「無理よ」
開口一番雪ノ下雪乃はそう言い放った。いや即答って……これはアレかな?そんなにも俺に奉仕部をやめて欲しくないのかな雪ノ下ちゃんは??
無論そんな訳がない。俺が雪ノ下先輩そして奉仕部とはとっとと縁を切りたいのと同様に、彼女もまた俺の存在を一刻も早くデリートしたがっているに違いないのだ。物理的にデリートされちゃうのかよ。あと心の中でちゃんづけしたのは謝るんで睨むのやめてくだち……
「……いや、無理ってことはないでしょう。ほら、どうも俺隠れたテニスの天才だったらしいし?」
「才能云々では無いわ。大前提として、そもそも貴方のような社会不適合者が集団生活でまともにやっていけるはずが無いじゃない」
うぐうっ!なんだとこのアマと言い返そうとするも、しかしド正論すぎてなんもいえねぇ状態になるどうも社会不適合ぼっち八幡です。
「そして仮に、万が一あなたにテニスの才能があったとしてもそれでテニス部全体が強化される事はあり得ないわ。あなたという異物を排除する為に一時的に一致団結するかもしれないけれど、その分のリソースを己を高める為には決して費やそうとしないもの。……あの低脳ども」
おっとまたしてもソースは雪ノ下先輩ご自身って奴ですか。
「大体あなたのような無気力人間がその件に関しては随分とやる気ね。……もしかしてホ——」
「いや違いますから!そのアレっすよアレアレ、人に頼られるのとか初めてだったし?そこまで言ってくれんなら力になりたいとか?」
まぁ本音はテニス部に鞍替えすると見せかけてそっちもフェードアウトし、安息の帰宅部コースへ世界線を戻したいって事なんだがな!
「つーか、そんな言うならじゃあ雪ノ下先輩ならどうするんすか」
「……死ぬまで素振り、死ぬまで走り込み、死ぬまで練習かしらね」
ドン引きィ!あ、あれかな?テニス部を全滅させてそもそもの依頼自体を無かったことにしようってコトカナ?
俺がドン引きし、雪ノ下先輩がそれを横目で睨むと言うある種の膠着状態に陥った丁度その時、コンコンコーン!と景気良くドアが打ち鳴らされた。
「やっはろー!」
「こ、こんにちは」
入って来たのは由比ヶ浜先輩と……戸塚先輩?なんでここに??
「あれ?比企ヶ谷くんなんでここに?」
おお!思考がリンクしていたとは!これは最早運命なのかもしれない運命はこのように扉を叩いた第3部完!……ごふこんごふこん、くだらん小ネタは兎も角、俺は戸塚先輩に若干どもりながらも答えを返した。
「いや、俺ここの部員なんで……戸塚先輩こそどうしたんすか?」
すると何故か答えたのは由比ヶ浜先輩。
「えっへっへー!ほらあたしもほーし部の部員じゃん?ってな訳でなんか困ってそうだからさいちゃん連れて来たの!いやー仕事すると空気が美味しいねー」
社畜乙。妙な綺麗事をぬかす由比ヶ浜先輩を心中で嘲笑う。そして、先程からじっと二人を見据えていた雪ノ下先輩が小さく首を傾げ呟いた。
「由比ヶ浜さん……」
「あ!ゆきのん別にお礼とか全然いいから!むしろ部員としてとーぜんの事したまで——」
「いえ、そもそもあなたはここの部員ではないわよ」
「へ?!」
ちがうんだ?!とどこかギャグ漫画の泣き顔っぽく叫んだ由比ヶ浜先輩。それに対して、至極淡々と雪ノ下先輩は伝える。
「顧問の承認又は入部届がない者は正式な部員とは認められないわ」
えっ!俺だってそんなんやって無い……ん?顧問の承認??
つまり——平塚先生って事かよちくしょーめ!!
「ふぇーーん!書くよー、入部届なんて何百枚も書くよー!!」
そう言って、リュックサックからルーズリーフを取り出して猛然と何かを……にゅーぶとどけ?いやあの……漢字くらいググれよ……
その後流石に何百枚云々は雪ノ下先輩に止まられたものの、それでも一応入部届(手書き)らしきものを提出し、由比ヶ浜結衣は晴れて正式な部員となったのであった!
……まぁそんな事は兎も角、かくして本題は若干置いてきぼりになっていた戸塚先輩の事へと戻ってくる。
「2年F組の戸塚彩加くんね。それで、依頼というのは何かしら」
「えっと、実は——」
※
後日談というか、今回のオチ。
「たでーまー」
「あ!お兄ちゃんお帰り……ってどうしたのその動き」
帰って早々妹に薄気味悪そうに見られた件。どうもこうも無い、ただ——
「筋肉痛なんだよ……お兄ちゃんもう寝る」
「き、筋肉痛ぅ?ごみいちゃんが??」
そう、筋肉痛である。故にこうして不審者然とした格好でひょこひょこ歩かざるを得ないのだ。
あの後、流石に依頼が来た以上雪ノ下先輩は重い腰を上げた。ただその強化内容は先に俺に語っていたテニス部全滅ルート的なものであり、何故か強制的に付き合わされた俺(と材木座)も無事死んだのであった。
……おまけに2年のリア充だかDQNだかの集団に絡まれ、なんでかコートを賭けたねっけつバトル!する羽目になるし、いやもう散々だった。
あ、試合には勝ちましたよ。あの場所の気候を詳しく知る俺の全知全能が光りましてね……まぁちょっとした風の動き使っただけなんだけどね、でもこう言うとなんか俺すげー風の能力者っぽい。
「……ふーん、それで?お兄ちゃんテニス部入るの?」
「あー……それは……」
結局俺の部屋まで着いて来た妹様が、床でゴロゴロしながらそう尋ねてきた。
対リア充最終決戦はともかく、あの後一応の事前目標日程をこなした戸塚先輩は、すごい良い笑顔で雪ノ下先輩以外奉仕部へ感謝して無事依頼は終了した。
その際戸塚先輩から言われた一言——「比企ヶ谷くんがもう部活に入ってたのは残念だけど……でもこれからも昼とかに練習、手伝ってくれないかな?」——いや待って、もう奉仕部に身を埋めてるんだみたいに言いますけど、いつでも辞めてやりますよこんなクソブラック部活……
……まぁ、もう俺の出る幕ではない、か。
で、結局
「昼休みの自主練に付き合うくらい、だな……」
ベッドで全身筋肉痛に呻きつつ、俺はそう答えた。
「……ま、何はともあれ良かったよ。お兄ちゃんに男子の友達が出来たみたいで」
——とも、だち……?オイオイオイ、それってまさか戸塚先輩のことか?
「まー最近の話聞いてるとあと一人か二人そうっぽい人もいるみたいだけど……」
?一人か二人……?まるで心当たりがない。一瞬チラッと胡散臭いクソダサコート野郎のシルエットが脳内を通り過ぎていった気もするが、アレはただの体育のペア仲間だし……
さて、ここで自問自答。戸塚先輩は俺の心の友であるか否か。
ともだち……ともだち……ともだち……
確かに戸塚先輩の事を考えると鼓動が高鳴り、胸が弾み、脈拍が加速してハートキャッチされちゃうが……こ、これがまさか……
真の友達、なのだろうか——
「いやそれは……流石に小町もそういうのはちょっと……」
えー……真の友達について考えていたら妹にドン引きされた件。何故だッッ!
「いやホントに気付いてないの?……まぁ小町はお兄ちゃんが幸せなら別に……よよよ……」
泣き真似やめい。……まぁ、冗談はともかく
友達ね、まぁその……前向きに検討しとくよ。
「冗談には聞こえなかったけどなぁ……しかもまーたそうやって逃げに入る……ま、今はそれで良いのかもね。でもその人と一緒に昼練続けてれば何か——変わるかもよ?」
……変わる、ねぇ。眠い頭で薄らぼんやり小町の言葉を反芻する。……のだが、いやもうダメだ眠い寝る。
「——ま、それも……善処するよ……」
「あ、ちょおい寝るなー!ご飯もお風呂もまだでしょ!」
小町の可愛い怒り声を子守唄に、俺は静かにスヤァ……したのであった
まる