「——本気でぬぼーっとしただけの無能だったようね役立たずヶ谷くん。部員には部長を助け進んで雑用に励む義務があるのよ」
「そんな訳ないでしょ。大体男子生徒が女子同士の間に割って入るとか無理ですし」
「勿論そんな事をしたら即110をタップしていたに決まっているじゃない」
「……じゃあどうしろというんですかね部長サマは」
「突然踊り出して注意を引くとか、やりようは幾らでもあるわよ脳みそ空っぽヶ谷くん」
んな事したらマジで通報しただろうに、よくもまあそこまで白々しくそんな事を言えるなこの女王サマ。
ゆき×ゆい(ゆい×ゆき?)劇場があわや公開不能領域まで進撃するかと思われたが、結局雪ノ下先輩の必死の抵抗で百合劇場は終焉した。恐ろしい事に由比ヶ浜先輩はいまいち抵抗された理由がよく分かっていなさそうだったが……
「——なんか、面白そうな部活だね!」
しかも、俺と女王の言葉の殴り合いをほへーっとした風に眺めていた彼女は、唐突にこんな事まで言い出し始めた。
「はぁ?」
「……あの、由比ヶ浜さん本気でそう思っているのかしら」
ドン引きする俺たち。しかし、由比ヶ浜先輩はさらに目を輝かせて力説する。
「うん!お互い本気で言い合ってるって感じすごく良いと思う!」
そうか……そうか?俺にはただの醜い罵倒合戦にしか思えんが……
「あとヒッ……比企ヶ谷くん1年生だよね!なのに堂々として凄いねー……この部屋入った時には目つきキモいしキョドっててアレだったけど」
——なんだとこのクソビッチ
「なんだとこのクソビッチ」
あ、ついうっかり心の声が。
「ッ?!は、はーーーーー!?!?び、ビッチってなんだし!!大体あたしはまだ処……っ!」
俺のうっかり本音を聞くや否や、顔を真っ赤にして彼女はそう反論し——ようとして自爆。南無と心中で合掌しつつ、さりげなく腐り目で彼女の激しい動きにより揺れ動く世界の希望を眺める。絶景かな、絶景かな……
「うおわっはぁぁぁ!!ナシっ!今のナシだから!!!!」
「?別に恥ずかしがる様な事ではないでしょう、この歳でバージンなん……」
「ちょおおお!!雪ノ下さん女子力低いよ何言ってんの!!この歳でまだとかはずいに決まってるし!!」
ブライトさんみたいな事を言って雪ノ下先輩に噛み付く処女ビッチ先輩。しっかし処女がはずいとかはずくないとか……俺に言わせれば下らないとしか言えん価値観だった。かく言う俺もDTでね……あ、ちなDTは男子の嗜み、これ豆な。
「下らない価値観ね」
案の定雪ノ下先輩も俺と同じように即斬って捨てる。長いものには巻かれろの精神と、あと先程の暴言の腹いせも含めて追撃追撃。
「まったくっすね。大体女子力って単語がビッチ臭いんすよ」
「あ!また言った!!ヒッキーマジキモい!!!!」
「んなっ……ビッチ呼ばわりと俺のキモさは関係ないっすよビッチ先輩」
あとヒッキーって何?某超大物シンガーソングライターのあだ名?俺をそう呼ぶのならば桜流しでも歌ってやろうと思ったが、しかし悲しいかな俺の歌唱力はゴミであるため断念。まぁ本人歌唱が神なので俺が歌う必要皆無だし。
……つーか単純に引きこもりのヒッキーですねこれは侮辱だよ君、法廷で会おう!
「は、はぁぁぁ!?ほんっとウザいキモいマジありえないーーーー!!!!」
由比ヶ浜先輩の罵倒が飛んでくる、が昨日から氷の女王のサンドバックになっている俺にとってはこの程度そよ風くらいにしか感じない。ハッ!勝ったなこれは。そう確信しニヤリとゲンドウっぽく笑——
「——そこまでよウザヶ谷くん。由比ヶ浜さんの価値観がいくら下らなくても、貴重な依頼人を陰湿に口撃するのは重罪よ。罰として何か飲み物でも買ってきなさい」
——さいですか(諦観)。部長様の御命令には逆らえない哀れな社畜ことどうも俺です。やはり専業主夫こそ至高……
「あ、ありがとう雪ノ下さん優しいんだね……ん?下らない?」
……成る程八幡分かった!この子アホの子だ!!背筋を曲げて腐り目で周囲を威嚇する通常形態で自販機へ向かいつつ、明かされた衝撃……でもない真実に肩を竦める。
依頼人、ねぇ……面倒な事にならなきゃいいんだが。はぁ早く帰りたいよ小町ィィィィ(シスコン侍)
※
「手作りクッキー、っすか?」
所変わって家庭科室。正直調理実習は黒歴史しかないからとっとと退散したいのだが、御飲み物(マッ缶)を御運び奉った後依頼云々とかで強制連行されたのでありました。ふっ、これもまた運命……勿論下っ端の……
「ええ、食べて欲しい相手が居るそうよ。ただ、自信がないから手伝って欲しいというのが彼女のお願い」
雪ノ下先輩がそう言って由比ヶ浜先輩の方へチラリと目線を向けた。氷の女王エプロンバージョン……そういうのもあるのか。アリだな。
「……そんな事オトモダチに頼めば良いんじゃないすか?」
リア充っぽいし、ウェイウェイウェーイ!ってな感じでクッキーパーティー略してクキパ……うーん語呂が悪いがとにかくそんな感じで頭空っぽに騒ぎゃ良いんでねーの?と言外に滲ませる。だが、意外と由比ヶ浜先輩はそういうのは好みでないらしい。
「それは……こういう事はあんま知られたく無いし、あんまマジっぽい雰囲気友達と合わないし……」
「はっ!それホントに友達なんすか?リア充軍団空気読めない奴は粛清!とかそれどこの独裁末期国家?」
「う、うるさいし!!それより平塚先生言ってたけど、ここって生徒のお願いなんでも叶えてくれるんでしょ?」
いやいや神龍じゃ無いんだから……すると、調理台で器具の支度をしていた雪ノ下先輩がピクリと反応した。
「いいえ、奉仕部がするのはあくまで手引き。魚を与えるのではなく魚の取り方を教える、即ち自助自立の精神が無ければ依頼は受けないわ」
——その言葉を聞き、俺の脳裏にあるアニメのセリフが浮かんだ。“助けない、君が勝手に助かるだけさ”……深いセリフだとは思うが、まさかそれを現実でやる奴が居るとは。
まぁ個人的な感想を付け加えると、出来ればもうちょい離れた所でやって欲しかったが……
「は、はえー……なんだかすっごいねー」
小並感かな?口を半開きにしてほえーと感心する由比ヶ浜先輩。それを見た氷の女王様は、エプロンの着方が間違っていると眉を顰めつつ軽い罵倒と共に直す。が、さしもの彼女もそれにすら盛大に感謝されるとなると戸惑って照れるらしく、少々顔を赤らめ他の方を向いてしまった。
いやー捗る捗る……あれ?なら俺の仕事は?
「無論あるに決まっているじゃない。——味見をして、感想を言って頂戴。それならあなたでも出来るでしょう?」
なに?!出来らあっ!クッキー味見で感想を?!即座に脳内に流れるクソ小ネタを振り払い、さいですかと言って隣の調理台の椅子に座る。なぁに待つのはぼっちの基本スキルだ、よゆーよゆー。
ま、精々見せてもらおうか、処女ビッチ先輩のクッキーの性能とやらを……赤い彗星っぽく心中で呟き、俺はマッ缶を啜った。ああ……働かずに飲むマックスコーヒーは旨いぜ……
……この時俺は知る由もなかった。未来の俺が、まさかあんな事になるなんて——
次回、「八幡死す」。デュエルスタンバイ!