炭になれなかった灰   作:ハルホープ

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何番煎じのオリ竈門家の中で何とかオリジナリティを出そうとした結果
ネタ被りあったらごめんなさい


始まり

 僕は運命とか宿命とか受け継がれる意志とか、そういう言葉が嫌いだ。

 自分のやりたいことは自分で決める。神様が決めた運命も先祖が定めた宿命も故人から託された意志も関係なく生きていきたい。

 

 でもそう思うのは、自分がそういうものに囚われているってことを、僕自身が一番分かっているからだ。

 

 きっと僕は、生まれた時から……長男ではなく次男として生まれたその日から、運命が決まっていたのかもしれない。

 

 

 あの日僕は、壊れかけの窓の修理作業に没頭するふりをして、炭を売りに行く兄を見送りに行かなかった。

 別に兄が嫌いなわけじゃない。けれど、貧しい中でも底抜けに明るい家族、特に2つしか違わないのに皆を引っ張る兄と一緒にいると、なぜだかたまに、すごく疲れることがあって……少し距離を置きたくなった。

 

 そんな、雪の降る日のことだった。大家族に1人くらいはいるような陰気な次男でしかなかった僕にとっての、転機が訪れた……いや、押し入ってきたのは。

 

 

 


 

 

 

「ハッ、ハッ……! かひゅ……」

 

 傷だらけの体で必死に息を吸う。何が起こったのか分からない。

 ほんの少し前まで、いつも通りの生活だった。

 

 山奥の炭焼きとしての生活。

 母は家事をして、兄は炭を売りに街へ。姉は小さな弟妹の面倒を見て、僕は家で使う小物を繕う。

 

 きっとそれは、かけがえのないもの。貧しくも死ぬほどではない。質素でも惨めなほどではない。そんな普通の暮らし。

 父は病死したが、それでもみんなで支え合った、暖かい家族。

 

 そんな日々が今、目の前で奪われている。

 

 母の腹部は切り裂かれ、妹の首は抉られた。弟を逃がそうとした姉も、2人纏めて串刺しにされた。

 

 僕自身も肩から横腹にかけて深い傷を負っている。多分もう長くはないと、どこか他人事のように思う。

 

 それをもたらしたのは賊や熊ではない。もっと残虐で、もっと理不尽な『何か』だ。

 

 

「この程度の血に耐えられんとは……む、まだ血を与えていない者がいたか」

 

 その『何か』は意味の分からないことを言うと、僕に歩み寄って来る。

 

 

 迫りくる死を前に、走馬灯のように今までの人生が去来する。父が死んだ日のこと、忙しそうに家事をする母のこと、いつも同じ着物を繕っている姉の後ろ姿、無邪気に走り回る幼い弟妹たちの元気な姿。

 それらが浮かんでは消え、浮かんでは消え……最後に唯一この場にいない兄、炭治郎のことを考えた。

 

 

 兄は心の綺麗な人だった。鼻が利いて、町の人達にも頼りにされていた。けれど兄はいつも我慢していた。いつも譲っていた。分け与えていた。それでいて下の弟妹にはいつも我慢を強いていると思い込んでいた。

 

 

 僕はそんな兄さんの力になりたいとずっと思っていた。あの人は僕の理想そのものだった。

 

 家族が皆殺しになったと知ったら、きっとあの人は苦しむ。まだ10代前半だというのに家族を守るのが生きがいと思っている兄は、一人だけ生き残ったらどんな顔をするのだろうか。

 

 

「君は……」

 

 家族に惨劇をもたらした男は、興味なさげに周囲を見回していたが……僕が目に入ると少し驚いたような、意外そうな顔をした。

 

 

「なぜ、笑っているのだ? 自分が殺される事の何がおかしい?」

 

 

 ────笑っている? 僕が? 

 

 血に濡れた手で頬を触る。顔にべったりと血がつくことも厭わずに。

 ああ、これはもうまずい。改めて自分の出血量を認識したら、急に意識が遠くなり、頭がボーっとしてきた。

 

 けど、そんな状態でも分かるくらいに……僕の口元は吊り上がっていた。

 それを意識した瞬間……心の『枷』が外れた気がした。

 

 

「おかしいんじゃない、嬉しいんだ……」

 

 朦朧とした意識のせいか、無意識に自然と言葉が口をつく。

 自然と……ずっと心の中に隠していた本心がさらけ出される。

 

「自分が死ぬことか? それとも……」

 

 

 家族が死ぬことか? 

 そう続けた男の言葉に、僕は笑みを強くする事で、後者だと返す。

 

 

「家族が、いなければ……自由になれると、思ってた」

 

 家族というのは呪いと同じだ。生まれたその時からずっと縛り付けられ、天涯孤独にならない限り生涯付き纏う。人によってはその呪いが心地いい者もいる。兄さんがそうだ。

 でも僕は家を出たかった。炭売りの一家として一生を終えることに、どこか不満があった。こんな所で何者にもなれないで終わる人生なんて嫌だった。

 

 

 

 だけど兄が自分を犠牲にして家族に尽くしているのを見ると、家を出たいなんて言えなかった。もちろん『いつか』は僕も家を出たはずだ。姉さんや妹はいつか嫁に出るだろう。兄がいつか子供を作って実家が安定すれば、僕や弟も独り立ちしただろう。

 

 

 だけど、そんな遠い『いつか』じゃ嫌で、それじゃあ結局大人になるまで敷かれた道の上を歩いてるだけで、自分の望んだものじゃなくて。

 

 ただただ待っているだけじゃ、自分が本当に望んでいたものを忘れてしまいそうだった。

 つまらない大人になってしまいそうで、けれどもどうしようもなくて、漠然とした不安だけが日に日に大きくなっていった。

 

 

「兄さえいなければ、自分らしく、生きられると思った」

 

 

 兄が不自由であればあるほど、家族に尽くせば尽くすほど、自由を求める自分に負い目を感じていた。

 兄は別に弟が何を望もうと笑って許し、応援してくれるだろう。そしてまた自分を犠牲にして弟の分も働くだろう。それが分かっているからこそ、何も言えなかった。

 

 もしも家族や兄さえいなければ、こんな山奥の閉じた生活なんて何の未練もなく捨てられた。

 そんな歪んだ想いを、自分でも気づかない内に胸に抱いていた。

 

 

 ずっと隠していた。自分の心すら偽っていた。でも僕は間違いなく……兄以外の家族が皆殺しにされた事で、爽やかな解放感を得ていた。

 たとえその死者の中に、自分も含まれていたとしても。

 

 今この瞬間、死ぬまでの僅かな今際の際だけは、僕は自由だ。

 

 

 

「……気に入った」

 

 

 ポツリと、家族を殺した男が漏らす。その顔には、惨劇の返り血に似合わぬ明るい笑みが浮かんでいた。

 

 

「その通りだ。君は無為に生きて死ぬような人間ではない」

 

 

 そのままゆっくりと、僕の近くに座り込む。

 

 

「私が救ってあげよう。その死にかけの傷からも、くだらない家族ごっことも」

 

 君だけは確実に耐えられる程度の量にしておこう、と続けた男の言葉の意味は分からない。

 ただ一つ分かるのは……どうやら僕の自由は、今しばらく続くようだということ。

 

 

 

「君は今日から鬼だ。名前は、そうだな……」

 

 男は僕の傷口に手を添えつつ、周囲を見回す。

 炭を焼いている炉に目を留めたようだ。

 

廃灰(はいかい)。廃れた灰、とでも名付けておこう」

 

「うぐっ!」

 

 満足気にうなづきながら、男は僕の傷口に乱暴に指を入れる。

 その直後、凄まじい痛みに襲われた。まるで体を内側から作り変えられていくような感覚に、ゾクゾクとした怖気と……僅かな高揚を感じる。

 

「す、廃れた灰、か……僕には、相応しい。字も、元のと似てるし」

 

 長男になれなかった次男。たとえ何事もなく生きていても、多分僕は炭焼きにはなれなかった。

 

 いや、炭焼きに限ったことじゃない。僕はきっと生まれた時から、何者にもなれないという運命だったのだ。

 炭になれなかった灰は、ただ無為に朽ちていくだけだ。

 

 

 きっと父さんも母さんもそんなことを思って名前の文字に灰を入れたわけではない。けれどいつからか僕は、自分の名前が嫌いになった。余りに、僕に似合いすぎていたから。

 

 僕だけが家族に歪んだ八つ当たりめいた感情を持っていた。僕だけが他のみんなと違った。僕だけが家族の普通と乖離していた。そんな僕の……

 

 

 

「僕の、本当の名前は……」

 

 

 

 

 これは、太陽(長男)に焦がれ、憧れた……灰の鬼(次男)の物語。

 

 

 

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