(旧)娘が悲劇の悪役令嬢だったので現代知識で斜め上に頑張るしかない   作:丹波の黒豆

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ここから2話はギドリック視点です。


16)【別視点】背負うモノ1

「いきなり何を言い出す空の領主。

 わけがわからんぞ」

 

 くく。

 本当に何一つわからんって顔してんなぁジルの奴。

 まぁ当然だ。

 わからんように振る舞ってたんだから、ネタが割れちゃあ台無しよ。

 

 とりあえずこのまま畳み込もう。

 コイツは懐が広い分、色々甘いんだけどな。流石に一度頭冷やしてから話して、どうにかなるとは思えないわ。何事も熱い内って奴よ。

 

「言葉の通りで御座いますジルクリフ殿。

 私は自身の、引いては自領の罪を贖う為に当然の申し出をしたまでです。

 ウェンディ・ウル・シアン。お前は俺の罪を証言できるな?」

 

「叔父様?」

「パパ……」

 

 ……おう、あの冷酷な水の領育ちのウェンディすらこの状況で固まっちまうとか。

 ……ちっとこの先不安になるな。

 

 ウチのソランはあんなんだから、その分オメェにゃしっかりして貰いてぇとこなんだがな。

 水の領のクソジジィがコイツを見放したってんなら、オメェはもうウチの子よ。しっかり養子として引き取る準備はしてっから、そのウチ直々に鍛えてやんよ。

 

 ま、そりゃ後の話よ。

 

 今はヤルことやるだけだわ。

 

「一つ、私は紫の領主邸宅に無断で訪れ、その騎士を含む屋敷のモノの制止一切を振り切り、そこに侵入した事を、ここに認める。相違ないな?」

「は、はい!」

 

「一つ、私は……etc. etc」

 

 自分の罪がいかほどか洗いざらい宣言していく。

 まぁワザとやっといて何だか、我ながらヒデェな。こんなモンどれも相手に戦争吹っかけてるようなモンだわな。

 

 しかしこんだけ色々煽られといてよ。

 

 あんなスゲェモン隠し持ってる癖に、喧嘩しづらい相手ってことでキレんかったジルは流石だわ。

 とても22だかの若造の度量じゃねぇ。

 

 でもな。

 オメェもコレにゃあ、気付かんかったな?

 

「一つ、私は貴公の魔力性質を理解しながらその唯一の娘に縁談を持ちかけて、他に跡取りが生まれない可能性に気づいた上で当方の嫁として彼女を引き抜き、事実上の領地簒奪を仕掛けていたことを、ここに認める。相違ないな?」

 

「なにっ!?」

「えっ、なにそれパパ!?」

「あっ! そうだ。……その通りだ。そう、……なる。なんてうかつ……」

 

 やっぱ詰めが甘ぇわな。

 

 ま、仕方ねぇか。

 コイツは俺と同じなんだもの。そういう細かいトコまで学べてねぇってだけの話だわ。

 ……嫁の為に親父追い出した簒奪者。

 

 そういう小技は学べんよな。

 わかるよ、後輩。

 

 ま、おかげで最後の決定的な手札が通ってくれた訳なんだがな。

 これを俺本人が口に出しちまったら、それこそ戦争吹っかけてましたって証拠になるからな。上等上等。

 これで安心して負けられる。

 

「以上を以て、私はコレを風の領の、紫の領に対する侵略行為であったと認め。

 

 貴公が見せた先の武功を持って、改めてここに降伏と今後の隷属を宣言するものである。貴公には戦時法に則った良識的な対応を期待する」

 

 ……さぁて、どうなるかね。

 

 かぁなり無理やりな感じもするが、一応筋は通した筈だ。

 

 俺ぁコイツの性格なら十中八九ノッてくると思ってるんだがね。少なくとも罵倒してご破産なんてしない奴だと思ってるんだが。

 

 コイツばかりは神頼みよな。

 天の先にゃあ居なかったみたいだが、どうか頼むぜ太陽神(お天道さん)よ。

 

「……なぜ隷属の必要がある?

 無理やりそこに話を持っていって、一体何を企んでいる」

 

 は、やっぱコイツは甘い奴だ。

 ……もちろんいい意味で、だがな。

 

 こんな無礼千万の俺にでもちゃんと理由を求めてくる。さっきまでだってそうだ。俺がコイツの腹ぁ探る為に、無理やり怒らせた後でもよ。

 少し突けばウチの娘を気遣って、自分の秘密すら語ってくれるなんてよ。普通そこまで甘くねぇぞ。

 

 そこらへん。

 やっぱコイツは俺とおんなじなんだ。

 

 いっぺん懐に入れた相手にとことん甘ぇ。

 だからどうやっても俺の大切なモン、コイツの懐に入れて貰わにゃならん。

 そうさ。

 

 俺がそうする理由なんて、たった一つよ。

 

「我が子を守る。その為ですよジルクリフ卿」

「!?」

「「えっ!」」

 

 はは。

 そんなに意外かね。

 俺ぁこれでもよ。

 それだけ考えて生きてきた男なんだがね?

 

 ……ああ、やっぱ駄目だこういうの。

 男が分かりあうのは、もっと単純じゃねぇと。

 まずコイツに俺の腹の根全部聞かせんことにゃ、……何も始まらんわな。

 

 それで同情が買えるなら儲けモンよ。

 

「はっ、やっぱ性に合わんわ。

 こういうのはよ。

 すまん。

 

 こっから腹割って話すからよ。

 どうかジル。

 少しばかり話を聞いてやってくれねぇか?

 

 結構長くなるけどよ。……頼むわ」

 

「……わかった。

 が、それはここを降りてから話そう。もうすぐ俺の屋敷につくからな。」

 

 ああ、そうだな。

 せっかく腹ぁ割るんだ。

 面と向かって語り合わにゃあ意味がねぇな。

 

「おう、よろしく頼むわ」 

「パパ……」

 

 それだけ言うと。

 俺は不安そうな顔の娘を抱きしめた。

 そんな顔してくれんなよ。

 こっちまでシケた気分になっちまうだろ?

 

「大丈夫だソラン。

 ちょいと本音で語りてぇだけだ。

 オメェもどうかソイツを聞いてくれっかい?」

 

「うん!」

 

 ああ、こんなに素直に頷いてよ。

 全くすれてねぇ、この国にゃもったいねぇいい子に育ってくれたな。

 

 ……ちぃと呑気すぎるのが玉に瑕だが、まぁ俺の子としちゃ十分すぎる。

 コイツとウチの坊主、そしてバカども全部。

 守る為なら、俺ぁ何だってしてみせるさ。

 

 そいつぁきっと、オメェだって同じだろジル。

 コドモの為なら何だってできる。

 俺らはそういう人種、……父親なんだもんな。

 

 

 ジルの屋敷の一室。

 

 そう広くない談話用の小部屋の一つに通された俺たちは、各々テーブルの前に置かれた個掛けのソファーに座った。

 ほどなく用意された紅茶の匂いを嗅ぎながら、俺は本音をぶちまけ始めた。

 

「俺ぁよ。

 テメェでいうのはこっ恥ずかしいが、実の所。

 一等、家族って奴を大事にしてきた人間でよ」

「……ふむ」

 

「そいつには自分の嫁や子供だけじゃねぇ。ウチのバカどもがみんな、みぃんな入ってる。

 そいつら全部が俺の家族でよ。そいつら全部が、何よりも大切なモンなのよ」

 

 軽く両手を広げながら、俺にとっての家族って奴がどんだけ広い輪っかであるか、表しながら語ってやると。

 

「「……」」

「うん、みんな仲良し!」

 

 とたんにジルの表情が険しくなった。

 かか、相変わらずわかりやすい奴だ。自分の思いが全部顔に出やがる。

 ……あんまいい癖じゃねぇぞ、ソイツはよ。

 

 まぁ今はやりやすくて助かるがね。

 

「ソイツラが自由に生きて、好き勝手やれる場所を作ってやるってのが。それが俺の魔力が示す自由ってやつなのさ。

 ……どうする。疑わしいなら、誓約魔術だろうが奴隷魔術だろうが受けて立つぜ?」

「ふむ。いや、…それには及ばん」

「へっ、……そりゃありがとよ」

 

「ボク初耳だよ、ソレ?」

「私もですよ叔父様」

 

「かか、こういうモンは人前で言うこっちゃねぇわ。娘なんぞに話せるかよ」

 

 ホントこっ恥ずかしい話だからな。

 今まで誰にも話したことなんざねぇよ。

 でも俺にとっちゃあ、それが一等大事な事なんだ、コレがな。

 

「まぁ、俺も若ぇ頃は違ったんだがね。

 ……本当の自由がどうとか言って、暴れ回ってそりゃあバカやったもんさ。でもな。ソラル、…ソランの母ちゃんに会ってからはもうずっと、こんな感じよ」

 

 いやぁ、ありゃいい出会いだった。

 あの頃アイツにこっぴどく怒られてなかったらと思うとゾッとするぜ。

 スゲェ女に出会えたもんだ。

 

 ソラルに会ってから、色々見る目が変わってよ。

 今まで平気だった自分の領地の荒れっぷりが、妙に許せなくなったのよ。だから俺は。

 

「その後は領地のことなんざ考えなしの親父から領主のカンバン奪ってよ。少しは家族達がマシに暮らせるように色々やってきた。

 それからコイツが生まれて、更にコドモらが愛おしくなった俺は。コイツラに楽しく自由に生きて欲しいからって速達始めて、通信網拵えたりもしたんだぜ?」

「……」

「そうだったんだ…」

「あの大事業のきっかけが、そんなコトなんですか?」

 

「おう。当時はまだウチの領は舐められてたからな。まぁ能力はある癖に誰もそれを活かそうとしないウチの奴らが、……それだけアホだったわけなんだがなぁ。

 かか、笑うトコだぜ、ここ?」

「みんな元気がいちばんだよ~」

「あはは……」

「(小声で)……苦労しているな、風の領主」

 

 頭の痛ぇことに自分の魔力の強みを未だに理解してるか怪しいからな。頭に血が登ったら一発で吹っ飛ぶんだ。

 まぁそんな所もまぁかわいいっちゃ、かわいいんだけどよ。

 

 だから周りに俺らの力を分からせてよ。

 いろんな奴に戦う前から誤解させる為に、あの2つの事業が必要だったのよ。

 ようはでっけぇハッタリよ。

 

 そうして広まりゃ、普段の働きぶりみて向こうが勝手に勘違いしてくれっからな。実際ブチ切れたら空飛んでる旨味すら忘れて突撃していくから、高度な連携(笑)なんだけどな。

 

 ま、勘違いでも世に認められりゃあ立派な強さよ。

 ……流石にこれは誰にも言えんがな。

 

「ま、そんなこんなで、風の領は強くなった。

 水の狸や、樹の特権階級気取りの家に負けんくらい、強くな。

 強くなる度に、コドモらの自由が増えてなぁ。

 市場が活気づけば、それだけコドモらの好奇心が多く満たされてよ。他の奴らに邪魔されなくなったら、奴らは勝手に飛び出していく。

 そんなモン見てるとよ。

 ……俺はもう楽しくて、楽しくてたまらんのよな」

「パパのたのしーはみんなの笑顔なんだ〜。ボクもみんなが楽しそうだとたのしー」

 

 くく、俺ぁコイツのこういうトコ。……ホント好きだわ。風ってのは本来そういう奴の集まりだからよ。

 娘はそれでいいんだと思うわ。

 

「おう、そりゃよかったぜソラン。

 こんな風にソランがなぁんもひねくれずにすくすく育っていく姿を見てるとな。スゲェ満たされるんだ。スゲェ幸せな気分になれる」

「……ああ、そうだろう。娘の成長とは父親にとって何よりも満たされる事だからな」

「くく、そうだわな?」

 

「(小声で)正直ソランが羨ましいな。……何もかも水の領(ウチ)とは大違いだ」

「ぱぱっ!」

 

 おっと、はは。

 いきなり飛びつくのはやめとけやソラン。

 てて、腹の野郎。……また疼きやがる。

 

 コイツの母親の国は豊かでスゲェ。俺はそんな国の王族の母持ったコイツが、腐った国で生まれた事を後悔しないように、手ぇ尽くして来たんだわ

 そうして育った、育ってくれた自慢の娘なんだよ。

コイツは、な。

 

「はは。そんでよ。

 ……こんなコドモ好きの俺ぁ、どういうわけだか子宝に縁がねぇ。ドンナに頑張っても、コドモって奴が生まれんかった。

 ソランが生まれてそっからはずっと、ずっとよ。空振ってきたわけよ。

 

 でもよ。やっとな。

 やっとこの前、……俺んちに坊主が生まれたんだ。

 コイツがもう可愛いく可愛いくてしょうがねぇんだ、俺ぁ」

 

 大事な大事な俺の息子だ。

 絶対守らにゃならん俺の宝だ。

 でもな。

 

「そんでも、俺ぁ今年で45だ。

 こんなナリしてるけどよ。……もう長くねぇってわかんだわ。

 最近体の中で何かが仕切りに噛みつきやがる。

 どうにもおらぁ息子が大きくなるまで、……生きていられそうにねぇ」

「パパはまだまだ死なないよ!」

「……話には聞いていましたが、そこまでですか」

「(小声)そうか。お前の息子はそうして学べずに、……あんな風に育ったのか」

 

 とりあえず大きな声を上げて、俺を心配してくれる娘の頭を撫でてやる。

 でも情けねぇし、くやしいが。

 俺にもこればっかりはな。

 人間50まで生きれりゃ御の字の世の中よ。

 

 ……臓の腑やられちゃ、どうにもならん。

 

「そうしたらよ。思うわけよ。

 俺が死んだ後の自分の領のこととか、な」

 

 ああ沈黙が、痛ぇな。

 よけぇ腹が疼きやがる。

 それでも俺は語らにゃならん。

 

「……俺ぁよ。

 本当の自由ってのは、組織やら国やら。

 そんな大きいモンの責任背負った上でしか、成り立たねぇって思ってる。

 大事なモン全部守るにゃあ個人の力じゃ全然足らねぇんだ。

 

 責任背負ってちっとばかり不自由でもよ。

 それで自分の大事なモンが伸び伸び暮らせるなら大バンザイよ。

 本当の自由って奴ぁ。そういうモンだ。

 そうして背負える奴がいねぇと、領地ってのは上手く回らねぇと思ってる」

 

 言いながらジルの顔を覗いてみると、嫌でもアイツが分かってる側であることが見て取れた。

 

「はぁ……。

 でもな。俺ん領の奴ぁ、みんな気のいい奴だがよ。

 どうにもこうにもバカでいけねぇ。

 どいつもこいつも俺の言ってること、腹ん中じゃあ理解しきれてねぇ連中だ」

 

「ぱぱ、ボクがんばるよぉ?」

「……おう、期待してるわ。ウェンディ、どうかコイツをこれからも支えてやってくれや?」

「……叔父様」

 

 おう、迷惑かけるなウェンディ。……ソランはきっと"何を"頑張るのかも分かってねぇ。これが一般的な空の民の性分だ。ノリと勢いって奴よ。

 基本的に俺たちゃ統治側に致命的に向いてねぇ。

 

「そんな事を思うとよ。

 俺の死んだ後に、家族ら全部。見守ってくれるような奴がいねぇと、きっとロクなことにゃあなんねぇって。んなことがわかんだよ」

 

「(小声で)お前は正しいよギドリック。予想通り、原作じゃあ風の領は衰退してる」

 

「……この腐った国は、みんな当たり前にテメェの子らすら喰いモンにする。

 水の領の黒幕気取り共も、樹の領の優劣バカ共も、どいつもこいつも、だぁれもテメェのコドモのことなんざ考えてねぇ。

 

 家の為、自分の為に。

 コドモに何でもやっていいって、思ってやがる!」

 

 ああ、言っててホントに腹が立つ。そんでもってソレ以上に悲しくなる。

 言い切った後、全部怒りを吐き出しちまって、続く言葉に残るのはその悲しみだけだ。

 

「そんなのは、……チゲぇだろ」

 

 ここからはただただ見苦しい俺の、嘆きって奴だ。

 

「親がよ。

 ……コドモ守らんで。

 誰がこいつら守ってやれんだ。

 

 上のヤツがビッとしねぇで、誰がボンクラどもぉ。

 ……助けてやれんだよ。

 信じてやるのが、叱ってやるのが親だろうが。

 それがまともな親心だろ!」

 

 ちくしょう、歳取ると涙もろくていけねぇ。

 ……視界がぼやけて何言ってるか、分からなくなっちまう。

 

「どいつもこいつも信用ならねぇ。

 ……唯一まともなのは地の領の、辺境のジジィくれぇだ。でもアイツんトコは自分のトコで手一杯で、とても他に構ってる余裕はねぇ」

 

 ……真面目な奴ほど、この国じゃ余裕がねぇんだ。

 

「そんな時によ。オメェが変わったって聞いたんだ」

「……」

 

「水の領から奪った嫁を幸せにしたいからって。

 ソレまで無茶苦茶やってた親父から、俺と同じように頭ぁ奪い取ったヤツが。

 ……その嫁んことしか考えんかった嫁バカがよ。

 変わったって耳にした」

「えっ、公爵様が!?」

「「……」」

 

 ああ、今のコイツがやりそうにねぇ事だからソランの奴驚いてんな。コイツは元から必要な時にゃ誰にだって手を下せる、俺側の男だぜ。

 そこんとこ気ぃつけなソラン。

 敵に回すと一番怖いんだ、こういう奴はよ。

 

「そいつは嫁が望むなら何でもやる奴だった。

 嫁が喜ぶなら自分の街をどこよりもキレイにして。

 嫁が喜ぶから、領地の暮らしを変えていった。

 自分は欠片もソイツラの事を愛してねぇのに、ヨメに従って何でもやるんだ。

 

 まぁこの頃からスゲェ奴だったけどよ。

 でも俺ぁどうにもコイツが信用ならなかった」

 

 ああ。

 こうして言ってみりゃコイツって根っこはやっぱ変わってねぇのか。嫁が娘になって、その規模がバカみてぇに大きくなっただけ。

 でも全然違うわな?

 

「昔のコイツはホントに嫁以外、文字通りどうでもいいと思ってる奴だったからな。

 正直とても他人は背負えねぇ。

 そんな小せえ野郎だって思ってたのによ」

 

「(小声で)正解だよギドリック。ジルクリフとはそういう男だ」

 

「ソイツがよ。ヨメが死んで、娘が生まれて。……変わったって聞いたのよ。

 他人なんかに興味のなかった奴が、いきなり弱者に手さし伸べて。

 平民含めた全員豊かにしたいなんて。

 

 俺よりでっけぇ夢を掲げたなんて、聞きゃあよ」

 

 そりゃあ、オメェ。

 

「いても立っても居られんかったわ。

 それがホントかどうか。その夢にふさわしい力と知恵があるかないか、どんな器か見極めてよ。

 ……俺の家族を、任せていい奴なのかって。

 

 この目で確かめんわけににゃあ、いかんかった!」

 

「……そうか」

「ぱぱ……」

「……それでこのような事を」

 

 言い上げた後、俺は体に籠もった熱を吐き出すように大きく息を一つ吐く。

 

 その噂に縋るしか。

 俺にはもう手がなかったんだ……。

 

 だからワザと怒らせるようなことをしてでも。

 俺の身内を、自分と関わりのある奴を。

 どう扱う奴なのか。

 

 調べにゃならんかった。

 

「そいつがどうだ。

 蓋をあけりゃあ、予想なんて遥か上だ!」

 

 ああ、ビビったぜ。

 テメェが激怒してもいい場面で、見事に大局見抜いて動けるような奴になっててよ。妻だけに向けてきた優しさを、誰にでもちゃんと向けてくれるんだ。

 何よりその後のテメェの見せたモンの数々よ。

 

「誰も想像できんモン。

 人が無理って今まで決めつけた事。

 全部、全部超えていくじゃねぇか!」

 

 心底ビビった。……心底震えた。

 

「そいつぁまさに、空の先を往く男だった!」

 

 ああ、そうさ。

 オメェは俺の遥か上を行く男だ。

 オメェはよ、ジルクリフ。

 

 ……いつの間にか、めちゃくちゃスゲェ奴になってやがった。

 

「娘の為に、自分の守りてぇモン全部の為に。

 俺なんて目じゃねぇ程の、大看板背負ってよ!

 

 娘の為に、家族の為に堂々と。

 世界すら敵に回すと言って退ける。

 そんな男になってやがった!」

 

 言い切って、自然と体が震えだした。

 そんな底抜けの度量をよ。

 たった22の若ぇ衆が、身につけやがったとか。

 

「こんな嬉しいこたぁあるかよ。

 こんな事が、あるんかよ……」

 

 ……出来すぎた話じゃねぇか。

 

 おかげで俺は救われた。

 俺の家族は、助かるんだ、と。

 希望が持てた。

 

「ああ、間に合った。

 俺が死ぬ前に、……俺ぁ誰より頼りがいのある男に出会えたんだ」

 

 俺は今、確かに地獄は底から見上げた先で。

 救いの糸を見つけたんだ。

 

 感謝するぜ、ジルクリフ。

 俺が死ぬ前に、変わってくれた事を。

 俺は死ぬまでずっと忘れねぇ。

 

 だってよ。後は頼みこむだけだ。

 底抜けの器持った男にプライドなんざ放って、頭ぁ下げりゃあきっとよ。

 

 オメェは甘ぇから、きっと。

 俺の家族を助けてやってくれるだろ?

 

「頼む。

 もう全部、全部まどろっこしい事はなしだ。

 オメェに俺の全部をくれてやる。だからよ。どうか俺の大事なモンも、オメェの背中に背負ってやってくんねぇか」

 

「おいっ!」

「パパっ!?」

「叔父様!」

 

 地面に手ぇ付いて、俺ぁオメェの甘さに縋るだけだ。

 結局男の最後に残るもんなんざ、こんな不器用なやり方しか、……ねぇんだよ。

 都合のいい話だが、テメェの他に頼れる奴が居ねぇんだ!

 

「俺に差し出せるモンなら、全部差し出そう。

 そんかわり俺が死んだら。

 ……コイツラの面倒を頼みてぇ。

 

 俺の残りの人生、全部やるから。

 オメェが望むなら、俺の一番大切な娘だって、息子だってくれてやっから!」

 

 ただただ頭を下げて、年下の男に泣きついた。

 俺の命がいるんなら、今すぐだって差し出すぜ。

 好きに使え。無駄に散らせ。

 

 それでいい。

 俺の一番大切なモンだってくれてやる。

 クソどもに食い荒らされるよりゃずっと、……ずっと上等だ。

 

 だがらどうか、どうか頼むよ。

 

「どうかコイツラを。

 ……オメェの守るモンに入れてやってくれ」

「パパ、やめてよぅ、頭から血がででるの、もうやめてようぅ……」

「叔父様、ソレ以上は!」

「……」

 

 何度だって頭打ちつけて頼み込む。

 なりふり何てよ。家族を守ろうって決めた時から、とうの昔に捨ててらぁ!

 俺の領地ごとテメェにくれてやるから。

 

 頼む。

 

 頼むよ。

 

「頼むっ。

 俺の家族を、守ってやってくれ!」

 

 文字通り。全身全霊をかけた俺の必死の訴えは、しかし直ぐに破られる事になる。

 アイツが手ずから俺の前でしゃがみ込み、俺の体を気遣うように、それでも力強く引き上げるように起こしたからだ。

 

「……頭を上げてくれ、ギドリック。

 いや誇り高き風の民達の父よ」

 

 そんな奴に似合わない、少しばかり震えた声で言われた言葉は。

 俺の望んだ救いを含むモノだった。

 

 ああ、届いた。

 

 安堵から俺の全身から体が抜けていく。

 そんな中、アイツから聞いたその真実は。

 

「……少し、俺にも娘の話をさせてくれ。」

 

 生涯最大の衝撃を、……俺の頭に奔らせた。

 

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