知り合いが女ばっかりな件について 作:辺待ち時に親追いリーされて絶望あるある説
学校的には姫松と宮守ですが福岡の新道寺のビビビクンしてるデビ子とか、正直どの高校も特徴があって良いと思います。まぁフットワーク軽く色んな高校を出していければな、と思います。
主人公盛り過ぎだろって思うかもしれませんが、雀士って要素以外での知り合い居たので使わせて貰いました。
真っ直ぐに伸びたネクタイをウィンザーノットに結び、鏡で歪みが無いか確認する。見た目はしっかりと清潔に整えているし、非常勤とはいえ講師として雇われた以上はしっかりと身構えなければいけない。加えて今から向かうのは女子高、余計に清潔感は大事だ。その為にスリーピーススタイルのストライプが入ったグレーのスーツを新調したのだ。
実際の自分の役目を果たす場面では体操着に着替えるのだが、普段は学園で体育の補助講師として学園に勤務するなら、常に体操着というのも恰好が付かない。
「ん? ラインか」
スマートフォンに届いた通知に目を向けてみれば、それは昔から付き合いがある従妹からの連絡。
『ヒロ:スーツ姿よろ』
『セナ:なんでやねん』
『ヒロ:兄ぃはウチらに見せる義務がある。国民三大義務やぞ』
『セナ:お前は何処の国民なんだ』
『ヒロ:大国家大阪や』
『セナ:世界線どうなってんねん』
これ以上続けては無駄に時間を食いそうなので、連絡もそこそこに家を出る。東京のマンション、駐車場契約すればそれなりに金も取られるが、困る程の稼ぎはしていない。
止めてある黒塗りのランクルプラドに乗り込めば、シートの質感とスーツがずれて中々落ち着かない。加えて、信号待ちで待っていればディーゼルエンジンのお陰で小刻みに揺れる。普段は慣れているので気にならないが、初日というので緊張感が高まっている今、些細な事にも過敏になってしまう。
しばらく走って到着した先、白糸台高校が見えてくる。東京という都会の一等地にあるだけあって、清潔感もある私立校は、妙に眩しく見えてくる。校門は車道と繋がっており、その横にはきっちりと歩行者用の歩道が整えられている。なので必然的に登校し始めている女子生徒の間をデカい車で抜けていけば、視線を集めるのも仕方ない。
妙な気まずさを飲み込んで駐車場に止めた後は、職員用の玄関に入り、持ってきた上履きと外靴を交換してその足で職員室に向かう。
「失礼します」
ノックをして入れば、男の声なので既に着いていた先生方の視線が向けられた。が、俺の事は当然通達されている。
「おはようございます」
職員室に入れば、俺の顔を見たひとりの先生が近寄ってくる。パンツタイプのスーツを着た女性教師。茶髪のセミロングにメガネ、確か職員名簿で見た時は君島先生だったはず。体育担当の教師だ。なんでジャージじゃないんだろう、という疑問は、俺の心構えと一緒で見た目を気にしたのだろうと勝手に納得しておく。
「おはようございます、今日から非常勤で勤められる依倉世那さんですね? 実は自分はファンでして……後でサイン頂いても大丈夫ですか?」
「それくらいなら是非。そちらは君島先生でお間違いないでしょうか」
「あぁ、ごめんなさい、名乗りが遅れました。その通り、君島佐代子といいます。世那先生はホームルームが終わった後の職員会議であいさつして貰います……それにしても、いやーありがたい。まさかあの世那選手が来るなんて思いませんでしたよ」
「顔が売れているのは喜ばしい事ですね」
軽いやり取りをすれば、職員室の先生方の大体はこちらを見ていた。あまり言いたくはないが、自分は世間でもそれなりに名前が知られている人間だと思っている。というのも、本来の俺は格闘家だからだ。ここ最近では一年前に一敗したものの、それ以降も勝ち続けて、今ではフェザー級の王者のベルトも獲得している。
それとは別でジムのインストラクターもしているのだが、体育の教師の補助として声を掛けられ、試合が決まった際は出られない事等々、色々話し合った結果、非常勤という立場になった。
まぁ加えて、別の意味で知名度も稼いでいるが、それはまぁ後程の反応を見てからにしよう。騒がれないならそれはそれでいい。
SHRが終わった後、集まった先生方の前で挨拶した後は、体育の教師である君島先生と共に、いきなりだが最初の授業を行う為に体育館へと向かう。
体育は基本、クラス数組が合同で行われ、内容はレクリエーション的な物から基礎運動といったものばかりだ。後は授業のカリキュラムという事で、教師側が色々と実施していくことになるらしい。今回はいきなり二年生からだ。
体育館はかなり広く、下手すればサッカー程度は簡単に出来そうなほど広い。野球も出来るかもしれない。加えて此処は第一体育館であり、第二体育館には人工芝が敷かれているらしい。私立おそるべし。
それはさておき、既に整列していた生徒たちはがやがやと話し込んでいたが、俺たちが入った瞬間に静かになった。というよりは、俺を見て静かになった、というのが正しい。それは当然、君島先生は五年務めているので、当然この生徒たちは既に一年間お世話になって見慣れている。その横に顔も知らないであろう奴がいればそりゃ観察する。
「はーい、注目。って言わなくてもしてるか。先日話したけど、今日から非常勤で体育の補助講師をしてくださる依倉世那先生です。それじゃあ簡単に挨拶を」
「はい。皆さん初めまして、ご紹介に預かりました依倉世那と言います。もしかしたら知ってる、って子もいるのかな? いたら手を上げてみて貰ってもいいですか?」
すると、半数程度は手を上げていた。意外と見られててびっくりだよ俺は。
「まぁ、知らない人からすれば誰? って思うかもしれないので簡単に自己紹介させていただきますと、僕は総合格闘技をやってる格闘家ですね。まぁ、テレビで見たって人も居ると思いますが、実はそれとは別でもやってる事がありまして……」
「YoTubeですよね?」
「正解!」
前列にいた生徒にその通りと指を向ける。そう、実は副業的な感じでチャンネル開設しているのだが、まぁ勝てば勝つほど人気も高くなるし、今やYotuberという職業が出来たぐらいに浸透している。つい最近はチャンネル登録も百万人を突破したばかりなので、知名度もある程度はあるかな、と思っていたのだ。
「もしかしてこれも撮影ですかー?」
その言葉に生徒たちの間でざわめきが起こる。まぁ女子生徒からすれば、知ってようが知るまいが、知名度がある人間というだけで話のタネになる。加えて知らないモノは居ないYotubeに動画を投稿しているともなれば、その疑問も尤もだろう。
「撮影したらね、流石に世間的にもいろいろマズイのでそこは流石にやってないですね」
「ウチは別にいいですよ!」
「私もー!」
「はいはい静かにー……そもそも映るなら先生が先だから」
「いやいやいや」
俺のツッコミで生徒たちも笑い、良い具合に緊張感もほぐれた様だ。改めて生徒たちに目を向け、とある生徒に視線が止まった。明らかに、何かが異質な存在。一見すれば物静かでむしろ群衆には埋もれそうだが、その内側から発する正体不明のソレは、何故か心当たりがあった。
試合が始まった瞬間、出方を伺う相手の様な、内側に目線を潜り込ませる様なモノ。改めて顔を見てその理由に気付く。白糸台と言えば麻雀部、インハイ王者で有名な宮永照と気付けば納得だ。成程、学生でこれとは恐れ入る。王者は伊達ではない。
「依倉先生?」
「あぁ、すみません。女子生徒に囲まれるのは緊張しちゃいまして……さて、それでは始めましょうか」
初日の軽いレクリエーションの様な授業を終え、コマが終わって帰宅した世那に届いたライン。朝の続きで、従妹二人のグループラインからであった。
『ヒロ:今から兄の昨日の試合見るでー』
『絹:ポテチとコーラは準備万端だよ!』
思わず苦笑いを浮かべながら、喜んでもらえれば幸いだ、と返信をしてソファに腰掛ける。すると折り返すかのごとく、しかし今度は着信。画面に映る文字は『強くてカワイイ最強雀士ウタちゃん(笑)』と書いてある。一番最後の文字以外は全て強制的に入力されたものであり、毎度映る度に、なげぇ、とボヤく彼は悪くない。
「もしもし、お疲れ様です」
「おっす~、今空いてたらちょっち調整付き合ってくんね? いきなりで悪いけど、仕上げ役頼むんならアンタしかいないと思ってよ~」
「明日ですもんね、グランドタイトルカップの一つ、ドラゴンロードカップ」
「そゆこと。しかも今回は半荘五回で持ち点スタートが五万から。親のトリプルどころか役満直撃でも残る。一瞬の油断が命取りだから一撃で仕留めるにはアンタが都合いいのよ~」
その言葉に、ちらとクローゼットに視線を向けた。
「マスク、必要ですか?」
「うんにゃ。身内打ちで全員アンタの正体知ってるから問題ないぜ~、そんじゃ待ってるからよ。あ、それとダッツのストロベリーよろしく」
さりげなく雑用を押し付けられた事に苛立ちはするがいつもの事。最低限の荷物を持って、途中でコンビニに寄った後にタクシーに乗り込む。着くまでの間、何度も深呼吸を繰り返す世那に、運転手が時折視線を向けつつも着いた先。
都内の超一等地にある、家賃二百万は下らないであろう超高級マンションにて、受付のコンシェルジュに用向きを伝えれば、正面玄関を通って第二玄関へ。そこで部屋番号のインターホンを鳴らせば、堅牢な防弾仕様のガラス扉が招き入れる。
「おう、早かったねぃ。頼んだ奴はあるかい?」
「ちゃんと持ってきてますよ……すみません、皆さま、お待たせしました」
人一人が住むにはあまりにも過剰なまでの広さ。リビングには当然の如く自動卓が置かれており、そこに座っていたのは家主である三尋木咏の他、学生麻雀大会で実況を務める村吉 みさきと針生えりの二人。実を言えば世那にとってこの二人は初対面であり、同時に彼女たち二人も同じだ。世那からすれば、自分の正体を知っていると聞いていたので完全に不意打ちだ。しかし咏は笑うだけである。
「三尋木プロ、いきなり呼ばれたと思ったらノロケ自慢か何かですか? そういうのは勝手にやっててもらいたいんですけれども」
「たは~、辛辣ぅ! ま、でも二人は多分だけど何回も見た事あると思うよ~」
みさきのストレートな言葉に対して扇子で肩を叩きつつ、ニヤニヤと笑う咏に対し、一方のえりはそれは当然だろうと困惑した。何せここ最近ではかなり知名度を上げている格闘家だ、えりもニュースの読み上げなどでなんどか取り扱った事もある。二人の関係性など知る由もなかった。
「そりゃ、まぁ、格闘家ですから……」
「そっちじゃなくて、麻雀の大会で、だよ」
「咏さん、何も説明してないんですか?」
「その方が面白いじゃん? 知らんけど」
大きく、これ見よがしに溜息をつけば更にころころと笑いだす。埒が明かないと判断した世那は、内ポケットにあるカードホルダーから、ソレを二人に見せた。カードと、世那を何度も見比べた二人は余りの衝撃に言葉が出ない様子だった。
そのカードはプロ雀士のライセンスカード、顔写真入りで、予備も含め二枚しかなく、本人しか持ち得ないモノ。そこにあったのは、茶髪のロングヘアーに黒縁眼鏡、薄らと化粧をされており、男っぽい顔立ちは中性的に変化していた。目もカラコンを入れる徹底ぶりで、もともと肌が綺麗で黒子等も無いので、そういった部分で一致させる事も難しく、顔写真は全くの別人と言えた。
「セレナ・バーストン。何故か毎回コスプレで現れる正体不明のコスプレ雀士……実は女子なんじゃないか、とか言われてたのに、正体がまさか依倉選手だったなんて……」
「YoTubeに格闘家に、とやってると色々悪目立ちしちゃうんですよ。試合は勝つのに麻雀は負けた、逆も然り、そういったヤジやアンチコメントが増えても困りますし、強さだけあれば後は別に問題はありませんから」
「ま、そゆこと。二人はハコってマイナスになっても続行の青天井。勝負は東風一回のみの持ち点十万」
「分かりました。今回は能力アリの回数制限無しの全力でやればいいんですね?」
「おうよ、強烈なのよろしく」
これは恐ろしい事になった、とアナウンサーの二人は戦慄する。まず咏は横浜ロードスターズに所属するエース雀士であり、とにかく打点が早い上にアガリの速度も速いと来る。能力と運が絡んだ時は、下手をすれば起家が咏になった時点で他を飛ばして終了、などという事態があるほどだ。
一方の依倉世那ことセレナ・バーストン。咏と同じ横浜ロードスターズに最近所属した男性プロ雀士であり、バーストと名前が付く通りにこちらも基本的に一撃が重い。加えて特徴的なのは、一撃に格闘家らしさがそれぞれ込められている点だ。
咏と違って起家から強い訳ではないが、一度流れを掴むと連続和了の傾向が強く、そこからの隙を見せない怒涛の攻めはまさにテレビで放送される彼の格闘スタイルそのものだった。かといって攻撃一辺倒という訳でもなく、時には上手くカウンターを織り交ぜたり、零れた相手の牌の隙を突く、など防御にも強く、だが、一番の強みは人を読む事。攻撃力や防御力が高いのはトッププロなら当然、故にそれ以外の点でそれぞれ特化していくことになる。世那の強みはまさに対人の視点であった。
理牌や鳴き方、リーチへの向かい方や捨て方、牌の選び方、傾向といった部分を読み、対策を取ってくる点。故に、彼が動き出した瞬間、それは既に看破は終わっており、後は殴り倒すだけ、という事になる。
トんでも問題無いと分かっていても、国内でも生粋の高打点プレイヤーの二人がそろった時点でロクでもない事になるのは既に理解した。だからこそ、取りあえず心が折れない様にしよう、そう誓いながら、スタートのサイコロは回った。
東1局 親 みさき ドラ {五}
{一一三九②③④赤⑤38東發白白}
(うわぁ、いきなり赤五が物騒なドラ)
手牌は白の対子、やや離れているがある程度自由度が高い配牌。みさきとしてはやや悩むが、此処は{發}を落として様子見。その瞬間だった。
「ポンするぜぇ~」
咏の声に、一瞬だが肩が跳ねた。まさかロンはあるまいて、と、咏が打ち出した{白}を見て、思わず鳴いた。
「ポ、ポン!」
手には対子もあるが、流石に平常心を無くし過ぎたか、と{東}を切った瞬間だった。咏の声が上がる。だがそれは鳴きによる声ではなく。
「ロン~、混一東ドラ4跳満。12000ちょーだい」
{一二三五五赤五八八東東}
(泣きそう)
どのみち、字牌を処理した時点で死ぬのは確定だった。カンドラモロ乗りなんて暴挙をされなかっただけマシだったとポジティブに考える。
一方、今の様子を見てやや表情が険しくなった世那は咏へと視線を向ける。それに気づき、ニマニマと笑う姿を見て、これが目的か、と理解した。なら分かった、お望み道理にやってやる。そんな心の声が聞こえた気がして、咏はテンションが上がっていた。
東二局 親 えり ドラ{③}
{四六七七①①②③45發發中中}
(三元牌の対子が二つ。かなり早めでアガれそう)
手牌を見ながら、一局目からやらかした咏に視線を向けた。ニヤニヤと笑っているのは挑発のつもりなのか、判断は出来ないが負けるつもりで麻雀を打つつもりはなかった。
打ち出したのは{①}。筒子の面子は既にこれで確定させ、{四六}と落としながらの速攻を目指す。
次順、咏は引いた牌を見てニヤリと笑い、牌を四枚倒した。
「カン」
{裏白白裏}
それだけならまだ良い。しかし問題は新ドラ表記牌。
({中}?! って事は既に満貫確定に加えて、裏や赤、リーチするだけで簡単に跳ねる……)
これが中盤で河からある程度様子を見れるならまだいい。問題はまだ一局目で、捨てられた牌が{南}と全くヒントにならない上、その牌は横に曲げられていた。ダブリーである。
今までプロ雀士と対局した事のないえりは、異様な光景に眩暈すら覚えた。時折、学生大会の試合で実況解説で咏と組む事があるが、その時は真面目にやってんのか、と言いたくなるような場面が多々ある、掴みどころのないふわふわとした合法ロリ、としか見てなかった。
しかし、相手になった瞬間に感じる強烈なプレッシャーと存在感、大きさ。
「ん? どした? もしかして惚れちゃったかぁ~? 知らんけど!」」
目の前にいるのは、間違いなく怪物であった。
「……」
それを見ていた世那は、萎縮しているアナウンサー二人に視線を向け、考えた後に、牌を引いて、そして四枚並べた牌を横にずらした。
「カン」
{裏一一裏}
山から牌を取り、そして再び無慈悲に声が出る。
「カン」
{裏二二裏}
連続してカンされた事もそうだが、そこに表示された新ドラ、どうなっているのだ、と言いたくなる。新たにドラとなったのは{七}と{中}、本当にこれが麻雀なのか、と言いたくなるような光景だが、世那から吐き出された{發}は見逃せなかった。既にドラ表記で{中}が使われている。このままでは役牌がただの対子で終わるだけになってしまうからだ。最悪、{中}を頭にして{七}を鳴いてもカバーが効く。
「ポン!」
待ってましたと言わんばかりのドラ役牌。{四}を落とせば、再び声が響く。
「ポン」
対面からの声、続いて吐きだされたのは{中}。
「そ、それもポンです」
鳴かされている、と思ったのはつかの間。しかしこれで攻めなければ無意味。威勢よく切り出した{六}それにも、対面から声が掛かる。
「ポン」
切り出されたのは{3}だった。それと同時に世那は、自分の目の前にある得点棒を入れているケースから、一万点棒を一つと五千点棒を一つ、そして千点棒を三つ、握った。
「ロン! 發中ドラ5、18000です!」
「はい」
牌を倒した瞬間に既に用意されていた18000点、普通ならば
「あ、あの咏選手。手牌を見せて貰っても大丈夫でしょうか」
「ん? いいよ~」
震える声に、喜んでと前へと倒された配牌。
「なっ……」
{七七八八九九東東東西} {裏白白裏}
――それ以上に、化物手が完成しているからである。
おずおずと、王牌へと手を伸ばし、裏ドラを見る。
{北}{八}{南}
一盃口、混一、混全帯么九、東、白、ドラ13。21翻、これにダブルリーチとツモまで入れば24翻な上、もしや、と思って次の咏のツモ牌を見た。もし仮に世那が差し込まなかった場合、引いた牌は……。
({東}……っ! じゃあ、王牌は?!)
新ドラは乗らなかった。だが、王牌から引いてくる牌は、咏のアガり牌である{西}。
嶺上開花に、ドラが一つ増えて26翻、ダブル数え役満。つまり、16000、32000の全部で64000点を得る、化物という言葉すら生温い手牌。世那からすれば今回の放銃の方が2000点ほど高くつくが、勢いを殺し絡めとったと考えればむしろ安いと考えられる。
「いいねぇ、そういうの気合入るよ」
「こういうのを求めていたんだと思いましたが?」
しれっと呟く顔に、咏はちろりと唇を舐める。この素早い攻防、引き出す役目として彼は実に頼もしい。故に仕上がる。自分の一手。
東三局 親 咏 ドラ{西}
「リーチするぞ~!」
当然の権利の如く、切り出したのはドラである{西}。それに対して同じく{西}を切り出す世那。みさきもここは様子見で字牌を、と考え、ふと思い出す。先の二局、咏はどちらも混一が絡んでいる。手牌にあるのは{東}と{發}の二枚。
だが、まず咏は親であるため、ヘタをすればダブ東が付く可能性もある。一方の發も役が上がる可能性も高く、むしろ混一手であれば現状、緑一色という可能性も捨てがたい。かといって字牌以外を切るにもリスクは高く、多面張にもなりやすい染め手傾向であれば、端だろうが真ん中だろうが平等に当たる可能性も高い。
もしこれが何気ない相手だったらある程度は気軽に捨てていけたものの、目の前にいる可愛らしいプロ雀士の、その内側に潜むのは得体のしれない化物。全てが危険牌に見える、手が進まない、手が、重い。
「おっと」
そんな時、唐突に世那の手牌が前に倒れた。そこに書いてあったのは漢字一文字、即ち{東}であった。それも三枚。何気ない仕草だが、敢えて咏には見せない様にしている事に気づき、目を細めつつ、しかし咏の口元は笑顔だった。
「こんにゃろ~、次やったら8000点だぞ?」
「すみませんね」
みさきと目が合い、目を伏せつつ口元で笑った。勢いよくみさきから切り出されたのは、{東}だった。
えりは逆に、既に安牌である{西}を嬉々として捨てた。次に来るのは咏。場に緊張が走る。だが、牌をツモった咏は、その牌と世那を見比べ、これみよがしに大きな溜息を吐きながら河へと捨てられた。
「ロン」
{東東東白白白發發發中中中北} アタリ{北}
「スッタン大三元字一色で96000ですね」
「全力でって言ったけどここまで仕上げてくるとは思わなかったぜぃ」
「まあ今は二人だけですからね」
通常であれば動かない点数が一気に動き、次の局。
「ツ、ツモです。2000、4000」
静かに、えりが上がって終了。結果としてトリプル役満を直撃した咏は、満足そうに頷いていた。
「いやぁ、三人とも手伝ってくれてありがとね。これなら明日の調子はかなり良さそうだ」
「で、でも役満直撃してましたけれど……?」
「これでいいんですよ。咏さんが求めていたのは太い運の流れがどれだけ動くかを見極める事ですから。はっきりいって点数や役なんて今日に限ってはさほど重要ではなかったんですよ」
どういう意味だろう、と考えるえりとみさきに対し、咏は続けた。
「そゆこと~。攻撃力が高い雀士は必然的に運の流れを掴みやすくて、おまけに持ち運も強くて太い。それに加えて、チャンス掴みまくって成功した世那みたいな奴ってのは麻雀でいきなり開花する事も多いのさ。ま、たまたま見つけたのが私なだけだったんだけど」
「そういえば、確かにセレナ・バーストン選手を紹介したのは三尋木プロでしたね」
「まぁね。そんで続きだけど、そういった攻撃力の高い雀士達が出場するのが今回のドラゴンロード杯。ドラと冠しているだけあって、例年打点が高い雀士がこのタイトルを取ろうって躍起になってる。そんな中、対局するにあたって重要なのは、今誰に流れが来ているか、という感覚を研ぎ澄ます事。
だからコイツを中心に、流れが常にどう変わってるのか、把握出来るかを確認したかったのさ。本当は半荘やりたかったけど、それ以上やると運の太い私ら二人だと5巡目行かずにアガり続けて半荘終わりそうだから東風にしたってわけ」
「じゃあ最初から別のプロ呼んでくださいよ」
「いや~、そうするとコイツの正体隠したりするのめんどくてさー。ちょうど二人が空いてて助かったー! 知らんけど!」
「まぁ、そういう訳ですのでお二人には自分の正体を内緒にしていただければと思います。面倒なアンチを相手するのも楽じゃなくて」
「それについては理解しました」
いそいそと、帰っていった二人。残ったのは咏と世那の二人だけだ。この状況を見れば、彼女の家に招かれたという具合になるが、そんな甘酸っぱい空気は一切なかった。
「ってか、腹減ったなー。なんか飯作って?」
「今日の目的、対局じゃなくて八割ぐらいそれですよね? あんな事いってましたけど、十分仕上がってたじゃないですか」
「わっかんね~」
「オイ」
「まぁまぁ、明日は優勝してお前の家で良いワインと肉食って飲むからさ、勘弁してくれって」
「暇だからって最近来すぎですよ……一人ならともかく、毎度数人連れて来られたら家の酒もなくなりますって」
「気にすんな!」
「するわ!!」
堪忍袋の緒が切れたと言わんばかりに、咏が座っている椅子をぐるぐると回す世那。足を延ばして喜んでいるので全く罰にはなっていないが、しかし家に来る事を止めない世那も、その騒がしさを嫌っていない証拠だろう。
そんな日常も悪くはない。そう思いながらも、次に投稿する動画のネタを考える世那であった。
正直、麻雀かお前らっていう咲の原作での対局、プロならどんだけやべーんだってのをイメージしながらやってますが、多分トップだとこのぐらいするんだろうなって感じにしてます。再現出来るか分かりませんが、それを抜きにしても配牌考えるの難しですね。
【セレナ・バーストン】
超攻撃的な打ち手だが、時折鋭く突き刺さるカウンターや深い守りはまるで格闘家を思わせる。場に対しての制圧力はないが、狙い撃ちした相手と一対一を作り出す傾向にあり、引き摺りこまれた相手からの直撃が多い。逆にその相手に点数を取られる事も多いが、それを上回る火力で総合成績は新人プロ雀士でありながらそれなりに高め。
何故かコスプレ姿で登場し、伝説の中央リーグ新人戦の序盤の【アレ】でファンを増やしたとかなんとか。アレについてはこうご期待。
能力:気持ちが昂れば昂るほど手が早く、高い手になりやすい。
能力:4
精神力5
自摸:4
配牌:5
運:5
合計23
咲のVita版の奴の能力値を参考。