(旧)娘が悲劇の悪役令嬢だったので現代知識で斜め上に頑張るしかない 作:丹波の黒豆
「テメェ、こら、答えろクソガキィ!」
「当家でのコンソメは我がシェフが精魂込めた三度仕込みの逸品だ。固形化に小麦粉を使う量産物などと比べてくれるなよ、ギドリック」
俺は今にもこちらに掴みかからんばかりの勢いで叫び上げた、その空髪褐色金ネックレスDQN中年に、吐き捨てるようにしてその理由を教えて差し上げた。
そらね。門外不出の味よ。ウチの料理長が頑張った分美味いじゃろ。
材料費もかかっとるし。
ああそれにしても俺もな。
普段から元クリフ言語変換で貴族の言葉を使ってるんだが、コレ丁寧な言葉で喋れるのって、妻のミリア用しかなくてな。
女性なら何とかごまかせるんだけど、男には傲慢魔王モードを使わざるを得ない。だっておっさんに対して、キザったらしく甘い言葉連発する妻モード、使えんだろ。
若作りでも40前っぽいおっさんに、生意気な言葉を連発する22才の強面兄ちゃんが今の俺だと考えると、どっちもどっちと言えばソレまでなんだな、これが。
もうホントジルクリフ、お前さぁ……。
おおう。娘さん二人がオロオロしとるな。特に水の子が酷い事になっとる。どんまい。
「なら今度からコッチ俺のトコに送れや坊主っ。こりゃウメェ、気に入った!」
「はっ、価値相応な値段だが、貴様に払えるかね?」
相性悪すぎぃっ。
さっきから俺、挑発しかしてないんだけど。
もう全然悪者じゃん。
え、自分の言葉で話さないのかって?
いや俺、姉ちゃんから色々仕込まれてきたエリート弟じゃん。いわばへたれ界のプリンスよ。
DQNとか苦手でさホント。
結構こっちで色々やってきたけど、こういうのって治らんもんなんだなぁ(遠い目)
ああ、俺もさぁ、ホントにさぁ……ちくせう(泣)
いや神官程度なら怖くないんだよ。
でもコイツ圧が普通じゃない。
本能的に食われそうって思っちまう程、強力なんだよ。
うっかり震えちまいそうになる。
そんな自分の震えを隠す為に放った魔王モードのその言葉に、挑むようにDQN中年が吠えた。仕方ないから俺はDQN中年に、ソイツの値段を教えてやった。
「あ? んなモン俺様がビビるって思ってんのか、テメェ、あ?」
「ふっ、ならば普及品のコンソメに100をかけた程度の額だ。端金なのだろう? しかと支払え」
「は?」
そしたらはい、固まった。
そんな貴族様でも少し引いちゃうようなお値段。それがウチのスペシャリテの値段です。輸送に氷とかもいるからね。仕方ないね。
まぁウチじゃタダ同然だけど氷。ボロ儲けって最高だわ。
あ、再起動した。
「ザっけんな、オイ。んなフトーな暴利払えっかコラァ!
ケンカ売ってんのか、オイ?」
「あいにく買い手には困っていないがな?」
「(ホラ)吹くなやっ、ワッパっ!」
おおぅ。今にも飛びかかってきそうだな、このおっさん?
なんて物騒な殺気だよ。やめてくれ。
やるとなったら命がけなんだから。
暴利は認めるが不当じゃないって。
もうそれで売れてるしな。
ウチは持ってる奴から絞りとるのがモットーなんだ。貴族の溜め込んでるものを引き出して、市場に流さにゃならんのだ。
その件に関しては、ソランちゃんに頭上がらないな。彼女の人脈は凄まじかった。
風の民の行動範囲の広さ、正直舐めてたわ。
伊達に国内郵政と通信網を請け負ってるわけじゃないな。
まぁ今絶賛、その風の民のトップに思いっきり怒鳴られてると思うと、複雑なんだけども。
そんな風に考えこんでると、娘さん達の援護射撃が。
「もーーーーーーー、パパ黙ってよ!
公爵様の言ってる事はホントだもん。樹の領の人とか、アルザ叔父さんだって、文句言わずに買ってくれてるんだよ!」
「はぁーーー?
んなバカ見てぇな値段で、誰がこんなモン買うんだよ。
バカか、バカなのかみんな!」
「ふん、ならば貴様はその“こんなモン”、を欲しがるバカの親玉だな?」
「っだコラっ、やんのかオイ!」
ふぇぇ。
“こんなモンって、アンタ今それ欲しがってたよね!?”
ってつい口に出して突っ込んだら、この通りの翻訳具合よ。ニヤつきながらそんな事言ったら、俺の方が完全に悪モンじゃねぇか。
さすが強面妖怪・紫ロング。じ、自分で自分を追い詰めていくスタイルだ。
ネタ公爵の名は伊達じゃない(泣)
う、うかつにしゃべることすらできんとは。自分の口から飛び出したあまりの衝撃に、俺がすっかり固まってしまった時。新たな救い手が割り込んできた。
「お、おちついてギドリック叔父様。ソランの言ってる事は本当だから。アルザ王などすっかり気に入って、ソランに頼んで国に直送して貰ってるよ」
「なんだぁ、アイツそんな事、俺の娘にやらしてんのかよ。文句言ってやろうかソラン?」
おん、このおっさんわりと娘思いなのか?
俺にはわかるぜ。その顔は。
本気で娘のことを思う男の顔だ。
むむ、親類とはいえ娘の為に王族に意見するとか、……できるな、このおっさん。
「ボクがやりたいからやってるの!
アルザ叔父さん達、すっごく喜んでくれるんだから。これはゲージツだーって」
「間違いありませんよ叔父様。アルザ王を含め、かの料理の国の料理人が言葉を揃えて皆この味を絶賛しています。“完璧”の名に恥じる事なき逸品であると」
ああ、いい子達だわ。
特に水の子はよく出来た子だ、ホント。
普段から何かと自由なソランちゃんの手綱をしっかりと握ってくれるし、何かとウチの研究とか手伝ってくれるから、ホントにありがたい。あのクソメガネとの血縁である、水の領のお嬢様とは思えんわ。
あとでいっぱい労ってあげよう。
ふふ。かわいい少女達の影に隠れてしゃべる事もできない今の俺、最高にかっこ悪いぜ。
だが仕方ない。今俺が口を開けば大概ロクな事にならんもの。公爵にもできない事はあるのだよ。わりといっぱい。
ああ、そう言えばソランちゃんの事よ。
水の子がよくお姫様呼びしてたから、なんなんかねって思ってたんだけど、どうやら本物のお姫様らしい。
この国の左隣にある陽光の国の王族の血が流れてるノーブル少女だったのよ。
おかげでこのフランスとオランダ足して割らないような農業大国の王様に、うちのコンソメが売れて売れてしょうがないという。まっこと外貨うまうま祭りである。
まぁホントは食料払いして欲しいんだけど、ウチとは地繋ぎじゃないから難しいのよな。
ウチは歪みの大森林って、瘴気と霧に満ちた国規模の森に西と南側囲まれて、後はほぼ自国の領にしか接してないから。他領、それこそ目の前の親父の許可がないと、かの国と外交が出来ないのよね。
んで許可がおりないからやむなしよ。
おっと、そんな現実逃避をしていたら。
どうやら状況が解決したようだ。
「ほー、そーなんか。アイツが認める程のモンなら、この値段が適当なんだな。おうわかった。じゃあ、
「わ、分かってくれましたか、叔父様。」
「
「はっ、オメェは、相変わらずナマイキな小僧だな!」
わかった相手に、全力でイキるスタイル。
ふ、いつまでもなまいき盛りの22才です(泣)
イカンな。これまで自分より格上相手と話さなかったから問題にならなかったが、この口調。……いつか大けがするぞ。俺もちゃんと言葉遣い勉強せんと。
ヒーロー達のこと笑えねえわ。
認めたくないがこのDQN中年。同じ公爵だけど俺より格上扱いだからな。そんだけ風の魔力は特別ってことだ。
魔力の量以上の価値を持ってる。
ん、しかし変だな。あの喧嘩っぱやくてキレやすい風のヒーローの親だったら、普通こんだけ言われりゃ殴りかかってきてもおかしくないんだけど。
アイツはいつだって自由に生きるとか言いながら勝手をやっては、誰かれ構わず噛みつく狂犬のような男なんだが。
それにしちゃ割と心広くないか、このおっさん。
圧はすげぇけど。
「ぶー、仲よくしてよ~~!」
「はは、悪かったよソラン。むくれんなホレ。ああ、あれだウェンディも悪かったわ」
「ええ、分かって下さればいいのです」
ふむ。パタパタと自己主張する2つの腕に合わせて空色のツインテールをピョンピョコさせるソランちゃんの頭を、苦笑いを浮かべて撫でながらも、同時に姪っ子もなだめてみせるあの手付き。手慣れておるね。
美人メイドさんに嫌な顔されながらも、日々娘を喜ばす為の撫でテクを、過剰に磨く俺ならばわかる。
ありゃ熟達の匠の技だわ。
むぅ、ヤハリ。
コヤツ身内には優しい系ヤンキーなんだな。
アレは本当に娘が可愛くて、仕方ないって顔だもの。
っく、悔しいが、認めようゼドリック。
お前、実はいい父親だな?
思えば原作の風ヒーローも、誰の話も聞かない野郎だったが、ヒロインちゃんにだけはめちゃくちゃ優しかった記憶がある。
きっとこいつも王族の妻を娶れるくらいだから、家族に対しては誠実で激甘な男なのだろう。
そう俺の
最近気づいたんだが、俺はどうやら
うーん、そういう事なら少しだけ話を聞こうか。どうにかすぐに追い出そうと思ってたけど、良パパのよしみで耳を傾けてやろうじゃないが(同士を見る目)
しかしうらやましいなオッサン。娘をそんなに可愛がれて。
俺も早く娘可愛がりてぇ(執着心発動中)
あ。だが、そうだ。
その前に俺も彼女らにお礼言わないと。
「(色気を込めて微笑みながら)麗しく咲く双輪の乙女達よ。
我が真贋を謳ってくれた事、感謝する。
後ほど女神のような君たちのあり方に恥じぬよう、俺の全てをもって報いるとしよう。
この身になんなりとお命じを、麗らかなる我が姫君たちよ」
「にゃ~~~~」
「ふぇっ!」
あ、やばい。
つい気を抜いて、力を一切抑えずに嫁モードで喋ってしまった。こ、これじゃ唯の痛い奴やん。くっそ相変わらずめんどくさいな、元クリフ言語翻訳。
少し気を抜くだけでこれだとか、ツライ。
お、おう。二人とも引いとるわ。
アレは完全に滑った男の姿を見るのが恥ずかしくて、つい顔を背けてしまった女性の顔なのだわ。微妙な沈黙が、心に響く。
つららい。
そんな俺に、妙に突っかかってくるDQN中年。何やらおかしな事を言い始めた。
「オメェ、親父の前で娘、口説くたぁいい度胸だな、あ?」
あん? んなわけないだろ。父親の前で娘口説くとか、なんだその外道は。そんな輩は俺が許さん。ついでにこの国のクソ王子はこの俺が裁く。
そんな俺の苛立ちを、全部込めて言葉にすれば。
「(底冷えする笑顔で、魔力すら纏いながら)はっ、貴様、何を言っている。俺は淑女に相応しい対応をしたまでのこと。それに下心を感じるなど、心がさもしい証拠だなギドリック」
「お、おう。おお? 俺が間違ってんのか、ん?」
「ボク、びっくりしちゃった(てれてれ)」
「(小声で)……本当に心臓に悪い人だ」
どうやら向こうも己の間違いに気づいてくれたようだ。
DQNでも奴は娘を大事にする人の親。誠意を持って話せば会話は出来る。俺は学んだ。
娘を愛するパパに根っから悪い奴などいない。俺の
そう思うと俺の震えがやっと止まった。
よし、これで魔王解除できるわ。うーん、貴族的な言い回しがいまいちわからんけど、普通に話しても大丈夫だろ。
傲慢モードよりマシだ。
「で、何のようですかね、ギドリックさん。こちらも暇じゃないんですけどね?」
「なんだオメェ。いきなり、さん、とかつけて、丁寧な言葉使い出すんじゃねぇ坊主。
逆に気持ちわりぃわ……」
((似合わない……))
気を遣ったら、全力で貶された!
全力で、…うぇっ、て顔で言い切られた!
クソ、やはりDQNと弟は分かり合えないものなのだな。うごご。
そんな気持ちを持って彼を睨むと。
「ああ、そうだった。そうだった。すっかりメシに夢中になって忘れてたわ」
ついうっかりと言った軽い笑いが返ってくるとか、格上とはいえ、ちょっとオッサンを懲らしめてやりたくなった。
どこかうろんげな瞳で奴を見つめていた俺は、直後、気付かされる事になる。
「オメェのよ。
人が乗れる空飛ぶアレ。俺ぁ、アレを見にきたんだわ?」
「ハッ!」
ニヤリと凄みのあるいやらしい捕食者の笑みを浮かべて言った、そのギドリックの言葉におもわず絶句し。
見開いた目で、笑顔を凍らせて。
思い知るのだ。
(おいおい、なんでバレてんだウチの極秘事項が)
風の民の真の力。
その諜報力の恐ろしさを。
おい、どうやらコイツ。
……息子みてぇな小物じゃねぇぞ。