やはり俺の後輩生活はまちがっている。   作:信濃氷海

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④ されど剣豪将軍はラノベ王を目指し続ける。(前)

 ——部室に行くと、先輩二人がひっつき合いながら恐々ドアの窓越しに部屋の中を覗き込んでいた。

 

「……なにしてんすか」

 

 背後から声を掛ける。するとなんということでしょう、二人は幽霊か何かに会ったかのように悲鳴をあげ、恐怖で引き攣った顔になり振り返った!俺はホラー映画のゾンビか何かなんですかね?

 

「い、いきなり声をかけないで貰えるかしら」

 

「……そりゃすんませんでしたね。それで?何してんすかこんな所で」

 

 改めて尋ねると、二人は顔を見合わせた後薄気味悪そうにこう言った。

 

「えーっと……部室に変な人がいるの」

 

「変な人ぉ?」

 

 新手のジョークかな?と一瞬本気で思った。ここは人気(ひとけ)の無い特別棟の、そのさらに奥にある普段はだーれも通らない侘しい空き教室。そんな辺鄙な所に来るなぞ変なやつの方が御免被るだろう。

 

 なのでわざわざ来る間抜けは暇な依頼人か、俺みたいに哀れにも奉仕部という名の監獄に囚われてしまった囚人くらいだ。はー、自由になりたい……

 

 だから教室に誰かいるとすれば、それはまず間違いなく依頼人なのだが、いいから見てこいハチマン!されてぐいぐいと部室へ押し込まれる。ちょ、ま、真上からブッ刺されるのは勘弁——

 

 と、中に入った瞬間

 

「ククククク…………………こんな所で出会うとは奇遇よの八幡、この剣豪将軍待ちわびたぞ!」

 

 奇遇で待ちわびたとか典型的矛盾乙。……しっかしこれはまた……面倒な奴が来たな……

 

 全開の窓から吹き荒ぶ風が、そこらに落ちていた無数の紙を吹き飛ばす。こんなもん昨日は無かったから、このドヤ顔でポージングするアホが持ち込んだの確定なのだが……片付けは自分でやれよ。

 

「知り合いのようね比企ヶ谷くん」

 

 押し付ける気満々に、雪ノ下先輩がそんな事を言ってくる。ここで知らない人ですさようなら出来たらどんなに楽だろうか……だがこの男が名指しで呼びやがってくれたのでそうもいかなくなってしまった。……嗚呼、面倒くさい。

 

「何の用だ材木座……?この紙は……」

 

 仕方なしにその男——同級生にして体育のペア仲間材木座義輝に近づこうとした時、舞い散っていた紙がただのコピー用紙とかでは無いことに気づいた。

 

「おお!流石は我の魂の同胞たる八幡!ククク……それこそ古より封印されし『神の意思(ゴッズペーパー)』であぁぁぁぁるぅぅぅぅぅ!!!!」

 

 なんだそれ、いや本当に何それ。ゴッズペーパーって何?トイレットペーパーのナカーマかな?無論そんな訳は無く、そこらに散らばっている紙はいわゆる原稿用紙という奴である。……この時点で、俺はこの厨二男の依頼が何であるか大方の予想がついた。ついてしまった……

 

「……一体何なのコレは」

 

 雪ノ下先輩が、汚物か何かを見るような目で材木座を見つつ冷ややかにそう聞いてくる。だが、俺が答える前に異様なポージングをキメた材木座が……おい何で俺の方を見る。

 

「はぷこんはぷこん!我こそは剣豪将軍材木座義輝なりィィ!!!!本日はァァァ汝をオタクにしてやるから我を超有名ラノベ作家にしてくれェェェェ!!!!」

 

 もうね、キャラがブレッブレ。だがまぁ仕方ないのかもしれない。何せまだ入学して一ヶ月も経っていないのだ。まだキャラが定っていなくても……いやむしろ一ヶ月にしては(悪い意味で)キャラ立ちすぎてない?

 

「ラノベ……ライトノベルの略称ね。ではあなたのお友達の依頼はそのライトノベルの添削という事でいいのかしら?」

 

「友達じゃ無いっすよ」

 

「左様ッ!!我に友などおらぬ!!……そう、一人も……ヌハハしかァァァし!!!この剣豪将軍いずれ天下泰平のため立たねばならぬ身、故に好むものなど不要!!そうであろう八幡大菩薩よ!!」

 

 そう、友達では無い。俺にとって奴は体育の時間に半強制的にペアを組まさせられる、いいとこそれだけの知り合いに過ぎない。だからそれ以外の時間で話すことも……そもそもクラス違うし、皆無だった。

 

 しかしだからこそ、材木座がこの奉仕部にやって来た時、俺は多少の驚きをもっていた。奴にとっても俺なんぞ体育の時間中に厨二的設定を浴びせかけるだけのロボット程度と思われていると普通に考えていたから。

 

 

 ——しかし、それでも俺と奴は友達では無い。だって、友達と言うのは——

 

 

 “本物”の関係であるべき、あらねばならないのだから。

 

 

 ……俺がそんな事をぼんやり考えていると、ぐいぐいと右手の裾が引っ張られた。

 

「比企ヶ谷くんちょっと……何なの、剣豪将軍って」

 

 雪ノ下先輩が耳元でそんな事を聞いて……って近い近い近い!年頃の男子にそんなことしちゃいけません!めッ!!勘違いして好きになっちゃうでしょーが!!

 

 ……ゴホン、まぁしかしエリートぼっちな俺は鋼の自制心をもって抑え込み、その質問にキリリと答える。

 

「ありゃ厨二病ですよ」

 

「ちゅーにびょー?」

 

 厨二病とは何か?それはDTと並ぶ男子の嗜みである。詳しくはWEBで…って言うかグーグル先生に聞いて、どうぞ。

 

「ま、要するに奴の場合偶然名前が同じだからって事で、室町幕府の将軍足利義輝の生まれ変わりか何かだと妄想してあんな事言ってるんすよ。そんで足利幕府が篤く信仰していた八幡大菩薩と俺を混ぜ込んで設定膨らませてるみたいっすね」

 

「……随分詳しいのね、似たもの同士ということかしら?」

 

「ナチュラルに一緒にするの止めてもらっていいすか?そもそも俺はあいつのとは違って馬鹿な妄想はもうしないんすよ。コスプレも卒業したし神界日記も全部捨てたし、あと極秘の政府報告書も……って危うく俺の過去全部詳らかに暴露する所だったじゃないすか誘導尋問上手いっすね」

 

「何一つ誘導していないのだけれど……」

 

「……気持ち悪ーい」

 

 ぐはっ!俺は死んだ。あのですね由比ヶ浜先輩……女子が言う気持ち悪いは男子にとって致命的な一撃なんですよ……

 

「個人的には、小説云々よりまずその病気を治した方がいいと思うのだけれど」

 

「あ、いや病気じゃないんですけど……」

 

 やべー病気扱いしてくる雪ノ下先輩に、素に戻ってか細く反論する材木座。だが哀れ、氷の女王の鋭い睨みで部屋の隅まで吹っ飛ばされた。

 

「へぽひん!……と、とにかくだ八幡よ、我の頼みは単純明快。我が書いてきたラノベの原稿を読み、感想を言って欲しい。ある新人賞に応募したいのだが、いかんせん友達がいなくて感想が聞けんのだ。だからハチえもん頼むで御座候!!」

 

「誰がハチえもんだ。……つーかそれならなろうとかに載せりゃいいんじゃねーの?」

 

 それで高評価取れれば出版社の方から連絡来るだろ、知らんけどと付け加えるが、しかしそれに対し材木座は深刻そうに首を振った。

 

「それは無理だ!ネットの住民は冷酷無情、他者を叩く事に余念の無い悪魔のような連中だからな!酷評されたら多分我死ぬ」

 

 流石にそれは妄想がすぎるだろ……大体それなりに有名にならなきゃそもそもアンチすら付かないって言うし。

 

 しかも、だ。

 

「心よえー……でもな材木座、多分そこらのアンチより——雪ノ下先輩の方が圧倒的に容赦ないぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局時間も時間だったので、奉仕部部員が各々この禍々しいラノベ原稿を持ち帰り、家で読んでくるという事になった。この小説が材木座により生み出された事を考えると、カバンの中で増えた重みと内容が釣り合っているかは極めて疑問であったが、ともかく仕事はやらねばならん。全ての社畜に安寧を!下らん仕事に天罰を!!

 

「——この物語の根幹である空間☆断裂人呼んでェェェェディメンションドライバァァァァァァァァァ!!!!コレが最後には世界議会によるアカシックレコードへのアクセスを……」

 

 UZAI!!何故か一緒に帰ることになったざいもくざくんが垂れ流す妄想ワールドが耳の右から左へ流れていく。正直ウザい以外の何物でもないが……

 

 と、その時

 

 パァーン

 

 耳障りなクラクションと共に、赤信号をガン無視して眼前の横断歩道を一台のセダンが通り過ぎて行った。そして、一拍遅れた鳴り響く犬の鳴き声……

 

 車種も、犬の種類も違う。されど——

 

 一瞬、動きが止まる。幸いにもあの時俺は奇跡的に打撲程度で済んだ。しかしすんごい痛かったし、車に吹っ飛ばされる衝撃はかなりのものだったから、心の何処かでトラウマになっていてもおかしくないのだろう。まだ一ヶ月も経ってない訳だし。

 

 ……そういやあのダックスフントは無事だったのだろうか?痛みで気絶する直前までは何事もなかったかのように俺の周りを駆け回り、顔を舐めまくっていたあのチビ犬だったが、その後会う事はなかった。……つーかその飼い主とも結局会ってねーな。

 

「——ちまん、はちまーん!!」

 

「ん?ああそれツマンネ」

 

「はっはーん!!その返答は想定内だ八幡よ!!さらに加えて幼馴染の持つ神矢の鉄槌グンニグルハンマァァァァァァァァ!!!!こいつが——」

 

 ……はー、読むの面倒だなぁ。更に続く材木座のとても愉快な妄想にげんなりしつつ、俺は心の底からそう思ったのでした。

 

 

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