさ」

「松田氏グッチョブっ」

 

 放課後、女子剣道部の部室にて着替えを覗く松田と元浜。

 その後ろにいる一誠。

 

「おい、いい話があるって言ったくせに2人だけで見てんなよっ。俺にも見せろっ」

 

「お前は芽愛さんのを見放題だろうが羨ましいっ」

 

「そうだ、こういう時くらい我々に譲れっ」

 

「見放題じゃないわっ」

 

 覗き穴にへばりつく2人を引き剥がそうと悪戦苦闘する一誠の背後に人の気配が。

 

「「「!?」」」

 

 すぐに3人が振り向くとそこには——

 

「3人ともこんなところで何してるの?」

 

 小首を傾げる芽愛の姿があった。

 

「何だ芽愛か……」

 

「いや、安心するなや」

 

「いや、だが芽愛さんだぞ?」

 

「んー? ……はっ! それはまさか……覗き穴?」

 

 コソコソと話す3人の後ろにある壁に空いた穴を見つけ、芽愛は呆然とつぶやく。

 

「え、ええまぁ」

 

「うんもぉ、3人とも覗きなんてイケないんだゾ♪」

 

 言葉とは裏腹に残像すら残して覗き穴にへばりつき一心不乱に着替えを覗き出した。

 

「うわぁ、みんないい体してるねぇ……!」

 

「さすが、芽愛さん話がわかる!」

 

「ささ、ご一緒に」

 

 そう言って今度は3人で覗き出したのを見て一誠は3人を引っ張る。

 

「だから、俺にも見せろって。ぐぬぬ、おい!」

 

「あ、バカ」

 

 思わず、大きな声を出した一誠に芽愛が呟く。

 

「!? 誰かいる!」

「え!?」

 

 その声に覗いていた3人は即座に反応。

 慌てて撤退した。

 それにより、3人を引っ張っていた一誠は反動でひっくり返った。

 

「痛っ、おい、松田! 元浜! め、い……」

 

 3人を呼ぶ一誠の声は一誠を取り囲む、剣道部員たちを見て尻すぼみした。

 

 その後、一誠は女子剣道部員たちに竹刀でボコボコにされた……。

 


 

「イテテ、酷い目にあった……」

 

「あはは、悪いことはするものじゃないね」

 

「俺は覗けてない!」

 

 2人で帰る最中、体を摩る一誠を芽愛が笑う。

 

「いや〜、いいもの見れたな〜」

 

「お前は体育の時間で一緒に着替えてるだろうが……」

 

「全く、一誠は……同じクラスじゃない子もいるし、何より覗きというシチュエーションがいいんじゃないか!」

 

「なら、俺にも見せてくれよ! クッソォ俺もおっぱい見たかった!」

 

「ふふふ、そんなに見たいなら私のを見せてあげようか?」

 

「は、はぁ!? な、何言って——」

 

「ハハハ、赤くなって可愛い」

 

「ちっ、からかいやがって……」

 

 笑う芽愛から顔を背けて恨めしそうに呟く。

 

「あ、あの!」

 

 話していた2人を少女の声が呼び止めた。

 

 2人が振り向くとそこには長いツヤツヤな黒髪の駒王学園とは違う制服を着る少女。

 芽愛に負けず劣らずの美少女に反射的に鼻の下を伸ばしそうになる一誠に、

 

「えっと、駒王学園の兵藤一誠くん、ですよね」

 

「え、俺? そうだけど……」

 

 てっきり芽愛の知り合いだと思っていた一誠は知らない美少女に困惑する。

 

「あ、あの! 2人って……その、お付き合い、されてるんですか……?」

 

 その言葉を聞いて一誠は固まった。

 その一誠に代わり、芽愛が答える。

 

「ううん、付き合ってないよ」

 

 事実とはいえ、芽愛の口から聞くその言葉に少し凹む一誠。

 

「よかった〜……! あ、あの……兵藤一誠くん……私と付き合ってくれませんか……?」

 

「え、今、なんて……」

 

 少女の口から紡がれた言葉に一誠は耳を疑う。

 

「以前から、ここを通るのを見かけてて……それで……兵藤くんのこと……」

 

 少女から次々と放たれる言葉に、徐々に現実を直視していく一誠。

 

「あ、あの! 私と付き合ってください!」

 

 そして、意を決したように今度はハッキリと告げられた。

 

 答えられず、固まる一誠に芽愛が両手を合わせ笑顔で話しかける。

 

「わぁ、やったねイッセー! ちょー美少女からの告白だよ! 言ったでしょ黙ってればモテるって!」

 

 その言葉に一誠は顔には出さないように気をつけたが深く傷ついた。

 その表情には嫉妬等の悪感情は一切感じられなかった。

 脈ナシだと突きつけられた瞬間だった。

 16年の恋の失恋をした一誠だったがちょうどいいかもしれないと思った。

 告白してくれた女の子と付き合って彼女に恋すればこの失恋の痛みもすぐに忘れられるのではないかと。

 そう思った一誠は無理して笑顔を作る。

 

「ああ、そうだな……あの、ありがとう。俺でよければぜひ付き合ってくれないかな」

 

 一誠の言葉に少女は顔を綻ばせる。

 

「ホント!? やった!」

 

「うふふ、おめでとう2人とも。それじゃ、おじゃま虫は消えるね。バイバイイッセー。また明日」

 

「あ、ああ……また明日……」

 

 半ば呆然と返した一誠に手を振って変わらず笑顔で芽愛は走り去った。

 その背を一誠は見送った……。

 


 

「……っ」

 

 家へ走る芽愛は拳を握り、唇を噛み締め、顔は悲しげに歪んでいた。

 

 一見、好きな幼馴染に素直になれない少女の反応に見えるそれは。

 甘酸っぱい青春の一幕に見えるそれは……だが——




めっちゃ長くなった……途中で切るべきだったかな……。
実はアニメであった一誠が剣道部員たちに殴られた後、廃校舎前で松田や元浜と話して、窓から覗くリアスを見るってシーンもやろうと思ったけど長くなるので辞めました()
リアスを見て芽愛が意味深に笑うだけだしね。
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