輝きたくて   作:インスタント脳味噌汁大好き

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会合

夏コミで完売してしまった、私の描いたエロ同人が3000円ぐらいにまで値上がりしているのを見て、死んだ顔で増刷を決行した9月下旬。まだ夜霧さんの契約解除の報が出ていない時に、私と夜霧さんの話し合いは行われた。

 

「初めまして、で良いんですかね。華山さん。(もと)夜霧桜花です」

「何回かコラボはしましたが、実際に会うのは初めてですね。

玉手箱代表取締役社長、華山亜季です」

 

私の呼びかけに、彼女が来る時点で契約解除される流れなのだろう。というか既に借りていた配信機器などは返却しているはず。それでも彼女の契約解除の発表が無いのは、Vtuber高校の運営、テンリーブが必死に引き留めているからに他ならない。

 

……Vtuberの企業の社長をしている身だと、その引き留めたいという気持ちはよく分かる。特に人数が少なく、箱推しを推奨していたVtuber高校で、1人が抜けるとなると大きな風穴になる。

 

まあこうして彼女が来ている時点で、テンリーブの引き留めは無駄な努力なんだけどね。完全に夜霧さんの被害者というか、被害社なので可哀想ではあるけど、企業の社長という存在はライバルの同業他社なんて基本「早く潰れろ」としか思ってないよ。

 

「ぶっちゃけて聞くけど、夜霧さんは個人勢として転生する予定だよね?」

「今のところは、そのように考えてますけど……私が玉手箱で転生なんてしたら、玉手箱自体が叩かれますよ?」

「お?よく分かってるじゃん。夜霧さんが個人勢に転生するのは止めないし、むしろそれは応援するよ。

ってそうじゃなくて、私が欲しいのは、ラインで言った通り日向さんとのつながりの方。連絡先とか持ってる?」

「流石に持ってますよ。

……私じゃなくて、日向さんを求めるんですね」

「夜霧さんの方も応援するって言ってるじゃん」

 

ちなみに、夜霧さん自体は交通費+1万円で釣れました。そして友人の連絡先を1万円で売る屑に買う屑。夜霧さんに聞くと、日向さん自身も色々と迷っているそうだし、拾えるなら拾っておこう。彼女自身は無害だからね。

 

「で、言ってた通り渡したいものがあるんだ」

「……封筒?」

「玉手箱ライバーには全員に渡しているVtuberの心得という本があるんだけど、その一部だね。もしも個人勢として転生した後、私や玉手箱ライバーとコラボするなら受け取っておいて欲しいな」

「有り難く受け取るけど……読み込めってこと?」

「逆だね。読まれると炎上対策の手法の一つが潰されるし、何なら読まないで欲しい。でも夜霧さんが炎上した時に、不味い対応をされると玉手箱にも飛び火する。だから渡しておきたかったんだ」

 

夜霧さんと直接会った理由の8割が、この封筒を渡すことだった。中身は秘密です。大真面目に、炎上対策の方法を書いたテキストを入れるわけないじゃないか。流出したらえらいことだし、そんなものを渡す義理もない。

 

「だから大きな炎上が起きたら、読んで欲しいかな。あ!何なら一年後、未開封のまま返してくれたら、10万円あげるよ。その時は焼き肉奢ってあげる」

「分かった。1年後、未開封のまま返せばいいのかな。大事に保管しておくよ。……んー、何重にしてある封筒なんだろう?」

「透かしても見えないと思うよ。最終的には絵柄付きのクリアファイルに挟んであるし」

 

Vtuberとして、それ以上に麻雀界を動かせる人物として、推し云々の気持ちを省いて考えても彼女の利用価値は高い。もしも上手く手綱を握れるなら、これほど美味しい話はないし、メリットはでかい。……デメリットも、極めて大きいけど。

 

最終的に、お互いに探り探りの話し合いは和やかなムードで終わった。まあ私としてはあの封筒という名の時限爆弾を渡せたので満足だし、今後は日向さんを拾いに行くだけで私自身は夜霧さんとは深く関わらない予定だ。まあ転生後に、コラボはするかもしれないけど、それも彼女の転生後の初動が上手く行ってからだ。

 

Vtuber高校時代、コラボ後も一言二言の挨拶だけで終わっていた関係。深い友情があるわけでもなければ、お互いのことをよく知っているわけでもない。

 

その日の夜、彼女と思われる書き込みでは日向さんの裏垢に誘導していた。これはTwitter上で反発した後に作られた裏垢だから、完全に転生後を知らせるためだけの裏垢だね。かなり汚い手段を使っているとは思うけど、2D3Dの笹谷さんが個人勢として一瞬だけ転生した時、話題にすらならなかったのを見ると、これ以上に上手い手というのは中々思い浮かばない。

 

沢山いるVtuberの中で、個人勢として転生した後に見つけてもらうにはかなりの労力を必要とする。……うん、惨劇は回避しない方向で行こう。というか出来ない。既に彼女は密接にV高餡と絡んでいるし、注意して聞くような人物であればそもそもVtuber高校を辞めない。

 

「良いんですか?個人勢としてデビューした後に、助力すると約束して」

「そりゃまあ、ライバル企業からの転生だからね。玉手箱としては協力しても特に問題はないし、コラボとかに制限は加えないよ」

 

途中、少しではあるけど話し合いに同席したA子さんは、彼女を胡散臭いと判断した模様。まあ今の彼女と話すと、辞めるために問題を起こし、運営批判に持って行ったとしか思えないからね。……契約解除は、来週ぐらいかな。そろそろこの事件に関わり始める彼女、裁鬼(さばき)鳴美(なるみ)にも注目しておこうかな。


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