炭になれなかった灰   作:ハルホープ

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2021年2月22日0時26分、展開修正。
投稿直後に見てくださった方には申し訳ありません。

修正箇所は後書き及び活動報告に書きます。


名前

「これで視覚や聴覚の共有ができるんですか? 便利ですね」

 

 十二鬼月となった鳴女の血鬼術で発見した産屋敷邸に、無惨が襲撃をかけている頃。廃灰は無限城の一室で、鳴女の自律型探索血鬼術と視覚を共有し、無惨と産屋敷耀哉が対峙する光景を見ていた。

 

 

 産屋敷一族への恨みつらみを自らの手で晴らしたい無惨は、太陽を克服した鬼……禰豆子を探すのも兼ねて、単独で行動していたのだ。

 

 廃灰の役目は、禰豆子がいた場合速やかに鳴女の血鬼術で移動して彼女を確保し、その場から連れ去ることである。本来であれば無惨がすぐに吸収したい所であるが、敵の本丸故に最低でも柱二人は護衛がいると思われる。大立ち回りの最中に逃げられる……最悪巻き込まれて死亡する危険を考えたら、確実に確保する人員は割くべきだと考えたのだ。

 とは言えほぼほぼ産屋敷邸に禰豆子がいないのは調査済。故に廃灰は心の準備もせずに、気楽に構えていた。

 

 否、気楽にというのは正しくないかもしれない。廃灰は黒死牟との訓練時以外には、近づく兄や姉との決戦を前に、かつての日々を……輝かしくも胸を締め付けるあの日々に思いを馳せてばかりいた。

 

 自分を犠牲にする二人を見ていると、幸せなはずなのに悲壮感の方が強く感じられた。家族への愛は、自分を戒める鎖になっていた。

 

 そう、だから自由が欲しかった。だから何もかも捨てて生きてみたかった。

 

 

「君は永遠を夢見ているんだろう」

 

 

 だが、無惨と対峙している産屋敷の言葉を聞いて、思わずピクリと反応する。

 無論それは廃灰に向けて言っているわけではない。だがそれでもなお、耳に入る彼の言葉は心地よく、考えさせられてしまう。これは、産屋敷耀哉の『声』……F分の一揺らぎによる高揚感によるものが大きいが、当然廃灰にはそれを知る由はない。

 

 そうして彼は思考の渦へと呑み込まれていく。

 

 

 

 

「永遠というのは人の想いだ。人の想いこそが永遠であり、不滅なんだよ」

 

 

 

 ────永遠? 

 永遠は……想いこそが永遠? 誰かの記憶の中に、語り継がれる話の中に生き続けることが? 

 

 それも確かに一つの永遠の形なのかもしれない。

 でもそんなものは違う。僕が望むのは永遠じゃない。僕は結局、刹那的に生きている。目の前のことしか考えていない。そうでなければ鬼になるのを望むはずもない。

 

 なのにどうしてこんなに胸が騒ぐのだろう。どうして『永遠』という言葉が耳を離れないのだろう。

 

 僕は……自由を望みながら、独り立ちの準備を進めるでもなく、ただただ流されるように、漫然と生きてきた。年齢のせいにしてきたけど……本当は、本当は違ったのかもしれない。

 

 僕は自由を望みながらも……あの日々がずっと続くことを、『永遠』を望んでいたのかもしれない。

 炭売りとしての一生に不満があった。でもそれ以上に、未来への不安に押し潰されそうだった。

 

 未来という不安から逃げ出す為の、今すぐに欲しい『自由』。不安の種が去来して来ないように、今という日がずっと続く『永遠』。

 一見相反するように見えて、最終的に望んでいたものは同じだったのかもしれない。

 

 だから、永遠よりも自由の方を強く求めたのは単なる偶然。もしも永遠を……それも人の想いを望んでいたら、今とは違う未来があったかもしれない。そこでは、鬼になんてなっていないかもしれない。

 

「大切な人の命を理不尽に奪った者を許さないという想いは不滅だ」

 

 いつからだろう。命を奪うことに何も思わなくなったのは。いつからだろう。理不尽を理不尽とも思わなくなったのは。でもそれでも構わないと思っていた。これが僕の生き方で、これが僕の望みだから仕方ないって。

 

 

 

『いや……いやぁああああ!!!』

 

 

『殺して……私を殺してよぉおおぉおおお!!!』

 

 

 

 

 ……今さら悩むことに意味なんてない。僕は運命って言葉が嫌いだけど、それでもこれは運命だったと思ってる。

 僕の望みは、自由。我儘だって理不尽だって、その時したいと思ったことをすればいい。だから……だから今は、行こう。会いたい人に、会いに行こう。

 

 空間が歪む。大勢の鬼狩りを、この無限城に引き込んだのだ。その瞬間、今までで一番近くに、兄さんの匂いを感じた────

 

 

 

 

 

 

 

 

「鳴女ぇえええ!!!」

 

 

 炭治郎が柱全員と珠世と共に無惨を包囲したと思ったのも束の間。足元には上下左右がぐちゃぐちゃな和室が出現する。

 

「これで私を追い詰めたつもりか!? 貴様らがこれから行くのは地獄だ!」

 

 無惨に密着していた珠世以外は謎の和室の中に落ちていく。広がって包囲していたのが祟って、分断されてしまう。

 

「目障りな鬼狩り共! 今宵皆殺しにしてやろう!」

 

「地獄に行くのはお前だ無惨! 絶対に逃がさない、必ず倒す!!」

 

 ようやく戦いの舞台に引きずり出した、全ての悲劇の元凶。今まで抱いたこともないほど絶大な殺意を滾らせて啖呵を切る炭治郎。

 

 

「お前に弟が……私の廃灰が斬れるというなら、やってみろ! 竈門、炭治郎!!」

 

 落ちていく直前の舌戦が終わる。襖も障子も滅茶苦茶な空間に落ちていく。珠代もいつまで無惨を抑えておけるか分からない。一刻も早く無惨の元へ辿り着かなければならない。

 

 

「──っ!」

 

 

 遠く。半分ほど開きかけの襖の奥に、見えた。炭治郎が斬らなくてはならない相手。無惨以上の宿敵と言える相手。かつてあった絆は、因縁となった。

 

「炭治郎!?」

 

 気づけば、炭治郎は駆け出していた。周りに浮かぶ襖や障子を足場に、見えた鬼の元へ走る。

 その少し後ろからは義勇が付いてきている。

 

「アイツがそうなのか、炭治郎」

 

「はい、俺が斬らなければならない相手です!」

 

 本来産屋敷輝利哉が考えていた作戦は一路無惨の元へ行って一刻も早く珠代を掩護するという単純明快なもの。事実炭治郎もさっきまではそうするつもりだった。だが現実問題として、上弦の相手をしなければ無惨の元へ辿り着くことは難しい。

 炭治郎がそこまで考えていたかはともかく、無防備に姿を現した上弦を追うのは間違った判断ではない。

 

 激しく揺れる無限城の中で、逸れないようにしながら前へ進む炭治郎と義勇。

 

 だが、再び琵琶の音が鳴った瞬間……炭治郎の横合いから、嫌な匂いがした。直後、一際近くで声が響く。

 

「竈門炭治郎!! あの時の一撃の借りを返すぞ!!」

 

「がっ!?」

 

 咄嗟に刀をそちらに向けて防御した直後、激しい衝撃に襲われ、吹き飛ばされる。ピッタリと張り付いていた義勇と炭治郎が、分断されてしまう。

 

「一撃程度は、上弦の伍も気にしないだろう」

 

「猗窩座!? くっ、どこまでも卑怯な奴……!」

 

 炭治郎を吹き飛ばしたのは上弦の参、猗窩座であった。猗窩座は無限列車の時に喰らった一撃の借りを返すため、炭治郎を自らの手で殺したがっていた。だが廃灰が炭治郎と戦いたがり、無惨も鳴女もそれを了承した以上、猗窩座はそれを諦めざるを得なかった。

 だがあの一撃の分だけでも借りを返さねば腹の虫がおさまらなかった猗窩座は、奇襲──声をかけてから攻撃するのを奇襲と表現していいかはともかく──をしかけたのである。

 

 その一撃だけで死ぬようならば、所詮それまで。上弦の伍が相手をするまでもなく道中の下弦相応の鬼に殺されていただろう。

 

「義勇さん! 俺は大丈夫です! それよりも猗窩座を!!」

 

「炭治郎ーーー!!!」

 

 二人は分断された。だがこれで逆に、炭治郎が突き進むのに遠慮はいらなくなった。義勇のことは心配だが、他の味方も合流して煉獄の仇を取ってくれると信じる炭治郎。今は目の前の『敵』に迫る方が先決だ。

 

 

 ────炭になれなかった灰は、ただ無為に朽ちていくだけだ。

 

「…………ぃ…………」

 

 

 

 ────きっと父さんも母さんもそんなことを思って名前の文字に灰を入れたわけではない。けれどいつからか僕は、自分の名前が嫌いになった。余りに、僕に似合いすぎていたから。

 

 

 

 邪魔をして来る鬼を斬り捨て、襖に向かって手を伸ばす。まだ届かないのは分かっていても、伸ばさざるを得なかった。

 

 

 

 

 ────僕だけが家族に歪んだ八つ当たりめいた感情を持っていた。僕だけが他のみんなと違った。僕だけが家族の普通と乖離していた。

 

 

 

 叫ぶ。廃灰なんかじゃない。ただ一つの、その名前を。

 

 

 

 

灰里(かいり)ーーーーー!!!」

 

 

 

「ああ、やっぱり……僕は、僕の名前が嫌いだ」

 

「絶対に……絶対に俺が、お前を止めてやる!!」

 

その後、切なそうにも悲しそうにも嬉しそうにも見える複雑な笑みを浮かべて……炭治郎の弟は……灰里は、両手を広げる。まるで、兄が甘えたがりの弟を誘うように。実際は逆だったというのに。

 

 

 

 

 そして、無限城別所。あちこちに飛ばされた鬼殺隊の面々がそれぞれの決意を胸に、或いは困惑しながらも、城内を突き進んでいた。

 

 

 

「聞こえる……アイツの音が……!」

 

「カァー! カァー! 我妻隊士! 単独行動ハ危険デアル! 自ラノ鴉ノ指示に従ッテ別ノ隊士ト合流セヨ!」

 

「悪いけど、断る……俺は、俺の手でアイツを殺して……爺ちゃんの仇を取る!」

 

 

 

「次から次に湧くゴミ共……かかって来いやぁ、皆殺しにしてやる!」

 

 

 

「どうやら敵の牙城のようですね……上手く上弦の弐と接敵できればいいのですが」

 

 

 

「しのぶ姉さんを、上弦の弐なんかに殺させない!」

 

 

 

「猪突猛進!! 猪突猛進──!!! 修行の成果を見せてやるぜー!」

 

 

 

「鬼舞辻と珠世殿の元へ急がねば……っ! 時透!」

 

「俺に構わず進んでください!! ぐっ、くぅっ!」

 

「来たか……鬼狩り……ん……? お前は……何やら……懐かしい……気配だ……」

 

 

 

 

「先ほどの会話を聞かせてもらった。お前は義勇と言うそうだな!」

 

「……鬼と話す舌は持たん。そうでなくとも俺は喋るのが嫌いだから話しかけるな」

 

「そうか、お前は喋るのが嫌いなのか。俺は喋るのが好きだ!!」

 

 

 

 だが蝶の羽ばたきが、竜巻になるように。一つの計算ミスが、やがて膨大な数字になるように。

 本来なら存在しなかったはずの灰がばら撒かれたことで……歩むはずだった道から、灰で足を滑らせるように……物語は、徐々に徐々に、変わっていく。

 

 

 

 

「なんだアイツは……また上弦の肆!? もう補充されやがったのか……! 兄貴は無事なのか!?」

 

 

 

 

「わぁ、若くて美味しそうな女の子だぁ、後で鳴女ちゃんにありがとうって言わなくちゃ!!」

 

「じ、上弦の弐!? 私、多分そんなに美味しくないわ!」

 

「……下がってろ、甘露寺」

 




展開遅かった上に原作まんま過ぎたので最後の描写を変えてマッチメイク一部お洩らし。
あとなんか炭治郎とオリ主の対峙がなんか仕切り直し臭すごかったのでそこも少し書き方変えました。
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