蛇巫の少女、呪術高専に通う   作:猫島 合

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前回から少し間が空いてしまいました。
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七話 共闘と和解

少し時は遡る。

 

交流戦開始前、作戦会議。吉野順平は、隣にいる加々知鉈弥からの視線を一身に受けて困惑していた。先程の話からすると、吉野がこの間会って呪われ、命を救われた姦姦蛇螺の関係者らしい。

 

面影がある。姦姦蛇螺を幼くしたような顔立ちだ。縦に裂けた瞳孔の金色の瞳が、ジ、とただひたすらに吉野を見ている。気まずい。

 

「……あの、」

「…………」

「…………」

「加々知、順平が困ってるから……」

 

気まずさのあまり、視線を虎杖に視線で助けを求めた。セルフ遺影をやっていた虎杖がそれに気が付いて、助け舟を出す。加々知は、きょとんとして虎杖の方を見た。

 

「見すぎだって」

「あ、吉野さん。ごめん」

「い、いや……うん……」

「なんでそんなにガン見してんの?」

「自分が処理してる呪物の本元の、彼ピが出てきたら、見てしまうのは道理」

「彼ピ」

 

彼ピではない。

 

「…………姦姦蛇螺に会ったんでしょ? どんな感じだった?」

 

加々知は、首を傾げてそう問うた。自分の一族の因縁が気になるのは、仕方の無いことだ。吉野は、数拍なんと言うか悩んだ後におずおずと口を開いた。

 

「……とても、綺麗な方でした」

「……きれい?」

「はい……」

 

ふぅん。と加々知は考え込む。よくイメージがつかなかったらしい。彼女の中では、姦姦蛇螺は醜悪な蛇のイメージである。であるから、“綺麗”だなんて言われると思っていなかった。

 

「顔は加々知に似てたよ」

 

うむむ、と頭を捻る加々知を見ながら、虎杖がそう付け足した。

 

「加々知を大人した感じの顔つきだった」

「……そうなのか」

 

その会話を聴いた2年生たちと釘崎は、一斉に吉野を見て、コソコソと話し始める。そして、しらっとした顔の伏黒の襟首を引いて、その会話に無理やり参加させた。

 

加々知達には何を言ってるのか聞こえていない。

 

 

「伏黒、ライバル出現だぞ。どう思う」

「……は?」

「だって、加々知と似た顔を“綺麗”って言ってるんだぜ。加々知にも気があるかもしれないだろ」

「すみません、なんの話ですか」

「だーかーらー! 鉈弥ちゃんが取られてもいいのって話しよ!」

「取られるも何も、加々知と俺はそういうんじゃ……」

「はぁ? 普段からあんなにベッタリしておいてよく言うぜ」

「しゃけ」

 

伏黒は、ひたすらに顔を顰めた。別に、加々知とはそういうんじゃない。ただ、放って置けないだけだ。

ちらり、とまだ吉野と話している加々知を見る。割と意気投合しているようで、仲良さげに話していた。

 

「…………」

「モヤっとしてるって顔ね」

「しゃけ。いくら」

「で? ぶっちゃけどう思ってんだ?」

 

パンダが、伏黒の肩に手を置いた。伏黒は、更に眉間にシワを寄せる。ぱし、とその手を振り払うと、目を逸らして口を開いた。

 

「アイツは、大切な仲間です。それだけです」

「この間、あんなに大胆に抱きしめておいて?」

「あれは……」

 

俯く。そして、黙り込んだ。2年生達と釘崎は、顔を見合わせる。

 

突如として、パンダかおもむろに声を張り上げた。

 

「加々知ー! 伏黒のことどう思ってる?!」

「なっ!!?」

 

加々知は、突然呼ばれて驚いていたが、すぐに満面の笑みで答える。

 

「大好き!」

「……脈アリじゃん」

 

伏黒は、思わずバッと顔を上げた。今、なんと言った?

顔に熱が集まる。その表情に加々知は気付くことなく、言葉をさらに続けた。

 

「あと、野薔薇ちゃんも虎杖も大好きだし、先輩たちもみんな大好き。 吉野さんも、多分これから大好きになると思う」

「あ、脈ナシだこれ」

 

どんまい、と真希が伏黒の肩を叩くが、伏黒から反応は無い。見てみると、元々色が白い肌が、耳まで赤く染っていた。

 

「好きじゃん。加々知のこと。めちゃくちゃ好きじゃん」

「………… 」

「加々知、お前、どんな男がタイプだ?」

「筋肉の人みたいなこと言う……えっとね」

 

伏黒は、無意識のうちに加々知の言葉を、待っていた。

 

「花山薫みたいな人」

「誰だよ。刃牙しらねぇよ」

「刃牙ってわかってんじゃねぇか」

「花山薫はみんな好きだわ」

 

脈ナシだこれ。とパンダが呟いた。加々知は「え、脈はあるけど」と手首をパンダに差し出していた。そういう意味じゃない。

伏黒は、自分のこの気持ちがよく分かっていない。恋愛感情などでは無いとは思っている。加々知は大切な仲間で、放っておけない隣人で、それで。

 

「伏黒?」

 

それで、なんだろうか。

 

「…………」

「どうしたの?」

 

顔を見上げてくる加々知。伏黒は、その金色の瞳をただジッと見つめた。

 

あの時、衝動的に抱き締めてしまったのは、何故なのだろうか。いや、それはわかる。彼女が、仲間が化け物だと罵られたのが許せないのに、本人はそれを「慣れている」と宣ったからだ。それが、たまらなく嫌だったからだ。

 

だから、気が付いたら、「お前は人間だ」と伝えたくて、抱き締めていた。他意は無い、筈だ。

 

「もどかし……」

「どっちも自覚ナシかよめんどくせぇ」

「こんぶ!」

「まだ大分時間が掛かるぞこれ」

 

彼女に残された時間は、もう半月も無いというのに。釘崎は、その言葉を飲み込んだ。

 

成就しない方が、余程マシかもしれない。

 

■■■

 

交流会で、吉野に託された役割は、式神を上空に飛ばしての敵情視察である。一番最初に空を飛んでいた西宮桃との制空権争いが繰り広げれたが、介入してきた呪霊のおかげでどうにか競り勝てた。それからは、上空から敵の動きを見て、鉢合わせないように隠密活動。動きがあれば、逐一小型化させ、各々に付かせた式神を通じて報告をする。

 

吉野は、以前よりも自分の術式が強化されていることに気が付いていた。特に、真骨頂である“毒”の精度が上がっている。今までは、神経毒が主だったが、今では出血毒や筋肉毒も扱えるようになっていた。五条は、これを“姦姦蛇螺の寵愛による加護”だと言っていた。

 

つまり、いまの吉野は、蛇の権能の一部が使えるようになっているのだ。流石に加々知までとはいかないが、“毒”に関しては、元々の術式の性質も相まって、ブーストが掛かっている。毒の扱いだけなら、恐らく加々知よりも上だろう。

 

また、呪力も増えてるので高出力の式神を複数出すことができた。

 

京都校の動きに注意しながら、呪霊を探す。

 

このゲームは、呪霊を多く祓った方が勝ちだ。

 

ならば、ほかのメンバーが京都校の人間を抑えているうちに、誰かが呪霊を祓うのが好ましい。

 

4級の呪霊を発見し、すぐさま式神の腕を絡めた。直ぐに神経毒が周り、動けなくなる。そこに更に大量の毒を打ち込むと、呪霊はビクビクと痙攣してから消えていった。

 

「よし! 僕にだって出来る!!」

 

足でまといには成らない。吉野はそう意気込んで次の呪霊を探した。

 

その時だった。ぬるり、と背後から酷く恐ろしい気配が近寄ってきた。振り返ると、体格の良い人型の呪霊がたっている。目の部分から枯れ枝のようなものが生え、左腕部分は、布のようなもので固定されている。

 

吉野は、咄嗟に真人の事を思い出した。

 

「は、」

「……■■■■。■■■■■■■■■■……」

……あなたは。姦姦蛇螺の寵愛を受けている……

 

話し掛けられる。言っている意味が分からないのに、言葉が直接頭の中に響き渡った。その気色悪い感覚に震える。汗がどっと吹き出して、呼吸が浅くなった。

 

「■■■■、■■■■■。■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■」

戦う気は、ありません。あなたを殺すと、蛇螺に叱られてしまいます

「……蛇螺さんの知りあい?」

「■■」

ええ

「何をしに来たんだ」

 

呪霊は、少し考え込んでから、口を開いた。

 

「……■■■■」

……内緒です

 

言う気は無いらしい。

 

「■■■■■■■■■。■■■■■。■■■■■■■■」

早くお行きなさい。蛇の愛し子よ。見逃してあげます

 

舐めらている。吉野も力量差が分からないほど馬鹿ではない。戦ったとして、勝てる相手ではない。だけど、もう逃げたくない。

 

上空にいた式神と、仲間たちに付けていた小型の式神を全て消す。消す間際に「異常事態発生。特級呪霊がいる」と手短に伝えた。助太刀を待つ暇なんてない。

 

そうして、分散していた呪力を一箇所に集め、最大出力で一体の式神を出す。

 

「■■■■■■■。……■■■■■■■、■■■■■■」

忠告はしました。………殺さないように、気を付けます

「アアアアアアア!!!!!!!!」

 

咆哮を上げ、彼は奮起した。

 

無謀な事だとわかっていても、やるしかないのだ。

 

「澱月!!!!!!!!」

 

ぶわり、とクラゲ型の式神が舞う。長い触手が呪霊に絡み付こうと差し伸べられた。それを軽くいなして、悠々と呪霊は吉野と距離を詰めていく。

 

「■■■■■■■」

まだ荒いですね

 

す、と指先を動かすと、吉野の足元から木が伸びてきた。それを交わす。

 

呪霊は、その身のこなしに違和感を覚えた。

 

「?」

 

再度、攻撃する。避けられる。

 

クラゲがこちらに来る。避ける。

 

幹を伸ばす。避けられる。

 

(なにか、おかしい。……攻撃が来る場所を分かっているかのような)

 

こちらが手加減をしているとは言え、むこうの身のこなしが良すぎる。

 

「蛇螺さんに助けて貰ってから、変わったことがある。1つは呪力量の増加。毒の精度の向上。そして、この目」

 

吉野の右目を覆っていた髪が靡く。その下には、“金色に輝く瞳”があった。

 

「五条先生は、蛇ノ目(じゃのめ)と呼んでいた。呪力を熱源として見ることができるらしい。僕の右目には、呪霊の姿が見えないが、その代わりに、熱がハッキリと見えている。

……普通に見えている視界が邪魔だから、こうして髪で隔てることで、熱を見えやすくしている」

 

加々知が普段目を瞑るのも、同じ理屈である。普段見えている視界が邪魔をして熱がよく見えないから、目を瞑っている。蛇というのは、元々視界が悪い生き物だ。それを反映した権能が、この“蛇ノ目”である。

 

「この目があれば、お前の攻撃が何処から来るか丸わかりだ。避けるのも容易い」

「■■■■……」

なるほど……

 

いま、術式の開示をしたことで、更に蛇ノ目の精度が上がった。

 

もっと良く熱が見える。

 

「知ってる? クラゲの中には不老不死な種類がいるんだ。それに、蛇のしぶとさも加わった僕は、大分生き汚いよ」

 

吉野は、不遜に笑って見せた。

 

 

■■■

 

 

「順平。サポート頼む」

「うん、悠仁。任せて」

 

少年達は、そうして並び立つ。

 

 

■■■

 

「ラックラック ハンガーラック♪ アーンド スネークレザーぁ♪」

 

とある呪詛師は、上機嫌だった。最高級の素材が手に入りそうだったからである。身長190cmの五条悟は、とても良いハンガーラックになるだろう。そして、もう一つ、彼には作りたいものがあった。それは、加々知鉈弥の蛇革財布である。蛇の抜け殻は金運upの縁起物である。ならば、姦姦蛇螺の器である加々知の皮を剥いで作った財布は、嘸かし素晴らしいものになるだろう。

 

「まだガキらしいから、あんまり量は取れないだろうけど……丁寧にこさえてやるからな」

 

がさり、と不意に近くの草が揺れる。振り向くと、底には1匹のアオダイショウが静かに呪詛師を眺めていた。

 

「……?」

 

アオダイショウは、するりと草陰に身を隠す。呪詛師は、首を捻った。先程の蛇、どこか妙だった。しかし、式神ではない。生身の蛇だ。

 

「ま、いいか。今はハンガーラックと蛇革財布だ。最初は加々知鉈弥の方にしよっかな」

 

手を出さない方が良いと言われているが、呪詛師には知った事じゃ無かった。素晴らしい素材がすぐそばに居るのに、なぜ我慢しなくてはいけないのだ。

 

完全に閉じきった帳を横目に、目的の人物を探すべく、茂みに脚を踏み出した。

 

「長財布にしよう。髪も長いらしいから、編んで装飾に使って、小さい可愛い骨を釦に加工しよう。待ってろよスネークレザー」

 

思わず笑みが漏れる。楽しみで仕方がない。

 

「こっちから来てやったぜ。知らない人」

 

不意にがさり、と木陰から少女が現れる。なんの構えも取らず、背を木の幹に預けて脱力している。到底、敵を目前にした体制では無い。まるで戦う気など無いようだ。だが、呪詛師は、獲物が目の前に現れた事に歓喜していた。彼女は4級術師。それも1人!格好の餌食じゃないか。

 

「スネークレザー!! 会いたかったぜ!」

「変なあだ名。非常に不服」

 

呪詛師は、ニタニタと笑いながら手斧を構えた。それに倣って、彼女も木から背を離す。だが、臨戦態勢は取らない。

 

少し不審に思いながらも、呪詛師はどんな財布にしようかと構想を練り続ける。先程からインスピレーションが溢れてやまない。斧を手遊ぶ。

 

「そのまま大人しくしててくれよ。皮を傷付けたくないんだ。わかるだろ?」

「『』」

 

しゅう、と彼女の口から空気の抜けるような音がした。まるで、蛇の威嚇音のようだった。ゆっくりと呪詛師との距離が縮める。もう呪詛師の射程距離内だ。

 

さすがに、おかしい。

 

無防備すぎる。

 

(カウンター狙いか? いや、それにしては……)

 

「スネークレザー。お前、本当に1人か?」

「1人で来たなんて一言も言ってない」

 

その言葉と同時に、大量の蛇がボトボトと頭上に降ってくる。驚いて、それを振り払おうと斧を振るった。

 

すぽん。

 

「……あ?」

 

間抜けな効果音。

 

見てみると、手斧がすっぽ抜けていた。

後方の幹にビィンと音を立てて突き刺さっている。

 

「は?」

「さて加々知。先輩からのレクチャーだ。よく聞け」

 

後ろから声が聞こえて、振り返ろうとする。しかし、ずるりと足が滑って、そのまま無様に転倒した。腕をつこうとするも、それすら滑る。

 

「呪詛師と戦う場合、真っ先に潰すべきは喉と手だ。アイスピックを貸せ」

「おい、なにす、ぎゃあ!!!」

 

投げ寄越されたアイスピックを中で掴むと、なんの躊躇いもなく呪詛師の手の甲に突き刺した。貫通して、地面に縫い止められる。

 

抜こうともう片方の手でアイスピックの柄を掴むが、それもつるつると滑って握れない。

 

「大抵の術師は、術式発動のトリガーとして印を組むか、特定のワードを口に出すことが多い。だから、真っ先にソコを狙うのが効率的だ。勿論、何かしら対策を立てているのも道理だ。それを忘れるな」

「はーい」

 

突き刺したアイスピックの柄に脚を乗せて、グリグリと押し込みながら話す香露。

 

「神経毒は?」

「仕込んでおいたぜ」

「ならよし。これで舌が回らなくなるな。

さて、三下呪詛師。帳を解除しろ。なに?できない? これだから三下は……」

「香露さん。あっちに強い熱源がある。帳の縁付近の地面に刺さってる」

「でかした。ふうん。なるほどね。お前の呪力とは質が違うと思っていたが……」

 

呪詛師は、こう見えてそれなりに歴戦だ。確かに、欲しい素材の前ではしゃいでしまったというのもあるが、こんなに呆気なく無力化されるだなんて思っていなかった。誰なんだこいつは、とひたすら困惑する。

 

その様子を見て、香露は嗤う。

 

「僕は、呪霊を祓うよりも呪詛師を狩るのが得意なんだ。相手が悪かったな」

 

香露定次準1級術師。昨年に夏油傑が起こした百鬼夜行にて、呪詛師を最も捕縛した男である。

その初見殺しな術式は、1度決まってしまえば抜け出すことは困難である。人間というのは、摩擦力を奪われてしまえば、何も出来ないものだ。

 

「なんでそんなに強いのに、2回も金的されたの? わざと?」

「…………それは、言うな」

 

香露は、目を伏せた。油断していたが故の失態。準1級のくせに、詰めが甘いのは自覚している。

 

また加々知には並々ならぬ感情を持っているため、どうしても判断が揺らぐ所もあった。

 

準1級術師といっても、まだ18歳。未熟な点だって当然ある。

 

「ともかく、帳を解く。加々知は蛇達に、他の生徒たちの安否を確認させろ」

「了解」

 

加々知が指示を出すと、蛇達が一斉に散らばる。2人は、帳の縁付近に刺さっていた杭のような物を見つけると、それを加々知が引き抜いた。ばちり、と音がして加々知の手が焼ける。

 

肉の焼ける匂いが辺りに漂う。だが、それ以上は何も起きず、帳も完全に消えた。

香露が眉間にシワを寄せて、スマホを手に取った。

 

「……もしもし、先生。呪詛師を一人捕縛しました。ええ、見ての通り帳も解除しました。……はい。……はい。わかりました。

加々知。みんなの安否はどうだ」

「みんな生きてはいるみたい」

「あの遠くに見える木が何か分かったか?」

「木?」

「あそこに巨木が生えて蠢いているだろう」

「…………?」

「見えないのか?」

 

香露は、二三言電話口に向かって話してから、通話を終えた。

 

「お前に見えないということは、呪力によって具現化したものか……あれだけの大きさなら、敵は特級相当……」

「今、吉野さんと虎杖と筋肉の人が共闘して、呪霊と戦ってるらしい」

「筋肉……東堂か。なら良い。先生達の所に行くぞ」

「加勢しないの?」

「東堂と僕は相性が悪い。邪魔になる。……それに、アイツは強い。絶対に負けない」

 

悔しいが、信頼はしているらしい。2人は、そのまま撤退した。

 

 

皆と合流して安否を確認する。1番重傷なのは加茂である。加茂、伏黒、狗巻らは、もう一体いた特級とヒットアンドアウェイで戦っていたらしい。

 

その特級とは、姦姦蛇螺である。

 

「来て、いたのか? ヤツが、」

「…………」

 

香露は、声を戦慄かせた。加々知も目を見開いている。

 

「ああ。こちらを殺す気は無かったらしい。随分と手を抜いていた。私達の足止めをしていたという印象だ。五条さんがあの凄まじい術式を放った時に撤退し行ったよ」

「…………」

「『子供と戯れるのも、巫女の務めですわ』と終始笑っていた。……不気味なやつだ」

 

加茂の静かな声を聞きながら、伏黒は目を閉じる。

 

確かに、加々知に似た顔をしていた。

だが、加々知とは似ても似つかない、おぞましい雰囲気だった。

加々知と、奴は違う。同じ蛇なんかでは無い。

 

「加々知、怪我は?」

「治った。伏黒の方が心配」

「俺も問題ない」

 

伏黒は、加々知の頭にそっと手を置いた。そして、ゆっくりと撫でる。加々知は、目を細めてそれを受け入れた。

 

「…………」

「…………少し聞きたいんだが」

「なんだよ加茂。早く治療室いけよ 」

「あの二人って、付き合ってるのか?」

 

真希は、重いため息をついて首を振った。

 

「交際していない女性の頭を気安く撫でるのはどうかと思う」

「知るか馬鹿。なら、お前があの二人くっつけてこいよ」

「くっつける……? 密着させろということか? ますます破廉恥では?」

「パンダ、こいつめんどくせぇ。さっさと医務室連行しろ」

 

加茂は、解せぬと言った顔でパンダに抱えられて言った。

 

真希も舌打ちをして医務室に向かう。

 

「伏黒! お前も行くぞ! さっさとしろ!!」

「はい」

 

 

 

 

「加々知」

「なんだよ香露さん。香露さんも行かなくていいの?」

「大した傷じゃない。

……僕は、君を殺すのはやめた。僕が命じられていたのは“蛇”を殺すことだ。君が蛇ではなく人間だと言うのなら、殺す理由はない」

「…………」

「どうせ、半月後には晴れて死刑だ。それまで、せいぜい楽しんで生きることだな」

「うん。ありがとう」

「…………はぁ」

 

香露は、溜息を吐いた。本当にこの女が嫌いである。だが、憎めない。

 

死を受け入れるサマが気に食わない。

 

「“鉈弥”。本当にお前は、気色悪いやつだよ」

「女の子の頭を踏み付けたり、わざと金的されるのが趣味な人に言われたくない」

「……おい」

 

2人は、その後思わず吹き出して、穏やかに笑った。

 

何はともあれ、和解である。

 

「何かあったら、必ず殺してやる。だから、安心して生きろ」

 

香露は、そう言ってその場を後にした。ひとり残された加々知は、空を見上げて呟く。

 

「うん。死ぬまでは、頑張って生きるよ」

 

その声は、誰にも聞かれることなく、初秋の風がさらっていった。

 




吉野順平
ステータス『蛇の寵愛』
蛇の権能の一部を使用可能になる。また、彼に元々備わっていた術式の毒の精度を上昇させることができる。

左目で呪霊を視認できるので、恐らく“金縛り”を呪霊相手に掛けることも可能。花御は目線がどこにあるのか分からなかったので不発。




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