やはり俺の後輩生活はまちがっている。   作:信濃氷海

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第1章 春 〜奉仕部開幕〜
① こうして腐り目のまちがった後輩生活が始まる。(前)


「——“青春など悪であり虚構に過ぎない。青春を謳歌していると宣う(のたまう)者は所詮目先の利益しか目に入らぬ敗北者であり、勝者にあらず。彼らにとって青春とは即ち宗教であり、それ全てを盲信し崇め奉れば万事が上手くいくと楽天的かつ無責任に捉えている。しかしそれは哀れな現実逃避、思考放棄に他ならない。かつてパスカルはこう述べた、人間は考える葦であると。ならばその考える事をやめた愚か者達は一体何なのか。人それを腐りかけの葦と呼ぶ。惜しむべきは、このような確固たる理論をもってしても彼らのご都合主義で凝り固まった耳には届かないという事か。結論を言おう。

 

 

青春とリア充爆発しろ”」

 

 

 長きに渡る大演説を終えた俺は、勝ったなガハハと笑い眼前の教師へ勝ち誇った。この作文は『高校入学1ヶ月で感じた事』という陳腐極まる題材であったが、そこからこれ程までの超大作を創り出してしまった事実は俺が超優秀ハイスペックぼっちである事を如実に物語っているだろう。って、それでもぼっちなのかよ。

 

「……あー、比企谷。自分で読んでみて、感想は?」

 

「完璧っすね、自分の文才に感激してます」

 

「……はぁ、私が間違っていたよ」

 

 無論間違っていて当然である。自慢ではないが、俺の国語の成績は学年どころかここ総武高校でも随一と自負している。更に笑みを深めた俺に、何故か平塚教諭は頭が痛いと言うふうにこめかみのあたりに手をやった。

 

「比企ヶ谷、君は私が思っていたより遥かに重症だ。確かに入試の成績は……国語と社会は学年1位だった。英語もそれなりではあったが……」

 

「あ、理科と数学はハナから勉強してないんで。どうせやったって1桁だし」

 

 因みにこれは実話である。中3の秋に受けた模擬試験、そこで俺はこう考えた——あれ、もしかしてこれで数学と理科も高得点とったら新世界の神になれんじゃね?——と。

 

 そこから俺は勉強しまくった。頭の中では全教科満点からの高校でも全国1位をキープし、東大主席になった後デスノート拾って新世界の神になるまでの完璧なシミュレーションが完成していたが……

 

 普通に1桁だった。しかも前回の点数より低いというオチ。

 

 極め付けに、ほったらかしていた国語と社会、英語が過去最高得点だったのにはもう笑うしかなかった。

 

 畜生何が努力は報われるだ……俺は初めにそんなことを言い出した奴を脳内で呪い、適当な名前つけて心のデスノートに血文字で綴った。

 

 ——いや、俺の黒歴史はどうでも良い、それよりさっきこの人俺のこと重症って言った?

 

「ああ、言ったとも。高校入学早々にこんな怪文書を堂々と提出する様な奴ははっきり言って手遅れだ」

 

「て、手遅れ……あんたこの御時世にそんなハナから否定してたら炎上するぞ……」

 

 ポ○コレ先生やっちゃってくだせぇ!ゲヘヘと悪徳商人風に心中で叫ぶ。しかし、なんとこの平塚教諭まるで動じないッッ!!

 

「事実を述べたまでさ。だが心配するな、別に治療不可能という訳でもない……ところで比企ヶ谷、君は何か部活に入っているか?」

 

「怪我治って退院した時には勧誘期間終わってたんで」

 

「いや、別に勧誘期間終わっててもいつでも入部は出来るんだが……まぁ丁度良い、比企ヶ谷!君にはある部活動に参加してもらう!」

 

 ズビシッ!と効果音つきそうな感じで人差し指を突き付けてきた。ちょ、人を指差しちゃいけませんって学校で習っ……そういやここ学校だったわ……あれ?

 

「謹んで御遠慮申し上げます、では」

 

「待て待て、話はもう済んだみたいにナチュラルに出て行こうとするな……別に悪い話じゃない、君のその捻曲がった根性を叩き直……ゴホン改善出来るぞ?入れば良いことあるぞ?!」

 

 いやそれ貴方の感想ですよね……っていうかあんた今叩き直すって言った?

 

「御免被りますよ。俺は今の自分が…嫌いじゃないんで」

 

 故に平塚先生の言う“良いこと”は俺にとってなんの魅力もメリットもない話なのだ。大体この学校は別に部活に入るのは強制じゃなかった筈だし。

 

「ふーむ……よし、ならこうしよう!1年間君がその部活に入り続けたら——」

 

「続けたら?」

 

「ラーメン奢ってやる!」

 

 ……いや、あのさぁ。教師が生徒をモノで釣るってアリなの?

 

「二郎でもなりたけでも良い、おかわりもいいぞ!」

 

 そんな食べ終わった瞬間に毒ガス撒かれそうな事言われても……しかし、ラーメン!そういうのもあるのか……ゴローちゃん風にそう思う。入院期間暇すぎてサブスクで全シーズン一気見したのは数少ない入院中のいい思い出でしたまる

 

「さぁこれでどうだ!君にも明確なメリットが出来たぞ!」

 

 教師にあるまじき勝ち誇った顔……具体的には夜神月の『計画通り』みたいな顔でそう迫る平塚先生。

 

 ラーメンだろうが何だろうが、俺の興味はピクリとも刺激されなかったが……しかしこれを無視してもこの手の人間は相当しつこいだろう。四六時中勧誘され続けるよりは、一度大人しく従ったのち即退部するのが吉と出た。押してダメなら諦めろ、しかしその後フェードアウトが信条のどうも俺です。

 

「……分かりました、で、何なんですかその部活は?」

 

「ふっふーん。来たまえ、ぜひ見てもらいたいものがあるんだ」

 

 今度はムスカか……この人も中々のオタクだな、オタぼっちレーダー(八幡専用)がそう反応しておる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妙な教師に連れられて、来た先はとある教室。どうも見た感じ空き教室の様だが……

 

「ここだ」

 

 短くそう言うと、平塚先生は無造作にドアをガラッと開けた。

 

「邪魔するぞー」

 

「……邪魔するならどうぞ帰って下さい、あと入るときはノックを」

 

「分かった分かった、また今度なー」

 

 手をひらひら振り、すごい適当にそう返す平塚先生。だが、俺の視線はそちらでは無く——教室の中央に佇む一人の女子生徒の方へ向けられていた。

 

 長く艶のある黒髪、大人びた美貌、すらりとしたモデルの様な肢体……いわゆる美少女というやつだった。って言うか俺の観察キモすぎ笑えない。

 

 と、平塚先生へ虚しい苦情を申し入れていたその美少女が、チラリと俺の方を見て……いや視線冷たすぎるだろ。

 

「それで平塚先生、入り口でぼんやり突っ立ったまま此方を見てくる男子生徒は誰ですか?視線に危険なものを感じたので退出するか出頭して貰いたいのですが」

 

 出頭って。やはり容姿と性格は一致しないと言う事が良く分かった教えてくれた親父サンキュー!『基本的に近付いてくる女は全部美人局と思え』という比企ヶ谷家男子に代々伝わる秘伝に感謝しつつ、俺は腐った目でその美少女をさらにジロジロ見た。

 

「何かしら?見たところ一年生の様だけれど」

 

「アンタは二年生らしいっすね、雪ノ下先輩」

 

 実のところ、俺はこの毒舌美少女の名を知っていた。そもそもこの学内で彼女を知らない奴は恐らく皆無だろう。彼女の名は雪ノ下雪乃、2年J組……普通科より偏差値の高い国際教養科に属する御嬢様だ。

 

 で、問題は何でそんな孤高のお姫様がこんな空き教室に一人ぼっちなのか……?ハッ!!オタぼっちレーダー作動!!中央の美少女から強いぼっち反応を確認!!

 

「彼は入部希望者だ。少々……いや大分捻くれ腐った根性の持ち主だが、鉄は熱いうちに打てというだろう?この部でしばらく活動し、更生して社会復帰したまえ」

 

「ここは刑務所か何かなんですかね?」

 

 呆れ半分、冷やかし半分にそうツッコむも、平塚先生のお睨みであっさり引き下がる。その様子を睨むように薄い目で観察していた雪ノ下先輩は、そこで吐き捨てるように平塚先生に向かい言った。

 

「お断りします、自助努力を欠片も持たない様な人間を更生させるなど不可能です。更に先程から私を見る視線が異常に下卑たモノである点に身の危険を感じますので」

 

「生まれつきこう言う目つきなんですよ……大体そんな貧相なモン見て欲情なんかしないっつーの」

 

 ボソッと本音を漏らすが、どうも美少女とぼっちは耳が良くなる傾向にあるらしい。キッと俺を睨んだ雪ノ下先輩は氷点下の視線で罵倒の嵐をぶつけてきた。

 

「貧相?それはどこを見て言ったのかしら、いえどこを見て言ったにせよそれは完全なセクシャルハラスメントよ。第一痴漢が生まれつきの性質だと言って許されると思っているのかしら、恥を知りなさい不審者君」

 

「生憎俺の名前は不審者じゃないんで。あと痴漢した前提で話進めるのは推定無罪の原則違反ですよ」

 

「あら、この教室内では私が法で正義なの。だからあなたは訴追されるべき有罪人でしかないわ」

 

 自分が正義は酷い。美少女ならば何をしてもいいとでも言うのかッッ!!……って思ったけど実際この世はそんなモンだったわ。

 

 言葉のキャッチボールどころか言葉で殴り合いな展開になりつつあった俺と雪ノ下先輩だったが、そこでパンと手を叩いた平塚先生に止められた。

 

「よろしい、君らが息ぴったりなのは分かった」

 

「「誰が——」」

 

「まぁまぁ、取り敢えず話くらいは聞きたまえ。比企谷は確かに目つきも根性も最悪だがそれだけだ、反社会的な行動など出来るはずもない。その点だけはまぁ……信用してもいいだろう」

 

 いまいち褒めてるんだか貶してるのかよく分からない評価だが、雪ノ下はその平塚先生の言葉で納得した……と言うより諦めたらしい。

 

「はぁ……先生がそこまで仰るなら」

 

「おお、すまんな!」

 

 白々しくそう言って、ニンマリと平塚先生は教室を出て行く……いやちょっと待って、やっぱり入部は無かったことに……

 

「『分かりました』と言ったのを忘れたのか比企ヶ谷?言質をとった以上君にもはや拒否権は存在しない。ま、騙されたと思って頑張りたまえ」

 

 ガララピシャッ!!無情に閉まるドア。おのれ不良教師め、と腐った目を更にドロドロに腐らせながら平塚先生の消えていった先を睨む。

 

 ……どうやら、かなり面倒な事に巻き込まれたようだった。嗚呼、俺のグッドルーザーなぼっち生活が……

 

 

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