輝きたくて   作:インスタント脳味噌汁大好き

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封筒

さて、前の世界ではこの件で彼女はVtuberとして死に、活動停止となった。この世界でも、このままだと同じような流れを辿るだろう。しかし私は、まだここから挽回出来ると考えている。彼女が本当にVtuberとして死んだ時というのは、今ではない。この件の対応への初動で「私ではない」と繰り返し発言してしまった時だと私は考えている。

 

……まあ、前の世界で推しだったという贔屓目は入っているだろうけど。それでも彼女は今死んでしまって良いVtuberではない。麻雀界とVtuber界を繋げる、太いパイプ役としての役割。麻雀界だけではなく、麻雀が趣味の企業の役員や社長すら動かせるようになる可能性がある。

 

前の世界の推しを救える、玉手箱外で言うことを聞かせられる強力な手駒が出来る、Vtuber界隈の炎上引退へのハードルが高くなる。彼女を救うメリットはこのぐらいあるのに対し、デメリットは私が被害者側のためそこまで多くない。まあ現在進行形で、何で地雷と分かっていて絡んでいたんだと厄介オタクがTwitterで絡んで来ているけど、ダメージはそれほど大きくない。

 

とりあえず、ラインとディスコードの方でそれぞれ封筒を開けろと送っておこうかな。彼女が電話をかけて来るかで、今後は大きく変わるけど……うん、どちらに転んでも玉手箱に大きな被害は及ばないだろうね。

 

 

 

彼女の名前が有名になり始めたのは、ゲーミングクラブとのコラボの最後で起業すると宣言した時だった。その時はまだただの視聴者だった私は、馬鹿なことをする女だと思った。彼女自身、別に有名なVtuberではない。トークも上手いわけではない。そんな彼女が経営する企業勢Vtuberになりたい人なんていないと思った。

 

彼女の才能に嫉妬し始めたのはいつからだろうか。彼女を利用して、私も有名になろうとしたのはいつのことだろうか。転生することを伝えた時、明らかに裏のある笑顔で私を見ていた彼女は、炎上対策として一つの封筒を渡してきた。

 

未開封のままなら10万円と言われたけど、開けられたくないためのハッタリのようなものであることはすぐに分かった。それでも封筒を開けなかったのは、白紙である可能性があったからだ。もしも中身が光感知センサーの類だった場合は、私がいつ開けたのかも分かってしまう。

 

個人勢Vtuberとして人気が高まって来た頃。インターネット掲示板への書き込みが露呈し、私の足元に火が付いた。炎上が広がり、頭が真っ白になっていた時。嫉妬、憧憬、目標……様々な感情を持っていた彼女から、封筒を開けろという指示が飛んできたのを見て、私は背中に冷や汗を掻いた。恐らく彼女はこのことを想定していたのだと、理解してしまったからだ。

 

そしてその冷や汗が凍り付くのに、3分もかからなかった。

 

何重にも厳重に封をされた封筒の中にある可愛い絵柄付きのクリアファイルの中から出て来たのは、私のこの1年の軌跡だったからだ。

 

 

 

①夜霧桜花、黒桜小夜として転生。

②初配信で元同僚の2人とコラボ。Vtuber高校からコラボ配信を同時刻に被せられるが、多くの人を呼びこむことに成功する。

③全日本麻雀最強決定戦2019のアンバサダー就任。

④各麻雀大会の解説役として呼ばれ、人気を博す。

⑤個人勢としてトップクラスの人気Vtuberになる。

 

⑥IPアドレスが流出し、掲示板への書き込みが露呈。

⑦その掲示板への書き込み内容から類を見ない大炎上へと発展。

⑧「私じゃありません」と発言したことにより、延焼。更なる証拠を持ってこられ、Vtuberとして詰む。

⑨半永久的な活動停止。

⑩Vtuber界史上最悪の事件&最悪のVtuberとして、史に名を刻む。

 

 

 

封筒を開けて最初の文を読んでから、私は身体の震えが止まらなかった。この封筒を受け取った時、まだ彼女には転生先の黒桜小夜という名前すら伝えていなかったはず。薄々、彼女は未来が見えているのではないかと感づいていたけど、これで未来を知っていることは確定したのも同然。でも未来を知っていることを、世間に公表出来る証拠ではない。この紙自体はいくらでも、簡単に作れてしまうものだからだ。

 

そして未来を知っている彼女がVtuber界史上最悪の事件&最悪のVtuberとして史に名を刻むと書いているのを見て、目の前が真っ暗になっていくのを感じる。実際、既にそのような扱いを受け始めている。性格最悪、被害者面して古巣をぶっ壊した史上最悪のVtuber。まだ私を信じてくれている人は多くいるけど、そう遠くない内に、全員が真実を知ってしまうのは分かり切っていた。

 

……私は、無言でスマホを取り出して彼女へ電話をかける。封筒の中に入っていた紙に書かれている⑤と⑥の間には、米印で『※私に電話をしなかった場合』と書かれてある。要するに、こうなりたくないなら電話をかけろということだ。現状、私に私を救う手段なんてない。でも、彼女が持ち合わせているかは分からない。

 

もしも本当に正確な未来を彼女が知っているなら、事件の日付、少なくとも時期は書かれていていいはず。だから彼女が視えているのは、限定的な未来か不安定で曖昧な未来のどちらか。どちらにせよ、私自身に効果的な手立ては持ち合わせていないし、これ以上玉手箱やその他に迷惑をかけないためにも、電話をかけるしか私に選択肢はなかった。

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