やはり俺の後輩生活はまちがっている。   作:信濃氷海

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③ どうも処女ビッチ先輩のクッキー作りは前途多難らしい。(前)

 成れ果て(クッキー) の 木炭攻撃!

 

 はちまん に 80000ダメージ!

 

 はちまん は しんでしまった!

 

 ……赤いアラートと共にこんな文章が脳内をスクロールしていった。うまにがからあましょっぱにがい、まぁ略してクソ不味いとしか言えん代物を、俺は今口の中に入れていた。

 

「……何故あれだけミスを重ねることができるのかしら」

 

 俺が木炭クッキー(ホムセンで売ってそうな奴)でのたうち回っているのを横目に、雪ノ下先輩は頭痛いと言わんばかりにこめかみにに手をやってため息をついた。

 

「うごご……味見とは聞きましたが、毒見をしろとは言われなかった筈なんすけど……」

 

「んなっ、どこが毒だし!!……やっぱり毒かな?」

 

 即オチ2コマ乙。あと作ったんだから食え、ハチマン・ヴィ・ブリタニアが命ずる!!うわすっごい雑魚そう。

 

 ……一通り毒見もとい味見を(俺一人が)済ませた後、気を取り直して雪ノ下先輩は再度準備を始める。

 

「さて、どうすれば良くなるか考えましょう」

 

「由比ヶ浜先輩が未来永劫料理しない事」

 

「みらいえいごう?!っていうかそれが解決方法なの?!」

 

 即座に申し立てた俺の陳情に、驚きつつもしかし彼女は自信を失ったかの如く俯く。

 

「……はぁ、やっぱりあたし料理向いてないのかな。才能っていうの?そういうの無いし」

 

 だが、その諦めを

 

「いいえ、解決方法はただ一つ努力あるのみよ」

 

 氷の女王が両断した。

 

「由比ヶ浜さん、あなたさっき才能が無いって言ったわね。——その認識を改めなさい。最低限の努力もしない人間には、才能のある人間を羨む資格なんて無いわ。成功できない人は、成功者が積み上げてきた努力を想像出来ないから成功できないのよ」

 

「で、でもさー、最近みんなやんないって言うしー。……こういうの、合って無いんだよ……」

 

 嘘くさい作り笑いで、由比ヶ浜結衣はそれを拒んだ。だが、それこそが——雪ノ下雪乃の逆鱗に触れる行動である。

 

「——その取り繕って周囲に合わせようとするのやめてくれるかしら。自分の愚かさや失敗、努力不足の他人のせいにして恥ずかしくないの?……他人に己の行動全てを任せている人間に、成功なんて永遠に訪れないわよ」

 

 おーおー、好き勝手言いなさる——だが正論だ。少なくとも雪ノ下雪乃と比企谷八幡にとっては。だが……彼女にとっては、リア充代表のような彼女、由比ヶ浜結衣にとっては悪手なのではないか——?

 

「……か」

 

 か?カメムシ?なんで俺の小学校の頃のあだ名知ってんの?もしかしてストーカー……な訳ないですね、むしろ逆に俺がストーカーして御用される方だわ。あ、一応言っておくが俺は生まれてこのかたストーカーなんて冤罪はともかく本当にやった事なんてないんで。念為。

 

「かっこいい!!」

 

「「……は?!」」

 

 かっこいい????いや、ド正論ではあるが実質ただの罵倒だろ今の。つ、ついに頭おかしくなったのかこのビッチ……。

 

「建前とか全然言わないんだ!なんて言うか、そういうのすごいかっこいい!!」

 

「は、話聞いてたのかしら?結構キツい事言ったつもりなのだけれど」

 

 あ、自覚はあるんすね。

 

「確かに言葉は酷かったよ。でも本音って感じがする!あたし、人に合わせてばっかだったからすごい憧れる!……ごめん、次はちゃんとやる!!」

 

 ……一本取られた、な。予想外すぎる反応に少々固まってしまっている雪ノ下先輩に、背後からボソッと声をかける。

 

「……正しいやり方、教えてあげりゃいいんじゃないですか」

 

「っ……はぁ。一度お手本見せるから、その通りにもう一度やってみましょう」

 

「!うん!!」

 

 ニッコニコの笑顔で頷いた由比ヶ浜先輩。そしてどことなく先程より仲良さげにクッキー作りを再開した二人を、マッ缶片手にぼんやり見つめる。……しかしかっこいい、ねぇ。

 

 ま、理想と目標はそれで良いだろう。だが——

 

 頭抜けた天才でも無い限り、努力に結果が付いてくるのはだいぶ先だ。しかも、先程のクッキーを見るに由比ヶ浜先輩の努力が報われるのを待っていたら……冗談抜きで年が暮れかねない。

 

 ほら、某無気力系主人公も言っていたでしょ。“やらなくてもいいことならやらない。やらなければいけないことは手短に”って。まぁそれを言うなら俺の人生そのものがやらなくていいことな気もしないでも無いが、ともかくこの流れは少々良く無い。

 

 雪ノ下先輩の努力云々論は正論ではあるが、しかしこの場——そして由比ヶ浜結衣の依頼において必要かどうかは考えてみる必要があるだろう。故に……

 

「……手作りクッキーね」

 

 そう小さく嘯き、俺はカバンから本を—— 『世界のお菓子大全』を取り出し、雪ノ下先輩たちの横の調理台に向かう。

 

 どれ、一丁見せてやろうじゃないの。ぼっちの真髄ってモンをな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全然ちがうー……」

 

「どう教えれば伝わるのかしら……」

 

 おっ、氷の女王様が敗北感を味わってらっしゃる。人の不幸は蜜の味、どうも俺です。

 

 まぁ、茶番はここまでとして——

 

「つーか、何であんたら美味いクッキー作ろうとしてんすか?」

 

 どさくさ紛れに雪ノ下作のクッキー(めちゃ美味)を齧りつつ、俺は方向性を間違えているお二人の先輩方に優しく指摘する。

 

「はあ?」

 

「……何が言いたいのかしら」

 

 ふっふーん。パンパンと優雅に手をはたき、俺はドヤ顔(腐り目付き)でこう宣言した。

 

「10分後ここへ来てください。俺が本当の手作りクッキーってモノを見せてご覧にいれますよ」

 

 これで勝負は俺のターン!

 

 ……そして、10分後。

 

 ほら食ってみろと皿に乗せたクッキーを、怪訝な顔の二人に食べさせる。

 

「……これが本当の手作りクッキーと、貴方はそう言いたいのかしら?」

 

「あんま美味しくなーい!」

 

 そのとても好意的とは言えない反応に、俺は肩を落として残念そうに言った。

 

「そっすか……すんませんね、ならこれ捨てときますわ」

 

 そしてそのクッキーの山を皿ごと持ち出し、ゴミ箱に向かおうとすると、慌てたように由比ヶ浜先輩が追いかけてきた。

 

「あ、いや待って!別に捨てなくても……言うほど不味くもないかもだし!」

 

「へーそうなんすか……まぁこれ由比ヶ浜先輩が作ったクッキーなんすけどね」

 

 ここで真相をバラす。当然訳のわからん事をされた二人はさらに訝しげな顔になる。

 

「……どう言うことかしら」

 

「ごほん。これは俺の昔の話なんすけど——」

 

 ——確かあれは俺が中学上がったくらいのことだったか。2月14日のバレンタインの日に愛しの妹小町から笑顔でチョコを手渡された俺は、ちょうどその頃厨二病を患っていたこともありお返しは何かすげー事やろうと意気込んだのであった。

 

 ほら、ばからもんのオープニングにもあるじゃん。“人とは違うで差をつけろ”って。……え?ちょっと解釈が違う?ゴホンとにかく何にせよそのフレーズが厨二の心に突き刺さり、出した答えは『手作りクッキー作るか!』だった。

 

 その頃……って言うか今もなんだが、俺は料理なんてど素人もいい所だった。精々がカップラ作る時に3分しっかり待てますぐらいの素人さ。その分際でクッキーなんて作り始めても当然うまくいくはずがない。試行錯誤に四苦八苦し続けて、結局出来たのはこの由比ヶ浜先輩のクッキーより少々マシ程度の代物だった。

 

 この時点でも心が折れかけていた俺だったが、しかし渡すくらいは渡そうとホワイトデー当日にリビングへ向かった。——が、そこで見たのは市販の高級クッキー詰め合わせを小町に手渡すクソ親父の姿だった……親父マジブッ頃。

 

「……はぁ。あなたが重度のシスコンだと言うのは分かったけれど、つまり何が言いたいの?市販品を買えと言うことかしら」

 

「待った待った、話はまだ終わってませんよ」

 

 そう、ここまでの話はあくまで前座に過ぎない。クソ親父の高級クッキーの後にこんな不出来なクッキーもどきを渡すのは大いに気が引けたが、ちょっと見せて要らないと言ったらすぐ捨てるかと小町にチラ見せした。

 

 すると嗚呼素晴らしき我が愛しの女神小町!彼女は見た目の悪さなんて一切気にもせずに「わぁい手作りクッキーありがとうお兄ちゃん!」と大変喜んでくれたのだ!!

 

 結論、小町は女神。

 

「更に訳の分からない事になってるわよ……」

 

「ゲフコンゲフコン。ともかく、別に手作りに必ずしも美味しさや見た目の良さは求められてないんすよ。本当に美味いもん食いたきゃAmazonでポチしますし」

 

 更に、と付け加える。

 

「男ってのは単純な生き物なんで、話しかけられただけで勘違いするし、手作りクッキーってだけで喜ぶもんなんすよ。だから美味しくなくても別にいいんじゃないすかね」

 

 ちなみに俺の作ったのはこっちと別の皿を見せる。そこには雪ノ下の完璧クッキーには程遠いが、それでもまぁ悪くも無いクッキーが載っていた。

 

「隣でコソコソ怪しげに何をしているのかと思っていたら……」

 

「コソコソ怪しげには余計っすよ。まぁ俺もここまで出来るようになったのは最近なんで、由比ヶ浜先輩も長く続けてりゃそれなりになりますよ。だから——」

 

 今は“手作り”と言うだけでいいんじゃね?と提案してみる。早よ帰りたいし、この流れで一気に勝負を総取りしたいしね!

 

「……そう、なのかな?」

 

「いやもーそうに決まってるじゃないすか。先輩が頑張ったって姿勢が伝わりゃどんな男も大揺れに揺れてイチコロなんじゃないすかね、知らんけど」

 

 我ながら超適当に補足する。と、彼女はやや俯いて小さくこんな事を聞いてきた。

 

「……ヒッキーも、揺れるの?」

 

「そりゃもうちょー揺れるっすよなんなら貰った瞬間有頂天になって告って振られてインドに自分探しに行くまであるっすねー」

 

 あとヒッキーはやめろ下さい。

 

「……で、どうするの?由比ヶ浜さん」

 

 俺のザ・適当な返事に、小さく口角を上げる由比ヶ浜先輩。すると、さっきから少々複雑そうに黙していた雪ノ下先輩が静かにそう尋ねた。

 

「うん、あたし自分のやり方でやってみるよ。色々ありがとね、雪ノ下さん!」

 

 にへら、と笑った彼女の笑みを締めに、かくして奉仕部最初の依頼はこうして俺のおかげで(ここ重要)達成されたのだった。

 

 ふふふ……勝利の美酒は美味いぜ!!敗北を知りたい。

 

 

 

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