(旧)娘が悲劇の悪役令嬢だったので現代知識で斜め上に頑張るしかない   作:丹波の黒豆

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8)ある執務室での攻防2

 そう、一大事なのだ(2回目)

 カメラのないこの世界でそれは、セシリア様のハイハイは自分の目で見て焼き付けるしかないというのに。

 

 クソっ、俺はなぜ今までカメラの類に興味を持って来なかったんだ!

 仕組みが分からんから流石に作れん。

 

 ちくしょうめ、……ちくしょうめぇっ!

 

 だったらもうなんとしても娘に構う時間を、増やすしかないだろ。

 そんな当たり前の理屈が。

 どうもセバスには理解できないらしい。

 

「男親で子供のハイハイする瞬間に立ち会う親御様はそう居りませぬからな。ですから旦那様には安心して作業を続けて頂きませんと」

 

 うごご。やはり人の心がわからぬセバス。俺の訴えはあえなく却下されていく。

 しかし今日の俺には不退転の覚悟があり、その用意もある。この厳しくも優秀な老人から、ある言葉を引き出すまで。

 

 俺はこの執事にねだる事を、…辞めない!(クズゥ)

 

「いや、しかしだなセバスよ。セシリアには俺しかいない。いないのだ。俺が我が娘の成長を見守ってやらないでどうする?  誰が娘が大きくなった時に、その成長の有り様を我が子に伝えるというのだ。それは親の俺の仕事だろうが」

「幸いセシリア様にはメアリーがついております。そちらから存分にお聞きできますから、どうぞ、執務をお続け下さい」

「しかしな、セバス!」

「旦那様。やるべき事を、まず、やって頂ければ、私も文句はございません!」

 

 掴んだ。

 これだ。この流れだ。

 俺のあまりのねちっこさに目の前の老人が苛ついて少し声を荒げて言ったその言葉こそ、俺が何よりも望んだ勝利の鍵だ。

 

 その嬉しさから、私は思わずニヤリと笑った。

 こちとらまるで魔王のような謎の迫力を持ったイケメン妖怪・紫ロン毛である。その笑みはさぞや邪悪に見えた事だろう。

 

 俺はあえてそれを隠さず、自分の顔の前に人差し指を一本立てて、彼が出した条件を確認する。

 

「ほう。つまりセバスは、この書類仕事を終わらせる手立てさえ見つければ、俺に娘との時間をくれるというのだな?」

「ええ。この旦那様がお始めになった仕事に関わる、膨大な書類の山を片付けることが出来たなら、何も文句はございませんよ?」

 

 手で書類を示しながら言った俺の挑発に、いつもと変わらぬポーカーフェイスで、よどみなくそういい上げた我が自慢の執事。

 この時。

 俺の勝利へのプランが、固まった。

 

「その言葉を待っていたぞ、セバス」

 

 くく。冷静なコイツにその言葉を言わせるのは手間だったぜ。だが、この勝負もう俺の勝ちだ。

 

「入ってきたまえイルマ君」

 

 見事言質をとった俺は、自分の奴隷(・・・・・)に送れる魔力信号で呼び出しておいた、その下級貴族の女性を部屋の中へと促した。

 

「はい、公爵様。仰せのままに」

「旦那様、何を…」

 

 すると執務室の扉が開き、薄紫のセミロングをした知的な美人。その豊かすぎる胸を今にも零しそうな、肩口が大きく開けたドレスに白衣を羽織ったその女性が、手はず通り自分の発明品を押して入ってくる。

 

 コロ付きの事務デスクをさらに大きくしたような形の、まさに机然としたその巨大な発明品の上には、ブラウン管のテレビじみた姿の箱と、クラシックなタイプライターのような装置が乗っかっているのが見える。

 

 彼女がそれを部屋まで運び終えると、それまでうっすらと流されていた、彼女の紫の重力の魔力が色を消し。

 改めて彼女はその装置の前へと陣取って、その自己主張の激しい胸を右手でもって押さえながら、高らかに宣言した。

 

「これこそが公爵様の願いを叶える大発明、ゴーレム式(・・・・・)自動帳簿計算機1号です。

 そしてこれから多くの歴史を塗り替えるだろう偉大なる“公爵様”の、最大の功績となるものですわ!」

 

 この人手不足すぎる領地の危機に、なんと俺が用意したのはこの世界の技術を利用した、異世界製のコンピューターだった。

 

 領内の帳簿計算に特化しているが、簡易ではあるがキーボードとモニターも用意された、立派なパソコンの卵である。

 

 そう。

 人が足りないなら、機械を使って楽しようぜ。

 まさかの電卓を飛び越えてのこの発想。

 

 これは勝った。第三部完。

 

 ……。

 

 お、おう。

 ところでイルマ君。ちょっと熱が入りすぎてやしないか。

 

 なんか説明しながら、今にも蕩けてしまいそうな顔してるんだけども。

 唯でさえ素肌が多くみえるそのドレスから今にも零れそうな胸を、自慢げに手でもって押さえて上向きに仰け反って語るもんだから、こう。

 

 なんというか、……危機感が凄い。

 

 あっれぇ。

 この娘って化粧っけとかない、クールな発明大好きっ娘のハズなんだけどな。オムツ開発の時に錬金局で知り合った時は、少なくともそうだったよ?

 

 はっ、これが彼女の発明に対する想い。

 

 このプレゼンを絶対に勝ち取ろうとする、強い意思の現れなのか。説明者の見た目の印象は、商品競争においてとても大事だが。

 ここまで大胆なイメチェンは流石の公爵も驚いた。

 

 その意気込みはアッパレと、言う他あるまい。

 

 よし。

 ならばお前と俺で、絶対にコイツで勝利をもぎ取ってやろうじゃないか。

 

 なにせ俺と娘との、大事な時間がかかってるんだからな。

 

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