(旧)娘が悲劇の悪役令嬢だったので現代知識で斜め上に頑張るしかない   作:丹波の黒豆

1 / 25
第1章
1)ネタ公爵になっていた男


「おぎゃあ、おぎゃあ」

 

 ある日。日本で大学生をしていた筈の俺が目を覚ますと、目の前で赤ん坊が泣いていた。

 そこはどうみても異国の大金持ちの家の中であり、どうにもメイドさんにしか見えない姿の美人さんが、丁寧にその子をあやしている。

 

 だんだん意識が覚醒してきた俺は、この髪がようやく生え揃ってきた頃の赤ん坊の名前が、セシリアである事。そして俺の名が、ジルクリフである事を思い出し(・・・・)

 思わず顔をしかめた。

 

 あ、コレ俺が姉ちゃんにやらされた魔法学園ファンタジー系の皮をかぶった鬱乙女ゲー“夜明けのラプソディア”の世界ですわ。一応自分の顔を確認してみよう。

 

「公爵様、お嬢様が泣いているのにイキナリ手鏡を取り出してどうしました?」

「いや、俺の顔が怖く見えたのかと思ってな」

 

 それだけ言ってメイドさんから軽く笑われるも、確認終了。

 そこにはまだ若いが無駄に迫力がある魔王じみた顔をした、紫ロン毛のイケメンが写っていた。希望はなかった。希望、なかった。

 

 なんで俺がゲーム内でも1番人気の“悪役”令嬢、セシリア様の人生を狂わせた元凶で、育児放棄上等の虐待系クソオヤジ。ゲーム内害悪ランキング1位の、ジルクリフになってんだよ!

 

 嫌われすぎて多くのネタ動画の素材として使われて、逆に変な人気が出たというこの生粋のネタ公爵が、この俺だと。

 

(軽く、死にたい)

 

 思わず放心していた俺は、改めて赤ん坊を見た。

 つまりこの子がセシリア様。

 

 父親に虐待されても、それでもいつか自分の正しさを認めてもらう日を願って、民や国の為にその生涯を捧げると誓った、あの悲劇の悪役令嬢なのか。

 

 彼女は普通の悪役令嬢ではない。

 多くの“夜明けのラプソディア”ファンイチオシのキャラであり(もちろん俺も)、

ゲームの鬱要素の8割を被る被害者。

 

 国の為、愛する人の為に悪役を演じ続け。その婚約者に捨てられても。自分と共に悪党どもを、自分を追放したヒーロー達に討たせてみせた、不屈の淑女。

 

 言葉通りの"悪役"の令嬢なのである。

 

 ちなみにこのゲーム、ヒロインやヒーロー達は皆、無自覚クズか無能か真正クズ揃いという問題作なので、プレイヤーから事実上の主役認定を受けているのが彼女だったりする(なお、この事実は中盤まで隠されていて、そこまでは普通の乙女ゲーに見えるという畜生ゲーの模様)

 

 そ、それはともかく。

 

(そうだ、虐待!)

 

 原作において俺はこの子の髪の色を理由に、虐待を続けてるんだ。

 王国に伝わる虹7色の魔力属性。

 その色が髪の毛と性格に反映されるこの国で、彼女は両親と違う黒髪に生まれついた。

 

 この王国において両親の不貞の証とされる、悪魔の色である、異端の"黒の魔力"を持つ者として生まれたんだ。

 

 魔力的にも妻に強い執着心を持っていて、誰よりも妻に尽くしてきたこのジルクリフは、ソレ故に"妻の側に不貞があるのでは"と考えてしまう。

 そして初めて妻を疑ったこの男は、その怒りと妻を亡くした悲しみを、妻の遺した子供に全てぶつけ始めた。

 

 結果。それがセシリア様をあんな"悪役"にしてしまうのだから、コイツが害悪である事は疑いようがない話だ。

 

 いや、しかし待て。

 

 その時。自分の記憶を映画か何かのように手早く確認した俺は、まだ間に合うと確信する。妻が死んだ事で臥せっていたこの男が、ようやく娘を目にするのが今日のハズなのだ。

 

 ン?

 

 このタイミングで俺がジルクリフに成り代わるって、それって本人。……セシリア様を見たあまりのショックで、お亡くなりになったとかしてない?

 ……少なくとも人生投げやがったなあの野郎。

 

 ザマァ!

 

 色々思う所が残るがまぁええわ。酷いことにならんで済んだなら、どうでもええ。それで俺の推しが助かるなら問題なしよ。

 改めて今メイドがあやそうと奮闘するその娘、未だグズるセシリア様の方を向いて今の状況と向き合おう。

 

「……抱かせてくれるか」

「ええ、お抱きになってあげて下さい。抱き方はですね……」

 

 美人メイドさんにレクチャーされながら、彼女を自分の手で抱き上げるパパ一年生。いや自分が前世は童貞だった事を考えれば、むしろ俺はあの救世主を産んだ聖女様さながらの奇跡の存在。

 "処女妊娠"に等しい神聖なアレ。

 言うなれば"童貞パパ"と呼べるのではあるまいか。

 ……なぜだろう。

 意味は近いハズなのに、このあり得ないほどの残念感は。

 

 ……。

 

 俺はそっとソレ以上考える事を辞めて、セシリア様へと集中する。そのお顔を窺うと、なんと俺を見て今までぐずっていたその顔に、パッと咲き誇るような笑顔が浮かびあがったではないか。

 

 え。

 まじで。

 

 こんなくぁわいい子を虐待とか、マジなんなの。

 死ねよ俺。……死んだよアイツ。

 はは、ありえない。もうね。この瞬間俺はわかっちまったよ。どんな事が起ころうが、この子は俺が守るべきだって。

 

 あぁコレ。

 

 ……きっとこれが、魔力による性格の強制力だ。

 俺の魔力の重力は、持ち主に紫の髪と、強い執着心を与える。今ね、…俺。少なくともこの子に望まれれば。

 なんでもやれるって思えるし。

 命だって、投げ出せるって、素直に思えるもの。

 

 これは俺の想像なんだが。

 例えばこのジルクリフって、妻のミリアに同じように執着してきたから、彼女が生きてさえいれば実際に娘が不義の子だろうが呪われてようが、彼女に一言"愛して"って言われるだけで、文句すら言わずに受け止められたんじゃないかって思うのよ(まぁ事実は、自分の実の子を虐待してたゴミクズだけども)

 

 ともかく。執着の魔力に囚われてる奴って、自分の外に自分の判断基準を完全に置いているみたいで。執着対象以外の事はホント、どうでもいいって価値観なんだわ。

 

 今の俺。完全にセシリア様以外、どうでもいいって思えてるモノ。

 彼女を抱いているのが嬉しすぎて、思わず笑みが溢れてしまって。それを見て娘が、笑顔で返した瞬間。俺の覚悟は定まった。

 

「かわいいな。……この子の為ならなんでもやれる。そう言い切れる」

 

 そんな新人パパさんの決意を、メイドに微笑まれながら、考える事は言葉通り。なんでもだ。なんでもやらないとならない。

 

 この娘を不幸になど、させるものかよ。

 虐待など間違ってもしないし、貴族が腐りきってて領民が泣いているのがデフォのこの国で、彼女を育てたいとも思わない。彼女を幸せにする為に邪魔になるというならば、貧困だって、国だって、世界だって俺の敵だ。

 

 そう。抗う為に。

 俺はなんだってやってやる。

 とりあえず、まず成すべき事は。

 

 不意に。娘の履いていたいかにも吸水性の悪そうな、絹ごしらえの分厚いパンツが目に入る。

 

 ……。

 

 まずは、おむつから始めよう!

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。