AnotherStory―4番目の813スキル 作:有栖川アリシア
――二一〇五三八〇外門。
「はあ、はあ……!」
焼け落ちる森の中を彼女はひたすら走っていた。頭上には幾何学的な模様を描き廻る光輪と、小さな淡く輝く羽を腰から生やした少女。長く流れるような髪は風になびき、その都度、プリズムのように光を反射させ、虹のように見える。
「(まさか、"魔龍アジ=ダカーハ"の分隊が現れたなんて……)」
街道は既に獣で埋め尽くされて通れない。彼女が走っているのは、舗装されていない森の獣道だ。転がるように森を駆け抜けるが、後方からは彼女の圧倒的存在感に惹かれた獣達の吐息が聞こえ始める。大木よりも太い四肢で木々を伐採し、鋼より、鋭い爪で大地を引き裂いて、山河を飲み込むような牙を剥きながら、獣の疾走は地響きとなって着実に後ろに迫っている。
「……ッ!?」
小石に脚を縺れさせて横転する。同時に、転げ落ち、一際大きな大木の幹に受け止められた。木の根に全身を強打し、体が軋みながら悲鳴をあげる。これ以上走るのは無理だと悟る彼女。
「――来たわね」
地響きと共に迫る獣の吐息は、否応なく木々を踏み砕くその圧倒的な存在感を強力なものにさせる。そして、紅玉のような魔眼がギョロリと睨んだ。巨大な顎は自分でさえも丸呑みになるだろう
「(…終わったわね)」
ゆっくりとジリジリとやってきて、軽く自分の体に爪を立てる化物――そして、その柔肌へ貪り尽くそうとする。彼女は死を覚悟する。
『GEYAAAAAAA!!!』
不快なほどの天地を揺るがす猛る咆哮。しかし、双頭の白蛇ではなく彼女としても驚くものだった。
「うっそ、黄金の獅子――」
一瞬その残骸を見間違える彼女。まさか、下にきていきなりこのような大物に会うとは思ってもいなかったからだ。
襲いかかる黄金の獅子は、双頭の片首を噛みちぎる。致命傷を負う双頭の白蛇であるが、血しぶきが瞬く間に大蛇や蠍へと変幻し、獅子に襲いかかる。追撃しようとする双頭の白蛇。しかし、両者に割り込むように、もうひとつの罵倒と共に躍り出た。
「馬鹿者、油断するな!日天の獅子がその様でどうするッ!」
「ええい、神様風情に言われんでもわかっとるわいッ!!」
月明かりを背負って現れたのは、煌々と輝く鮮やかな白金の髪と美貌の持ち主。
「――日天の獅子、それに白の巫女!?」
そんな中、一瞬にして信じられない光景が広げられる。
「流石だ――二人共、あとは、片付ける」
森の獣道の一角から現れたのは、黒いコートに中性な顔立ちの白い長髪少年だった。
ギュイィィイイィィィィィンッ!!バスッ!!
そして、黒い球体が、周囲の蛇や蠍を吸収していき、その場で消えたのだ。
「(空間攻撃――)」
「さすがじゃな…恐ろしいもんだわい」
「どうも、それより――」
へたり込んでいる彼女に視線をやる。
「初めまして、天使さん、大丈夫か?」
「えぇ」
小さく頷く彼女。
「あなたの名前は?」
「私は、アイテール…ギリシア神郡所属だったけど、コミュニティを追放されてこのザマよ」
「原初神で天空神――それでいいんだよな?」
「えぇ、間違っていないわ」
少し投げやりに言う彼女。そういうと、龍嗣は彼女の一歩前に立ち
「んじゃあ、"やりますか"――天使さんはゆっくり休んでな、寝て起きる頃には、俺たちが全部終わらせてるからよ」
「全部終わらせるって、そんなの…」
アイテールが"できるはずがない"と言いかけたとき、圧倒的なまでの神の気配を悟る。
「(……うっそ)」
気配を辿るように、上空を見上げると、そこに日輪の化身と月光と宵闇の化身がいた。
「――本物の天照大神に月詠!?」
「懐かしい顔と思えば、ギリシャのところのアイテールか、久しいな」
「やっほー」
と戦闘中なのにも関わらずにこやかに手を振る二人の神。
「とりあえず、ゆっくり休め――あとはこの俺らに任せな」
と妙に頼もしい言葉を聞いてしまう。そして、森の木々を吹き抜ける風が吹く。吹くと同時に、その風は雲を揺らして万点の星空を映し出す。
「(そんな、白の巫女に天照大神に月詠に、日天の獅子だなんて――)」
と思っていると、アマテラスが龍嗣に話しかける。
「にしても、お主――大丈夫なのか?あれは魔王の中でも最古参の一角だぜ、本来なら十二天や主神クラスの領分だぞ?」
「おいおい、自分が大和神郡の主神だということを忘れてないか?」
「おっ、忘れておったわ」
そう言うと、龍嗣は空に飛び上がる。すると、"魔龍アジ=ダカーハ"の分隊が、一斉に襲いかかるが――
「まったく、ままならねー人生は まるで週刊連載だぜ」
直後、空中に上がった龍嗣は、千里眼のスキル『