「シスターコンプレックスここに極まれりね。しかも目を腐らせたまま白目を剥くなんて不気味な真似はやめてくれるかしら」
「仕方ないっすね自己防衛本能が働いたんすよ。つまり悪いのは大志」
「ちょ、いきなり酷いっすよお義兄さん」
——誰がお義兄さんだブチ○すぞ。冗談抜き、マジのガチで殺気を放ちながら俺はイラついたように貧乏ゆすりをしていた。
だが、お兄ちゃんのそんな心配なぞどこ吹く風。我が愛しの妹様は俺の事など丸っと無視してきゃっきゃと雪ノ下&由比ヶ浜&戸塚といった先輩方と早速親交を深めていた。
「いやぁ、どうも〜。比企谷小町です!お兄ちゃん……もといごみいちゃんがいつもお世話になってます」
言い直す必要ある?もっと酷くなってない?
「はじめまして、比企谷くんの友達の戸塚彩香です」
とも……だち?マジで?いやぁ確かに戸塚先輩とはもっとお近づきになってアンナコトやコンナコトをしたいといつも願っているが……
しかし、友達、ねぇ……それは、何かが——
腐り目のまま自問自答に陥っている俺を放置して、話はさらに進んでいく。
「おお!友達!!お兄ちゃんに!!!それはそれは……ん?戸塚??」
嬉しそうに、だがどこかぎこちなく小町がニコニコ笑う。が、ふと何かが引っかかったのか首を傾げた。
「……つかぬ事をお尋ねしますが、戸塚さんって……ご性別は……」
「え、ああ……僕、男の子です」
小町の顔がピシリと凍りついた。え、ほんとに……?と素の声で愕然としている。だがあのな、こんな可愛い子が女の子のはずがないだろいい加減に……あら?
「あー、初めまして!ヒッキーの……部活仲間の由比ヶ浜結衣です!」
妙な雰囲気になりかけていた空気を霧散させるように、由比ヶ浜先輩が元気よくそう挨拶した。……だが何故だろう。その元気の良さも、妙にいつもと違い……何というか、そう——
——空元気
「はい、どもども初めまし……んん?んー????あるぇ????」
またしてもひん曲がる小町の首。じーっとジト目で由比ヶ浜先輩をガン見しているが、はて、性格的には小町と由比ヶ浜先輩似たようなモンだと思ってたが……アレかな?同族嫌悪かな??ちなみにぼっちとぼっちは同族嫌悪などしない。何故ならそもそもぼっち同士故関わり合いにならないからな!!
結論、全人類ぼっち化計画を直ちに発動すべし。さすれば世界から全ての争いが消え……どころか人類そのものが消し飛ばそう。
「もういいかしら。初めまして雪ノ下雪乃です。比企谷くんとは……誠に遺憾ながら、知り合い?かしら」
遺憾なのはこっちだ。この傍若無人な女王め……いつか反乱を……いやぼっちだから仲間集められないじゃないですか……計画前から反乱失敗。
さて、これで挨拶は一通り終わったな。じゃ解散という事で……
「いやちょ、早いですよお義兄さん!!そもそも料理だってまだ来てないじゃないですか!」
「お前に——娘は——やらん!!」
「そ、そんなぁ……」
一刀両断ぶった斬る。小町にそういうのはまだ早いわボケェェ!!ちゃぶ台ひっくり返してやろうかああん?!
……こんな感じでこのすっとこどっこいを罵倒していた俺だが、心中ではどこか新鮮さを感じていた。どうやらこういった明確な“敵”であれば俺のコミュ力は八万倍になるらしい。まぁ元が限りなくゼロに近いからお察しだが。
「いや小町お兄ちゃんの娘じゃないし……」
「はぁ……」
「うわぁ……」
「あはは……」
女性陣(?)の纏う空気が一気にひんやり冷ややかになるのをビシビシ感じつつも、俺は不退転の決意を持って小町を狙う不届き者と最終決戦に挑む。——まぁぶっちゃけると俺がどうこうしようが小町の意思には勝てないんですけどねアハハ!言ってて悲しくなってきた。
※
戦争という名の茶番劇はさておき、その小僧はどうやら小町にある相談をしていたらしい。
「自分、川崎大志って言います。姉ちゃんが皆さんと同じ総武高校に通ってるんすけど」
その姉の名は川崎沙希。ほーん、シラネ。まぁ俺の場合その川崎某どころか校内のほぼ全ての人間知らないまであるが。
だが、由比ヶ浜先輩と戸塚先輩は知っているらしい。
「うーん……クラス同じだけど、あんま喋った事は無いなー」
「川崎さんが誰かと仲良くしてる所は見た事ないかな……」
オタぼっちレーダー作動!!!!ペロッこれはぼっち!!まぁどこのクラスにも1人か2人はいるものだ、ぼっちという求道者は……
ぼっちは仙人だった?
「それでね、大志くんのお姉さんが最近不良化したっていうか、すっごい帰り遅くなったらしいの」
元々その川崎沙希氏はややぶっきらぼうだが、不良とは無縁の真面目で優しい姉だった。どうにかして彼女を元に戻したいのだが……というのが大志の相談内容らしい。
夜どころか朝5時くらいの帰宅、共働きで忙しく介入しない両親。ふーん、家庭の事情って奴っすか。ドリンクバーのアイスティーをぐるぐるかき混ぜていた俺はそう適当に思った。まぁ俺の家も両親は同じく共働きで、例え俺が朝帰りしても何も言わない……どころか両親も残業による朝帰りで気付かない可能性まであるが。どこも似たようなモンなのかねぇ。
だが、雪ノ下先輩はその“家庭の事情”に何か思うところがあったらしい。聞くところによると彼女は良いトコの御嬢様らしいので、それと重ね合わせたのか、それとも単なる義憤か——
いずれにせよ、我らが部長様が決定したのならば、下っ端八幡にはどうしようもない。黙々と付き従うのみ。かーっ!順調に社畜道まっしぐらで眩暈がする。
絶対に、働かない。どこぞの政治スローガンみたいな決意を胸に、俺は専業主夫を目指す。社畜になどなりはせん、なりはせんぞ!!
そんで、翌日。雪ノ下部長の指示のもと川崎沙希更生計画がスタートした。雪ノ下先輩の主張により、あくまで川崎嬢自ら変わるべきという方針で幾つかの策が弄されたが……
見事に全滅。猫(俺んちのカマクラ)、教師(平塚先生)、イケメン(葉山パイセン)は全てスルーされ、一部は逆襲されるという結果に終わった。お労しや、平塚先生……誰か貰ってあげて!
あと、川崎沙希?シラネと思っていたら顔見たことあった。いや、顔というか、黒のゴニョゴニョと言うか……
以前朝早く来すぎて寝っ転がっている時、声を掛けてきたスタイル抜群のサバサバ系女子生徒。あれがどうやら川崎沙希氏だったようだ。まぁだからと言って何かが変わる訳でもないが。
で、作戦が見事失敗した後は、ひとまず彼女が変わった原因を探る方向に方針転換し、バイト先と目される二つの候補である店舗へ潜入捜査した。一つめはメイド喫茶。ここは雪ノ下先輩の機転により川崎沙希はいない事が判明。メイド服の美少女っていいね!って事と材木座がキモい事だけが収穫だった。
その次、ホテルのバー。一気にハードルが上がったが、どうにか潜り込むと——ビンゴ。彼女はそこのバーテンダーだった。……もっともビンゴなのはそこまでで、雪ノ下先輩を筆頭に問い詰めるも逆にとっちめられてしまいました、チャンチャン。
悔しさに震えながらも、しかし不利を悟って撤退を選ぶ雪ノ下先輩。正直川崎先輩とやらが何をどうしようが個々の問題であり、ぶっちゃけどうでもいいのだが……なのだが、似合わない親父のスーツを着て、恥を晒したにも関わらずなんの成果も!!得られませんでした!!という結果に終わるのは酷く不愉快だった。髪までセットしたんだぞ?それで似合わないとバッサリ切られた挙句に無意味だったとか……
冗談じゃねぇやってられっか!ならば——
「……川崎先輩、明日の朝5時に千葉駅近くのマック来てください。ちょっと話したい事があるんで」
去り際にボソボソ告げる。この間の朝の件もあり、あまり好意的とは言えない彼女だが、果たしてこの提案に乗るかどうか……
ま、乗らなかったのならそこまでだ。それ以上は俺の勤労意欲が保たない。
だがもし来たのなら……昨日貰った予備校パンフ、そこから着想を得た八幡式禁断の秘術を授けよう。
それを使ってどうするかは……貴女次第。