なんかベストプレイスが即席の資材置き場になっていた。
流石に『立入禁止』と書かれたカラーコーンを蹴倒してまで居座るほど俺は反社会的では無い。雪ノ下先輩あたりは『目つきの悪さは即逮捕レベルだと思うのだけれど』などとほざきそうだが、見る目がないと言わざるを得ない。
俺ほどの無害な小市民がいるだろうか!いやいない(反語)。
あ、一応言っておくが、今は昼休みではない。始業前の早朝……でもないが、まぁ普段俺がまだ学校に来ていない時間である。何で今日はそんな早く来ているのか?
あ……ありのまま、今、起こった事を話すぜ!昨日の夜1時間だけと固く決めてゲームやってたのだが、気がつくと次の日だった。な……何を言っているのか、わからねーと思うが……おれも、何をされたのか、わからなかった……
ポルナレフみたいにゲームにザ・ワールドッ!!されたのかもしれないし、単に俺がゲーム中毒に片足突っ込んでいるだけなのかもしれないが、ともかく後数時間で一限が始まるというのに今更寝るのもアホらしく、俺は小町宛に言伝を殴り書きして一足先に学校へ向かったという訳だった。
ただ、着いたは良いが教室で一人自席に座り続けているのも居心地が悪く、ベストプレイスで空でも見てるかと徹夜でフラフラなまま幽鬼のようにここへ来た訳なのだが……
「……しゃーない、切り替えて行こう」
伝説の野球選手っぽくそんな事を呟き、俺はならばと校舎内は戻る。ここ総武高校には校舎内の壁沿いにベンチっぽい長椅子が設置されており、居心地の良さではベストプレイスに遥かに及ばないが、まぁぼんやりする分には問題ない。
「ここを臨時ベストプレイスとするぅ」
某髭ディレクターみたいな事を言いつつ、ベンチにどっかり座り込んだ。あー……虚無だ。
……やる事もないので俺は素数を数える事にした。別に慌ててる訳ではないが、暇潰しにはなるだろう。素数は1と自分の数でしか割ることの出来ない孤独な数字……即ちぼっち……即ち俺。
俺は素数だった?
「……2…3…5…7…11…13…17…19…23…28… いや…ちがう29だ、29…31…37…——」
—————
———
——
——気がつくと知らない天井だった。何これ、まさか遂に今流行りの転生モノか?シンジくんになって人類補完しちゃうの?
……そんな訳は無く、単に暇潰しが睡眠導入剤でしたという話。いつの間にかぐーすか寝ていた俺は、しかも寝相の悪い事に座っていたはずのベンチから転げ落ちて廊下に寝ていたのだった。やれやれ……誰にも見られないで良かっ——
「……アンタ、大丈夫?」
くぁwせdrftgyふじこlp、突如どこからか掛けられた声に、ダイアモンドの精神を持つ筈の俺はいとも簡単に動揺した。あばばば……
——あば?
「……黒い、レース」
視界に入るそれは——黒い——聖域——
思わず呟いてしまったが、しかし漢なら仕方のない事だ。だから許して下さい見知らぬ人!
「馬鹿じゃないの」
少し上体を起こし声を掛けてきた女子生徒を見ると、案の定と言うべきかゴミを見るような目でそう端的に罵倒し、スタスタと何処かへ去っていく。
青みがかった長髪ロング、細身長身で……チラッと見えたがかなりデカい。何がって?そりゃアレだよアレアレ、男子の希望、男の浪漫的な……
……廊下に座ってぼーっとそんな不埒な事を考えていたが、しかしよくよく思い返してみればあの人最初心配してくれてたような……
……サーセン見知らぬ人!でも眼福でした!
あ、ちなみに時計を見たらもうとっくの昔にホームルーム終わって一限始まり掛けてる時間でした。そして俺は気づく、今日の一限は現代文——
——教師の名が平塚静である事に。
※
酷い目に遭った。放課後、気怠げに部室へ向かいつつ俺はあの行き遅れ横暴教師を呪っていた。あのアマ普通にグーで殴りやがって……教育委員会にタレ込んでやろうか。しかもそれを見ていた一色はm9(^Д^)プギャーと爆笑してるし。もし奴が美少女じゃなかったら間違いなくぶん殴ってた。なんなら美少女じゃなくても殴りたい、この笑顔な気持ちだったが、そんな事をすれば平塚先生に倍返しされる……どころか多分警察に御用!されるので八幡は堪えた。はちまんえらいこ!
……そして朝の仮眠と授業中の睡眠を経てもやっぱり眠いので、今日は適当に理由でっち上げて帰ろうとしたのだが、そんな事をするまでもなくやる事が無いとして我らが雪ノ下部長は早々に部活を切り上げてしまった。おやー、確かこの後葉山パイセンが結果報告に来るとか何とか言ってたような。
ま、いいかあの人気に食わないし(ド直球)。俺はこれ幸いと、いちゃついている女子2人を尻目にとっとと退散した。ふぁー、ねみ……
……の筈だったのだが、どうもチャリに乗ると眠気が吹き飛ぶ。まぁ危ないからね仕方ないね。そうなるとこんな早く家に帰ってもそれはそれでやる事がない。ゲームの続きをやりたい気もするが、それで今日も徹夜になったら多分明日は学校で寝るどころか玄関先で寝落ちするハメになるだろう。八幡は学習できる子なのだ!
さーてさてさてならどうするかなー……と、街中をチャリで彷徨きながら考えていると、通りの向こうに青い髪の姿が見えた。……アレは、確か朝の見知らぬ人だ。……入っていく先は
「……予備校、か」
予備校、即ち受験勉強。いや必ずしも即ちではないのか?そこら辺はよく知らんが、まぁ総武高校のレベルから言って大学進学用だろう。何年生なのかは知らんが、ご苦労な事である。
……そう言えば予備校といえば、入院中に暇潰し用にと親父が差し入れてきた物の中にどこぞの予備校のパンフがあったな。それ見てる時に何か凄まじい名案が浮かんだ気がしたんだが……
確かスカ……スカ……スカッとジャパン?いやあの番組はメシウマでお気に入りだがそうじゃなくて……
ま、いっか!テヘペロって誤魔化す。そう言いつつも、日和見大好きぼっちマスターこと八幡は気になる事をほっとく事もできない質なので、見知らぬ人が入っていった予備校へぬぼぉと近づき、パンフを取る。
さて、少しばかり寄り道になったが、当初の目的通りどっかしら入ってなんか食うか。結局眠すぎて昼飯もまともに食ってなかったのだし。俺はそう思い、近くにあったサイゼリアに入る。
ああ……サイゼリアはいいね。サイゼは心を潤してくれる。千葉の生み出した文化の極みだ。どっかの使徒っぽく嘆息する。コスパ最強の本格イタリアン、ドリンクバー、そして高尚なフレスコ画!まぁフレスコ画は本物じゃないだろうが、そんな事はどうでも良い。
結論、千葉のファミレスは世界一ィィ!!!!
と、案内された席に向かう途中妙な既視感が……
「では国語から出題、次の慣用句の続きを述べよ。風が吹けば?」
「うーん……ディスティニーランドがすく!」
「んなわきゃ無い。風どころか多分台風が来て休園になるまであそこは混んでますよ」
あ、正解は桶屋が儲かるな、これマメな。しかし思わず口を挟んでしまったな……すぐに俺は店員さんに知り合いがいたので席を移る事を申し入れる。
「ひゃ!ちょ、ヒッキー……なんでここに」
なんでって、居たら悪いんですかね。俺の心は常にサイゼと共にあり、そのサイゼ教信者の俺がサイゼリア以外の飲食店に行くはずがなかろう!いやごめんなさい嘘ですサイゼ教信奉してるけど他のファミレスも行きます。なりたけとか。え?なりたけはファミレスじゃない?
ん〜〜??なんのことかな、フフフ……
「何かしら比企ヶ谷くん、あなたは食事会に呼んでないのだけれど、何か用?」
辛辣辛辣ゥ、しかしそんな事を言うなら俺とて言わせてもらおう!
「俺だってあんたらと食事なんざ勘弁ですよ。……しかァし!戸塚先輩がいるとならば話は別ッ!」
俺の一切の曇りなき宣言に、何故か可哀想なものを見るような目で見てくる雪ノ下先輩、妙に不機嫌そうになる由比ヶ浜先輩。そして件の戸塚先輩は照れたように苦笑いしていた。かわいい(直球)
どうやら、この3人で早めの夕食がてら女子会(?)をしていたらしい。で、料理が来るまでの間そろそろに迫った試験対策も兼ねて問題の出し合いをしていたと……
仲良さそうっすねケッ!俺は腐り目をさらに濁らせながらミで始まってアで終わるコスパ最強ドリアを頼みつつ心中で腐した。腐り目だけに!
……お後が宜しいようで。
ぼっちに仲良さそうな所を見せつけるという戦争だろうが……状態になっていた俺に、背後から声が掛けられたのは丁度その時だった。
「——あれ?何してんのお兄ちゃん」
その声はッ——!!!!マイエンジェル小町、小町じゃないか!なんかマイエンジェル小町って一昔前のアニメでありそうだが、そんな事は良い。何故小町がここに——
——あ゛?
緊急事態、緊急事態、妹が、男を連れている——
その事実を認識する事を脳が拒否し、俺はその場で卒倒した。WTF!!