炭になれなかった灰   作:ハルホープ

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遅くなりました。申し訳ございません。


400年後の君へ

 しのぶの血……藤の花の毒を纏ったカナヲの日輪刀によって、黒死牟は一瞬武器を失い、実弥と無一郎の攻撃を喰らった。

 彼は咄嗟に飛び退って距離を取ると、再び自らの肉から刀を生成する。

 

「今のうちに、お二人は私と同じように……刀を姉さんに!!」

 

「……ごめん」

 

「ああっ、クソっ!! どいつもこいつも死に急ぎやがって!!」

 

 そうしてできた一瞬の隙間。仕切り直しの間に、カナヲは刀を構え、無一郎と実弥は飛び退ってしのぶの遺体の元へ行く。

 しのぶの血は値千金の武器だ。それを纏ったカナヲの日輪刀によって、あれだけ苦戦した上弦の壱の刀を不意打ちとはいえ破壊した。

 

 つまり……自分たちもそれをやらない理由がない。

 

「くっ……!」

 

(躊躇うな俺!! また上弦の壱が攻めてくるまで時間がない!! 躊躇うんじゃない……兄さんならこういう時、理屈で無理矢理自分を納得させて動けるのに!!)

 

 だが、まだ若い無一郎にとって、仲間の死体を利用するのはそう簡単に割り切れるものではない。片腕で握る日輪刀の刃先が震える無一郎の目線の先で……実弥の日輪刀が、しのぶの遺体を貫いた。

 

「……すまねぇ、しのぶ……すまねぇ、カナエ」

 

 愛する妹に介錯されたからか、穏やかな顔で息絶えているしのぶ。実弥もかつての想い人の面影を色濃く残す彼女を、このまま安らかに眠らせてやりたかった。

 

 いや、眠らせたかったのではない。本当はせめて忘れ形見くらいは守ってやりたかったのだ。なのに結局守れず……こうして、鬼を討つために遺体まで傷つけている。

 

「ブッ殺してやるクソ鬼がぁあああ!!!!」

 

 そのどうしようもない激情を叫びに乗せて解き放ち、血に濡れた刀で黒死牟へ突進する実弥。無一郎も覚悟を決めて、遺体に刀を突き刺した。

 

「有用とはいえ……死した仲間に鞭打つとは……狂気なり」

 

「うっせぇぇええわぁあぁあああああ!!!!」

 

「この血で……私たち四人で、絶対に勝つ!」

 

「ハァ、ハァ……!」

 

(俺が動ける時間は残り少ない……せめて役に立ってから死ね!! 胡蝶さんのように、次に繋がる死に方をしろ!!)

 

 柱稽古を経て連携が抜群に取れるようになった三人が、一斉に斬りかかる。無一郎もしのぶの応急処置のおかげでただ止血しただけよりは大分状態がいいが、それでも戦い続ければ失血死は免れない。短期決戦を臨むしかない。

 

 

「ふむ……同時に向かってくるより他に手はあるまい……しかしこれで、こちらも三者同時に仕留められる」

 

 スゥ、と刀を構える黒死牟。六つの目は三方向から迫る鬼殺隊を正確に捉えている。

 

「月の呼吸、拾肆ノ型……兇変・天満繊月(きょうへん てんまんせんげつ)!」

 

 巨大な月輪が、三人の行く手を阻む。一つ避けても刀を一振りする度に新たな月輪が生まれ、近づけない。

 

(入れ入れ入れ!!! 間合いの内側を抜けろ!! 俺に攻撃を集中させて二人に道を作るんだ!!!)

 

「無駄だ……ぐっ!?」

 

 無一郎が死を覚悟で特攻した直後。何か固いものが黒死牟の手に当たった。

 

「女の髪飾り……!?」

 

 カナヲが戦闘中に緩んでいた自らの髪飾り……カナエの形見の髪飾りを投擲したのだ。まるで意思を持つ蝶のように飛んでいった髪飾りによって、黒死牟の手元が僅かに狂う。

 

(カナエ姉さん、乱暴に扱ってごめんなさい……あの時泣けなくてごめんなさい……! 全部終わったら、二人を隣の墓に入れて……今度こそちゃんと、お別れを言うから……!)

 

 ずっと大事にしていたカナエの形見だが、黒死牟にぶつかってひしゃげて折れてしまっているのが見えた。また一つ心にポッカリと穴が空いたような、何か大切なものを失くしてしまった気持ちになるが、それでもカナヲは泣かない。もう涙を拭ってくれる姉はいないのだ。今は目を滲ませるわけにはいかない。

 

(あの小娘、私と同じ世界が見えているのか……? いや、それにしては動きが悪い……なるほど目か)

 

 それでも落ち着いて状況を判断する黒死牟。多少動きは鈍ったが、あの距離で放たれた攻撃を無一郎が避けられるわけがない。

 

「塵旋風・削ぎ!」

 

 そこに飛んできた暴風を飛び退って躱す黒死牟。直後、左足首を斬り飛ばされながらも飛んできた無一郎が、黒死牟の刀に毒の血の刀をぶつけた。

 

「ぬぅ!?」

 

(髪飾りで手元が狂ったとはいえ、手負いの子供が私の攻撃をくぐり抜けて来た……私と同じ世界が見えているのは、こちらの方だったか!)

 

 

 流石に二回目ともなると先ほどのようにすぐに消滅とはいかないが、黒死牟の嵐のような月輪の攻撃が一瞬止んだ。

 もう一人柱がいれば攻撃の密度がそちらに行って刀ではなく体に刀を突き刺せたかもしれないが、これでも十分だ。

 

「いくぜぇえええ!!!」

 

「はあぁああああ!!!」

 

 

 攻撃が止まった間に、実弥とカナヲが挟み撃ちにするように迫る。黒死牟の脳裏によぎる、四百年ぶりの忌むべき感覚。あの赤い月の夜に感じたのと同じ命の危機。縁壱が老いてなお圧倒的な実力で黒死牟を散々に叩きのめしておきながら、トドメを刺す直前に寿命で死んだあの夜。

 

 縁壱に……鬼狩りの歴史上最も優れた剣士に討たれるという誉れ高き死はもう望めない。ならば勝ち続けるしかない。

 

 

 ──そうだ、勝ち続けることを選んだのだ、私は。このような醜い姿になってまで。兄を追いかけつつ同時に逃げてもいる女々しい廃灰とは違う……私は、誉れある侍だ! 

 

 

 

「うおおおおおおおおお!!!!」

 

 黒死牟は体中から刀を生やし……無数の斬撃を放つ。

 

「ご、ぷ……!」

 

「くっ!」

 

「終ノ型っ……!」

 

 経験によって紙一重で避ける実弥。終ノ型を一瞬だけ使い、右脇腹を深々と切り裂かれながらも致命傷は避けたカナヲ。だが、至近距離で黒死牟の刀を抑えていた無一郎は、日輪刀を握っていた腕を両断されてしまう。

 

(体中から刃……!? さっきまであれだけ一本の刀に梃子摺ったのに、この化け物……! まずい、失血量が多すぎて死ぬ……まだ何の役にも立ってないのに……!)

 

 日輪刀を黒死牟の刀ではなく体に突き刺していたら、咄嗟の回避もできずに胴体まで両断されていたかもしれない。腕で済んだのは不幸中の幸いだが、これで無一郎は刀を振れなくなった。

 

 ドサリと、両腕と左足首を失くしてバランスを保てなくなった無一郎が倒れ伏す。

 

「ぐっ、目、がぁ……!!」

 

 そしてカナヲもすぐには動けない。ごく短時間の使用とはいえ、終ノ型はカナヲの目に凄まじい負荷をかける。ましてや先ほど片目を斬られたせいで負荷は残る片目に集中している。急速に視界がぼやけるが、何度も瞬きを繰り返して無理矢理視界のピントを合わせる。この際脇腹の傷は放置だ。

 

「くっ、そやろぉおおおおおお!!」

 

 一人動ける実弥が、月輪を毒血の刀で相殺しながら一気に斬りかかる。だが相殺の代償に、しのぶの血はどんどん薄れていく。血がなくなって血鬼術が消せないようになってしまえば、近づくだけでも一苦労どころか命懸けの相手に勝つのは不可能だ。ましてや無一郎が倒れた今、仕切り直しても状況は悪くなるだけだ。故に実弥は捨て身の特攻をかける。

 

「風の呼吸、捌ノ型……初烈風斬り!!」

 

「月の呼吸、玖ノ型……降り月・連面」

 

 

 ここに来て正面切っての激しい剣戟。死を目前にして実弥の剣技は益々冴え渡る。だが、常に黒死牟の攻撃を矢面に立って受けていた実弥にも、とうとう限界が訪れる。

 

 刃が半ばから折れ、深々と腹部を切り裂かれた。

 

 辛うじて立ってはいるが、大量に吐血する実弥。黒死牟も直接大量の稀血を浴びて再び酩酊するが、この状況ならばどれだけほろ酔おうと最早勝ちは揺るがない。

 

「……見えた」

 

 実弥と無一郎が敗れた絶望的な状況の中。ボソリと、静かな声でカナヲが呟いた。

 

「さっきの一瞬の顔の強張りで分かった……上弦の壱、あなたは……戦いの渦中、死を感じたその時でさえ……何か遠くを見てた」

 

「……なに?」

 

 何か思うところがあったのか。無視すればいいものを、黒死牟はカナヲの言葉に耳を傾けた。

 

 黒死牟は、以前カナヲが相見えた廃灰と同じ。カナヲを……命の危機を目の前にしてなお何か遠くを見て、失くした何かに思いを馳せる。いつまでも昔のことに囚われ、間違い続ける哀れな男と同じ目。

 

「あなた……何の為に戦ってるの? 戦う意味も生きる意味もないなら……早く死んでくれない?」

 

 氷のように冷たい無表情で告げるカナヲ。そこで初めて、黒死牟が表情をハッキリと変えた。まるで痛い所を突かれたのを誤魔化すかのような激しい憤怒。

 六つの目全てが、体中から生える刀全てがカナヲに集中しよつとした、正にその時。

 

「やれぇえええええ!! 時透ぉおおおおお!!!!」

 

 

 実弥の腹部から、無一郎の日輪刀が生えてきた。それは黒死牟のような異能の力ではない。奥歯が折れるほど強く柄を噛みしめた無一郎が、残された右足のバネで力の限り跳んだのだ。

 致命傷を与え、完全に意識の外に追いやっていた無一郎の、成長しきっていない小柄な体躯を活かしての跳躍特攻。ましてや両腕がないことで実弥の背中に完全に隠れ、心理的にも物理的にも完全に死角に入られた。

 

「んんん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ぅ゛う゛!!!」

 

「がっ……!?」

 

 実弥の稀血としのぶの毒血が混ざった刀が、黒死牟に深々と突き刺さる。黒死牟といえど、攻撃を行うことができない。

 本来なら刀が刺さっただけなら血鬼術の阻害まではされないが、藤の毒があれば話は別だ。

 酩酊する稀血、藤の花の毒……その二つがべったりと塗りついた刀で貫かれ……さらには文字通りの死力を尽くして柄を噛み締める無一郎の刀が赤く染まる。赫刀による激痛も加わり、無防備になってしまう。

 そこに、終ノ型の後遺症で血の涙を流しながらも、決して目を閉じなかったカナヲが突っ込んでくる。

 

「花の呼吸……! 陸ノ型、渦桃!!」

 

「ぐっ、まだだ!! 私は、まだ……!」

 

 

 

「ごめんな、玄弥……俺、もう……お前を、守ってやれねぇや」

 

 最後の抵抗を試みる黒死牟の目の前で、実弥が折れた日輪刀を自らの首に宛がい……一気に振りぬいた。またもや大量の酩酊する稀血が溢れ、黒死牟の動きを鈍らせる。

 

 

 

 

 

「姉さんの……みんなの、仇ぃいいいいい!!!」

 

 

 

 

 

『後継をどうするつもりだ?』

 

 ──縁壱、お前が笑う時、いつも俺は気味が悪くて仕方がなかった。

 

『兄上、私達はそれほど大層なものではない。長い長い人の歴史のほんの一欠片。私たちの才覚を凌ぐ者たちが、今この瞬間にも産声をあげている』

 

 ──何が面白いというのだ

 

『彼らがまた同じ場所までたどり着くだろう。何の心配もいらぬ。私たちは、いつでも安心して人生の幕を引けば良い』

 

 ──手足を切り落とされても口で刃を掴み、人間が藤の花の体質になり。

 

『浮き立つような気持ちになりませぬか、兄上』

 

 ──斬られても斬られても失血死せず、人間離れした視力を持つ。

 

『いつか、これから生まれてくる子供たちが……』

 

 ──そんな未来を想像して何が面白い。己が負けることなど、考えただけで虫酸が走る。

 

『私たちを越えてさらなる高みへと、登りつめてゆくんだ』

 

 

 

 ──だが、あのようなことを宣っていた縁壱も結局は自らの技が惜しくなって後継を残した! 

 そして私も四百年の時を経て弟子を取った!! 廃灰があの耳飾りを継いだ剣士を殺せば、私は、真の侍に……!! 

 

 ──そうだ、俺は、まだ死ねん!!! 

 

 

「なっ!?」

 

 頸を切り落として勝利を確信したカナヲが驚愕の声をあげる。黒死牟の出血が止まり……頭部が再生したのだ。

 

「ば、化け物め……!」

 

(まずい、もう、目が……! 諦めちゃダメなのに、みんなが命を賭して繋いでくれたのに……!)

 

 動けない。脇腹からどんどん血が失われていく。終わりだ。絶望と失血に、カナヲは倒れ伏してしまう。だがまだだ。視力は大分落ちたがまだ見えている。この手に握った日輪刀は決して手放さない。油断して近づいてくれる一縷の望みに賭けて、失血死するまでに刺し違えてでも殺す。

 

 そんなカナヲの悲壮な姿など意にも介さずに……黒死牟は頸の切断による死を克服したことに歓喜する。

 

 ──克服した……! これでどんな攻撃も無意味。太陽の光以外は。これで私は、誰にも負けることは……! 

 

 歓喜に震える黒死牟。だが次の瞬間、彼の目に飛び込んで来たのは……無一郎と実弥が作った血の海に映る、自らの醜い姿。ブヨブヨとした触手とも棘とも言えぬ何かが全身から生え、口にはぐちゃぐちゃで不揃いな牙。不気味に蠢く血管が顔中に浮き出ている。

 

 ──なんだこの、醜い姿は? 

 

『兄上の夢はこの国で一番強い侍になることですか? なら俺は……この国で二番目に強い侍になります』

 

 ──侍の姿か? これが……これが本当に俺の望みだったのか? 

 

 

 ボロリと、無一郎に刺された箇所が崩れた。だがそれだけだ。見えていないカナヲは黒死牟が近づいてくるのをひたすら待っている。追撃してくることはない。

 

 ──頸を落とされてもなお負けを認めぬ醜さ……生き恥。こんな生き恥を晒すために何百年も生きてきたのか? 死にたくなかったのか? このような化物に成り下がってまで。

 

 自らの生き恥に気づいた所で、殺してくれる相手はもういない。自分の手で殺してしまった。

 目の前の鬼殺隊たちも……縁壱も、自分が殺した。頸を斬られても負けを認めぬ見苦しさによって得た、敗北よりも色褪せた惨めな勝利。

 

 ──違う私は……私はただ、縁壱、お前になりたかったのだ。

 

「私は……一体、何の為に、生まれてきたのだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 その時。黒死牟の体を、後ろから刀が貫いた。

 

「ぐっ、が……!?」

 

 ──まだ鬼狩りがいたのか? だがこれは、日輪刀ではない。この刀は……

 

「文豪って、なんで自殺する人が多いんでしょうね。頭の良い人の考えることは分からないものです」

 

「はい、か、い……?」

 

「でも、貴方の考えてることは何となく分かります。同類ですから。急に恥ずかしくなったんですよね? 確かにそういう時は、死にたくなります」

 

 炭治郎の元を離れ、別の鬼狩りを狙っていたはずの廃灰がいた。

 

「あなたは僕と似ている。きっと誰よりも分かり合える。けれど根本的な所が少し違う」

 

 突然現れたのは鳴女の空間転移だろうが、なぜ……と、黒死牟はぼんやりと考える。

 

「あなたは太陽になりたかったんだ。けど僕は……太陽を落としたかった」

 

「自分が……特別になるのではなく……神の子を、人の子に……というわけか……」

 

 廃灰の望みは……兄に自分を憎んでもらうこと。荒んだ激情に身を窶させ、自分と同じ所まで落ちて来させた上で戦うこと。

 

「唯一無二の太陽に手を伸ばす貴方と、降らば降れと陽を睨みつけていた僕……やっぱりそれは、少し違います」

 

 グ、と力を込めると、廃灰の手首から流れ出る血で作った刀……没刀天を伝って、黒死牟の血が廃灰に流れ込んでいく。刃先を血に戻すことで、黒死牟の体内で自らの血を操作し、黒死牟の……無惨の血を吸収しているのだ。

 

「貴方に分けられた大量の血……僕が、貰います」

 

 以前、那田蜘蛛山で失敗してからも試行錯誤を重ねて作った、他の鬼からより高密度の無惨の血を奪う血鬼術。その名も、光芒成。

 

「あなたは僕に殺される為に生まれてきた……それで、いいじゃないですか」

 

 別に廃灰も最初から血を奪う気はなかった。黒死牟の元へ来たのは援護のためだった。なのに彼を後ろから刺したのは……黒死牟の背中が煤けていたから。生きる気力が感じられなかったから。

 もういらないのなら、自分が貰う。何も成せずに絶望の淵にいるくらいならば、踏み台にして淵を飛び越える。

 

 

「それも、また……私の望んだ、結末……私の、生まれてきた、意味……」

 

 ボロボロと、体が崩れていく。頸を落とされたことによる体の崩壊を無理矢理抑え込んでいた所に力を吸われ、体を維持できなくなっているのだ。だが……

 

 

「罪も……力も……命も……運命も……全てを分け与えられる者に託す、か……存外に、悪くない……」

 

 

 背中に廃灰を感じながら……黒死牟の体は、完全に崩れ落ちた。後にはただ、真っ二つに割れた笛だけが残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「柱は皆殺し、継子は生きてはいても無力化……流石は上弦の壱ですね」

 

 

 廃灰はしばらく黙っていたが、ゆっくりとカナヲの元へ歩いて来た。カナヲは最後の力を振り絞って立ち上がろうとするが……

 

「ごふっ!?」

 

「貴女には以前の借りもあります……既に死に体の相手を殺すのは不本意ですが、まぁいいでしょう」

 

カナヲが立ち上がるよりも早く、彼女の体に足をかける廃灰。それだけで全身の傷から血が溢れ出す。もう、どうしようもない。

 

「カナエ、姉さん……しのぶ、姉さん……」

 

 無念さに、ツゥと涙が流れる。上弦の壱は確かに死んだが、その力が廃灰に受け継がれた。これではしのぶは、実弥は、無一郎は、何の為に死んだのか。あの世の仲間たちにも……今も戦っている仲間たちにも、合わせる顔がない。

 

 

 

「ごめんね、炭治郎……」

 

 

 目を閉じる直前にカナヲが見たのは……何か信じられないことを聞いたとでも言いたげな、廃灰の驚愕の顔だった。

 

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