輝きたくて   作:インスタント脳味噌汁大好き

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思惑

現時点で確定している玉手箱Exメンバーは黒桜さん、星月さん、仙黒さんの3人。結果が出ているのに待たせるわけにもいかないので、呼び出して諸々の契約書にサインして貰う。この時、玉手箱Exは将来的に玉手箱に吸収される可能性を示唆した。

 

要するに最終的には玉手箱メンバーとして、企業勢になる可能性があるということだね。月額5万円という設定から、スパチャや広告料の徴収は他の玉手箱メンバーと変わらなくなるから、嫌なら玉手箱Ex吸収時に離脱出来るよと伝えたけど、星月さんと仙黒さんはわりと玉手箱メンバーになることに乗り気だった。

 

……で、星月さんと仙黒さんを帰らせた後に黒桜さんに突っ込まれる。まあ玉手箱Exのメンバーが最終的には玉手箱メンバーになるということは、黒桜さんも玉手箱に入るということだからね。

 

「そもそも、纏め役として何に期待してるの?」

「いや、前に配信でアイドルのプロデューサーをしてみたいとか言ってた気がするし。玉手箱Exに来る案件を纏めて渡すから、自身も含めて割り振りしてあげて。で、そこでちゃんと結果出したら本格的に玉手箱所属になってもたぶん誰も文句言わないよ」

 

今すぐに黒桜さんが玉手箱所属となるなら、再炎上は確実にする。でも再起した上で、結果を残した後ならその再炎上の規模は殊更小さくなるはず。そもそもずっと監視してって言われたから、将来的に玉手箱所属のライバーとなるルートを構築したんだが。

 

そうこうしているうちに、社内の空気が騒めいたので確認しに行ったら私のチャンネル登録数が50万人に到達していた。ハーフミリオンとして、Vtuberでは一つの基準にもなる50万人。いよいよ次のステップは、100万人だ。

 

鶴見さん、鳳さん、雨鳥さんの1期生3人が未だに30万人台なことを考えると、完全に1人突き抜けた存在になった。鶴見さんは40万人目前だし、逆に雨鳥さんはようやく30万人に乗ったぐらいだから、1期生の中でも差は大きい。

 

それでも30万人の大台に乗っているVtuber自体が少ないし、玉手箱という箱がとても大きくなったんだなと感じる。1期生以外にも、摩耶さんや小鳩さん、青蓮寺兄妹や白銀さんは30万人到達者だね。

 

最近ではアイドル部門の鬼龍院さんや白猫さんも20万人を突破したし、そりゃ2D3Dのライバーの数が玉手箱の倍でも、合計チャンネル登録数では玉手箱が勝つよ。そしてここから、コロナ流行によるブーストがかかる。ライブが行えないのは大きなマイナスだけど、それでもスパチャやグッズ・ボイスの売上が大幅に伸びるだろうから、総合的にはプラスになるはず。

 

Youtubeの広告料も馬鹿にならないほどの額が入って来るし、黒桜さんの炎上を乗り切った以上、他の炎上が起きても玉手箱なら耐えられるはず。経営はとても安定しているし、私に万が一が起きても、そう簡単に潰れないだろう。

 

今、私の通帳の中には1億円が入っている。そろそろこの世界に来てから、4年という時が経過した。次の5年目で10億円を稼ぐのは、相当厳しい。いくらコロナブーストが入るとはいえ、10億円をポンと渡して無傷という状態にはならないだろう。税金とかどうするんだって話だ。

 

「なあ、いるんだろう?どうせ。話がしたいから、出て来いよ。

今まで全然呼び掛けても出てこなかったけど、それは目的がルール確認だったからか?」

「ご名答。随分と人間らしくないことを考えるじゃないか」

 

家に帰り、自室に戻った後、この世界に来た原因となった、悪魔を呼び出す。今までは何回呼び掛けても出て来ず、交通事故の現場に行って大声で叫んでもヤバイ奴を見るような目で見られたこと以外は何も起こらなかったのに、今になって出て来たということはそういうことだな。

 

「じゃあ要件を伝える。私は寿命を買い戻さない。もしも今後10億円稼いだとしても、それは玉手箱の発展のために使う」

「おおそうかい。決意は固いようだな。まあだからこそ出て来たんだが。

じゃあ私からも一つ、サービスで教えてやろう。寿命をどうこう言ったな?あれは嘘だ」

 

私は悪魔に対して、寿命を買い戻さない決心をしたと伝える。そもそも、10億もの金をポンと渡すなんて到底無理だし、それだけの金があって5年10年の寿命を買い戻したところでその後どうするのかという話にもなる。

 

寿命を80歳と仮定して、買い戻さなくても20年生きられるなら買い戻す意味も薄い。今の私にとって重要なのは人生の長さではなく、その人生で何を残したかだ。

 

そして相当な覚悟を持って、寿命を買い戻さないという決意を悪魔に伝えると、悪魔は寿命の件を嘘だと言う。……は?

 

「そもそも寿命を半分頂く、寿命を延ばすなんて芸当は私には出来ない。私が見たいのは10億円を凡人が必死になって稼ごうとして、元男が嫌々身体を売るところだし、私が得たいのは私に対する負の感情だ」

「……何で今になって教えたの」

「お前が初めてだったからな。正攻法で10億円を稼げそうなの。大半は分かりやすく競馬、仮想通貨、株やFXで稼ごうとして、大失敗して風俗堕ちし俺を恨むものなのだが」

「……うわ。ただの悪魔だ」

「最初からそう言っているが?」

 

悪魔によると、得たいのは負の感情だという。つまり私が今、悪魔に抱いている複雑な感情というか、奇妙な感情も悪魔にとっては好物なわけで……うわあ何か凄くやだあ。




次回最終回です。

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