「にゃーお」
「なんだ? こんな所に、猫?」
「カァー! カァー! ソノ猫ハ味方デアル! 無惨ノ血ノ毒ヲ緩和スル血清ヲ持ッテイル! 至急投与スベシ!」
無惨と対峙する鬼殺隊員たち。玄弥の活躍によって愈史郎に余裕ができ、鬼殺隊の主だった剣士……さらに猫もその場に現れ、無惨の攻撃に含まれる血による即死を免れる血清を隊士たちに投与する。
悲鳴嶼は無惨の注意を引いた際に掠り傷を負っていたが、血清により体力が回復した。
「また珠世の差し金か。死んでなお忌々しい女だ」
最小限の労力で鬼狩りを殺害できる毒を予防され、無惨は腹立たしげに舌打ちをする。
だが、鬼殺隊員たちにとっては毒の心配がなくなっただけでは、事態が好転したとまでは言えない。
毒を予防したとて無惨の力は健在だ。
こちらは5人がかりだというのに、そもそもの手数が違い過ぎる。何とか触手を避けつつ接近して斬っても、その場で瞬時に再生されて足止めにすらならない。
「触手は本体ほど再生が早くない! 無理に攻めず、守りを固めろ!」
「それでもめっちゃすぐ生えてくんじゃん! こんなこと朝までなんて無理ぃいいい!!! 死ぬぅううう!!!」
「泣き言垂れてんじゃねぇぞ善逸!」
守ってばかりのジリ貧の状況に業を煮やした伊之助が、無惨へと向かっていく。
「嘴平! 無茶をするな!」
「いや、これでいい! 冨岡、悲鳴嶼! 今のうちに刀をぶつけるぞ!」
「伊黒の日輪刀から熱を感じる……そうか、それが赫刀の条件か!」
童磨に甘露寺を殺された際、自らの限界を越えた力で日輪刀を握りしめた結果、刃が赫く染まった。つまりは赫刀にする条件は……万力の握力及び、それに比類する衝撃。
柱3人が刀をぶつけ合い、まだ赫刀に覚醒していなかった二人の日輪刀が赤く染まる。
痣のない善逸は離れて別の触手を切り落としている。
「赫刀か……あの男のものとは比べるべくもないだろうが、それでも不愉快だ」
向かってくる伊之助を無視して、自らを不快な気分にさせる赤い刀の持ち主たちへ触手を飛ばす無惨。
「俺様を無視してんじゃねぇええええ!!! 新たなる秘技……まずは投げ裂き!」
伊之助は二刀流の片割れを投擲して、柱たちに迫る触手を斬り落とす。
「愚かな」
確かに投げられた刀によって狙っていた柱への攻撃は妨害された。だが二刀流の剣士が刀を軽々に放り投げるなど……
「伊之助! これ!」
触手を斬り落とした勢いのまま宙を舞う伊之助の日輪刀に、善逸は得意の早足で追いついた。そして日輪刀を伊之助の元へ投げ返す。だがその速度は善逸の足ほど速くない。日輪刀の片割れが伊之助の元に届く前に、無惨の触手が伊之助に迫り……
「次なる秘技! 猫爪裂きぃ!!」
いつの間にか引き抜いていた甘露寺の形見の日輪刀によって、無惨の触手は斬り落とされていた。
直後、伊之助はパッ、と甘露寺の刀を宙に放る。その間に善逸が投げ渡してきた日輪刀を掴み、元々の二刀流で攻める。そして空中の刀が落ちてきたのを掴むと同時に、また二刀流の片割れを投げ上げる。
ある時は従来の二刀流で。ある時は甘露寺の日輪刀を交えて。それは言うなれば……
「三・刀・流だゴラァアアアア!!!」
『ほら伊之助、歌おう? ゆーびきりげーんまん、ウーソついたらはーり千本飲ーます♪ 指切った♪』
『伊之助くん、こうやって踊って、音感を身に着けるの! 歌に合わせて体を動かすのって、楽しいのよ!』
「〜〜〜♪ 〜〜♪」
(なんだこの男、私を前にして歌なんぞ口ずさみおって……やはり狂人か)
3本の刀による絶え間ない連撃。すぐに再生するとはいえ、無惨からすれば鬱陶しいことこの上ない。
(こんな大道芸、投げ上げた刀を弾けばいいだけのこと)
伊之助が投げ上げた刀に触手を飛ばす無惨だが……突然、その触手は斬り落とされた。
(なんだ、今のは? どこから斬られた?)
柱たちではない。雷の呼吸の剣士でもない。別の触手で彼らの動きはしっかりと制限している。
(そもそも三刀流とはいえ、先ほどからこの狂人に斬り落とされる触手の数が多すぎる。私の目にも追えない速度の斬撃をしているようにも見えん。となれば……)
「……そこか」
無惨はあらぬ方向に触手を叩きつけた。何もなかったはずの空間から、べシャッ、と肉が潰れるような音と、大量の血が流れ出す。
触手が退いた後には、透明化の札を付けた鬼殺隊士の死体があった。
「まずい、バレた!」
透明化で存在が発覚していないのを利用して、さり気なくサポートしていた一般隊士たちだが、その術も見破られてしまう。
「くだらん術だが、面倒だ。一息に殺してくれよう」
姿は隠せても息使いや土埃などの痕跡は消せない。大体の見当は付けられてしまう。
柱やそれに準ずる戦力を持たない一般隊士たちは、無惨が軽く振るった攻撃で次々と倒れていく。
赫刀への覚醒が済んだ柱たちが戦線に加わるまでの時間を稼いだだけで、一般隊士に夥しい数の犠牲が出た。
「おい、大丈夫か!?」
「ああ、なんとか致命傷で済んだ! 死ぬ前に盾くらいにはなれる!」
無惨の相手ができる柱たちに疲労を溜めさせないために、ほんの一息の休憩を挟ませるために……それだけのために、即死した者の屍を踏み越えて、仲間たちが肉の盾として死んでいく。その姿を見て、善逸は日輪刀を握りしめる。
(クソ、みんなが……! ここで負けたら禰豆子ちゃんまで危ない! 炭治郎もいないし、まさかやられたのか!? くっ、爺ちゃん、爺ちゃんっ!)
死んでいく仲間を見ながら思い出すのは、師匠のこと。
兄弟子が裏切った責任を取って、介錯も付けずに切腹した育ての親。
(爺ちゃん、ごめん、俺……爺ちゃんの仇を討てなかった)
口では弱気なことばかり言っているが、善逸は無惨を討つのを諦めたわけではない。彼が心中で謝っているのは……自らの手で獪岳を討てなかったこと。
(俺が獪岳を倒そうと思ってたけど、冨岡さんを、仲間を守りたくて。爺ちゃんが言ってた、憎しみ以外の力のために、俺は……!)
『善逸』
声が、聞こえた。
『お前は儂の誇りじゃ』
「霹靂一閃……乱打!」
6連、などというものではない。数えている余裕などない。
ただひたすらに走って、走って、走って……仲間たちに迫る無惨の触手を斬り落として行く。
「我妻!? 俺たちのことはいい! それより無惨を……!」
「うるせえ!」
負担を掛けたふくらはぎの辺りからブチブチと嫌な音が鳴る。足なんて、とっくのとうに攣っている。それでも……
「別に、別に俺は、お前らみたいなガツガツギラギラした奴ら苦手だ! けど、けど……!」
「そうだ、我妻の判断は正しい。これは夜明けまでの持久戦だ。お前たちも盾になるよりなるべく長く戦うことを考えろ」
感情的に言葉を紡ごうとした善逸の横で、義勇が無表情で淡々と告げる。
(えぇ……今のは俺がカッコよく決めるとこじゃん……なんでそういう素っ気ないこと言うかな)
それで気勢を削がれた善逸は続く言葉を呑み込んだ。
そんな一幕がありながらも、鬼殺隊士たちは徐々に追い詰められて行く。負傷した隊士は一時後退して愈史郎の元に行き、透明化の札の補充も兼ねて休養を取る。
愈史郎は負傷した隊士を治療し、場合によっては追加の血清を打ち込みと尽力しているが、死傷者の数はどんどん増えていく。まだ夜明けまで大分ある。
「くっ、あの五人のうち一人でも倒れたらすぐに戦線が崩壊するぞ……! 炭治郎は何をしてる!」
口ではそう言いながら、おそらくは炭治郎は上弦の伍の足止めで精一杯か、或いは既に死んでいるかというのは分かっている。
ただでさえ絶望的な状況だというのに、もしこれで上弦まで来たら……
「……玄弥?」
ふと周りを見渡すと、頭を半分吹き飛ばされて休んでいたはずの、玄弥の姿がなかった。
「やっと分かったよ、兄貴……俺のことを、守ろうとしてくれてたんだよな……」
無限城の制御を奪った愈史郎が「たまたま回収できたからやる」と言って渡してくれた刀……実弥の折れた日輪刀を撫でながら、玄弥は無惨との戦いの場まで行く。
先ほど鳴女を狙った無惨の攻撃が半分自分にも来たということは、無惨は玄弥を殺そうと思えばすぐに殺せる。自分は戦いの土台にすら立てない。
だから……不意打ちの一撃に全てを賭けるしかない。たとえその後に、戦いにすらならずにすぐ殺されることが分かっていても。一瞬の足止めにしかならなくとも、それで救える命がある。
「きっと兄貴は怒るよな。でも俺も……俺だって、守りたかったんだ。兄貴や師匠を」
玄弥の血鬼術でビキビキと膨らんだ銃が、実弥の日輪刀を取り込む。軍人の使う銃剣のような形になっていく。
「行くぜ、兄貴……これが俺なりの、俺たちなりの……」
そして玄弥は、引き金を引いた。
「塵旋風・削ぎ!!!」
突然物陰から襲ってきた暴風に、無惨は体勢を僅かに崩す。しかも、その風は何かに操られているかのように無惨に纏わりついて動きを阻害し続ける。
明らかに鬼狩りの使う技ではない。これはむしろ血鬼術の性質……そこまで考えた所で、鬼の気配を近くの物陰から感じた。
「先ほど鳴女を殺す時に感じた気配は貴様か」
鬼ならばわざわざ触手を飛ばさずとも、ほんの少し念じれば殺すことができる。無惨はゆっくりと両手を開き、そして閉じていく。
「っ!! 玄弥、逃げろぉ!!!」
悲鳴嶼の叫びが虚しく木霊する。だが無理だ。どれだけ距離を取ろうと無惨の呪いからは逃れられない。無惨の前に出てきて存在を認識された時点で彼の死は避けられない。でもそれはほとんどの隊士が同じだ。だから、兄のように誰かを守ったことを誇りに思いながら、玄弥が死を受け入れようとした時……
「いくら鬼食いとはいえ、直接血を摂取せずに鬼になるとは……生命の神秘を感じますね」
羽が、落ちてきた。
灰色の羽が。
「まぁ、僕の進化の前では霞みますけど」
「なにっ!? これは、まさか猗窩座や黒死牟がなりかけた、鬼ではないものへの進化……!?」
今まさに殺そうとしていた玄弥のことなど忘れ、無惨の動きが止まる。険しい目つきで羽が落ちてきた方向を眺めだす。
「生き物が子孫を残すのは、自分が死んだ後も何かを残したいから」
美しい羽だった。純白ではないが、淡く灰銀に輝いて、まるで天使の羽のようだった。
「だとすれば完全な生物には繁殖は必要ない。もちろん、わざわざ他人を同種に変えることもない」
死に際の鶏が暴れた後のように、次から次へと降ってくる美しい羽。
その幻想的な光景に、一人の隊士が、何の気なしに羽へ手を伸ばす。
「っ!! 止せ、触るな!!」
本質を見る目を持つ悲鳴嶼が声を発するが、僅かに遅い。
「僕の血では兄さんは生き返らなかった」
鬼殺隊士が触れた途端、羽は爆発した。爆炎がその隊士を飲み込む。
「貴方と違って完全であるが故に、一番の目的が叶わないのは皮肉ですが……貴方を利用すればいいでしょう」
鬼殺隊士たちは急いで離れるが、羽はあまりに広範囲に降り注いでおり、たとえ避けても地面で爆発を起こして彼らを傷つけていくが……それ以上の勢いで、張り巡らされた無惨の触手が爆破されていく。
「無惨さん」
「廃灰……!」
事ここに至っては、許可もなしに自らの名を呼んでも死なないことに疑問など持たない。
片方だけの灰色の翼を翻しながら、ゆっくりと廃灰が降り立ってきた。
廃灰は目元に黒い布を巻いていた。それは前からのことだったが、無惨には上弦の伍の数字を隠しているようにしか見えない。
「貴方には感謝してますよ。成り行きにせよ何にせよ、僕に力をくれた。でもまぁ……今となっては邪魔者だ」
爆破跡から立ち上る粉塵が廃灰の周りを舞う。
「まさかあの耳飾りの剣士の蘇生か……!? そんなことのために、一度頼みを断られた程度で、大恩ある私を裏切るというのか!?」
「そんなこと、か……そもそも、ちゃんとした理由もなしに裏切るような人でもない限り、人間を……家族を裏切って鬼になんてならないですよ」
鬼殺隊たちは無惨戦に加えて廃灰の羽の爆破でほとんど総崩れとなった。ボロボロの状態で、無惨と廃灰の成り行きを伺っている。
「その血を……細胞さえ死滅していなければ、死者すら蘇らせる禁断の力を」
廃灰は進化の前から使っていた血の刀……神去雲透を発現させる。
「鬼を越えた鬼の王が、唯一貴方に劣る力を、無理にでも使わせてもらいます」
「鬼を越えただと……鬼の王だと……!?」
超然とした態度の廃灰に、ギリィと奥歯を噛みしめる無惨。
「よくもそんなことが言えるな。君の心は知っているぞ、廃灰」
怒りの形相を浮かべ、血管を浮き出させた無惨が、触手を展開する。
「父親が死んだ時、逃げて死に目にも会わなかった臆病者が」
「月の呼吸、参ノ型……厭忌月・銷り」
廃灰の刀から飛ぶ月輪が、無惨の左側に広がる触手を斬り落とす。
「家族が殺された時、自由になれるなどと言って笑っていた異常者が」
「落日散血」
廃灰の操る血の刃が、無惨の右側に展開する触手を迎撃する。
「兄に執着し続け、自らの手で殺しておきながら、今更になって後悔するような、優柔不断な愚か者が!!」
「ヒノカミ神楽……炎舞」
残った僅かな触手も、廃灰のヒノカミ神楽の前に朽ち果てていく。
「千年を生きたこの私に勝てると思うな!」
「うるさいですね……」
廃灰が、無惨の頸を斬り落とす。再生する前に切り刻み、その髪を掴んで持ち上げる。
「ぐぁっ!!」
「万全ならともかく、今の貴方では僕の足元にも及ばない」
「……なに?」
「あれ、気づいていないんですか? その髪」
呆れたような声で言う廃灰。無惨は珠代を吸収した際に接種した毒で急速に老化が進み、著しく弱体化していた。無惨の白髪は老化の象徴である。
「そのザマじゃ鬼狩りに殺されててもおかしくないですね……なら却って良かった。貴方だって太陽で灼け死ぬよりは僕に殺される方がマシでしょう?」
「ふざけるな……!」
無惨は縁壱から逃げる時に使った体を爆発させる技を使おうとするが、毒とダメージのせいで発動しない。
「太陽と月はいつも一緒だけど、めったに交わることもない……近いけど遠い存在」
廃灰が指を鳴らすと、繭のようにして何かを包んでいる灰色の羽が落ちてきた。
「太陽が出てる間、明るくて見えないだけで……月は確かに、そこにあったんだ」
羽の繭がゆっくりと開くと、そこには息絶えた炭治郎が横たわっていた。
「それが分からなくて、太陽ばかりが眩しくて、太陽を落としたけど……やっぱり、それだと暗くて寂しいんだ」
廃灰の血鬼術、光芒生。本来は他の鬼から無惨の血を奪って自らの力とするものだが……今は無惨の血を死体に移し替え、炭治郎を蘇生させようとしている。
「この後どうしようかなぁ……とりあえず兄さんや姉さんは生かしておくとして、いっそ童話の悪役みたいに悪逆の限りを尽くすのもありかなぁ」
「……最早抵抗は無意味、か」
光芒生で血が炭治郎の死体に流れ込んでいく。まだ朝は遠いが、力が失われていくのを感じる。廃灰に付けられた傷は遅々として再生しない。逃げることも不可能だ。事ここに至り、無惨は千年間で初めて死を覚悟した。
「おや、貴方にしては物分かりがいいですね」
「だが、貴様の思い通りにはならない」
人間らしい感情を捨てた上で執着を持たなければ鬼は強くなれない。そういう意味では廃灰は最高傑作だ。そう、あくまで自分が作った存在。自分が上。下剋上など認めない。
自らの死がどちらにせよ避けられない状況だ。『生きる』という最大目標の下に隠れた、ほんの少しの誇りが、無惨を動かした。
「ならば敢えて……全ての血をこの少年に流し込む!!」
炭治郎に、全ての力を分け与える無惨。再生する程度に調整して血を入れていた廃灰だが、突然抵抗がなくなったせいで、その注入を止められなかった。
力比べが拮抗している時に、逆に手を引くことで相手の態勢を崩すことができるのと同じだ。
「死ぬか、あるいはお前のように鬼とは似て非なるものになるか! 見物だな!」
「無駄な足掻きを!」
無惨の『生きる』という本能は最早昆虫に近い。そんな本能を持つ者が最後に行うのは、奇しくも先ほど廃灰が言った言葉通りの行動であった。
「お前が私の夢を叶えろ炭治郎!! 私の代わりに、鬼狩りと、この裏切り者を滅ぼせ!!!」
すなわち、『死んだ後も何かを残そうとする』意思。
「……でも、これはこれで良かったかもしれないな。鬼舞辻無惨、最期まで僕にとって都合のいい男だ」
無惨が灰になって消えた後に、ゆっくりと翼の繭から立ち上がる炭治郎。その目は鬼のものとなっていた。
「動ける者……! 誰か、まだ動ける奴はいないかっ! 炭治郎が、鬼にされた!」
上弦戦で想定よりも遥かに大きな損害を受け、なけなしの戦力で無惨と戦い、さらには廃灰の羽の爆発に巻き込まれた鬼殺隊士たちに、最早戦う力は残されていなかった。
悲鳴嶼は大量の羽から玄弥を始めとした特に年若い者を庇い、重症を負っていた。善逸と伊之助も庇われて致命傷は避けたようだが、爆風で気絶していた。
「落ち着け冨岡。アイツらはおそらくこのまま潰し合う……残った方を全力で仕留めるぞ」
「くっ……!」
かろうじて動けるのは、義勇と伊黒の二人のみ。
もし炭治郎が勝てば、自分たちの手で炭治郎を殺さなければならない。だからといって仇敵である廃灰に勝って欲しいわけがない。
どちらにせよ、彼らは最後に残った二人の鬼の戦いに割って入れる力はない。
元々分けられた無惨の血、上弦昇格の際の血、黒死牟の血、そして頸斬りの克服。段階を踏んで進化した廃灰。
死んだ後に鬼の祖の血を全て分け与えられ、一足飛びに進化した炭治郎。
兄弟二人だけ、二人きりの、今度こそ本当の最終決戦が始まろうとした時……
「……お兄ちゃん? 灰里?」
胸騒ぎを感じて、本来の歴史よりも早く、まだ人間化が完全ではないまま戦場に駆けつけて来たのは……禰豆子。
炭治郎、禰豆子、廃灰……否、灰里。
鬼となった竈門の三人が……一堂に会した。