(旧)娘が悲劇の悪役令嬢だったので現代知識で斜め上に頑張るしかない   作:丹波の黒豆

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2.6)【別視点】青の領の公爵令嬢4

「またお前らか。今度はどこから潜りこんだ?」

「神は常に我々正しい者の味方ですから」

 

 公爵にどこまでも冷徹な目で睨まれても。神官達はそれを全く意に介さず、自分の正義を主張して傲慢に答えた。

 

 突然の招かれざる客を見て、その場にいる淑女達にどよめきが奔る。

 神官達は自分の勝利を疑わない笑顔を浮かべ、そんな淑女達に自称の神託をつげていく。

 

「おお。これはお集まりの貴族の皆さま。このように場を荒げてしまって申し訳ありません」

「実は私達は神のお言葉を受けて、このジルクリフ卿の黒い魔力を持つ呪わしい娘を浄化する為に神殿に渡せと、再三申し上げているのですが」

 

「頑なに神の慈悲を無視し、あろうことか夫婦の汚らわしい不貞の証を、何よりも誇らしい愛の証など言って、世に過ちを広める始末。実に困っているのです。」

 

 神殿の教えでは、父と母の不貞の結果生まれる神の罰とされ、周囲に大きな災いをもたらすと呼ばれる黒い魔力持ち。そんな公爵の弱点である娘を、今この時とばかりに集まった貴族達へ主張し始めた彼等。

 

 どんなに優れた人物であっても黒い髪の子を生んだ事が動かぬ悪の証拠として、子供を神へと捧げさせ、それを惨たらしく殺すことで、彼等は自分が神の意思に大きく貢献したと声高に叫び、その栄誉を求める。そういう人種だ。

 

 彼等は自分の栄達の為、容赦なく公爵の娘を貶めていく。

 人を射殺しそうな目で、公爵は静かに言葉を耐えている。

 

「これでは王国の節度が保たれず、いずれこの国に大きな乱れを呼びましょう」

「周囲に災いをもたらす黒き悪魔に一刻も早く正しく神の罰を与えねば、いずれ大きな災厄の種として、この王国を傾ける騒動となり……」

 

 実際それが悪かどうかなどは関係ない。そうあって貰わねば困る。

 それが神殿という組織であり、神から治癒の奇跡を授かるという彼等はそれだけの権威を、国境を超える形で持っている。

 もっとも。

 彼等が治癒の魔力を使う所を私は少なくとも一度も見たことはないが。

 

 あまりに神官達がうるさかったのか。ソランが私に抱きついて来て嫌そうな顔をしている。しょうがないので私は彼女の頭をなでてやる。

 

「何卒。正しき正義を理解する紳士・淑女の皆さまに、どうかこの哀れな公爵殿を正道へと導く手助けをお願いしたい」

 

「今すぐ黒の呪いを浄化してぇ、……然るべき感謝を神に捧げさせるのです」

「黒の呪いを受けた家具達もそのままでは良くない。ほほ、さぁ我らに預けたまえ。その浄化をして差し上げましょうぞ」

 

 暗に手間賃をよこせと。

 子殺しを求めた親に言う彼らは、どんな悪党よりたちが悪い。

 

 だがこの神殿の庇護を失えば神の敵と認定され。国を超えた多くの領主達への討伐指令を出されてしまうのは、事実。

 そんな誰も付き合いたくないような輩。

 

 それが神殿に対する貴族達の大体の見解であり。

 ……我が青の領が政敵を潰す為に使う常套手段でもある。

 はぁ。やはり私の領って最低だな。

 

 長い彼等の主張が終わり、すっかりと場が鎮まりかえった食堂で。

 まず口を開いたのは公爵だった。

 

「それだけかね。

 俺の答えはいつも通り。セシリアは・俺の一番・大切な娘だ・渡さん! 以上だ」

「貴様ぁ、まだそのような事をぉ!」

「見ましたかこの神に対する邪悪な態度を。これが黒の呪いに侵された者なのです」

 

 明らかな侮蔑を込めて。彼は一つ一つの言葉にたっぷりと力を込めて言い放った。

 

 次第に奥方世代の者たちが口々に囁き始め。

 それからゆっくりと若い世代も続く。

 

 このままじゃあ公爵の立場が危ういな。今彼を失うのは何よりも大きな損失だと気付かされた私は。

 自分で撒いた種に自ら幕を下ろす為に、密かに右手に魔力を込めた。まぁ最低でも自分の家から追われるだろうけど、仕方ない。

 

 そう考えて私が奴らの公爵への無礼を理由にその息の根を止め、どうにかこの場を収めようと動き出す。

 

 その前に。

 ……なんと私にくっついていた筈のソランに、先に越されてしまった。

 

「公爵様が、自分の娘を見捨てるわけないじゃんバカーーーーー!!」

「「「な!?」」」

「ちょっ、おまっ?」

 

 あ、まずい。

 ガチギレだ。

 

 そんな予想外の彼女の剣幕に不意をつかれ、対応出来なかった私と。固まった神官達を置き去りにして、彼女は口早に自分の主張を喋り出した。

 

「公爵様はいっつも娘の為にとか、幸せにしたいって言ってるの。そんな人が娘を見捨てるはずないし、ボクは公爵様が間違ったトコ見たことないモン!

 みんなが幸せに暮らせる為にって本気で頑張ってる人がジャアクなハズないじゃん。

 親に自分の子供を捨てさせようとするキミ達の方がぜったい、ジャアクじゃんクソ神官!!」

「な・な・なぁっ!!」

 

 ソランは相手の立場で態度を変えるような子じゃない。と、いうか、……出来ない。

 根っからの風の民であるこの空の領のお姫様は、自分の好奇心以外に縛られない存在だ。

 こ、これだから風の民ってヤツは……。

 

「ソラン待て。謝るんだ。いいね?」

「なんで? ボクぜったい間違ってないモン。ウーちゃんだってそう思うでしょ!!」

「……人には立場という者があるんだよソラン?」

「そんなの知らないよ!

 公爵様を庇うボクが気に入らないなら、ボクもジャアクでいいもん。パパだってそう言うよ!」

「おい、事を大きく!」

 

 とりあえず我が従姉妹殿を説得。

 無理かぁ。

 参ったな。諌めるタイミングも逃したし。

 

「「「わ、ワタクシ達もジルクリフ卿は、間違ってないと思いますわ!」」」

 

 ソランを抑え込むのに手間取っていると赤の領の侯爵令嬢を筆頭に、震える声で公爵に懸想している連中が暴走を始めた。いや無理すんなよ君ら。

 

 ……ああ、これホントにまずいな。

 

 この流れで私が神官達を殺せばお姫様。ソランが神殿を敵に回しかねない。自分達の為に手を下した私の無実を証明するとか言い出されたら、絶対あのその場のノリで動いてる風の領の貴族達のことだ。よく考えずに神殿と対立し始める。絶対する。

 それだけは避けたい。

 

 公爵はなぜか事態を見守ってるし。

 くそっ、もう。どうすればいいんだよ!

 

「き、キサマら全員神の敵だっ。この不浄者どもがぁぁあ!!」

「女の分際で恥を知りなさい!」

「ご自分の立場も考えられないとは、……これだから女性はいけませんね」

「「「あ?」」」

 

 そんな時に寄りにもよって、女性差別に意識高いこの集団に対して奴らが放った言葉が、より公爵の味方を増やす。

 

「もう。パパに言いつけてやるんだがら。神官達がジャアクだからダメだってぇ!」

「……おい。そりゃあ流石に!」

「はっ、誰になりと言いつけるが良いわ小娘ぇ!!」

「バカっ、コイツがパパっつったら空の領の公爵の事なんだよ! 大戦争になるぞ、おい!!」

「「「はぁ、なんですと!?」」」

 

 だからコイツの一族は人生をノリで動くアホばかりなんだって。その癖行動力があるから奴らに愛されるお姫様が泣きつけば、なんとなくで神殿を排斥し始めるぞ。

 

 王国中に速達ネットワークと風魔法による通信網を持つ厄介な風の騎士達が、その最速の機動力を使って。

 あの気分屋ども根っからのゲリラ屋なんだぞ!

 能力のあるバカは、たちが悪いんだ。

 

 ああそうか。これ、ソランが公爵になついちゃった時点で、……神官達を招き入れた事自体が私の失態かぁ。流石にここまで過剰に反応するとか思わないよ。

 完全にさっきの話でこの子公爵の事、気に入っちゃったもんなぁ。好奇心が抑えられないんだろう。

 同じような魔力持ちだから、気持ちがわかるのが悔しいとこだ。

 

「「「どうやら正義はジルクリフ卿にあるようねぇ、愚かな神官達」」」

 

 王国でも特別な意味を持つ風の領の参戦に、最後に残っていた淑女勢力。形勢有利とみるや即勝ち戦に乗っかる実にこの国らしい貴族の、マダム達がついに動いた。

 まぁ動く、よなぁ。

 風の領だけは敵に回したくないって、誰だって思うもの。国営事業の速達便が止まるから誰も望まない。神殿だって望まないんだ。

  

「ウーちゃん。ウーちゃんはどっちの味方!?」

「もちろん公爵様の味方に決まってるだろ!」

「「「なぁっ?」」」

 

 当然私も、そんな貴族らしい女なわけで。

 もう私がそう叫ぶしかなくなった時。

 

 初めて公爵が動き出した。

 

「ふふ。少しばかりどうなるか見守ってみたが、……どうやら貴様らに神の加護とやらは、ないらしいな。対して私は女神達に愛されているらしい。」

 

 その冷笑を崩さず。

 あくまで神官を見下しながら公爵は言った。

 

 ああそうか。

 そういう事なのか?

 

 もしかすると。彼は最初からコレを狙って、女性達の問題に関わったのか?

 

「クソぉっ、この異端者どもめぇ。黒の呪いに侵されたゴミどもがぁ!!」

「ほ、ほら見ろこのように、黒き娘は災いを呼ぶのだ!」

「お前も魔王だ、ジルクリフ」

 

 彼等の公爵すら巻き込んださらなる暴言に、一気に食堂内の淑女達の温度が下がり。その多くが貴族らしい加虐者の顔になった時。

 彼は一言。

 

「これは私の問題ですから。ですからどうか皆さまお下がりを。このような些事に貴方方の手を煩わせたとなれば、家名の名折れです」

 

 そう言って淑女達に笑いかけた。

 その笑顔が余りに綺麗だったモノだから、彼女達は皆、言葉を失った。

 そう。それほどにもう。

 

 彼女達の公爵への好感度は高い。高くしなければならなかった。

 

 ああもう。我が意を得たと言わんばかりの笑顔じゃないか。クソぅ。

 

 もし彼が男達をここに多く呼びつけていたなら。

 この場にいる者が男達、諸侯で在ったなら。喜んで彼等は公爵を見捨てるだろう。土地を直接任された彼等なら、公爵を蹴落とす為にその背中を蹴るチャンスを、絶対に逃さない。

 だが、それが女性なら?

 

 女性の問題を解決しようと自ら動いた美貌の人が。

 何事も親身になってくれて、紳士な態度をとり続け。様々な愉快な話題で、彼女達の意識を自分に向けた後なら。

 

 ……話が違ってくる。

 女性である彼女等は、男たちほど立場で縛られていない。感情や恋心に揺られて、ソレは時に道理を超えて動く事がある。

 

 それが今の状況だ。

 

 何故、男の彼が解決したがったのが、女性の生理問題だったのか。それは女性達と信頼を築きやすい話題だったから、じゃないのか。

 社会的に立場が低い彼女等の方が、王国での指折りの上位者のジルクリフ卿には仲間につけやすいし、あの美貌の公爵には色々都合がよかったんだ。

 

 そして集まる女性は皆、差別意識に敏感な人たちとなる。

 

 だとしたら、ジルクリフ卿は。

 神殿に対抗する為に、娘を守る大きな人脈が欲しかったんだ。子への愛情が、男達より深い彼女らと信頼関係を築いて。共に神殿をはねのける仲間を、作り上げたかったんだ。

 

 我が子の未来の為に。

 

 そして彼女達は必ず語り継ぐ。楽しげにお茶会で、ジルクリフという素敵な男がいる事を。

 そしていかに彼が真の貴族と呼ぶに相応しい存在であるか、その娘がどれだけ彼に愛されているか語るんだ。

 

 彼女達は必ず話す。

 

 そうすれば。それは広まり。

 彼の黒髪を持つ娘は呪わしい子でなく、その男の宝として上書きされる。

 

 生きるための場所を、……得られる。

 

 

 はは。……ああ、踊らされたな。

 

 この晩餐自体が、彼の作戦か?

 晩餐でした話はこの誘導の為か。

 そう考えればこのタイミングで、あのような本来隠すべき話をして、わずかながらの真実味すら与えたのも頷ける。

 

 はは、辞めてくれ。

 本当に心臓に悪い人だな。

 

 道化芝居を見せられていたと思っていた私こそ、真の道化という奴か。

 

 ああ、もう状況も終わりそうだな。

 私と同じ。

 行き場を失った道化達を裁くのは、王の仕事だ。

 

「潔く神の罰を受けるのだ、魔王!」

「この悪の権化めぇ!」

「の、呪わしい忌み子だ。やがて大きくなればこの国に、反乱を呼び込むぞ。あらゆる悪徳を率いてな!」

「あ?」

 

 未だに騒いでいた神官達の最後の言葉に。

 公爵が突然、キレた。

 たった一言。あまりの怒りに漏らした声と共に。

 

「「「な、がぁっっっ!!」」」

 

 その瞬間。室内全てが紫に包まれて。

 神官たちが重力によって身体を無理やり沈まされていく。

 

「俺はな、そうならないように、頑張っているんだよ」

 

 言いながら一歩進むごとに、彼等の身体が沈みこむ。

 

「娘と妻の、その正しさを証明する為に、誰よりも正しくあろうと努めている」

 

 周囲の淑女達が頷く。

 真の貴族と彼を讃えて。

 

「娘は反乱など起こさない」

 

 ソランと赤髪達が頷く。

 きっと互いに色々思う所があるのだろう。 

 

「悪徳など率いない」

 

 ああ、そうだ。貴方がいるなら。

 悪徳などは、……その存在を許されまい。

 私がその言葉に頷いた。

 

「俺がそれをさせるものか。愛する娘の為にならな。俺は喜んでお前らの魔王になろう」

 

 ああ、そうだ。

 貴方を呼ぶには。

 

 それが一番相応しい。

 誰よりも正しい、破壊者の貴方なら。

 

「頭を垂れて、ひざまずけ」

「「「あがぁぁぁっっ」」」

 

 彼等に近づいた彼の最後の言葉に。

 もはや重力に耐えきれなくなった神官達が無理やりに、魔王様へと拝礼をさせられた。

 

 そこで彼等は意識を手放す。

 

 その姿は。

 紫の威厳を放って怒る、まさに魔王そのものだった。

 

 全てが終わった後。彼は自分の執事に向かって文字通り神官達を投げつけると、老齢の執事は魔力を展開し、返事と共にそれを全て軽々と受け取ってみせた。

 そうして彼は、淑女達へと向き直り。

 

「私の娘の為に怒って頂いた事、深く感謝する」

 

 深く深く頭を下げる。

 淑女達が英雄の勇姿を讃え、輪となって彼を取り囲む中。

 私は来るだろう断罪の時を待つ。

 

 ああ、そうか。

 

 元からこの私には、貴方の元で探求をする権利など無かったのだな。

 まぁ仕方ない。これが愚かな私への罰という奴か。

 はは。諦めきれんよなぁ。

 畜生。……ちくしょう。

 

「ウーちゃん、具合悪い?」

「ああ嫌。……少し自分の愚かさが嫌になってね」

「? ウーちゃんは賢いよ?」

「そういう意味じゃなくて……、まぁいいか」

 

 ああ、ソラン。

 助かるよ。おかげで少し気が紛れた。

 

「あ、公爵様~」

 

 ゆっくりと公爵が近づいてくる。

 私の破滅を告げる人が。

 

「キミ達に感謝を。よくやってくれた」

 

 はは、感謝。感謝か。

 ずいぶんと皮肉がたっぷり利いてるじゃないか。

 だから私も、せいぜい流れに乗っかってやる。

 

「ああ。私の道化ぶりは貴方の役にたったかい?」

「十分だ。そしてキミは道化ではない。

 大切な仲間だよ」

「え?」

 

 しかし返ってきたのは、予想外の言葉だ。

 な、仲間。仲間だって?

 

 あ、あの時神官に言った私の言葉を、味方だって話を汲んでくれているのか。

 そ、そんな事。

 

「これからもよろしく頼む。ソラン嬢共々な」

「い、いいのか。だって私は!」

 

 あまりに自然に私にそんな事を言うものだから。私はとっさに聞き返した。

 ああ、この人は。

 

「キミのおかげで、被害が出ずに済んだ。礼を言う他に何かあるかね?」

 

 ああ、全部。全部知った上で。

 私のこの心情すら読み取って、飲み込んでしまうのか。

 この人にとっては私の愚かさなど、大した問題ではないと?

 

 はは。私は彼の敵にすら、なれていなかったんだ。

 

「キミがソレを望むかぎり、否やはないさ」

「ああ、望む。望むとも。私も、……作りたいんだ。どこまでも探求したい。貴方の目指す羊小屋を。その世界の全てを、……貴方と共に!」

 

 ああ、どこまでも器が大きい。貴方の技術と共に、まさに巨人のソレだ。

 こんな私を、笑って許し迎え入れた。この人はきっと、一度の罪は笑って許す。そういう大きな人なんだ。

 

 誓うとも。

 もう、貴方の(もと)を離れたりはしない。

 貴方の下を離れたりは、しない。

 

「では、頼りにさせて貰おう」

 

 満足そうに、愉快そうに。

 軽やかに私の王はいい、また淑女達の輪の中へ。

 

 どこまでも王者の威厳を纏わせて。

 

「わぁ、ウーちゃんも公爵様の楽しいヤツ、手伝いたかったんだぁ。ボクも一緒ー」

「ああ、そうさ。私の心が告げてるんだ。彼の全てを知りたいって、さ」

 

 ソランが喜びを込めて飛びついてきた。

 そのぬくもりが、何だか今私が手にしたモノのようで。

 

 私は彼女を、ギュッと抱きしめた。 

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