蛇巫の少女、呪術高専に通う   作:猫島 合

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前回も感想評価、誤字報告ありがとうございました。


四話 抱擁

伏黒恵の、加々知鉈弥に対する印象というものは、何とも形容し難い。

 

呪物を食むことを課せられていて、その呪物を全て食べきった折には、死刑が決まっている。

 

自分で自分の死期を早めているのだ。

 

それを、笑いながらやっている。

 

どうして笑えるのか、分からない。イカれているとすら思う。イカれてなければ呪術師なんて勤まらないが。

 

初めて会った時、人形めいたやつだと思った。人間性が大きく欠落しているように感じたから。だけど、一緒に過ごすうちに、その笑顔に温度が宿っていき、段々と人間らしくなっていった。好奇心旺盛で、少し抜けていて、方向音痴で、目を離したら直ぐに怪我をして帰ってくる。

 

伏黒は、いつしかそんな加々知が放っておけなくなってしまった。

 

だから、ついつい世話を妬いてしまう。禪院に「ママかよ」と言われても、加々知の面倒を見てしまうのだ。

 

だから、彼女が子供達に「バケモノ」と呼ばれた時、腸が煮えくり返りそうになった。今でもあの子供達のことを思い出すと、ぐつぐつと腹の奥が熱くなる。それを笑って受け入れている加々知の顔は、初めて会った時と同じような人形めいた笑顔で。

 

彼女が無茶な戦い方をし始めて、血塗れになって帰ってくる事に、泣きそうになった。

 

やっと、人間らしくなってきたのに。

 

五条や釘崎、虎杖と叱りつけて、あの戦い方を辞めさせられたが、それでも心配だった。

 

虎杖が死んだあの日。宿儺に腹を蹴られ、吹き飛ばされた身体は、見るも無惨な姿だった。

 

骨が皮膚を突破って飛び出し、脊椎は折れ、腸はぐちゃぐちゃ。蛇の力のおかげで、生命力が強くなければとっくに死んでいた。めきめき、ぐちゃ、と音を立てて再生していくのを、何も出来ずに見ていた。

 

致命傷に近い傷は、治るのが速いらしい。だがその分呪力を大量に消費したらしく、彼女は三日間眠り続けた。

 

寝ている間、目覚めなかったらどうしようかと、思った。釘崎も伏黒と同じ思いだったらしく、何回も部屋に足を運んでいた。その折の会話。

 

「こいつの部屋、殺風景ね。最初から支給されてる家具しか置いてないじゃないの」

「そうだな。女子の部屋ってぬいぐるみとか置いてあるんじゃないのか?」

「……偏見キモ」

「!?」

 

姉の部屋を参考にしたコメントである。

 

「カーテンもだっさい支給品。私、即日取り替えた。

……ねえ、コイツ、身辺整理でもしてるのかしら」

 

いつ死んでもいいように。釘崎は、そう言って口を閉ざした。眠っている加々知を見つめる。

 

「思ってたけど、この子、死ぬのが怖くないのかしら」

「…………」

「だって、死刑よ? 生まれた時から死刑が決まってるのよ? 途中で死ぬかもしれない。それなのに、それなのに……」

「…………」

「…………」

 

なんとも言えない表情で、釘崎は立ち尽くした。そして、加々知の頭を軽く撫でてから部屋を出る。伏黒もその背を追った。

 

「死にたくないって、言わせたい」

 

廊下で、ポツリと呟いたのは、どちらだったか。

 

だが、それが残酷なことだ。死刑はもう決まっている。それなのに、死にたくないなんて思わせてしまったら、辛いのは加々知だ。

 

それでも、願ってしまう。仲間が、健やかであることを。“人”であることを。

 

 

 

■■■

 

 

 

姦姦蛇螺は、ゆったりとしたポンチョのような服で多腕を誤魔化し、街を歩いていた。その足取りに迷いは無い。場所は新潟市内の街並みを眺めながら、上機嫌に微笑んでいた。

 

万代シティのバスセンターの近くのクレープ屋で買った、ぽっぽ焼き生地のクレープを一口頬張る。口の端についたクリームをぺろりと舐めとると、たまたまそれを目撃した通りすがりの男子大学生が、頬を染めた。それを気にもせずに、姦姦蛇螺と夏油は街を歩く。

 

「新幹線。楽しかったです。夏油さま」

「そりゃよかった」

「“私”も、初めて乗った時は楽しかったらしいですから。ふふ、同じ気持ちになれて嬉しいです」

「じゃあ、これからバスに乗るよ。加々知家はクソ田舎にあるから、ここからバスで1時間。さらにタクシーで30分って所かな」

 

東京ほど厳重に“窓”は設置されていないが、呪霊で飛んでしまえば気取られる。そのため、2人は公共機関を乗り継いでいく。

 

「この服も、用意してくださってありがとうございました。……本当になにからなにまで、夏油さまにはお世話になりっぱなしですわ」

「どういたしまして」

 

「お二人さんご夫婦かなにか?」

 

タクシーに乗ると、運転手が2人に話しかけてきた。夏油はにっこりと笑って黙殺する。

 

「どっから来たの?」

「東京です」

「そりゃ遠い。こっちに親戚でも居たんろっか?」

「ええ。“私”の家族が」

「この住所だと、アンタ加々知さんちの? あー今年は大変だったねぇ。まさか田んぼが全滅するだなんて。蝗にやられたらしいね」

 

運転手は、加々知家についてべらべらと話す。山奥にある豪邸で、沢山の田んぼもやっている大農家。毎年なぜか、他の家よりも豊作に実るのだが、今年は稲が全て蝗に齧られボロボロになったとか。

 

「座敷わらしでも出ていったのかね? ああ、ワリね、気を悪くしねでくれ」

 

何処か悪意ある口調。どうやら加々知家というのは、呪術師界隈だけでなく、地元でも嫌われているらしい。ふ、と夏油は口の端を釣り上げた。姦姦蛇螺も「ふふ、」と笑う。

運転手は、ぶつぶつと加々知家の陰口を言い始めた。やれ愛想が悪いだの、何を考えてるのか分からないだの、部落会議に出席しないだの。よほど不満があるらしい。

 

「日頃の行いがよろしくないのね」

「なんだ、アンタ。自分の家が嫌いなんけ?」

「ええ、大っ嫌いです」

「そんなこと言いなさんな。親不孝な」

「あら? アナタに関係ありまして?」

 

先程まであんなに悪意たっぷりに加々知家につい言っていたのに。

 

「ふふ、ふふふ。やっぱり、嫌い。憎い。自分のことは棚に上げて、そうやって、そうやって……ふふ、あの人達と同じ。おんなじなのね」

「?」

「蛇螺。あまり派手にやらないでくれよ」

「はい夏油さま」

 

姦姦蛇螺は、ポンチョをするりと脱いで6本ある腕を晒した。運転手は、バックミラー越しにそれを見て目を剥く。驚きのあまり、ブレーキを思いっきり踏んだ。

 

運転手は、ガタガタと震えながら、逃げようとする。しかしシートベルトを外し忘れてしまったため、がくんとつんのめった。

 

「死んでしまえ」

 

ストレートな殺意。姦姦蛇螺は、すう、と目を細めた。

 

 

 

「夏油さま、運転お上手ですね。快適です」

「それは良かった。さて、あの山の奥だよ」

「まあ!では、ここで良いです。夏油さまは待っていてください」

「行ってらっしゃい」

 

 

 

新潟県 ××市 山間部 加々知邸。何者かの襲撃を受け、壊滅。被害者数12名。

 

現場に残された残穢が、姦姦蛇螺のものと一致。

 

それにより、姦姦蛇螺の上半身を管理していた一族 香露(かつゆ)家が、姦姦蛇螺の上半身の封印が何者かによって解かれていた事実を、隠蔽していたことが発覚。

その直後 嫡子を除いた一族集団自死。

 

姦姦蛇螺の上半身、現在行方不明。

 

 

 

■■■

 

 

 

交流会に向けての特訓の合間、加々知は、先輩に頼まれて飲み物を買いに行っていた。釘崎と伏黒は一足先に自販機の所にいるため、駆け足で急ぐ。早く行って、2人を手伝いたかった。

 

「ああ、君。君が加々知 鉈弥さんかな?」

 

だが、誰かが呼び止めた。そこに居たのは、ロングコートのような形の制服を着た男子生徒だった。見たことの無い顔である。

 

「初めまして。君とは1度会ってみたかったんです」

「……どちらさま?」

「怪しいものじゃあない。君と同じ、姦姦蛇螺に人生を縛られている人間さ。

京都校3年。香露 定次(かつゆ さだつぎ)。名前くらい知ってるだろ?」

「存じない。ごめん」

「……そうかい」

 

こほん。と咳払いを1つ。

 

香露と名乗った男子生徒は、人好きのする笑みを浮かべて手を差し出した。握手をしたいらしい。加々知はそれに応じて手を差し出した。

 

だが、香露は突然、彼女の手首を乱暴に掴んだ。そのまま頭上に引いて、加々知を吊るすような体制にする。ぶらん、と地面から足が離れて揺れる。加々知は突然のことに驚いて、無抵抗なままだった。

 

「……軽」

「???」

「こんなちんちくりんが器なんてな」

「力自慢……?」

「はあ、危機感は無いのか? それとも、僕よりも自分が強いとか思ってる? 余裕の表れ?」

 

先程までの温厚そうな好青年の面影が、跡形もなく消えた。その代わりにその顔には侮蔑の色が、ありありと浮かんでいる。敵意。害意。悪意。その全てを、加々知の細身にぶつけるように睨み付けている。

 

「家族を一度に失ったもの同士、傷の舐め合いでもしてやろうかと思ってたのにさ。

……まぁ、僕は加害者側で、君は被害者側だけどね」

「…………」

「分かってるよ。香露家が姦姦蛇螺の上半身の封印を解かれなければ、それを隠蔽しなければ、君の家族は死ななかった。僕の家族が死んだのは、完全に自業自得だしね」

「香露さん、」

「なに? 責める気? 良いよ。君にはその権利がある」

「いや、一旦降ろしてもらってよろしいか?」

「…………一旦でいいのかよ」

 

ぱ、と手を離して加々知を地面に下ろす。加々知は、赤くなってしまった手首をさすった。

 

「力持ちですね。金太郎?」

「意味がわかんないんだが」

「これから自販機のとこ行くんですけど、一緒に来る?」

「…………はぁ、」

 

香露は、あっという間に霧散した剣呑な空気を惜しむように溜息をついた。

 

「行くよ。他のやつもそっちにいるらしいし」

「じゃあコチラです」

「……いや、そっちじゃないだろ? 道ぐらい知ってる」

「?」

「まさか君、道が分からないんじゃないだろうね?」

 

 

 

■■■

 

 

 

「そんな汚らわしい人外が隣で不躾に呪術師を名乗って虫酸が走っていたのよね?死んで清々したんじゃない?」

 

伏黒と釘崎は、自販機の前で京都校の先輩方に絡まれていた。一触即発な雰囲気である。

だが、そこに、何故か京都校の男子生徒に手を引かれた加々知が登場した。

 

「東京校! 何故こんなくそ方向音痴を野放しにしているんだい!? 彼女、自信満々に逆方向に進んでいくぞ!! あと『猫だ!』って風に飛ばされてるビニール袋を追い掛けていこうとするし!!

校内にゴミが落ちてるなんて、東京校はよほど人の質が悪いと見える!!!」

「伏黒。 この人、とてもいい人」

 

情報量。

 

「迷子を保護してきたのかしら?」

「こんにちは」

「こんにちは。礼儀正しいのね。あら、もしかしてこの子が姦姦蛇螺の器? へえ……」

「?」

「何その目、本当に蛇みたいね。気色悪い」

「舌も蛇みたいだよ。見て」

「…………」

 

ぺろ、と舌を出す。加々知の舌は、先天的なスプリットタンである。女子生徒、禪院真依は、予想外の返答に戸惑って、一瞬視界を泳がせた。先の割れた舌をグロテスクに思ったらしい。

加々知自身も、あまり万人受けする形では無いことを知っているため、その反応に思うことは無い。

目の事も、別に気にしていない。気色悪いと言われるのが常であったから。

 

「汚らしい人外。私はそれも良く言われてたから、別に気にしない。間違ってもない。否定はしない。でも、死者について悪く言うのはきっと間違ってる。謝罪を要求する」

「…………」

「謝って」

 

沈黙。加々知の瞳孔が細くなった。蛇の目だ。人のそれでは無い。ぞわりと寒気がする。

 

「……気色悪い」

「真依、どうでも良い話を広げるな」

 

ガタイのいい男子生徒が口を開く。どうやら、特級術師である乙骨や、3年生の代打が1年坊主であることが気に食わないらしい。

 

「伏黒とか言ったか?

 

どんな女がタイプだ!?」

 

……………

 

伏黒と釘崎が、思わず首を傾げた。加々知は未だに手を繋いでいる香露の顔を見る。香露な、諦めたような顔付きで首を横に振った。目が死んでいる。

 

「彼、この質問が大好きなんだ。欲しい答えじゃないと殴られる」

「理不尽」

「僕も殴られた」

「ちなみになんて答えたの?」

「……『笑顔が可愛い人』」

「普通ね」「普通だわ」「普通……」「相変わらずつまらんやつだな定次」

「なんでこんな時だけ息ぴったりなんだ君ら」

 

閑話休題。

 

「別に好みとかありませんよ。その人に揺るがない人間性があればそれ以上は何も求めません」

 

伏黒は、真っ直ぐにそう答えた。女性陣からの反応は上々である。だが、筋肉隆々の男子生徒、東堂は、納得がいかなかったらしい。

 

静かに涙を流して「退屈だよ……」と呟いた。

 

「香露さん。もしかして、あの人ヤバい人だったり?」

「そう。ヤバい人だよ。見てはいけません」

「鉈弥ちゃん。さっきから気なってたんだけど、その保護者面 誰よ。伏黒だけで十分でしょ保護者面」

「別に保護者面なんて、してな、」

 

瞬間、伏黒が吹き飛んだ。目にも止まらぬ早さでラリアットを食らったのだ。それに気を取られているうちに、真依はするりと釘崎に後ろから抱きついた。

 

「あーあ 伏黒君可哀想。2級術師として入学した天才も1級の東堂先輩相手じゃただの1年生だもん。後で慰めてあげよーっと」

「似てるって思ったけど全然だわ。真希さんの方が100倍美人。寝不足か?毛穴開いてんぞ」

「……口の利き方、教えてあげる」

 

銃を釘崎に突きつける。加々知は、それに目を見開いて駆け寄ろうとしたが、香露が依然として手を掴んでいるために阻まれた。

 

「おっと。大人しくしててくれ。ここでやられるようであれば、彼らはそれまでの術師ということだ」

「……どうやら京都校ってのは、野蛮な人しかいないみたいだな」

「挑発のつもりかい? 確かに東堂や禪院さんは血の気が多くて野蛮だね。だから、僕らは大人しくしていましょう」

 

加々知は、真希仕込みの合気道の要領で、香露の腕を振り払った。そして、そのまま身を翻し、引き金を引こうとしている真依に向かっていく。

 

「大人しくしていましょうと、言っている」

 

ずるり、と足元が滑って、無様に転ぶ。受け身を取るために手を着くが、それすらも滑ってしまい、コンクリートに強かに身体をぶつけた。

 

「な、立てな、」

「無駄だよ。そういう術式だからね」

 

まるで、ツルツルとした氷の上にいるようだった。滑ってしまい、立ち上がることすら出来ない。動けない。

 

「無様。腹這いがお似合いだよ、蛇」

「やっぱ良い人じゃない!」

「良い人判定が緩すぎでは?」

香露は、無表情のまま加々知の頭を踏みつけた。

 

 

 

■■■

 

 

 

「年下女子の頭を踏み付けるとか、どんな変態かと思えばテメェかよ。香露。相変わらずだな」

「いつもやっているみたいに言わないで貰えるかな? 別に、彼女が大人しくしてくれればこんな事しないよ。それに蛇を捕まえる時は、頭を抑えるだろう?噛まれないようにね」

 

真希が駆け付けたことによって、真依による釘崎への攻撃が止んだ。釘崎は、ボロボロになって倒れている。加々知も、地面に思い切り顔を押し付けられ、動けずに居た。

 

だが、真希に気を取られた隙に、釘崎は起き上がり、後ろから真依に抱き着きヘッドロックする。

 

加々知も香露の足の力が緩んだ隙に、するりと抜け出した。もう足元は滑らない。手を地面に付けて脚を宙に上げ股間を蹴り上げた。

 

「ぎっ、」

 

直撃。

 

蹲る香露。この場には他に女しか居ないので、その痛みは分からない。真希は満足気に頷いて、口を開いた。

 

「よくやった鉈弥。そうやってタマは積極的に狙っていけ。

香露、油断してっからそうなんだよ」

「ッ、ぅ、か、姦姦蛇螺の器に、変なことを教えないでくれるかな!」

「思ったより回復早いな。加々知、次はもっと強めにいってもいいぞ」

「はい!」

「伏黒が泣きそうね……」

 

真依を閉め落とそうとしながら、釘崎が呟いた。

 

その後、真希と真依で一悶着あったが、東堂が戻ってきたことで解散となった。これからアイドルの握手会に行くらしい。

 

「アンタ達、交流会はこんなもんじゃ済まないわよ」

「ナニ勝った感出してんだ!制服置いてけゴラァ!」

「やめとけバカ。ここじゃ勝っても負けても貧乏くじだ。交流会でボコボコにすんぞ」

 

「加々知 鉈弥」

「なんだよ悪い人」

「……僕は君が嫌いだ。心底嫌いだ。だから、交流会では手加減せずにぶちのめす。被害者遺族だからって、容赦はしない。僕は君に情けをかけるのをやめた」

「じゃあ、私も容赦しない。首洗って待ってろ」

 

香露も、悠々と去っていった。若干歩き方がおかしかったが、見なかったことにしてあげた。

 

女子三人、並んで歩く。真希が呪力が無いという話をしている中、加々知は独り思考を回していた。『加害者と被害者』と香露は言っていたが、別に加々知はそんなことは思っていなかった。むしろ、

 

(家族が死んだことに、安堵を覚えたなんて。人でなしにも程がある。……やっぱり、私は)

 

「どうした? 鉈弥。怪我が痛むか?」

「……いや、もう治ったから平気。真希ちゃん先輩。野薔薇ちゃん。交流会、頑張ろうね」

「ああ!」「ボコボコにしてやりましょ!」

「じゃあ特訓だな。加々知、力で抑え込まれた時の対処をみっちり教えてやる」

「お願いします!」

 

 

 

■■■

 

 

 

「加々知、」

「伏黒、怪我は、」

 

東堂との戦闘で出来た傷の治療を終えた伏黒は、加々知の姿を見るなり、彼女を抱きしめた。

 

加々知の隣にいた釘崎は、ぎょっと目を見開く。加々知も突然のことに驚いて、硬直した。

 

ぎゅう、と力が込められる。加々知は困惑しながら伏黒の様子を見た。

 

「……ふ、伏黒?」

「…………」

「おい伏黒! 何やってんだお前!」

 

釘崎から、非難の声が上がる。後ろから見ていたパンダと狗巻は、「あらまぁ!」「高菜ぁ!」と口元を手で押えていた。真希はスマホを構えて写真を撮っている。

 

「……お前は、人間だよ。間違いなく。俺が保証するから……だから、あんな事、もう言わないでくれ」

「…………」

「汚らしい人外とか、そんな酷いことを言われてるのに、受け入れて笑わないでくれ、頼むから」

 

そんな泣きそうな声に、一同は黙り込んだ。そして、皆で加々知を伏黒ごと抱きしめた。

 

「……同感よ」

「…………」

 

加々知は、静かに目を閉じた。

 

「……あったかい」

 

その温もりが、じんわりと、渇いた心に染みていく。

 

それを遠くから眺めていた五条は、青春だねぇと呟いて写真を撮った。暫くスマホの待ち受けにする。

 

 




香露家
姦姦蛇螺の上半身を封印している社を管理していた一族。

かつゆ=蛞蝓 の意

三竦みで、蛇に勝るのが蛞蝓だから。


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