ONE STEP FORWARD FOR DREAM 作:フラトラ
どうぞよろしくお願い致します。
「──奴がブーツのボタンを はずしていようと」
俺は無心でギターの弦を
ある人は満面の笑顔で。
ある人は涙を流しながら。
ある人はどこか魂が抜けたような顔をして。
皆が皆、俺の弾き語りに釘付けとなっている。
「奴が他人のいきざま 馬鹿にしようとも」
俺が弾き語りをするようになってから約五年が経つが、やはり大勢の目の前で自分の歌を披露するというのは最高に気持ちがいい。しかもそれでいて感動してくれる。俺の作った歌で、沢山の人の感情を動かしている。この事実に気付いた時は喜びで身体が震えたものだ。
「一歩前のこの道を 行かなければ」
弾き語りを始めると共に作詞作曲も始めた。自分で言うのも何だが、幸い俺には音楽の才能があるらしく、今まで10曲ほど作ることが出来た。今歌っているこの歌だって、つい最近書き上げたものである。
「だって僕は僕を失う為に 生きてきたんじゃない──」
最後の歌詞を歌い切ると拍手や歓声が沸き上がった。内心では嬉しく思うも、構わず演奏の締めとなるギターとハーモニカを駆使する後奏へと突入する。俺の演奏に合わせて皆が手拍子をしてくれている。今この瞬間、間違いなく俺と生徒達は一体となっていた。
そして
「────ッ」
刹那、弾き語りの会場である講堂は
──あぁ、これだから止められないんだよな。
一分ほど経って、ようやく皆が落ち着いてきた。俺は予め考えておいた言葉を皆に伝える。
「改めまして新一年生の皆さん、ご入学誠におめでとうございます。今、皆さんの心の中はこれからの学校生活への期待や不安でいっぱいだと思います。俺だってそうでした」
入学当初を思い出す。あの時はこれからの期待よりも、上手くやっていけるか、友達は出来るか、などの不安でいっぱいだった。ただ、二人の幼馴染が心の支えとなってくれていたからそこまで抱え込むことはなかった。
「皆さんには各々目標があると思います。中にはもう将来のことを見据えている人もいるかもしれません。まあ、あまり上手いことは言えませんが、不安や絶望に押し潰されそうになった時こそ、自分を信じてその目標に向かって歩んで行って欲しい。そういう風に思います」
別に俺の言葉が皆の胸に刺さるとは思っていない。
ただ──生きることが嫌になるほど追い詰められた時期があった、
「──以上、
再び拍手や喝采に包まれる講堂。俺は一礼をして舞台上から袖の方へ移動する。アンコールを望む声が聞こえてくるが、残念、今回はないんだよな。文句があるなら生徒会に言って欲しい。
『以上を持ちまして、
ガイダンスが流れ、続々と帰りの用意をする生徒達。皆荷物をまとめ、ガイダンスの指示に従って帰ってゆく。何だか有名人のライブ終わりの観客みたいだ。まあ、今回もライブパフォーマンスであることには変わりないから、間違いではないんだけど。
俺も荷物を片付けて帰るだけだ。その荷物もスクールバッグとギターなどの楽器類しかない。アンプやスピーカーなどの機材は全て学校のものである。勿論それらは自分自身でも所持しているが、今回は学校の備品を使用し、準備や片付けも生徒会などの実行委員がしてくれるので至れり尽くせりである。感謝。
そうしてギターを片付けていた時だった。
「拓海くーん!」
「タクー!」
「
二人の見知った女の子がやってきた。そう、この二人こそ赤ちゃんの頃からの幼馴染である。
「演奏、すごく良かったよ! かっこよかった!」
満面の笑みでそう言ってくれる幼馴染の一人、
──そして、俺が昔から好意を抱いている女の子でもある。
「うんうん、私もときめいちゃった!」
もう一人の幼馴染、
というか俺、幼馴染二人に助けられてばっかりだな。男として面目が立たず、情けなくなってくる。
「二人ともありがとう。でもそんなはっきり言われるとちょっと恥ずいんだけど」
「恥ずかしがることなんてないよ。クラスの皆だって大絶賛してたんだから!」
「何で侑ちゃんがちょっと誇らしげにしてるのか分からないけど、その通りだね。皆、拓海くんのことすっごい褒めてたよ」
「そうか……。それは、嬉しいな」
こうやって直接感想を言われるのは、少々照れ臭いがやっぱり嬉しいものだ。何よりもこの二人の感想が一番嬉しい。
最初は専ら二人だけの為に弾き語りをしていた。二人に聴いて貰えるならそれでいいと思っていたし、十分満足だった。だけど、この二人や彼女達の親から推され、コンサートホールやイベント会場などでのライブもするようになって、観客は徐々に増えていった。その結果、今では千人規模でのライブは当たり前となっている。
「やっぱ流石だねータクは。新しい曲もすっごい良かったし、プロのアーティストと比べても遜色ないと思うな!」
「そうそう! 歌も演奏もとても上手だし、将来は絶対すごいアーティストになるよ!」
「お、おいおいどうした。今日はやけに褒めるじゃないか。そんなに褒めても何も出ないぞ?」
「別に何か下心がある訳じゃないよ? ただ──本当に感動しちゃったから。その思いを伝えたくて」
「うんうん。それだけタクが凄いってこと!」
「お、おう……。まあ、ありがとな」
口角が上がるのを隠しきれない為、咄嗟に二人に背中を向ける。誰だってこんなことを言われたらニヤけるに決まっている。今の俺の顔は気持ち悪すぎるだろうから、二人には絶対見せたくない。
特に歩夢からの言葉が嬉しすぎて、どうにかなってしまいそうだ。
「ふふっ。もしかして、照れてる?」
「う、うっせ! 照れてねえよ!」
「あー! タクってば、歩夢に褒められたのがそんなに嬉しいんだー!」
「バッ、お前! そんなんじゃねーよ! ちょっと黙ってろ!」
「えー、楽しいから黙らなーい」
「お、お前なぁ……!」
侑は俺が歩夢に好意を寄せていることを知っている為、頻繁にこうしてからかってくる。別に侑と二人きりであれば全然いいのだが、こうして本人がいる前でからかわれると気が気では無い。もしバレてしまったらどう責任を取ってくれるんだろうか。本当に勘弁して欲しい。
「そっか。拓海くん、嬉しかったんだね。素直になれば良いのに」
「だ、だからそんなんじゃないって……!」
「うんうん、分かったから大丈夫だよ」
「や、何も分かってないんだが……はぁ」
改めて、歩夢には勝てないと悟り思わず溜息が出てしまう。まあ、これ以上下手に口を開いても失言をしてしまいそうだからこの辺りで折れておくか。
「それよりもさ、今日二人は帰りにヴィーナスフォートに寄ってから帰るとか言ってたよな?」
「露骨に話題を逸らしたね?」
「……お願いだからこれ以上はマジで黙っててくれな? な?」
「わ、分かったよ……。ごめん」
侑の両肩を掴んで圧を掛けて言ったのが流石に効いたのか、それ以上さっきのことに関して追及してくることはなくなった。頼むぞ、マジで。
「……? まあ、そうだね。色々ウィンドウショッピングしながら買い食いとかしたいなって思って。拓海くんも来る?」
「いいのか? じゃあ付き合うよ。家に帰っても暇だしな」
「ふふ、良かった。嬉しいな」
本当なら作詞作曲なり、楽器の演奏練習だったりしようかなと思っていたけど、歩夢に誘われて断れる訳が無い。勿論音楽の方は大事だが、それよりも歩夢との時間を増やしたい。
「……あれ。もしかして私、邪魔かな?」
「侑、変な気遣いはいらん。寧ろ邪魔なのは俺の方じゃないのか?」
「もう、二人とも。自分のこと邪魔だなんて思わないで。三人で一緒に行こうよ。それに侑ちゃんは元々約束してたんだから」
「歩夢がそう言うなら良いけど……」
俺としても侑が邪魔だなんてこれっぽっちも思っていない。思ってはいないが、歩夢と二人っきりで下校というシチュエーションには憧れている。基本帰る時は俺一人か三人一緒のことが多いから。
「……っと、よし」
そんなことを話している内に、俺は楽器類の片付けを終える。忘れ物は──ないな。ピックやカポタストなどの細かい用品もきちんと片付けた。これでいつでも帰れる状態になった。
「悪い、待たせた。じゃあヴィーナスフォートに行こうか」
「うん! 今日は何かときめくもの見つかるかな?」
「もう、侑ちゃん? お小遣い残り少ないんでしょ? 程々にね」
「うっ、分かってるよー」
右隣には歩夢がいて、左隣には侑がいる。傍から見れば両手に花の状態だが、これが俺達幼馴染にとっては普通のことだ。幼い頃から三人で一緒に歩く時はこの位置関係だった。昔は必ずと言っていいほど手を繋いで歩いていたけど、流石に今は気恥ずかしくて出来ないな。
「……ねえ、覚えてる? 小さい頃もこうやって、三人並んで歩いてたよね」
「すごいな、今俺も全く同じこと考えてたよ」
「ほんと!? 偶然だね! 侑ちゃんも覚えてる?」
「もちろん。懐かしいなあ」
些細な事かもしれないが、俺にとっては大切な思い出だ。今思えば、この三人で過ごした幼い頃の日々はどれほど幸せでどれほど楽しかったか。忘れる訳が無い。当然、今も最高に幸せだけどな。
「あっ、そうだ! あの頃みたいに手繋ごうよ! こんな感じで!」
「流石にそれは恥ずかし──ちょっ、侑!」
「侑ちゃん!?」
半ば強引に俺の左手を取った侑。俺が恥ずかしいと言い終える前に手を取るとは、相変わらずの行動力である。というか久々に侑と手を繋いだけど、女の子の手ってこんな柔らかかったっけ?
「ほら、歩夢もタクと手繋ぎなよ! 」
「ええぇっ!? わ、私はいいよ……」
「そんなこと言わずに! タク、歩夢の手を取って!」
「お、おう」
「あっ──」
思わず侑に言われた通りに歩夢の左手を取ってしまう。俺の右手にしっかりと伝わる彼女の体温。勢いに任せてしまったけど、もしかしなくても俺は今、好きな子と手を繋いでいるのでは?
「……ごめん、嫌だったか?」
「う、ううん! そんなことないよ! 寧ろ嬉しい……かも」
「そ、そうか。なら良かった」
「うん……。あっ」
「どした?」
「あっ、えっとね。せ、折角繋ぐならしっかり繋いだ方が良いかなって思って!」
「それって──」
俺の指と自身の指を一本ずつしっかりと絡ませてくる歩夢。こうすることでより歩夢の体温や手の感触を感じることが出来るが──。
──これって俗に言う恋人繋ぎ、だよな?
そう考えると、急激に体温が上がるのが嫌でも分かった。同時に心拍数もかなり速くなる。やばい、手汗大丈夫かな。
「あの、歩夢……」
「な、何かな……?」
「あっ、いや、その……。やっぱり何でもない」
「……そっか」
「…………」
「…………」
き、気まずい……! 幸せな気持ちやら恥ずかしい気持ちやらが混ざり合って感情がぐちゃぐちゃになっているが、それ以上にこの空気が気まずい!
それに、道行く通行人からは様々な視線で見られている。微笑ましそうな視線だったり、恨めしそうな視線だったり、果てには見てはいけないようなものを見てしまったという視線だったり……。
「いいねえいいねえ。妬けちゃうね〜」
侑さんや、ニヤニヤしてこの状況を楽しんでる暇があったら助けてくれないかなぁ!?
「も、もういいだろ! 終わり!」
「あっ……」
「ちょっ……。んもー、タクのケチ」
流石に我慢ならず、二人の手を振り払った。ちょっとだけ寂しい気もするが、あの状況が続くよりはマシだろう。あ、でも歩夢とだけはずっと手を繋いでおきたかったな、なんて。
それにしても、歩夢が残念そうな顔をしているのは気の所為だろうか。
「まあいいよ。私はこのまま歩夢と繋いで歩くから! 後から手を繋ぎたいって言っても入れてあげないんだからね」
「うん、まあ。お好きにどうぞ」
「……ちぇっ、ノリ悪いなぁ、タクは」
「ちょっと二人とも! 私の話も聴いてよ!」
そんな騒がしいやり取りを交わしながら、俺達はヴィーナスフォートに向かったのだった。
──ああ、今日も平和だなあ。
ありがとうございました。
冒頭の歌詞は長渕剛さんの「逆流」という歌からです。
また次回もよろしくお願い致します。