「は?いやいきなり何言い出すんですかもしかして他人の話をだしに口説こうとしてるんですか、ごめんなさい普通に無理です話すのはともかく付き合うとか生理的に不可能ですし、私気になる人いるので」
え?なんだって?
……一応言っておくが俺は断じて難聴系主人公では無い。どころか耳が良すぎて聞かなくても良い事まで貪欲に吸収するブラックホール的聴覚を有するまである。自分で言ってて何だがブラックホール的聴覚ってむしろ何も聴こえてなさそう。
なのだが、耳の良い悪い関係なく今の一色の言葉を一文字一句聞き取る事など不可能だろう。早口すぎて。
ただ、一つだけ分かった事がある。俺は一色に告ってすらいないのに数段吹っ飛ばして振られたという事である。んーすごい自意識過剰、まるで俺みたいですね(罵倒)。
「……何でも良いが、結局そいつらについては言いたくないってことか?なら俺はこれで」
「ちょ!対応雑すぎですよー!……えーっと、それで何でしたっけ?」
テヘペロ♪という擬音が聞こえてきそうな動きで首を傾げる一色。……成程はちまん分かった!この子天然系小悪魔(打算マシマシ)だ!!
なら話は簡単だ。こういう打算人間にとって俺みたいなぼっちなどそこらの石ころ以下であり、俺にとってもこんなリア充子ギャルは出来れば半径10メートル以内に近寄りたくない存在である。即ちやむなく接触する際はビジネスライク!ビジネスライクですよ神!!
「2年の……戸部、大和、大岡についてなんか知ってる事あるか?」
「よ、呼び捨て……一応言っておくとその人たちみんな先輩ですよ?まぁヒキガヤくんも雰囲気先輩っぽいですけど」
それはアレか?老けてるって事か?おかしいな見た目は(目を除き)若々しいハイスペック少年の筈なんだが……
「んー……そうですねー、まぁサッカー部の戸部先輩はともかく他の2人は直接知ってる訳じゃないですけど」
ぽつぽつと一色が語ってくれたのは、まぁ予想通り葉山先輩が言っていたことと大体同じだった。だが、その中で気になった事が一つ。
「……出てくる話全部葉山先輩がいるな」
「ぎく!そ、そりゃ葉山先輩カッコいいですしー?視線がそっち行っちゃうのも仕方ないというかー?」
いや一色が葉山先輩に懸想してようがどうでも……おのれイケメン死すべし……ごっふるごっふる、とにかくこの際はどうでもいい事だ。問題は——
「そうじゃない。戸部以下件の3人は常に葉山先輩と一緒にいる、そういう事か?」
「へ?……言われてみれば、確かにそうですね」
或いはそれぞれ一人で居るか、他の人とつるんでるみたいですねーと付け加えた一色の言葉に、俺はある確信を持ちつつあった。だが、最後のピースが足りない。
「もう一つ聞いて良いか?——2年で近く何かしらのイベントとか有るか、知ってるか?」
果たして一色の答えは——
「——あー、確か、2年の人たちが“職場見学”とか言ってたような……」
……ビンゴ、だ。
※
「ほ、本当かい?昨日の今日で全て分かったって」
一色から貴重な証言を得た翌日、由比ヶ浜先輩を使って部室へ呼び出した葉山先輩は虚をつかれたようにそう言った。フッ、見た目と裏腹に有能なぼっちで残念だったな!いや見た目だって悪くないと自負してますがね。
「ええ。要はアレです、近々あるらしい職場見学、そのグループ決めですね」
「……どういう事かしら」
「あっ、あたし分かっちゃったかも……」
葉山先輩や雪ノ下先輩は未だ怪訝そうな表情だが、由比ヶ浜先輩のみこれだけの説明で分かったらしい。
つまり彼らは葉山の友人であって互いが友人であるわけではないという事だ。故に葉山がいるグループには入りたいが、葉山がいないグループは嫌だ。特に自分だけハブられるのは断固御免である、と……
ナニコレ、リアル桐島じゃねーか!しかし“みんな”の中で内輪揉めが起きるのは大歓迎メシウマ祭りである。何故なら“みんな”の中に俺は居ないから!!
そう自信満々に言ったら一色にゴミを見る目で見られた。何故なんだちくしょう!
「だから犯人は3人のうち誰かでしょうね。それか偶然にも一人ずつ誰かを貶してたのが混ざり合ってこんな事になったとか」
「……ならどうすれば良い?」
呆然としたように……だがそれすらもどこか薄っぺらく葉山先輩が呟いた。んなモン簡単である。全員シメて白状させればいい。……ま、どうせそんな事を言ったらそれは嫌だとゴネるのだろうから、今回はそれとは違う解決策を考えついてある。
「その場凌ぎかもしれないっすけど、葉山先輩だけハブられれば良いんすよ。つまり葉山先輩だけ他のグループに入って、その3人でグループ作るって訳です」
……この提案を、結局葉山先輩は受け入れた。由比ヶ浜先輩は安堵したように、そして雪ノ下先輩は——
「……本当に良いの、それで」
酷く冷たく、彼女は葉山先輩へそう言った。が、彼はそれに対して首をすくめたのみ……ん?
「……トイレ行ってくるっす」
ボソボソ呟き、葉山先輩の出て行ったドアへ向かう。その背後では、俺の行動など気にも留めずに、妙にテンションの高い由比ヶ浜先輩が雪ノ下先輩と話していた。
ドアを閉め、ため息をついてトイレとは反対方向を見る。そこで待ち構えていたのは——
「で?妙な目くばせして何の用すか、仕事終わったんで早く帰りたいんすけど」
「君はすごいな、一年なのにそこまで優秀な観察能力を持っていて」
……あっそ、まともに受け答えする気がないなら結構。ならこちらも鬱憤を勝手にぶつけて帰りますよ。
「……あんた、そもそも平塚先生に話なんて通してないだろ」
「……」
沈黙。されど、それこそが答えに他ならない。
最初から気になっていた。こんな個人の問題どころか妙に曖昧な、しかも犯罪に片足突っ込んだ問題を、何故平塚先生はスルーして奉仕部に丸投げしたのか。あの人は横暴だが、無責任では無い。無論かつての依頼人である由比ヶ浜先輩や材木座、戸塚先輩らは大体の概要を平塚先生に話している筈である。
その際あまりに一つの部活如きでは手に負えない事なら先生たちの方でどうにかする筈だ。例えそうでなかったとしても、あまりに異質な依頼としてちょくちょく見にくるぐらいはしたに違いない。それこそ奉仕部初期、まだ俺と雪ノ下先輩しかいなかった頃何度か傍若無人に訪れたように。
そこまで考えて、俺はある別の結論に思い至る。——そもそも葉山先輩は、先生へ話などしていないのではないか、と。そして、そもそも彼の目的はチェーンメールでは無く、奉仕部を偵察する事にあったのではないか、と。
無論証拠も何も無い。まぁ平塚先生に聞けば1発なのだろうが、生憎俺にそこまでの興味は無い。ただ——
不愉快では、ある。
「で?結局何が目的だったんすか?」
「……やはり、君は——」
ぶっきらぼうにそう問うが、返ってきたのは要領を得ない呟きのみ。さいですかと早々に諦め、俺は部室へ戻ろうと——
「比企ヶ谷、か」
ドアを開ける直前名前を呼ばれる。腐り目をさらに腐らせて振り返るも、見えるのは遠ざかっていく葉山先輩の後ろ姿のみ。
……なんやあいつ。気でも狂っとんのか?
真顔でそう思いつつ、俺は苛立たしげにドアを開けた。はぁ、下らん依頼だったな……
※
後日談というか、今回のオチ。
「せーんぱい♪」
……何の用ですかね。俺はテニスコート脇ベンチでひっくり返りながらぶっきらぼうに呟いた。
昼練の最中、町田と戸塚先輩、二人と連続してラリーをした俺は疲労困憊して休憩していた。遠くのテニスコートで二人が元気よくラリーしているのを見ながら……
や、やっぱ運動部って、すげー!
で、そんな時に何故か現れた一色いろは。いや本当、何しに来たんすか。あと、先輩って何。
「いやーヒキガヤってなんか言いにくいしー、雰囲気先輩っぽいから以後そう呼びますね♪」
言いにくいって……
「そー言えば、あの後葉山先輩の取り巻きの人たち、葉山先輩抜きでもつるむようになったらしいですよー」
ほーん、まぁ依頼はもう過ぎたものだし、ぶっちゃけどうでも良い。むしろギスギスしてた方がメシウマで良かったまである。
「うわー……ほんっと性格わるいですねー、ん?依頼??」
なんですかそれとぐいぐい来る一色を、あざといあざといと手を振って追い払う。小悪魔レベルが低いな、その程度でぼっちレベル八万の俺に勝てると……いや別に勝ってる訳じゃ無いですね。
まぁ、付き纏われるのも勘弁なので適当に奉仕部について要約して教える。
……根暗ぼっちとあざとい小悪魔。チグハグな二人の会話がテニスコートに響き、春は過ぎていく。