(旧)娘が悲劇の悪役令嬢だったので現代知識で斜め上に頑張るしかない   作:丹波の黒豆

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15)重力の魔王2

「あ? テメェ。

 俺のガキじゃ不服だってのかジルクリフ!」

 

 ああ不服、不服だとも。

 いや、というよりもだな。

 

 そこじゃねぇ。

 お前の息子がボンクラだろうが、そうじゃなかろうが、そこは関係ないんだわ。

 

「公爵様、ウチと親戚になるのイヤなの……」

「……ジルクリフ卿。この婚姻が結ばれれば空の領との結束で、神殿からの嫌がらせにも対抗できるようになります。貴方の娘の為にもなるんです。

 これ以上の縁談はありません。

 どうか、……どうか御一考を」

 

 泣きそうな顔で娘さん達が言ってくるが、……それでもコレだけは駄目だ。

 水の子の言い分はイヤというほど分かってるし、多分オッサンがウチとの事を考えた上で言ってくれた事だってのも、……分かるんだ。

 

 でも、それでも俺は受けられん。

 

 誰が言おうと同じなんだよ。

 だってさ。

 

「誰が相手でも不服さギドリック。

 なぜなら娘の明日を決めるのは俺ではないからだ」

 

 娘の、セシリアの将来は、本人のモノなんだから。

 確かに俺は娘に執着している。

 でもそれは、彼女の人生を縛りたいってわけじゃない。ないんだよ。

 

「は、どういうこった。貴族のコドモの将来なんぞ、親に決められるモンだろうがよ」

「いいや、いいやギドリック。

 それはウチには当てはまらない。我が娘、セシリアの未来は、彼女自身のモノだよ空の領主。俺はただ、その為に行動している」

 

「公爵様……」

「……ジルクリフ卿、貴方は」

 

 彼女がどんな人生を選ぼうと。

 それに納得しているのなら、それこそあの原作の酷すぎる婚約者の王子にだって。

 俺は娘を嫁がせる覚悟が、あるんだ。

 

 その上で娘を幸せにできるように、俺は力を求めている。娘が選んだモノごと俺が幸せに出来るように、俺には何より力がいるんだ。

 娘に降り注ぐ不幸を、全部ぶん殴ってやる為に。

 

 彼女の未来を決めるのは俺じゃない。

 原作では何一つ選べなかった悲劇の“悪役”令嬢。

 

 ……セシリア・ガンマ・アーディン、彼女自身だ。

 

 娘がより多くの中から自分の望む未来を選べるように、準備するのが俺なんだ。その幸せを望んで、それが叶うように。

 全力で手を尽くすのが、俺なんだ。

 

 俺はそんな父親でありたい。

 

「テメェ今、何やったのか分かってんのか。俺の顔にドロぉ塗ったぞ。折角まとまりそうなモンに、横から水ぶっかけやがった!」

 

「パパ、おちついて!」

「くっ、叔父様いけません!」

 

「ああ、分かっているさ空の領主。だが娘の未来が関わるならば、俺はこの世界全てだって敵に回して戦う覚悟がある」

 

 ここで非難されるべきが俺だと、理解していても。

 これだけは、譲れない。

 

 この執着の名にかけて、そこだけは譲れない。

 娘の未来は、娘のモノだ。 

 

 その為に俺はとうに悪魔に魂を渡したぞ?

 科学という名の、悪魔にな。

 

「吠えんなガキが!

 できもしねぇ事言いやがって。チットは大人になったと思ったら、こっちの勘違いかよ!」

「いいや出来るさ。今から証拠を見せてやってもいい」

「はぁっ!? じゃあやってみろや、クソがっ!」

 

「……公爵様こわい」

「ジルクリフ卿、貴方は何を……」

 

 ああ、できるとも。

 それを証明する事は、とてもとても簡単なんだ空の領主。

 翼の下の、2本の魔道具を使えばな。

 

 目的地を修正して、……歪みの大森林を超えた先。あそこがいい。

 長年人の交流を拒んできた神話の魔物に、盛大な墓標をくれてやろう。

 

 ……しかし機内の沈黙が痛いな。

 

 ……少し喋るか。

 いや、いいか。

 

「おい」

「ん?」

 

「娘が、よ。

 ……なんか質問してただろうがよ。ソレ、教えろや」

 

 ああ、そうか。

 確かにソランちゃんが聞きたがっていた事があったか。

 なら道中、その話をするのも悪くない。

 

 このピリピリした空気の中ですっかり小さくなってしまった彼女を、このままにしておくのは、…流石に心が痛むしな。

 

「ソラン君、俺が何故様々な事を知っているか、知りたいんだったね」

「……うん」

 

 ああ、……ごめんな。

 すっかり俺の怒気に当てられて怯えさせちまって。全く大人失格だ。一度ゆっくりと口から息を吸い込んで、気持ちを落ち着かせよう。

 冷静に、ならないと。

 

「……妻の残した遺産だよ。

 俺の妻。導きの青き星のミリアが死と引き換えに見せた、長い長い夢のおかげさ」

 

 その気まずい沈黙を打ち破る為。少しだけ自分の事実に脚色を加えた、いつか娘に教える為にと用意していた物語を語りだす。

 

「公爵様の奥さん?」

「星読みの未来視。ミリア様の力……」

「(小声で)あの女の夢か、……笑えねぇな」

 

 星を詠み、未来を見られた妻の特殊な魔力は貴族の中でも有名だ。誰もが彼女の力を求めたが、自身の愛ゆえに、水の領からさらうようにして我がモノにした男が言う“夢”の話は。

 ……さぞ説得力があるだろう。

 

「夢の中では俺は別人でな。こことは違う魔力すらない世界で平民として暮らしていた。

 俺はそこで得た知識を使っているだけに過ぎない」

 

「平民!?

 そんな、これだけの真理を知れる平民なんているわけがない!」

「……おう、そりゃ流石におかしいだろオメェ……」

「……すっごい学者さんだったのぉ?」

 

 俺の語りに我慢が出来なくなったのか、むっすりとしていたギドリックまで話に乗ってくる。そうだよなぁ。こっちの世界の人間だったらそう思うわなぁ。

 俺だってこっちで生きて全く知らずに聞いたら信じないわ、こんな事。

 

「まさか。

 ただの学者の卵だったさ。

 その世界では平民は当たり前のように高等教育を受けられて、これくらいの真理なら、片手間に数分とかからずにどこからでも調べられる叡智の図書館を、誰もが利用できた。

 ……それだけだ」

 

「……へっ、無茶苦茶言いやがって」

「そんな、想像すらできない……」

「…すごすぎて分かんない」

 

 インターネットは凄いよなぁ。

 スマホは神。

 ホントそう思う。

 

「魔法すらないその世界は、それだけ俺たちの世界と隔絶した技術に包まれていた。

 俺が先日語ったおとぎ話なんて、その世界の技術の、ほんの欠片を切り取っただけに過ぎないんだ。

 俺はそれをこの世界でも再現しようと、考えているだけさ」

 

「わぁ……」

「……なんて、ことだ」

 

「テメェにソレができんのか?」

 

 率直に尋ねられた。

 その軽い口ぶりとは逆に、バックミラーごしに俺の目を恐ろしいほど真剣に見つめてくる空の領主。

 ならば、俺もせいぜい真面目に答えてやるとしよう。

 

「この世界には魔法がある。あの世界では難しかった事も、無理だった事も。魔法を使えば簡単に達成できる事が多い。

 この飛行機も、その一つだ。

 ……それでわかって貰えるだろうか?」

 

「ヒコーキ、すごかった……」

「異なる世界の技術を重ねて。…この人は更に上を行くつもりなのか。

 それはもう、……まったく新しい学問だ」

 

「……」

 

 俺の言葉に黙り込んでしまった男を横目に、目的地が見えてきた。

 

「アレ、ここ砂の大砂漠かな?」

「あの広すぎる砂漠はどうみてもそうだな……」

 

「ようやく目的地に到着だ。これから我が領の力をお見せしよう」

「おう、見せてもらおうじゃねぇか。その御大層な力ってヤツをよ」

 

 ウチの領の南、国程ある大森林を超えた先。

 砂の国の先の大砂漠。

 

 砂ばかり続く大地の、そのど真ん中。

 長年東と西の人々の交流を阻んできた巨大生物(サンドワーム)達の巣窟が俺の目標だ。

 

「……出来れば使いたくなかったが、仕方ないか」

 

 つい一言、本音がもれた。

 ああ、俺は人に力を見せつける為に、これから多くの無関係の生き物達の命を奪うんだな。

 そう思うと、気が重い。

 

 不意に自分の身体が揺れているのが分かった。また彼女が震えているのだろうか?

 いや、違うな。

 

(ああ、怯えてるのか俺)

 

 ふと、俺の手に少女の手が添えられた。

 ああ、水の子(・・・)

 いや、ウェンディ(・・・・・)か。

 

 現金なモンだ。

 娘の為に力を示そうとする自分の震えを支えられて、ようやくこの娘がまともに認識できるようになるとか。

 

 俺の執着心も筋金入りだな。

 

 本当に娘に有用かどうかでしか、人を判別できやしないなんて。

 意識しないと、どんどんあやふやになる。

 元クリフのこと、笑えねぇなぁ。

 

 ……。

 

 ありがとう。少しだけ勇気を貰ったわ。

 後は娘の事を思えば。

 ……いくらでも動けるさ。

 

 ああ、クソ。

 あの兵器の使用を少しでもためらわせる為に、自分で依頼した音声認証の設定が忌々しいな。

 ……恐ろしく効果的じゃないか。

 

「ゴーレム式音声認証、リミットブレイク」

 

 おかげで人前でこんなこっ恥ずかしくて厨二くさい文句を言い上げなければならんとか、最高に皮肉が効いてる。

 理系にこれは正直きつい……。

 

「“これは娘の明日を築く墓標にして、我が妻が落とした涙のひとしずく”

 “穿たれるのは、星の鉄槌”」

 

「じゅもん?」

「大規模魔法を展開するつもりだろうか。しかしこんな術式は聞いた事がない」

「なんでもいいさ、見りゃあ分かるだろ」

 

 その文句を唱え終えた瞬間。

 俺の言葉の一つ一つを解析して適合させたゴーレム達が兵器のキーを解除する。

 

 成層圏からここまで飛んできた加速を殺さずそのまま、その兵器に込める。

 途中からソランに頼んでいた高速飛行も加わったその落下加速は、恐ろしく速い。

 切り離すのは、右翼についたミサイル型のアレだ。

 

「“星の海の涙(ミーティア)”」

 

 次の瞬間。

 あまりにも暴力的な質量による衝撃が。

 

 幻想世界の大地を揺らした。

 

「な、なんじゃこりゃあっ!?」

「いやぁーっ!?」

「あ、ああ、嘘、だろう。

 いままで人々を苦しめてきた砂蟲の巣が、あんなに簡単に……?」

 

 20m以上の巨体を誇る神話生物達の巣である砂の大地を、叩きつけたような衝撃が襲う。

 辺りの地面が消し飛び、中にいる生物たちの生存を許さない破滅的な光景が広がっていく。

 

【小型大質量兵器】

 

 戦闘機から切り離す為にその兵器に使用される重重力は全て重力の魔力石で補っている。この魔石を活用すれば短時間、対象の重さを1.2倍にできるのだが。

 それを100回重重力処理すれば

 100乗すれば。

 

 たとえ1kgの物質でも82万トンになる。

 

 落下速度の限界点は外側一枚の1.2倍、時速86kmしかないが、そこに至る直前まで20Gの世界をマッハ3近くで落ちるように飛んできたコイツで誘導してやれば。

 十分にその速さが伝わる。

 

 その落下摩擦から重重力機関を守る為に、あとは分厚い防護処理が施されただけの鉄塊。

 つまりコイツはマッハ3の空中から放たれる質量82万トンの投石の類いだ。

 

 その質量×速度の二乗が攻撃力の。

 

 それだけで都市を滅ぼせる威力を持った、ただ重いだけの質量兵器。

 それが右の翼に備えた力だ。

 

「いやっ。ヤツらまだ、あの衝撃の中を生き残ったヤツがいるぞ!」

「やー、あばれてるよ!」

「このままじゃ砂の国に突っ込むぞ、ありえない程の被害が出る!」

 

「問題ない」

「はぁっ!?」

 

 生き残った30m以上の巨体を持った神話生物達が、突然に己を襲った衝撃に怒り狂い、地中から姿を表し暴れだした。一匹でも討伐には名うての勇者の力が必須の、生まれついての生物兵器。

 あの衝撃を耐えるとは、……流石だな。

 

 だが、それだけだ。あぶり出しは終わった。

 ……次は誰にも防げない。

 

「ゴーレム式音声認証、ラストブレイク」

 

 次の一撃を開放する為の文句を唱える。

 とたん。

 機体内でけたたましくアラートが鳴り響き、警告を始める。

 

【警告、貴方は禁忌を犯そうとしています】

 

「ふぇっ!?」

「っな、なんだコレ!」

 

【警告、貴方の力は使用を誤れば星を滅ぼします】

 

「な、何を、何をなさるのです公爵様!」

 

【警告、……どうか思いとどまって下さい。マイロード】

 

 ああ、イルマ君。

 ……ホント胸にくるイイ仕事だわ。レコードの仕組み教えたら、それをきちんと活用してくれるとか。こりゃすぐに、ゴーレム式の自動音源装置もできるな。

 

 でもな。

 これだけ自分に使わせまいと枷を用意していても、娘の為なら平気で引き金を引くのが、俺なんだ。

 騒々しくなった機内の中で。

 俺は禁忌を解き放つ為に、最後の文句を唱え始めた。

 

「“ここに終わりをもたらそう。それは執着の果てに行き着く滅びの檻”

 “尽く、喰らい尽くせ”

 

 “魔王星(ディザスター)”」

 

 次の瞬間、左の翼から右の時と同じように、ミサイル状のそれが落下していく。

 その後何が起こるか知っている俺は、機体速度を最高にしてとにかくその場から離脱する。

 

 そしてそれが地表付近に至った時。

 

 光すら喰らう漆黒の球体が全てを呑み込んだ。

 同時に周囲に吹き荒れ始めた風の渦が、獲物を求めて暴れ始める。

 

「な、んだよ。あの、暗闇は……。

 全部呑み込みやがった!」

「ダメー、あの風に捕まったらこの子もいっぱいケガしちゃう。風をそらさなきゃ、……えい!」

「な、なんだ。どうしてあんな事が起こる。

 何があったらああなる。分からない。

 欠片すら、わからないぞ。

 

 分かってる事なんてたった一つだっ!

 ……あんなモノ、もう誰も……敵わないじゃないか」

 

 左の翼に詰め込まれたモノは右と同じ重重力機関で出来ている。右とは違って1.2倍を116枚。たった16枚増やしただけの代物だ。

 

 その重力は、……15億倍。

 

 これだけの超重を与えた時、今までそれぞれ区切られた小さな世界にだけ影響を与えていた重力魔法は、その性質を変える。

 重力が、多次元に影響を与える力である事を示すように、他の世界をも吸い込もうとし始める。

 

 地表付近に至ることでゴーレムによって起動されたこの兵器は。

 その瞬間、ブラックホールを発生させ、自らを作り上げた術式ごと全てを吸い込んでいく。もちろんそれは暗黒が光を呑み込むのと同じだけの、瞬き以下のわずかな時間。

 術式は壊れ、その瞬間の事象のみが残って。

 

 周囲全てを喰らい尽くす。

 

 それはただただ重いだけの重力兵器。

 

【小型ブラックホール爆弾】

 

 すぐに光を取り戻したその大砂漠に残されたのは、大きな球体に食い尽くされた砂の跡。

 国すら破壊する、悪魔の兵器の爪痕だ。

 宇宙でやった最初の実験の時は死にかけたし、ホントにもう使いたくもなかったんだけどな……。

 

 さて。

 誰もが言葉を失う中で、俺は改めてソイツに呼びかけた。

 

「空の領主」

 

 脂汗が浮き上がる男の顔を見ながら。

 俺はゆっくりと答えを告げる。

 

「滅ぼす事など簡単なんだ。殺し尽くす事など容易すぎる事なんだよ。

 でもな。

 それではきっと娘は笑ってくれない。それでは俺の娘は、……本当の幸せを得られない。だが貴様が娘の明日を奪うというなら。誰かが娘の未来を傷つけようとするなら。

 ……俺は使うぞ。娘の為に。

 

 あらゆる敵を、飲み干してやる」

 

 誰かが息を呑む音が聞こえる。

 静かに俺の魔力が、空を包み紫に染め上げていく。

 その中で。

 

「だから王国に住まう者どもよ。

 ……俺に“コイツ”を撃たせるな」

 

 俺は力一杯言い切った。

 浸透した魔力のように、重く沈み込んだ空間で。

 その静寂を切り裂いたのは、ヤツの笑い声だった。

 

「ふふ、はははっ、はははははっ!

 娘の為。

 全部、全部娘の為にかジルクリフ。

 それでここまでやるのがお前という男か、ジルクリフ・グラビディアス・アーディン!」

 

 何がおかしいのか、その男は目に涙すら浮かべて馬鹿笑いを続けている。

 しかしどこか違和感がある。 

 この前の男は、風の領主のコレは。

 

 人を貶める類いのモノじゃない。

 きっと歓喜。いや安堵に近い?

 ……魂胆が読めないな。

 

 だが問われたならば答えるまでだ。

 

「どこまでもやるさ。愛しいあの子の為ならば、どんな手段でも使ってやるさ」

「くくっ、わかったぜジルクリフ。いや」

 

 不意に馬鹿笑いしていた男は表情を変え、今まで見せたことのないような真面目な面持ちで、機内で器用に体を動かして、貴族式の礼をした。

 まるで貴族が王族にやるように、最上級の礼儀をもって彼は俺に宣言する。

 

「紫の領・領主、ジルクリフ・グラビディアス・アーディン殿。

 

 今ここに空の領・領主、ギドリック・ウィンドリア・スカイバレーは。

 貴公に対する数々の暴言と貴領への多くの越権行為を、我が領からの宣戦布告であったと認め。ここに貴領への降伏と今後の隷属を宣言する」

 

「はぁ?」

 

 俺がとっさに漏らしたその声を聞き、オッサンがニヤリと笑った。

 どうやら人を驚かせる事では、俺は一生このオッサンに勝てないらしい。

 

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