やはり俺の後輩生活はまちがっている。   作:信濃氷海

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⑤ はたして男の娘な先輩とのラブコメはまちがっているのだろうか。(前)

 ベストプレイス、それは唯一残された人類の最後の希望の地であり、人々はそこを目指して決死の大移動を敢行した……はい嘘ですごめんなさい。

 

「……まだ寒いな」

 

 季節は春を越え、新緑生い茂る今日この頃。暦的には夏の初めらしいが、しかし未だ外で飯を食うには少々寒い。しかしぼっちは外で食う、何故か?

 

「そこにベストプレイスがあるから、か」

 

 かの偉大なる登山家ジョージ・マロニーが言ったとされる言葉を借り、俺はフッと遠くを見ながら呟いた。……あ、因みにそこにエベレストがあるからは誤訳らしいので注意。これ八幡の豆知識、略してはちまめな。まぁウィキペ見りゃ載ってるけど。

 

 あむ、と左手で持つナポリタンパンを齧る。ああ……例え少々寒かろうと、ベストプレイスで昼飯を食う安らぎは、世界の全てと戦うぼっち戦士の俺にとって数少ない癒しの時である。何かそれだとラノベの主人公っぽいが、残念ながらチートもハーレムも今の所は俺の元へは来てくれない。

 

 ……ヒュウゥゥゥ

 

 もはやアイデンティティともなっている俺のアホ毛が風にあおられゆらめく。臨海部に位置するこの学校は、お昼を境に風向きが変わる。入学して早々にこの場所で飯を食うようになった俺だったが、最近どうやらこの風にはある法則性がある事に気づいた。……まぁ、人気の少ない場所の法則性云々などだから何だという話ではあるが。

 

「あれー?ヒッキーじゃーん」

 

 と、その時背後から声が掛けられた。振り返ると……

 

 ちょ、スカート短……煩悩退散煩悩退散ッ!

 

 ……ふぅ。ゴホン、そこに居たのは風で短いスカートをたなびかせた由比ヶ浜先輩だった。

 

「……普段ここで飯食ってんすよ」

 

「へー?なんで?教室で食べれば良くない?」

 

 うぐっ!……察しろマジで。

 

「つーか先輩こそ何でこんな所居るんすか」

 

「それそれ!実はゆきのんとのゲームでー、ぼろ負けしちゃってー、罰ゲームってやつ?」

 

「俺と話す事がですか……」

 

 もしそうなら流石に泣く。何なら千葉の海に身を投げるまである。すると慌てたように由比ヶ浜先輩は手をパタパタと振り……って何で横に座んのこの人。

 

「ち、違う違う!負けた人がジュース買ってくるってだけだよ!」

 

 あーよかった八幡生きてられる。……つーか、もうそんな仲良くなったのかこの二人は。

 

「あー……まぁ、色々あって、ね」

 

 言葉を濁す彼女の姿を横目で見る。ふーん、色々、ね。実を言うと、人間観察レベル八万の俺はこの前の材木座の依頼の時辺りから由比ヶ浜先輩がどうも前よりおずおずとした態度をやめ、そこそこ毅然とした雰囲気になっていたのを感じ取っていた。

 

 ……ま、それの原因は俺にとってはどーでもいい事だがね。

 

「……ねぇ、ヒッキー」

 

 何はともあれ仲良さそうで結構ですねケッ!と更にドロドロと目を腐らせながらパックのコーヒー牛乳(これはこれで好きだ)の中身をズゾゾと吸い上げる。そこへ、どこか居心地悪そうに彼女が呟いてきた。

 

「その……4月のはじめ、ヒッキーの入学式の日のこと、覚えてる?」

 

 ああ?いきなりなんだ。俺は胡乱気に由比ヶ浜先輩の方を見た。

 

「はい?……いや俺、当日に交通事故に遭ってるんで。結局その後学校行けなかったんで特に何も知らんっすよ」

 

 特にどこも折れていなかったものの、車に吹っ飛ばされたということもあって色々精密検査する羽目になり、なんやかんやと病院に釘付けになっているうちに気付けば俺は中学だけで無く高校でもぼっち生活が確定してしまいましたとさ、という笑えない話である。

 

「……じこ、あの、それってさ——」

 

 ゴニョゴニョと彼女が何かを言い掛けた、その時——

 

 

 俺は、天使を見た。

 

 

「——あれ?」

 

 トコトコ、そういう擬音がピッタリの儚げな美少女が、向かいのテニスコートの方から歩いてきた。首にかけたピンクのタオルで汗を拭くその姿は……イイ。

 

「あ!さいちゃんだ、よっす!」

 

「よ、よっす、由比ヶ浜さんはここで何してるの?」

 

「ああいや、別に何も!それよりさいちゃんは練習?部活もして、昼練もして、しかも体育の選択もテニスなんでしょー?大変じゃない?」

 

「ううん、好きでやってる事だから」

 

 あっ、今の好きってセリフもう一回できればその前に八幡と付けて!……いやいかんいかん、危うく目つきだけで無く行動すらも完全不審者になる所だった。備わっている鋼の自制心が無ければ……危うかった……。

 

「——それと……比企ヶ谷くん、だよね?すっごくテニス上手だよね!」

 

 なん……だと……?!謎の薄幸系美少女が俺の事を……知っていただと?

 

 ……いや、ないわー。この瞬間燃え上がっていた俺の心はむしろ一瞬にして鎮火した。あの美少女が俺の知り合いだったらいいな……と妄想するのはアリだが、不必要に近づいてくる女は全て美人局と思えという比企ヶ谷家の教えは忠実に守られたのであった!

 

 が、どうやら由比ヶ浜先輩の方はどうも違う解釈をしたらしかった。

 

「え?!ヒッキーさいちゃんと知り合いなの?!」

 

 いや知らんが……答えに窮するも、助け舟はその謎の美少女(美人局疑惑アリ)が出してくれた。

 

「……あ、僕は戸塚彩加って言います。それでね比企ヶ谷くん、この前チラッと一年生の体育の授業見たんだ。その時テニス部の町田くんとラリーしてたでしょ?」

 

 町田くん……ああ、あいつか。町田某、それは俺のクラスメイトであり、種目分けでサッカーの国へ飛ばされた材木座の代わりに組んでいるペア仲間である。あ、下の名前は知らんそれ以外で関わり無いし、材木座と違って無駄に名乗らないから。

 

 しかし……あいつテニス部だったんだへー、通りで上手いと思った。……あれ?つーことはテニ部とやや劣勢ながらも何とか打ち合えている俺って実は凄いんじゃね?やはり比企谷八幡は天才だった証明終了QED。

 

「町田くんも比企ヶ谷くんのこと上手いって言ってたし……それで、その事でちょっと相談があるんだけど——いいかな?」

 

 おお町田自身も褒める程とはこれは八幡テニプリルートが解禁されましたかな?待ってろウィンブルドン!!

 

 ……げこぽんげこぽん、それで、相談?

 

「うん……知ってるかもしれないけど、うちのテニス部すっごく弱くてね。僕も上手くはないから指導することもままならないし……」

 

 へー、そうなんだぁ。いや実際初耳だった。まぁ俺の場合部活とか興味なさすぎてそれ関連の話全部初耳まであるが。

 

「それで、もし比企ヶ谷くんさえ良かったらなんだけど、テニス部に入ってくれないかな?」

 

 町田くんと合わせて比企ヶ谷くんも入ってくれれば部の強化も上手くいくと思うんだけど……と、妙に艶かしくお願いしてくる彼女に、しかし俺の方は苦笑せざるをえなかった。

 

「あー……悪いんすけど、女テニに男は入れないっすよ」

 

 女装でもして入ってくれということか?そんな事をすれば最後Twitterに晒されて人生終わるの確定である。

 

 が、俺の言葉に何故か顔を赤らめしょんぼりした戸塚先輩は——

 

「……僕、男なんだけどなぁ」

 

 ——とんでもない事実を暴露した。え、男……??

 

 え????

 

 目が点になる……だが、そういえばと先程からの彼女……もとい彼の発言を思い返してみれば、確かに……町田は男だし……

 

 ま、マジか……

 

「……肌綺麗ですね」

 

 混乱の極地にあった俺の脳みそが、そんな頓珍漢な感想を出力したのはどうか多めに見て欲しい……

 

「あ、ありがとう?」

 

「……むー」

 

 腐り目がグルグルしてる俺、斜め上の俺の言葉に首をコテンと傾け困ったようにそう答える戸塚先輩、そして何故かジト目で俺を睨んでくる由比ヶ浜先輩……

 

 癒しのベストプレイスだった場所は、今やちょっとした混乱状態に陥っていた。その最中、俺の脳裏をよぎるこんな疑問——

 

 ——男の娘は、美人局に入るのでしょうか?教えてくれ親父……

 

 

 

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