やはり俺の後輩生活はまちがっている。   作:信濃氷海

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⑧ ようやく、彼と彼女は進み始める。(前)

 かつて、例の昼練の際町田にある疑問を投げかけた事がある。——“なんでお前ぼっちなの?”——と。

 

 もし俺がこの質問を、例えば材木座あたりにされたら無言でテニスボールを奴の三段腹に叩きつけていただろう。それぐらい失礼極まりない質問であったが、しかしこれまで町田の様子をクラスなどでぬぼーっと観察していた俺にとって、その疑問はどうしても聞いておきたい事だった。

 

 町田は、完全なる俺の上位互換だった。実力テストで総合1位、理系1位だったのはこいつらしいし、テニスも俺より上手く、おまけに毎日クラスメイトのほぼ全員と挨拶を交わし時折雑談もしている。顔立ちも葉山先輩とはまた違った方向で整っており、無論目つきが悪い筈もない。

 

 だが、見たところ奴は——ぼっちだった。挨拶と最低限の雑談、それ以外で誰かとつるんでいるのは見た事がない。ならば、もしかして——

 

 ——だが、帰ってきた答えは

 

「……そもそも時間が無いからな」

 

 俺の予想の斜め上を行った。……はい?時間が無い?

 

 どゆこと??

 

 続きを促すと、こういう事らしい。彼は大抵の理系科目は勉強ではなく趣味と捉えており、時間があればそれに関する本を読む。それ以外にも、ポ○モンの狂信的支持者なのでゲーム機を校内に持ち込み巧妙にやっていた。決してバレないようにやっている辺り、そつがないというかずる賢いというか……

 

 そして、昼と放課後にはテニス部の練習……友達など作ってつるんでいるような暇など無いのだという。

 

「そもそもたまに雑談するくらいで十分友達だろう。それ以上は要らん」

 

 ……それは、欺瞞ではないのか。結局町田も、薄っぺらい偽物の信奉者に過ぎなかったという事か——

 

 口には出さなかったものの、それでも相容れない考えに対し批判的な態度にならざるを得ない。そんな俺の視線を感じたのか、町田は何故か妙なものを見るような目で

 

 ——こう言った。

 

「……比企谷、お前は——

 

 ——“友達”を、神聖視し過ぎているようだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上での“決別”から数日が経った。あの日以降、由比ヶ浜先輩は俺とすれ違っても挨拶を交わす事なく通り過ぎて行く。……その際に向けられる、怒ったような、悲しいような視線を俺は無視する。

 

 これで良い、これで良いのだ……全てはぼっち神の御心のままに。

 

 ゼーレの議長っぽい事を、俺は奉仕部の定席で本を読みつつ思った。やはり人類皆ぼっち計画を発動すべきか……

 

「……由比ヶ浜さんと何かあったの」

 

 と、向かいの定席で同じように……だが俺より遥かに姿勢良く本を読んでいた雪ノ下先輩が鋭くそんな事を聞いてきた。何か、ねぇ……

 

「別に。何もないっすよ」

 

「何もなかったら由比ヶ浜さんが部活に来なくなる筈ないじゃない。心当たりがあるのね、喧嘩でもしたの」

 

「冤罪乙。第一喧嘩っていうのは近しい関係の者同士で起きる事象であり、ぼっちな俺に近しい者などいない故に喧嘩などしていない証明終了。……だから喧嘩って言うより——」

 

「諍い」

 

「……まぁ当たらずとも遠からず、ですかね」

 

「じゃあ戦争、殲滅戦ね」

 

「話聞いてました?」

 

 ならば——すれ違い、かしら。雪ノ下先輩の呟きに、俺は無言をもって答えとする。由比ヶ浜先輩が間違っていたわけでは無いが、しかし俺の行動も間違いとは言われたく無い。

 

 と、不躾にドアが開かれ、横暴教師平塚先生が入ってきた。

 

「なんだ、由比ヶ浜は今日もいないのか。……彼女には期待していたのだがな」

 

 彼女の言葉が指し示す通り、由比ヶ浜結衣は部室にいない。いや、居なくなったと言うべきか。

 

 ……って、なんであんた俺の隣に座ってんの。

 

「なんか用すか」

 

 うんざりした声で尋ねると、思い出したかのように先生はこんな事を告げた。

 

「そうだ比企谷!例の勝負の事なんだがな——」

 

 ……曰く、これからはバトルロワイヤル方式にする!との事だった。バトルロワイヤルぅ?

 

「2人しかいないのに?」

 

「必要なら新入部員の1人か2人でも探したまえ。由比ヶ浜はもう無理みたいだしなぁ」

 

 あけすけに言い放つ平塚先生に対し、どこか不満そうに雪ノ下先輩はこう反駁する。——由比ヶ浜結衣は別に辞めてなどいない——と。

 

 だが、その言葉は眉を顰めた平塚先生にあっさり粉砕される。

 

「来ないのなら同じさ。やる気の無い幽霊部員を黙認できるほど贅沢な部活では無いし、意志なき者は去るべきだ」

 

 あのー、その理論だと俺はやる気も意志もない幽霊部員志望なんすけど……いや待って冗談っすよ冗談!だから無言で拳を鳴らすの止めて下さい……

 

「何はともあれ良い機会だ。君ら2人だけでは言葉の殴り合いのみで時間の浪費にしかならん様だし、部の活性化の為月曜までに少なくとも1人以上の部員を追加で確保してきたまえ。無論、やる気と意志を持った者を、な」

 

 そう言うと、平塚先生は俺の襟首を掴み……って、ちょ——

 

「無論、今からだ。ほら雪ノ下も荷物を持て、今日はもう部室を閉める」

 

 有無を言わさず廊下に放り出された俺たち。それをどこか面白そうに眺めつつ、鍵をくるくる指で弄びながら去っていった。お、横暴教師ここに極まれり……

 

 だが、遠ざかる先生の背中に、雪ノ下先輩はある質問を投げかけた。

 

「確認しますが、“人員補充”をすればいいんですよね」

 

「無論、その通りだ。——健闘を祈る」

 

 ……人員補充、ねぇ。あ、はちまんひらめいた!戸塚先輩、戸塚先輩だな?戸塚先輩に決まっている!

 

 が、俺の淡い期待をガン無視して、何か腹案があるらしい雪ノ下先輩は——

 

「そ、その……あの——

 

 

 

 

 付き合って、くれないかしら」

 

 

 

 

 

 ——とんでもない爆弾発言をしやがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ま、こんなこったろうと思いましたがね。

 

「ごめんなさいね、休日なのに付き合わせてしまって」

 

「いえいえー!小町も結衣さんの誕プレ選びと聞いては駆けつけない訳にはいきませんし!それに雪乃さんとお出かけ楽しみでしたし!!」

 

 きゃっきゃうふふ、和気藹々な雪ノ下先輩と小町から離れ、俺は1人ららぽーとの案内板を眺めていた。

 

 やはりと言うか何というか、『付き合って』は『買い物に付き合って』であり、それ以上でもそれ以下でもなかった。いや、まぁ考えてみれば当たり前の話なのだけどね、その、年頃の男子に思わせぶりな事しちゃメッ!メッでしょ!!

 

 雪ノ下先輩曰く、6月18日は由比ヶ浜先輩の誕生日らしい。取り敢えず部員補充の件はともかくとして、彼女が辞めるにしろ残るにしろ、それでも今まで手伝ってくれたお礼を兼ね、由比ヶ浜先輩の誕生日に合わせてプレゼントを贈りたいという。

 

 俺としては、この関係性になった以上離れていったら戻ってこないだろうなと思っていたし、あの後由比ヶ浜先輩が来なくなった事でそれは確信に変わっていた。今更何をどうこうしても、無意味なんじゃないのと適当に言うも、雪ノ下先輩はともかくプレゼントぐらいは用意したいと言って、かくして小町(ついでに俺)を引き連れ千葉の誇る超大型商業施設ららぽーとに来ていたのだった。

 

 正直めんどい。帰りたい。……のだが、小町に睨まれてしまえば俺が文句を言えるはずも無い。愛しの妹に先導され、ららぽ内をウロウロする。

 

 ウロウロしていたの、だが……

 

『——小町欲しい物あるからあと5時間ぐらいちょっと別の場所居るねー、なんなら雪乃さんと2人で帰っちゃってもいいからー!がんばれファイトー!』

 

 妹の頭が残念過ぎてお兄ちゃんちょっとショック。結局、その後は雪ノ下先輩と2人でプレゼントを選ぶ事になった。

 

 ……が、何故か彼女と恋人のように振舞わせて頂く羽目になった。超上から目線だが、彼女が“振り”と言うのならそうなのだろう。雪ノ下雪乃は嘘をつかないのだから——

 

 その後、まぁ由比ヶ浜先輩相手ならふわっふわでぽわぽわした頭軽そうなやつ選べば良いんじゃね?と提案し、雪ノ下先輩もそれに賛同して、何とかプレゼント選びは落着し——

 

 

 

 

 かけたところで、突然声が掛けられた。

 

 

 

 

「およよー?雪乃ちゃんじゃーん」

 

「——姉さん」

 

 

 

 

 ……姉さん?はぁ、まーた何か面倒ごとになりそうな気がする……バックれちまおうかな?いや駄目だ、そんな事をしたら次の部活でぶっ○されてしまう……

 

 声を掛けてきた——妙な格好の超絶美人の方を向きつつ、俺は更に目を腐らせる。

 

 ……こまちー、タスケテー

 

 

 

 

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