ONE STEP FORWARD FOR DREAM 作:フラトラ
道端で話すような内容でもなさそうだったので、とりあえず近くにあったファミレスに入る。歩夢には先に帰ってても良いと言ったのだが、まあ予想通りというか、一緒に着いてくるみたいだった。
店員さんに案内され、窓際のテーブル席に着席する。対面には声を掛けてきた女の子。隣には歩夢が座る。丁度小腹が空いてくる時間帯だったので、俺は軽食とコーヒーを頼む。歩夢と女の子の二人はドリンクバーを頼んでいた。
「……まずは自己紹介が遅れました。私の名前は
「改めまして、神崎拓海です」
「上原歩夢です。同じく、二年生です」
高校生にしては些か堅苦しすぎる自己紹介を済ます。優木せつ菜と名乗った女の子は、真剣な態度を崩さずに俺達の言葉を聞いていた。
「同い年だったんだ、敬語外しても大丈夫?」
「あっ、はい。それはもちろん」
こう言っては失礼だが、童顔で、歩夢よりも背丈が低いことから後輩の子だろうと勝手に勘違いしていた。烏の羽のような、艶やかな濡れ羽色のストレートロングの髪を右で一房括ったヘアスタイル。そして、あらゆるものを見透すような神秘的な黒い双眸。
初めて見た時から薄々感じていたが、この女の子、やはり只者じゃない。間違いなく有名人や芸能人特有のオーラを纏っている。
それにしてもこの子、小柄な割にはかなりスタイルが良いな。それこそ胸なんか歩夢よりも大きいんじゃ──?
「ちょっ、痛っ! 歩夢痛いって!」
「……どこ、見てるのかな?」
「あっはい、すみません」
「?」
歩夢に思いっ切り太ももを抓られた。滅茶苦茶痛い。そして歩夢が怖い。表情こそ笑顔ではあるが、目が笑っていない。女性は視線に敏感と聞いたことがあるけれど、まさにその通りだと痛感した。優木さんが気付いてないのが幸いだった。
お冷を全て飲み干す。とりあえず、話は仕切り直しだ。先程優木さんが気になることを言っていたので、それについて聞いてみることにする。
「えっと、それでスクールアイドル同好会だっけ? もしかしなくても、優木さんってスクールアイドル……?」
「はい、そうなんです。自分で言うのも
「マジか」
驚いた。虹ヶ咲学園にスクールアイドルが存在していたこともそうだが、優木さんもスクールアイドルの一人だったなんて。それも彼女が言うにはそれなりに有名らしい。
スクールアイドル──それは近年社会現象にもなっているほど流行しているもので、簡単に言えば一般の高校生徒だけで結成されたアイドルである。一般の生徒だけという事で、芸能プロダクションを介していない。つまり、芸能人ではなくご当地アイドルみたいなものと俺は認識している。
「拓海くん、スクールアイドルって
「そう、そのスクールアイドルだ。俺と侑がめちゃめちゃハマってたろ?」
歩夢は納得したように頷く。
──一昨年から去年にかけて、日本中を席巻したスクールアイドルがいた。それが歩夢も言った、μ'sとA-RISEというグループである。
そして
まさに生ける伝説と化した彼女達は、スクールアイドルであることに拘り続け、秋葉ドームでのライブを以て解散した。
当時、受験生であるにも関わらず、リアルタイムで両グループを追いまくっていた俺と侑。他にも様々なスクールアイドルがいたが、俺達はただひたすらにμ'sとA-RISEのみを追い続けた。それこそ数えきれないぐらい両者のライブに足を運んだし、勿論発売されたCDやライブ映像は全て購入していた。μ'sの解散が発表された時には、落ち込みすぎて三日間ほど寝込んだこともあった。
ちなみに一度、熱が暴走しすぎてしまい、μ'sのリーダーである
懐かしく、楽しかった思い出に思いを馳せていると、優木さんが興奮した様子で問い掛けてきた。
「μ'sとA-RISE! 良いですよね! 推しは誰だったんですか?」
「えっと、μ'sが
「分かります! ことりさんは正に女の子らしい女の子でとても可愛いですし、あんじゅさんは大人の魅力たっぷりの方ですよね!」
「お、おう」
熱く語り出した優木さんに少しだけ押されてしまう。この子、アレだ、自分の好きなことになると饒舌になって語り出すタイプだ。
「あっ……すみません、私だけ熱くなってしまって。もっと語りたいところですが、そろそろ本題に入ってもいいですか?」
「あ、うん」
優木さんはコホンと咳払いをして姿勢を正す。表情も先程のような凛としたものになっていた。
「……今、同好会には一年生が二人、三年生が二人。そして、私の計五名が所属しています。皆さん全員が個性的で、魅力的な方達です」
五人も──いや、五人しかいないのか。三千人以上いるはずの虹ヶ咲学園。しかし、スクールアイドル同好会の部員はたったの五人。これだけスクールアイドルが流行っている中、興味が無くて入部しない、というのは考えにくい。皆自分がスクールアイドルになる気は無いのか、それとも誰もがスクールアイドルになれる訳ではないのか。
「毎日毎日、来たるラブライブ大会に向けて特訓の日々を送っています。嬉しいことにその努力は実を結び、最近は目に見えて皆さんのパフォーマンスが向上してきました。このままいけばラブライブ出場も夢ではありません。ですが──」
「肝心の曲がない、か」
残念そうに頷く優木さん。考えてみれば当然のことだ。ただでさえスクールアイドルになろうとする人が少ないのに、そこから作曲出来る人を探すのは困難だろう。
それに、今のラブライブ出場の前提条件としてオリジナル曲の発表が必要不可欠だ。他のグループの曲のカバーでも予選には出場出来るが、その場合、厳しい結果が待ち受けているのは言うまでもない。
「あれ、でも優木さんは自分のライブ映像が投稿されてるんだよね? その時の曲はどうしたの?」
「……実は、スクールアイドル同好会に所属する前は
「なるほどね」
一応優木さんにも作曲出来る能力はある。でもそこまでは高くない。だから、校内でも度々ライブパフォーマンスを披露していた俺に頼った訳か。
「拓海くん、どうするの?」
歩夢が問い掛けてくる。俺の気の所為かもしれないが、歩夢の表情から断った方がいいんじゃないかな、という雰囲気が感じられた。伊達に幼馴染をやっていない為、こういうのは何となく分かってしまう。
だけど正直、この話は受けてもいいんじゃないかと思っている。こうして他人に曲を作るのは新鮮だし──この前の歩夢の誕生日には曲をプレゼントしたが──何より俺が書いた曲がスクールアイドルの曲になる。これほど嬉しいことはない。
──大事なのは、優木さんの気持ち。それ次第だ。
「……なあ、優木さん。優木さんは、何の為に歌う?」
「何の為、ですか?」
「ああ。俺だったら歌が好きだとか、俺の歌を皆に聴いて欲しいとかかな。何でもいい。些細なことでもいいから、優木さんの気持ちを教えて欲しい」
「私は──」
優木さんが考え込む。それもすぐに終わり、真っ直ぐな目で俺のことを見据えてきた。
「私は、歌が好きです。スクールアイドルが好きです。ですが、それ以上に──」
一呼吸。
「私は、私の大好きを大切にして、それを皆に届けたいんです! それで、誰もが大好きと言えちゃう世界を、私の歌を通じてもっともっと広げていきたいんです!」
ああ、この子は──。
「果てしない夢かもしれません。ですが、同好会の皆となら、いつか絶対に実現出来ると信じています」
──本物だ。
「……いいね。最高だよ」
気が付けばそんな言葉がぽろりと零れ落ちていた。同時に自然と自分の口角が上がる。どうやら俺は今、自分が思っている以上にワクワクしているらしい。
こんな気持ちになるのは、本当にいつぶりだろうか。μ'sやA-RISEを追っていた頃以来かもしれない。
となると、優木さんはレジェンドに近い存在ということになる。今、優木さんにはまるで太陽のような激しく燃え盛る炎のオーラが纏っているかのよう。そう思ってしまうくらい、俺は優木さんのことが魅力的に見えて仕方がなかった。
──そして、答えは、自ずと。
「よし、決めた。その話、受けてみることにするよ」
「えっ、本当ですか!?」
「……拓海くん、本気なの?」
「ああ、本気だよ。優木さん、俺に同好会の曲を作らせてくれ」
俺はきっぱりと言い切る。目を輝かせている優木さんに対し、どこか複雑そうな表情をしている歩夢。優木さんはともかく、歩夢が何故こんな顔をしているのか、俺には全く分からなかった。
「あ、ありがとうございます!! でしたら、これを受け取って欲しいんですが……」
一枚のルーズリーフの用紙を取り出す優木さん。どうやら文章が書いてあるみたいだが、これはもしかして歌詞だろうか。
「歌詞は自分で考えました。良かったら、これを基に作曲して頂ければと思います。あ、勿論歌詞も変えてもらっても全然大丈夫ですっ」
「おーけー、承知したよ」
書いてある歌詞をざっと流し見する。曲名は“CHASE!”というらしい。
──走り出した! 思いは強くするよ
──悩んだら君の手を握ろう
──なりたい自分を我慢しないでいいよ
──夢はいつか ほら輝き出すんだ!
……良い歌詞だ。スクールアイドルの曲の歌詞としては十二分すぎる。こんなに良い歌詞を見せられては、俄然やる気が湧いてくる。優木さんは歌詞を変えてもいいと言っていたがとんでもない。この歌詞は絶対に俺じゃ書けない。それを変えるということは、優木さんへの冒涜に近いだろう。そんなことはしない。
早速、まだ未確定なメロディが頭に降ってきた。話が済んだのあれば、即刻家に帰って作曲したい気分だ。
「話は終わりかな? だったら、早速家に帰って作曲したいんだけど──」
「あっ、待ってください」
優木さんに呼び止められる。
「曲が出来た時は、私ではなく
「生徒会長か……。分かったよ、でもなんで?」
「お恥ずかしい話ですが、私はまだスマートフォンを持ってなくてですね。彼女を頼るしかないんです」
ちょっと困ったように話す優木さん。今時珍しい。高校生にもなれば、大体はスマートフォンを買い与えて貰えるはずだが、高二にもなってまだ持っていないとは。余程親御さんが厳しい家庭なんだろう。
「これが彼女の連絡先です。勿論、本人には許可をとって、事情を説明してありますので大丈夫です」
歌詞ノートとは別に一つの紙切れを預かる。そこには、生徒会長のと思われる電話番号や、メッセージアプリのIDが記してあった。
優木さんは大丈夫と言っているが、本当に連絡していいものだろうか。俺本人、虹ヶ咲学園の生徒会長とは全くと言っていいほど絡みがない。それに彼女、“鬼の生徒会長”とも呼ばれてて、少しだけ怖いイメージがあるんだよな。
「ん、分かった。後は大丈夫?」
「はい! よろしくお願いします!」
満面の笑みをこちらに向ける優木さん。その表情から、やはり彼女はスクールアイドルの一員なんだと感じ取ることが出来た。帰ったら作曲ではなく、まずは優木さんの過去のライブパフォーマンスを見てみよう。
「…………」
──歩夢がその横で、不満そうな表情をしているのには、気が付かなかった。
◆
「何が少しだけ有名だよ……。めちゃくちゃ有名じゃんか」
家に帰って、すぐに優木さんのパフォーマンスを見て、思わず独りごちる。確か本人はそれほど有名じゃないと言っていたはずだが、公開されている動画は全て20万回以上再生されていた。それに評価も高評価が九割、コメントも好意的なものしかない。
そして何より、優木さんの圧巻のパフォーマンス。歌もダンスも超一流と言っても過言ではないだろう。一時は息をすることも忘れ、胸の高鳴りが止まらず、気が付けばループ再生していて一時間が経過していた。ただ動画で見ただけなのに、これでもかというほど惹き込まれた。これが生のライブだったらどうなるのだろうか。
そんな“優木せつ菜”という存在を、今日という日まで知らなかった自分を恥じる。今でも時折流行りのスクールアイドルはチェックしていたのだが完全に見落としていた。今日、優木さんの方から声を掛けてきて本当に良かったと思う。
「……よし! やるか!」
こんなに胸が高揚するのは本当に久しぶりで、元から高かった作曲のモチベーションが、天にも昇る勢いで更に高くなった。それにどんどんとメロディが頭に降ってきている。今なら歴代最高クラスの曲を作れそうだ。理想としては、出来れば今日中に完成させて、少しでも早く優木さんに聴いてもらいたい。一秒でも無駄にしたくない俺は、早速作曲に取り掛かる。
──今夜は、長くなりそうだ。
閲覧ありがとうございます。
今回は独自設定マシマシの回でした。
一応この小説の設定として、μ'sと虹ヶ咲(今のところ登場する予定はないですがAqoursも)は同じ世界線で、時系列はμ's結成の年から二年後です。
次回もよろしくお願いします。